ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役27

凄まじい剣戟が行われている。

互いの得物が重なり合う度に両者の間に飛び散る火花と擦過音そして金属音が周囲に響き渡る。片方は二本の大剣、もう片方は刀を手に超接近戦を繰り広げていた。

一之大剣による乾竹割りの斬撃を刀で受け流してそのまま流れるようにフュンフトの首を切断しようと刀を振るうが、フュンフトは身をかがめてそれを避けて二之大剣を薙ぐも、それまた浩二は受け流す。

「すごい……」

その攻防を間近で見ていたティニアは自然にそう口にした。

互いに全ての攻撃を紙一重に躱して攻撃に転じている。ティニアにはもうお互いがどこをどう攻撃しているのか目で全く追い切れていない。ただ凄いとしか二人の戦いを表現することしかできない。

しかし、ティニアは思う。

(いったいどこに浩二様にあれほどの力が……)

浩二の天職は‶医療師〟だ。戦闘職でもあくまで後方支援がメインの天職であって間違っても前衛で剣を持って戦うような天職ではない。

それ以前に浩二は先のフィーアトとの戦闘で既に限界を迎えていた。それなのにいったいどこにあれだけの力を有していたのか。

ドーピング? いや、今の浩二の力は、もはやそんな些細なモノで済ませていいものではない。急激に上昇したステータス。爆発的なまでに増加した魔力。

いったいどんなインチキを使えばそんなことが可能なのか? いや、それ以前にそれだけのインチキを使って無事で済むわけがない。それ相応の代償が存在しているはずだ。

代償なき奇跡など存在しないのだから。

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

「くっ」

ここで拮抗していた筈の互いの力量に差が出始めてきた。

少しずつではあるも浩二が神の使徒であるフュンフトを押し始めている。

「神の使徒を凌駕するなど、不遜と知りなさい!」

大剣に銀光を纏わせてフュンフトは固有魔法である‶分解〟を付与させて浩二の得物である刀を壊そうとする。

――だが。

同じく灰色に紅色を交えた魔力を刀に纏わせることで浩二は分解が付与された大剣を防いだ。そしてフュンフトは刀に纏った魔力を見て目を見開く。

「これは‶分解〟……フィーアトの力を吸収したというのですか?」

「ああ、運よくな」

‶分解〟をもって‶分解〟を相殺する。

剛毅な笑みを浮かべて答えるも、本当に‶改造〟によって取り込み、奪うことが出来たのは偶然であり、ぶっつけ本番だった為に内心ドキドキしている。

成功してよかった、と内心で安堵しているもフュンフトは銀翼を羽ばたかせて制空権を確保すると、その銀翼から分解が付与された銀羽の魔弾を射出した。

その攻撃は明かに浩二を殺しにかかっている。もう殺さずにエヒトの元まで連れて行く余裕がないのだろうか? もしくは殺して連れて行くか、たまたま生きていたら連れて行くか。どちらにしても浩二からしたら御免被る。

