神の使徒――フュンフトとの死闘から目を覚ました浩二は己の身体を回復させ、魔結晶病の子供の病を治す薬を調合してもう大丈夫だと判断してから新しい仲間であるエフェルと共に旅を再開した。
そして現在、【エリセン】行きの船の上で潮風に当たりながら黄昏ていた。
(我が人生にモテ期到来……)
そんなアホなことを思いながら浩二はチラリと視線を横にする。
そこには浩二の旅の仲間であるティニアとエフェルが仲親し気に会話を弾ませていた。
何を話しているのか、気にならない訳ではないが、盗み聞きはよろしくないので二人から視線を逸らす。
浩二はいまだに美女二人に告白されたことに内心驚きを隠せないでいる。
ティニアもエフェルも
その証拠にこれまでの道のりで二人の美貌に見惚れる者も多く、ナンパ目的で声をかける者もいれば、白昼堂々告白してくる者もいた。
なかには強引に自分のモノにしようと暴走して二人に手を出そうとする者がいたが、浩二が止める前に二人の手によって撃沈した。
まぁ、そういう輩が出るほどに二人は美しいのだ。美しい女で美女なのだ。そんな美女に告白されたのだ、浩二は。したのではなく、された。これは重要。
そんな美女二人に告白されて修羅場が起きるかとも思えばそんなことはなく、二人は浩二を共有しているのか争うようなことはない。そのうえ……。
(二人とも積極的なんだよな……)
隙あらばスキンシップしてきたり、そのたわわに育った胸の谷間に腕を挟んできたり、寝ていたら気がつけば二人に挟まれて目を覚ましたり、と男として羨ましい日々を送っている。
転移前はそんな気は一切なかった。女の子からのバレンタインチョコなど母親か、幼馴染である雫と香織ぐらいしか貰っていない。そんな非リアの日々を過ごしていたから今の状況に驚き、戸惑いを覚えてしまう。
(まぁ、好意を向けられること自体、嬉しいけど……)
潮風に当たりながら海面にいる海人族の護衛を眺めていると……。
「ん?」
浩二の‶気配感知〟に海面下から何か巨大なモノの気配を感知するとソレはすぐに姿を現した。
激しい水飛沫と共に海上へと姿を現したのは体長三十メートルはあり、三十本以上はある触手を持つ巨大なイカっぽい何か。触手をうねらせるその姿は海の怪物クラーケンを連想させてしまう。
突然現れたイカモドキに船上にいる船員や客はパニックになり、悲鳴や助けを求める声を投げ、護衛を務めている海人族はその触手に囚われている。
そんななか、浩二は自身でも驚く以上に冷静だった。
(まぁ、神の使徒と戦った後だからな……)
それに比べればこのイカモドキはたいしたことはない。浩二は早速手に入れた‶分解〟を使ってイカモドキを倒そうとするも―――
「浩二様。ここは私にお任せください」
それより前にティニアがそう言ってきた。
「浩二様の手によって新しく手に入れたこの力を試すいい機会ですので」
「ああ、まだ試していなかったし、大迷宮に挑む前の練習にはちょうどいいのか」
納得し、この場をティニアに譲ると、ティニアはその背から白銀色に輝く翼を出現させてその翼から白銀色の羽の魔弾を射出するとイカモドキはその魔弾で絶命した。
「……思っていたより操作が難しいですね。これは練習しなければ」
誰もが啞然とした顔をしているなか、一人そんなことを呟くティニアに浩二はやれやれと肩を竦める。
(神の使徒の魔石と俺の肉体の一部を改造して取り込ませたけどこれは予想以上……)
内心そうぼやく。
ティニアの今の力は浩二が‶改造〟によって神の使徒の力を取り込んだように、フュンフトの魔石と浩二自身の肉体の一部をティニアに取り込んだ結果、浩二同様に神の使徒の力を手に入れた。
以前の戦闘の際にティニアは己の力不足、力の無さに痛感してこのままでは浩二の足手纏いになると思った。だが、どれだけ鍛えたとしても実際に目の当たりにした神の使徒には届かない。
そこでティニアは浩二に自らの意思で改造を望んだ。強くなる為にこの身を改造してくださいと。
当然浩二はいい顔はしなかったが、ティニアの決意は固く頷くしかなかった浩二は最強の改造人間にしてやろうと思ったところで浩二は閃いた。「あれ、使えるんじゃね?」と。
それは偶然手に入れた神の使徒であるフュンフトの魔石のような器官を改造してティニアに取り入れて更には浩二は自らの肉体の一部も改造したうえでティニアに取り入れさせた。そしたら見事に神の使徒の力を手に入れたのだ。
そんな今のティニアのステータスは……。
ティニア・セルヴィス 19歳 女 レベル:52
天職:探索者
筋力:75 [+12000]
体力:89 [+12000]
耐性:68 [+12000]
