【エリセン】で出会った魔人族のイリエを新たな仲間に加えた浩二はティニアにもイリエのことを紹介し、レミアにもう一人分だけ部屋を追加してもらい、一息ついて浩二は借りている部屋で薬を調合していた。
手持ちの道具で患者に適した薬を調合していく。王城でもう四桁はくだらないと言えるぐらいに調合してきた浩二のその手腕は的確かつ速い。
最短最速で次々に薬を調合していくその手際はもはや神業に匹敵するだろう。
そんな調合をしている浩二の後ろで控えているティニアが尋ねる。
「浩二様。本当によろしいのですか?」
「イリエを仲間に加えたこと?」
手を止めずにそう言う浩二にティニアは頷いた。
「はい。彼女は魔人族。万が一にも浩二様の命を狙う可能性はゼロではありません。今の内に何かしらの対策をなされた方が良いのでは?」
イリエは浩二と出会うまで追手から逃げる旅をしていてよほど憔悴していたのだろう。部屋を借りるなり、倒れるように眠りについた。だがそれも無理もない。
父親と共に魔人族、種族の為に戦い続けたイリエにとっては突然父親が殺され、異端者の烙印を押されて追われる身となった。その際に母親まで失ったんだ。心身共に限界だったに違いない。
しかし、いや、だからこそティニアは今の内にイリエに対して対策を施すべきだと浩二に進言するも。
「その必要はないよ。そもそもあいつにその気はないし、俺達とイリエでは実力差があり過ぎるからね」
浩二はそう断言する。
実力的にも、そしてイリエの心情的にも浩二達を殺すような真似はしない。何故なら……。
「あいつはただ死に場所を求めているだけだ。そういう目をしていた」
浩二はイリエの瞳を見てすぐにそう気づいた。
己自身のケジメをつけたいというのも本音だろう。その為に力を求めることも、フリードに会うことも本当だ。けれど、それが終われば最後は戦って死ぬことを望んでいる。そのことに浩二は気付いていた。
「今のイリエの心は空っぽだ。何もない空洞。何もかも失ったあいつは最後に魔人族の一人としてのケジメをつけたらそのフリードに殺されるつもりなんだと思う。確信はないけど」
(もしくは自分の命を犠牲に妄信している魔人族を正気に戻させようとしているのか……)
どちらにしても今のイリエは生に全く執着していないのは確かだ。既に死を覚悟しているからこそ浩二はそれを止めさせようとああ言ったけど……。
(‶俺を生きる理由にすればいい〟なんてどこの主人公だよ、たく……)
今更ながらそんな口説き文句を言った自分自身が恥ずかしく思う。しかし、言ったことに後悔はない。
(でもあいつは、イリエは生かされた命だ。それをあいつの都合で途絶えさせるわけにはいかない)
イリエは父親に、母親に、家族に愛されているからこそ繋がった命だ。だからもうイリエの命はイリエ自身のものではない。だからこそイリエは生き続ける義務がある。家族の分まで生きる義務が。
「ティニアやエフェルが警戒する気持ちはわかるけど、俺は魔人族だからといって死に進もうとしているあいつを放っておくことはできない。せめてイリエ自身が生きる理由を見つけるまでは俺があいつの生きる理由になる」
医者として自ら死に進む者を放置することはできない。
それが人間族だろうと亜人族だろうと魔人族だろうと変わらない。
そんな浩二にティニアは小さく息を零した。
「わかりました。浩二様がそこまで仰るのでしたらこれ以上は何も申しません」
「ありがとう」
「お礼には及びません。私はそういう浩二様だからこそお慕いしているのですから」
薄っすらと微笑むティニアに思わず頬を掻いて照れ隠ししてしまう。
(本当、俺にはもったいない人だよ……)
もし、ティニアがいなければきっとまだ失恋のショックから立ち直れていなかったかもしれない。今のように傍にいてくれたからこうして立ち直ることができた。だからティニアには感謝してもし足りない。
(……雫に心底惚れていなかったらたぶん、惚れてたな)
そう思えるぐらいの感情は浩二にはある。それだけティニアは浩二に尽くしてくれている。
(礼ぐらいするべきだよな……)
色々含めてティニアのおかげで助かったことは多い。ならその恩を返そうと思い、浩二はティニアに尋ねる。
「なぁ、ティニア。何かして欲しいこととかあるか?」
自身のできる範囲でティニアに報いよう思ってそう尋ねる。するとティニアは。
「では浩二様に夜のご奉仕をさせてください」
「却下で」
「……どうしてですか? 経験はありませんが知識はあります。私の全身を使ってご奉仕しますのに」
やっと夜のご奉仕が出来ると思いきや、即答で却下されたことにティニアは不服そうにする。
「私ではご不満ですか? これでも胸の大きさにも形にも自信はありますし、スタイルだって雫様に負けておりません」
ティニア自身の言う通り、男性好みのスタイルをしているのは着ているメイド服の上からでもわかる。けど、浩二が言いたいのはそこではない。
「ティニア。きっと俺は雫がいなかったらティニアが俺の‶特別〟になっていたと思う。少なくとも俺はティニアにそれだけの好意は持っている。けど俺にとって‶特別〟は雫だ」
「存じております。それでも私は浩二様のことを諦める気は一切ございません」
「わかってる。だから俺もあれから色々と考えた。常識や価値観とか抜いて俺自身がどうしたいのかを必死に考えた」
浩二はティニアと向かい合って真剣な顔で告げる。
「俺はティニアもエフェルも受け入れようと思って、いや、受け入れたいと思ってる。雫という‶特別〟がいながら他の女を受け入れるなんてどうかしていると思う。けど俺は理屈や常識、価値観など置いて自分の気持ちを優先したい。子供のような我儘なのは自覚している、最低だということも理解している。俺みたいな脇役が複数の女性と関係を結ぼうとしているなんて烏滸がましいのだろうけど、俺は自分の気持ちに正直に生きたいと思う。だからティニア、これはそんな俺の初めての我儘だ」
そう告げて浩二はティニアに告げる。
「ティニア。俺はお前を一人の‶女〟として抱きたい。そしてこれから先もずっと俺の傍にいて欲しい。こんな俺の我儘を受け止めてはくれないか?」
少し自信なさげに、けれど自身の我儘を口にする。それに対してティニアの答えは変わらない。
「はい。私はいつまでもお傍におります。ですが、私は浩二様の‶特別〟を諦めたりはしません。いずれ、雫様よりも私の方が‶特別〟だと言わせてみせます。ですが今は……」
待ちに待った夜のご奉仕にティニアは浩二を抱き寄せてベッドの上に押し倒すとそのまま一晩、浩二はティニアの夜のご奉仕を受けるのであった。