「‶縛光刃〟!」

銀羽の魔弾に対して浩二は光の十字架(分解付与バージョン)で全て相殺する。

更には―――

「飛べるのはお前だけだと思うな!」

その背に紅の線が入った灰翼を広げてフュンフトと同じように空に飛び立つ。

そんな浩二に銀色の砲撃と銀羽の弾幕を射出する。

「‶天絶〟!」

分解付与が施された障壁を展開させてその攻撃を防ぐも、フュンフトは防ぐことがわかっていたかのように浩二の背後から銀光を纏う大剣で攻撃する。

「ぐっ!」

「どうやら空中戦では私に分があるようですね」

飛ぶことはできてもフュンフトのように空を自由自在に動くことはできない。そう判断したフュンフトはそう口にするも浩二は口角を曲げる。

「‶白昼夢〟」

刹那、フュンフトの視界から浩二が消えた。

「なっ、これは……」

消えたのは浩二だけではない。場所も風景も何もかも変わっている。そこはフュンフトにとって神の使徒にとって大事な場所。そしてそこには―――

「はっ」

そこで意識が元に戻ったフュンフトは眼前まで迫りくる刃を間一髪で避けることができた。

「チッ、まだ荒いか」

舌打ちする。ぶっつけ本番とはいえもう一秒あれば今のでフュンフトの首を斬り落とすことに成功したのにそれがあと一歩届かなかった。

浩二から距離を取ったフュンフトは己の首筋に触れると赤い液体が流れていた。

「闇系魔法……? 平野浩二。私に何をしたのですか?」

「そんなの教えるわけないだろ」

自分の技をわざわざ敵に教えるほど浩二はお人好しではない。

浩二オリジナル魔法‶白昼夢〟。それは対象にとって都合のいい夢を見せる魔法である。

‶魔力操作〟の派生技能には‶魔力範囲増加〟と‶遠隔操作〟がある。そこに‶侵入〟の派生技能である‶記憶操作〟及び‶精神操作〟を使えば触れずとも対象の記憶や精神を操ることができる。だが、洗脳同様に人のような強い自我のある者などの記憶や精神はそう簡単に操ることはできない。記憶を覗くことはできるけど。

だけど、対象の脳に干渉することができる。そこに闇系魔法を施して対処にとって都合のいい夢を見せることで対象の意識を深層意識に送り込む。それが浩二オリジナル魔法‶白昼夢〟だ。

(とはいえ、今だからこそ使えた魔法なんだよな……)

浩二が劇的なパワーアップができたのは以前に主人公(南雲ハジメ)を診察した際に手に入れた血液と魔石だ。それらを調合と改造を繰り返して完成させたのが浩二がフュンフトと戦う前に飲んだ魔法薬だ。

だが、都合よく飲んでパワーアップというわけにはいかなかった。

その理由は単純に南雲ハジメという薬の元となった材料が強力過ぎるからだ。

猛毒なんて優しいものではない。身体を内側から破壊するウィルスのようなものだ。そのウィルスを体内に取り込めば完成させた張本人である浩二とはいえ、命の保証はなかった為に浩二は飲むのは‶再生魔法〟を取得してからと決めていた。

(飲む前に神の使徒を取り込んだおかげで今は魔力が若干変質しているのと片目が変色しているぐらいで収まってる程度でどうにかなっているが……まだわからねえな)

自分の身体がどうなっているのか、後で調べないといけない浩二は今はともかく眼前の神の使徒を倒すことに集中する。

(今の俺の攻撃なら奴に通じる。魔法も効果がある。神の使徒の固有魔法である‶分解〟やその他の技能も手に入ったのは嬉しい誤算だ。多分、魔力の供給をしていた魔石ごと取り込んだおかげだろう。そう考えると魔石を取り込んだらその固有魔法を取得できる可能性はあるな……)

それなら主人公(南雲ハジメ)の十八番である‶錬成〟も使えるのでは? と思って試しに刀で‶錬成〟を試みようとすると、何も起きなかった。どうやら必ず取得できるというわけではなさそうだ。

とはいえ、主人公(南雲ハジメ)のように魔物の肉を食べてその特性を得ることができるかもしれない。それだけわかれば後は地道に研究していけばいい。

すると、フュンフトの体全体が銀色の魔力で覆われて、感じる威圧感が跳ね上がっていく。それはまるで光輝が使う‶限界突破〟のように。

その姿に浩二は意識を集中して神経を極限まで研ぎ澄ませる。

「あああああああああああああああああっっ!!」

「はぁあああああああああああああああっっ!!」

互いに雄叫びを上げて衝突する。

互いの攻撃を判断する余裕もなく全て経験と直感を頼りに互いの命を断とうと銀と紅の斬線を軌跡を残していく。

一秒、一手を掻い潜り互いが生き残る度に、際限なく速度は上がっていく。それに対してフュンフトは。

(ありえない…ッ! こんなことが起こりえるなんて!)