敏捷:71 [+12000]
魔力:64 [+12000]
魔耐:64 [+12000]
技能:探索[+認識範囲拡大]・気配感知[+特定感知][+広域把握]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・先読[+未来予測]・遠目[+夜目]・風属性適正[+魔力消費減少]・土属性適正[+魔力消費減少]・魔力操作・分解・双大剣術・全属性適正・複合魔法
改造した結果、このようなステータスになった。
浩二とほぼ同等のステータスとなって更には神の使徒の固有魔法やその他の技能も手に入ったティニアは満足だった。もはや
最強メイドここに現る! と言いたいが、ティニアはまだ改造によって得たその力を使いこなせてはおらず、練習が必要のようで最強メイドの称号はまだまだ先になるだろう。
「さて、そこの船員さん。脅威は去ったから船を動かしてくれ」
「え、は、はい……」
固まっている船員に声をかけて正気に戻させて船は再び動き出すと、啞然としていた客達も正気を取り戻して脅威を追い払ったティニアに礼を言う人もいればどこかの貴族のような坊ちゃんが「僕の家の使用人に……」などと言っている者もいるがティニアは丁重に断っていた。
「浩二さん。先ほどからボーとしているようですが、どうかされましたか?」
「ん? ああ、色々と変わったなぁと思ってな(モテるという意味で)」
「そうですね、変わりましたね(見た目が)」
互いに頷く。その中身の意味は全く違うというのに……。
「それよりも見えてきましたよ?」
「おっ、遂にか……」
浩二達はようやく目的地である【エリセン】に到着したのだった。
【エリセン】に到着した浩二達はそこの海人族のお偉いさんと思われる人が待っていた。
「ようこそ【エリセン】へ。お待ちしておりました、平野様」
礼儀正しく挨拶してくるお偉いさんに浩二は「あれ? 何で俺の事知ってんの?」と怪訝するかのように首を傾げると、そんな浩二に察したのかお偉いさんは教えてくれた。
「平野様の噂と調合された薬はこの町にも届いております。平野様のお薬のおかげで病に苦しむ者も減り、この町にはいつも以上に活気に満ちているのです。その平野様がこの町に足を運ぶと耳にしてお待ちしておりました」
「はぁ……まぁどうも……」
納得しつつも妙にムズ痒い思いをしながら握手に応じる浩二にお偉いさんは申し訳なさそうに懇願する。
「到着早々、お手間を取らせるようで申し訳ないのですが、ぜひ名高き平野様に診て頂きたい人がいるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。すぐに案内してください」
「ありがとうございます。ではこちらです」
「レミアさん。医者を連れて来た。この方ならきっとその足を治して下さる」
(おー、この人だったのか……)
案内された所にいたのは原作にも登場した海人族のレミアだった。
「まぁ、その人があの……」
「ああ、数々の薬を調合し、多くの人をお救いになった平野様だ。この人ならきっと治してくれる」
あまりにも称えられて浩二は照れくさく、今にも身悶えしそうなほど恥ずかしい思いをするが、ティニアとエフェルはむしろ誇らしげに頷く。浩二は意識を切り換えて
「失礼」
両足の包帯を外して診察する。見た目の火傷もだがそれ以上に神経がやられているも浩二にとってはその程度でしかない。回復魔法と魔法薬、改造を駆使して数分のしないうちにレミアの足を治した。
「これで治療は完了です。お疲れ様でした」
「え? もう……?」
もう歩くことも泳ぐこともできないほど傷ついているその足をほんの数分で治したことにレミアもそれを見守っていた他の海人族の人達も訝しむが。
「あ、あらあら……本当に、私……」
レミアは立ち上がり、歩いて見せた。その姿に見守っていた海人族の人達も歓声をあげた。
「もう歩けないと思っておりましたのに……なんとお礼を言えばいいのか……」
「別に礼なんていいですよ。医者として当然の義務を果たしただけです。とはいえ、まだ治ったばかりです。少しでも異変があるのでしたら教えてください。一応この町に滞在する予定ですから」
「あの、それでしたら滞在中はこの家をお使いください。幸い、部屋はゆとりがありますから、後ろにいるお二人の分の部屋も空いています」
滞在することをレミアはこれ幸いと、自分の家を使って欲しいと訴えた。
(まぁ、その方が色々と都合もいいか……)
治したばかりの足のこともあるし、
「それではお邪魔させて頂きます」
浩二達はそのご厚意に甘えることにした。