ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役28

浩二は目を覚ますと見覚えのない天井だった。

「ここは……?」

まだ定まっていない意識のなか、視線を動かして周囲を見渡すと銀色が視界に映る。

「浩二様!」

ティニアが目を覚ました浩二を見て、目尻に薄っすらと涙を浮かばせながら目を覚ました浩二に思わず抱き着く。

「あぎぃ!?」

抱き着かれて浩二の身体に激痛が走り、浩二は痛みのあまり思わず奇声を上げた。

「す、すみません……」

その悲鳴に咄嗟に離れるティニアは指で涙を拭い、激痛のおかげで完全に目が覚めた浩二は体内にある鎮痛剤を施して痛みを緩和させる。それでも痛いものは痛いが……。

「……ティニアさん。子供は? 俺はどれぐらい眠っていたのですか……?」

現状と魔結晶病を患っている子供はどうなっているのか? それをティニアに訊くとティニアは呆れるように。

「少しはご自身の心配をしてください。三日も眠っておられたのですよ?」

目が覚めて最初に言葉にしたのは魔結晶病の子供の容態についてだったことに呆れながらティニアは神の使徒――フュンフトとの死闘後について語り出す。

神の使徒との戦いが終えて意識を失った浩二を背負い、町に戻って宿で浩二を休ませてティニアとエフェルが交代で看病をしていた。そして魔結晶病を患っている子供は事前に浩二が症状を緩和させる薬を飲ませていた為に悪化はしていない。

それを聞いた浩二は……。

「なら急いで薬を……」

「そのような身体で無茶はいけません。まだ猶予はあります。今はご自身の回復に努めてください」

今にも薬の調合に取り掛かりそうな浩二を必死に制止させる。

「でも……」

「それで失敗したらどうするのですか? まずは浩二様が回復する方が優先です」

ティニアのその言葉に浩二は渋々と回復に努め、自身の状態を診察する。

(魔力が若干変質している。恐らくは片目も紅いままだな……。骨格、神経、内臓などは問題なし。いや、むしろ目覚める前よりもいい……)

「……ティニアさん。俺のステータスプレートを取ってくれませんか?」

「どうぞ」

浩二は今の自身の状態を客観的に知る為に己のステータスプレートを見てみると……。

「うわぁお」

浩二は頬を引きつかせながらもう一度、自身のステータスプレートを見る。

 

 

平野浩二 17歳 レベル:???

天職:医療師

筋力:11830

体力:11990

耐性:12080

敏捷:12001

魔力:12980

魔耐:12980

技能:医学[+診察][+肉体構造把握][+精密診査][+診断][+経穴][+心霊医術]・調合[+薬毒鑑定][+高速調合][+効果上昇][+効能上昇][+調合改良][+保存期間延長][+劣化防止][+品質上昇][+服用量低下][+特殊調合]・侵入[+範囲増加][+精神操作][+記憶操作]・改造[+解剖][+最適化][+自己改造][+構造変化][+肉体操作][+肉体硬化][+肉体改造負担低下][+物質改造][+魔物融合][+物質混合][+改造強化][+改造改良][+改造改悪][+再構築][+限界解除]・投擲[+精密投擲][+飛距離上昇][+気配感知][+視野強化][+視覚強化]・魔力操作[+魔力循環][+魔力硬化][+精密操作][+効率上昇][+遠隔操作][+魔力放射][+魔力範囲拡大][+魔力変換][+変換効率上昇][+治癒力上昇][+魔力感知][+魔力変質][+身体強化]・回復魔法[+回復速度上昇][+状態異常回復上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+発動速度上昇][+連続発動][+複数同時発動][+イメージ補強上昇]・光属性適正[+発動速度上昇][+光属性効果上昇][+効率上昇][+魔力消費減少][+イメージ補強上昇]・闇属性適正[+発動速度上昇][+闇属性効果上昇][+効率上昇][+魔力消費減少][+イメージ補強上昇]・高速魔力回復[+魔力吸収]・分解・双大剣術・全属性適正・複合魔法・言語理解[+知覚拡大][+高速認識]

 

 

もはやバグキャラとなっていた浩二さんだった。

神の使徒であるフィーアトを‶改造〟して自身に取り込み、それから調合と改造を繰り返して完成させた主人公(南雲ハジメ)の血液と魔石を体内に取り入れた為にこのようにステータスがバグったのだろう。

もはや主人公(南雲ハジメ)同様の存在になってしまったことに嬉しくもあり、なんだかなぁ、と思う浩二であった。

(神の使徒の技能は運よく手に入ったみたいだけど、南雲の技能は……ないな、相性? もしくは何かしらの別の要因でもあるのか……?)