驚愕に包まれていた。

その理由は今もかすり傷は負いながらもフュンフトの神速の剣撃について来れている浩二に対してだ。

フュンフトは己の全てのステータスや技能をそれこそ‶限界突破〟を発動しているのと同じぐらいに桁違いに上がっている。それなのにどうして‶限界突破〟の技能を持っていない浩二がフュンフトの剣撃について来れているのかわからなかった。

その理由は浩二は自らの意思で生存本能(リミッター)を意図的に破壊して本来使えない力に手を付けているからだ。言ってしまえば疑似的な‶限界突破〟。

そしてもう一つ、巧いのだ。

才能もなく、剣の素質もなく、ただひたすら愚直に愚行に突き進んで研鑽し続けてきた八重樫流の技がここにきて本来の実力以上の力を発揮している。

剣術の才能がなくとも、剣術の技能がなくとも、諦めることなく、折れることもなく強い意思と想いの力を持って浩二は神の使徒と渡り合ってる。

才能もなく、技能もなく、自身よりも強い強者と互角の勝負にしているのは‶勇気〟。

一瞬でも臆すれば死ぬ。そんな極限状態で己を全てをぶつけられる驚くほどに強い精神力(こころ)

しかしそれでも壁は大きい。

その諦めの悪さ、努力、そして臆することもない勇気は称賛に値する。しかしそれでも才能という壁は高く、技能がない浩二は限界以上の力が発揮できたところで次第に押し負けてしまう。

その証拠に浩二の体に赤い線が増えていく。

「ぐっ」

徐々に傷が増えていく浩二にフュンフトはこのまま押して倒そうと攻撃の手を緩めることなく押し続ける。

そして遂に。

浩二の手から刀が弾き飛ばされた。

「―――っ」

「終わりです。平野浩二」

得物が手から離れ、神速の速度で振り下ろされる剣撃を避けることは叶わず、銀光を纏う大剣は命を奪う死神の鎌のように振り下ろされる。

その直前。

突然灰色の閃光がフュンフトを襲った。

「っ――――」

咄嗟に防御態勢を取ったフュンフトはその閃光を防ぐ。その閃光が放たれた方向には……。

『竜人族を舐めないでください』

それは竜化し、灰色の竜へと姿を変えたエフェルが放った竜のブレス。僅かに回復したその力を神の使徒に一矢報いる為に行使したのだ。

そして突然の竜のブレスによって反射的に防御態勢を取ったことによって生まれたその隙を浩二は見逃さなかった。

フュンフトの顔を鷲掴みにして浩二は叫ぶ。

「‶改造〟!!」

フィーアトと同じく‶改造〟の派生技能である‶改造改悪〟を使ってフュンフトのその身を灰へと変えて風と共に散り舞い、最後に浩二の手の中に残されたのはフュンフト、神の使徒の魔石に似た器官だけだ。

「終わった……」

浩二は戦闘が終えると糸が切れた操り人形のようにそのまま地面に落下していくが、その前に竜化したエフェルに助けられて地面の落下は免れた。

浩二を背に地上に降りるエフェルは駆け寄ってくるティニアに浩二を委ねる。

「浩二様!」

『大丈夫です。意識を失っているだけのようですから』

傷はあるも致命傷はない。呼吸もしていることからティニアは安堵の息を漏らす。

「凄い人です。まさか神の使徒を倒してしまうなんて……」

竜化を解いて人の姿になるエフェルは今でも信じられない者を見る目で浩二を見ている。ただの人間である浩二が自身よりも圧倒的に強い神の使徒を倒したのだ。驚かない方が無理な話だ。

いくらエフェルが助力したとはいえ、ほぼ単独で倒した浩二にエフェルは素直に称賛する。

そしてティニアは応急処置を済ませると気絶している浩二に言う。

「浩二様。貴方様はお認めにならないかもしれません。そんなことはないと否定なされると思います。ですが言わせてください。貴方様は最低な殿方でも、脇役なんかでもありません。少なくとも私にとっては貴方様は立派な主人公(ヒーロー)です」

意識を失っている浩二を抱きかかえながらティニアは己の主人公(ヒーロー)を讃えた。


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