ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役24

魔結晶病を患った子供の命を救う為に浩二は薬の材料となる素材を探すべく、町付近の森に入ってそれを探している。

魔物がいる森に入るのは普通なら危険だが、浩二は後衛とはいえ、勇者パーティーでは中衛も務めてこの世界の人達よりも高いステータスを持っている為に何も問題ではない。

それに今は‶投擲〟の派生技能に‶気配感知〟があるので近づく魔物がいれば即座に薬液入りの投擲ナイフが魔物に突き刺さる。

しかし、魔物の対処は容易くてもこの広い森の中で薬の材料となる素材を探すのは骨が折れるが、幸運にも浩二にはティニアがいる。

「この付近には目的のモノはないようですね」

天職‶探索者〟であるティニアは人や物を探すのに長けている。今も‶気配感知〟の派生技能である‶広域把握〟を使って目的のモノを探して貰っている。

因みにその天職を聞いた浩二はこの人、どうして冒険者にならないんだろうか? と思った。その天職と技能それとリリアーナの近衛兵として鍛え上げた腕前があれば‶金〟ランクとまではいかなくても‶黒〟や‶銀〟ランクにはなれるはず。

そう思った浩二は思わず「冒険者になったらどうですか? きっと人気者になりますよ」と冒険者になることを勧めた。

冒険者向けの天職に技能それにティニアの美貌があればきっとどのパーティーからも引っ張りだこだろう。それに対してティニアは。

「有象無象の人気者になるよりも私は浩二様のお傍におりたいです」

真顔でそう言われて浩二は恥ずかしさのあまり目を逸らした。

本当に浩二に好意を寄せてくれているティニアに浩二はいっそのこと、この人と恋人同士になればと思った自分を殴った。

いくらなんでもそんな理由でティニアと付き合うのは本気で浩二に好意を寄せてくれているティニアに対して失礼過ぎる。ティニアを自身の逃げ道、諦める理由にしてはいけない。

「……思っていたより時間がかかりそうだな」

出来ることならさっさと発見して薬を調合し、患者であるあの子供を治してすぐにでも出発したいが、世の中そう甘くはない。

「それでしたら保安署に掛け合い、国から薬を提供してもらうという手もありますが?」

「それだと時間がかかります。その方法だと一番早くても一週間。その間に症状が少しでも悪化すれば患者であるあの子供が死んでしまいます。そんなギリギリな方法を選ぶぐらいなら俺が直接、素材を探して調合した方が早いです」

(それに聖教会が絡んでいるのならあの親子に高額な代金を請求する可能性もあるしな……)

まさか自身の調合した薬が高額で販売されていることに気づかなかった浩二は聖教会に文句を言おうと心に決めた。

「……」

「ティニアさん……? どうしましたか?」

不意に無言となってじっと見つめてくるティニアに浩二は声をかける。するとティニアは……。

「浩二様。以前から思われていたのですが、私に敬称は不要です。あと敬語ではなく普通に話しかけてください」

「え? いや、でも、失礼ですけどティニアさんって俺より年上でしょう?」

「確かに私は19歳で処女ではありますが」

「二つ目は訊いてません」

年齢を訊いただけなのに男性経験がないことまで聞かされて思わずツッコミを入れてしまう。

「敬称や敬語を使われると浩二様との距離を感じてしまいますので、できれば失くして頂けると幸いです」

「はぁ……でも、俺の国では年上には敬意を払うものなので、つい……」

日本で染み付いた教育や環境に年上には敬意を払う様に接している。むろん、敬意を払うのはその相手にも寄るが、浩二にとってティニアは十分に敬意を払う人である。

「浩二様の国の教育はとても素晴らしいものだとは思います。ですが、それは本人の意思を無視してまで行わなければいけないことなのですか?」

「いや、そんなことは無いと思いますけど……」

「それでしたら敬称も敬語も取って頂いても構いませんね。これからは私の事はティニアとお呼びください。敬語も不要です」

「でも……」

それでもと思う浩二はどうすればいいのか頬を掻く。真面目とも思われるも日本で育った日本人だからどうしても抵抗がある。

「……まぁ、すぐにとは申しません。どうやら浩二様に振り向いて貰うのにはまだまだ時間がかかるとわかっただけでも収穫としましょう」

無理強いはせずに改めて目的のモノを探し始めるティニアに浩二は申し訳なく思う。

(甲斐性なし、だな……)

男なら甲斐性の一つぐらい見せるべきなのにそれすらできなかった自分に呆れる。

それもまだ未練たらたらに雫を想っている自身の諦めの悪さが原因だ。

(いい加減に諦めろよ、俺……)