そこまで考えて思考を止める。

今ここで考えても意味がない。追々検証していけばいいと決める。それよりも前に浩二にはやっておかなければいけないことがある。

「浩二様。まだ横になられた方が……」

起き上がろうとする浩二を支えようとするティニアに浩二は手で制止て上半身だけ起こして浩二はティニアに言う。

「こんなとき、いえ、今だからこそティニアさんに言っておきたいことがあります」

「私に?」

「俺はやっぱり雫の事が好きです。諦めたくありません」

自身に想いを寄せてくれているティニアに浩二は嘘偽りない本当の気持ちをありのままにティニアに伝える。

「フラれた身でありながらしつこいとは思います。ですが俺はやっぱり雫のことを諦めたくありません。それだけ俺は雫に惚れています。たぶんこれからもずっと俺のこの想いは変わることはないと思います。だからこそ、この想いに嘘をついてまでティニアさん、貴女の想いに応えることはできません」

ティニアがどれだけ浩二のことを好いていてくれるのか。それは浩二が一番よくわかっている。

だからこそ、ちゃんと伝えないといけない。

「俺はティニアさんのことがきっと好きです。でもそれ以上に俺にとって雫は‶特別〟な存在なんです。だからごめんなさい、俺は貴女の想いに応えることができません」

頭を下げる。

生まれて初めて浩二を好きになってくれた人。支え、慰め、励まされ、寄り添ってくれた人。浩二の為に命を捧げるほどに愛してくれる人の想いをフッてでも浩二は雫を選んだ。

それだけ浩二にとっては雫は‶特別〟な存在なんだ。だからこそ、己の気持ちに嘘をつきたくはないし、諦めきれない想いを抱えたままティニアの想いに応えるのは不誠実だ。

そう思ったからこそ浩二はハッキリと口にした。

悲しませる思いをさせてしまうだろう、罵詈暴言を吐かれるかもしれない、殴られるかもしれない。それでも浩二はその覚悟で自身の本当の気持ちを口にした。

「……頭をお上げください」

暫くの沈黙の後、ティニアがそう口にする。

浩二は言われた通りに頭を上げてティニアに顔を向けると、いつものクールビューティーの表情でティニアが口を開く。

「浩二様のお気持ちは痛いほどによくわかりました。その上で言わせて頂きます」

「……はい」

「浩二様が雫様を諦めないように私も浩二様を諦める気はございません」

「え……?」

予想外な言葉に目を丸くする。

「私にとっても浩二様は‶特別〟な存在です。これから先の未来、私の全ては浩二様に捧げております」

「で、でも、俺は……」

「存じております。それでもです」

浩二が雫を諦めないようにティニアもまた浩二を諦めない。

同じなのだ。浩二もティニアもお互いの‶特別〟に心から惚れているからこそ諦めようとしないのだ。

「それに浩二様が私のことを好いているということは私が浩二様の‶特別〟になれるチャンスはあるということですしね。いずれ私が浩二様の‶特別〟になってみせますのでお覚悟を」

不敵に笑みを浮かべるティニアはいったいどれだけ強かなのだろうか? 下手をすれば浩二以上に諦めが悪いのかもしれない。

そんなティニアに浩二は言う。

「……辛いだけかもしれませんよ?」

「望むところです」

「俺を諦めて他の人を探した方が幸せになれるかもしれません」

「浩二様を諦める選択肢など私にはありません」

「俺にとって雫が‶特別〟です。仮に雫が俺以外の誰かに惚れたとしてもこの想いは変わらないと思います」

「私のこの想いも決して変わりません」

「……」

もう何を言っても諦めようとはしないだろう。浩二は息を漏らす。

「……わかりました、いや、わかったよ、ティニア。なら改めてよろしく」

「はい。よろしくお願いします」

改めて手を重ね合う。

もういくら言葉を尽くしても止まらないだろう。その気持ちは浩二もよくわかる。

だってティニアが抱くその気持ちは浩二が雫に抱く気持ちと同じだからだ。ならティニアが浩二の事を諦めないということは浩二自身が一番よくわかってる。

「あの、よろしいでしょうか?」

そんな二人にいつの間にか部屋に入って来ていたエフェルが申し訳なさそうに声をかける。

「エフェルさん、どうかしましたか?」

「はい。お二人はこれからも旅を続けられるのですか?」

「まぁ、一応そうなるかな……?」

今の目的地は【エリセン】だがそこの大迷宮を攻略したら他の大迷宮を攻略する為に動くかもしれない為に曖昧ながらも浩二は肯定した。するとエフェルが。

「それでは私もお二人の旅に同行してもよろしいでしょうか?」

「それは構いませんが……いいんですか?」

「はい。お二人と共に行動すれば任務の効率もいいですし、お二人の力にもなれます」

確かに竜人族が仲間になってくれれば心強い。同行を受け入れる理由はあっても拒む理由はない。

「それに私のこの命は救われた命です。必ずやお役に立ちましょう」

死に体であったエフェルを偶然にも助けた浩二にその恩を返そうとしているのだろう。

別に気にすることではないが、戦力にはなる。拒む理由がない以上はむしろいてくれた方がいい。

「わかりました。それではよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いしますね、旦那様」

「……今、なんと?」

聞き間違いかな? と思って再度訊く浩二にエフェルは頬を薄っすらと赤く染めて咳払いして言う。

「だ、旦那様と申しました。率直に申し上げまして浩二さん、私は貴方に惚れました。ですので一緒にいさせてください」

何を言っているのか、一瞬理解が追いつかなかった浩二は思った。

(俺、どこでフラグを立てた? 助けた時か……?)