フラれたことをきっかけに諦めようとするも、諦めきれず未練がましくも雫の事を考えてしまう浩二はそんな自分に溜息を零しながら目的のモノを探していると……。

「これは……」

「はい。この付近に誰かいます。それも衰弱していますね」

‶気配感知〟によって捉えたその気配を頼りにその場に向かって駆け出すと、そこには一人の美女がいた。

見た目は二十代前半ぐらい。浩二の魔力色と同じ腰ぐらいまである長い灰色の髪をし、和服のような衣服を身に纏うその美女は全身が傷だらけで意識がないのかぐったりと倒れている。

浩二はすぐに診察に入ると、全身の傷が酷くて魔力が枯渇していることがすぐに判明。そして心身が疲弊して衰弱しつつある。

(意識を失って丸二日ってところか……)

診断を終えてすぐに治療を開始する。枯渇した魔力を‶譲天〟で回復させて肉体の傷を‶聖典〟で癒して体内に蓄積している疲労は魔法薬を飲ませて、ひとまず命の危機は脱した浩二は改めて首を傾げた。

(どうして竜人族がここにいるんだ……?)

すぐに治療した美女が竜人族だと気づいた浩二は怪訝そうにする。

原作では確かに竜人族は存在しているが、普段は竜人族の隠れ里で生活して表舞台には関わらない種族の掟がある。しかし例外を上げるとすれば‶異世界からの来訪者〟について調査する為に隠れ里から出てきた、ハジメと行動を共にしているティオ=クラルスただ一人。

それ以外の竜人族は隠れ里にいる筈なのに、どうしてティオ以外の竜人族がこんなところで死にかけていたのか、浩二は‶侵入〟の派生技能である‶記憶操作〟を使ってその竜人族の記憶を覗き込む。

(……なるほど。目的はティオ=クラルスと同じ‶異世界からの来訪者〟の調査。ティオ=クラルスとは別方向からその調査をしていたってことか……)

ティオ=クラルスと同じ理由で里を出てきたが、それが何故こんなところで衰弱していたのか……。

(……おい、ちょっと待て。どうしてこの人はここでアレと……ッ!)

記憶を覗いて竜人族である彼女が倒れているその理由にありえないと浩二は心から思った。

それは偶然的な遭遇であったとしても相手に彼女を殺す理由がなく、見逃したとしても浩二の心に焦りと恐怖が生じる。

「浩二様……? 大丈夫ですか?」

「……はい、大丈夫です」

心配そうに声をかけてくるティニアだがそれも無理はない。今の浩二は内心を表すかのように表情が出ているからだ。

(何故アレがここにいたのかはわからない。けど、ここに長く留まることはしない方がよさそうだ……)

交戦の意思はないかもしれないが、狙いが分からない以上は警戒した方がいい。今の浩二では絶対に勝てない相手だ。どう戦うかよりも、どう逃げるかを考えた方が賢明だろう。

(よくアレと遭遇して生き残れたものだな……)

ティオ=クラルスと同じ目的で里を出て、運悪く遭遇したアレと仕方なしに交戦して生き残れただけでも称賛に値する。それでももしこれが原作通りだとしたらきっと彼女はここで命尽き果てていただろう。もしかしたらアレもそうなるとわかっていて彼女にトドメをささなかったのかもしれない。

そして彼女も全身に傷を負い、魔力も枯渇していた。浩二のおかげで九死に一生を得たに過ぎない。

平野浩二という転生者がいなければ今頃魔物の餌か衰弱死か。その二択だ。

すると横たわっている竜人族が目を覚ました。

「ここは……」

「目が覚めましたか?」

まだ意識が定まっていないのか、灰色の瞳を動かしながら周囲を見渡す竜人族はそこでようやく身体がまともに動かせないことに気づいた。

「まだ無理に起き上がらない方がいいですよ? どうしても動きたいのでしたら肩ぐらい貸しますが」

言葉をかける浩二に警戒心を帯びた瞳で見据えながら確かめるように尋ねる。

「貴方が傷を……? それに魔力も……」

「これでも天職が‶医療師〟ですから。失礼ながら弱り切っていた貴女に回復魔法を施させて頂きました」

「……そうですか」

浩二の言葉に一度瞑目して呼吸を整える。

「名も知らぬ方。私はエフェル・サンドルと申します。傷を癒してくれた貴方に感謝の言葉を送らせてください」

「別にお礼なんていいですよ。それと俺の名前は浩二です。あちらがティニアです。それよりもやっぱり肩を貸します。このままここに置いておくなんてことはできませんし」

「申し訳ございません……まだ身体が……」

「こういう性分なんでお気になさらず」

申し訳なく謝るエフェルに気にしていないと告げる浩二だが、内心は焦っていた。

(速く薬の材料を見つけないと……)

アレに見つかる前に。

見つからないことを祈りながら浩二達は足を動かす。


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