ティニアに続いてエフェルまで告白された浩二は混乱していたが、エフェルはそんな浩二を置いてどうして惚れたのかを語り出した。

「私はティオ様、竜人族の姫には劣りますがそれでも里では強い方です。ですので私は添い遂げる殿方は自分よりも強い男性だと決めていました」

「……えっと、でも俺、エフェルさんと戦っていませんよね?」

「私を倒した神の使徒を倒したのです。そんな浩二さんが私より弱いわけがありません」

そう言われれば確かにそうだ。

「それにただ強いから惚れたというわけではありません。何の得もないのに私に回復魔法を施して命を救って頂き、神の使徒を相手に浩二さんは自身が逃げる為ではなく私達を助ける為に行動を取ってくれました。浩二さんの優しさ、強さ、そして強者に立ち向かうあの勇敢なお姿に私、エフェル=サンドルはこの身を浩二さんに捧げると決めました。先ほど旦那様と申しましたが、別に愛人でも妾でも構いません。浩二さんには雫さんという‶特別〟なお方もおられるようですし、ティニアさんもいますから三番目でも私は気にしません」

(いや、俺が気にします)

内心ツッコミを入れる。

え? なにこれ? モテ期到来? とさえ浩二は自身のモテっぷりに思わずそう思った。

「えっと、エフェルさん。好意を寄せてくれるのは凄く嬉しいです。でも、先ほど聞いていらしたように俺にはどうしても諦めきれない人がいまして……」

「私は好みではありませんか……? それとも竜人族だからでしょうか?」

「あ、いや、別にそういうことは……ただ俺の国では一夫一妻が当然で複数の女性と関係を持つというのはないんですよ。この世界では当然かもしれませんが、どうしても抵抗というか、倫理的にというか……ともかく好みのタイプではないからとか、竜人族だからというわけではありません」

浩二だって男の子だ。

いくら雫に惚れているからといってハーレムに全く興味がないと言えば嘘になる。

それが女性の方からそれも二人続けてプロポーズされて嬉しくない訳がない。それもどちらも美女だ、美女。大事なことなので二回言った。

そこでティニアが。

「浩二様自身のお気持ちはどうなのですか?」

「俺の、気持ち?」

「はい。先ほどのお話を聞く限りそれは浩二様の国での一般常識もしくは倫理的価値観なのでしょう。ですがそれを取り払って浩二様自身の本当のお気持ちはどうなのですか?」

浩二自身の本心を語って欲しい。そう言外に告げるティニアに浩二は考える。

浩二は雫が好きだ。惚れている。それは間違いない。

そしてそんな浩二に好意を寄せてくれるティニアとエフェルの気持ちは嬉しく思っている。けど、いや、だからこそ不誠実な真似だけはしたくないのが本心だ。

関係を持つのならちゃんと大事にしたい。けどそんな甲斐性が自分にあるのか? そう思ってしまう。

(いや、それこそ本心ではないな……)

だがそれは自分の気持ちを誤魔化す為の言い訳に過ぎない。だからこそ浩二は自分の本心を言う。

「愛人とか妾とか、三番目でいいから受け入れようとは思わない。関係を持つのならちゃんとしたいし、大切にしたい。それは相手が誰だろうが、どんな種族だろうが変わらない。それは確かだ。けど俺には既に惚れている人がいる。一度はフラれたけど俺は諦めようとは思わない。エフェルさん、ティニアにも言ったけど、それでも?」

―――それでも俺について来ますか?

そう告げられたエフェルは真剣な顔で頷く。

「はい。それでもです。出会ってまだ間もないですが、きっとこれは運命なのでしょう。私は浩二さんと出会ったこの運命に感謝し、共にありたいと思ってます」

それを聞いた浩二は思わず顔に手を当てる。

(どうしてこの世界の女性は諦めが悪いのだろうか……いや、俺もだけど……)

今だけ主人公(南雲ハジメ)の気持ちが少しはわかる気がした。

「……わかった。ならエフェル、これからもよろしく頼む」

「はい!」

なにはともあれ、浩二の新たな仲間に竜人族のエフェルが加わった。


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