ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役33

「ひっぐ、ぐすっ、ひぅ」

ボロボロになった浅橋の近くで、幼い少女のすすり泣く音が響く。野次馬やら兵士達やらで人がごった返ししているのだが、喧騒など微塵もなく、妙に静まり返っていた。

その理由は四歳児とは思えない胆力でパラシュートなしのスカイダイビングをやってのけた少女――ミュウをハジメが盛大に叱りつけたからだ。

「ぐすっ、パパ、ごめんなしゃい……」

「もうあんな危ないことはしないって約束できるか?」

「うん、しゅる」

「よし、ならいい。ほら、来な」

「パパぁー!」

ハジメをパパと呼び、本当の父親のように慕うミュウ。ミュウのことを知っている海人族はただその光景に唖然とするばかり。

泣きじゃくるミュウを慰めるハジメに香織が抱き着く。

「よかった……。本当によかったよぉ~、ぐすっ」

ハジメが無事であったことに安堵の涙を流す。内心、それだけ不安だったのだろ。そんな香織に「おい、なに幼馴染を泣かしてんだ? あぁ?」と視線を叩きつける過保護な幼馴染が一人。

「心配かけて悪かった。この通り、ピンピンしてるよ。だから……泣くなよ。香織に泣かれるのは、いろいろ困る」

「うっ、ひっぐ、じゃ、じゃあ、もう少しこのまま……」

そして竜化を解いたティオがハジメの頭を抱き抱え自らの胸の谷間に押し付けた。

「ぬおっ!? おい、ティオ」

「信じておったよ? 信じておったが……やはり、こうして再会すると……。しばし、時間をおくれ、ご主人様よ」

大切なものが腕の中にあることを噛み締めるような表情をして、目の端に涙を溜めていた。そこにミュウもハジメの首筋に抱き着き、ハジメは衆人環視の中、美幼女、美少女、美女を身体が見えなくなるくらい全身に纏わりつかせていた。

周囲の視線が困惑から次第に生暖かいものへと変わっていく。その時―――

「ミュウ!? ミュウなのね!?」

「ママ!!」

騒ぎに駆けつけたレミアがミュウの存在に気づいてミュウも母親の声に顔を輝かせて母親を目視するとハジメから跳び下りてステテテテー! と勢いよく走り、母親であるレミアの胸元へ満面の笑みで飛び込んだ。

もう二度と離れないというように固く抱きしめ合う母娘の姿に、周囲の人々が温かな眼差しを向けている。中には涙ぐむ者もいた。

感動の親子の再会を見届けたハジメは次にこの場にいる浩二に視線を向けた。

「で? なんでお前がここにいるんだ? 平野」

「え? 浩二くん!? どうしてここにいるの!?」

ようやく幼馴染の存在に気づいた香織は心底驚いた顔でまじまじと浩二を見る。

「ん? お主、エフェルか? どうしてお主がここにおる?」

「お久しぶりです、ティオ様。理由はティオ様と同じです」

そしてティオもまた同胞の存在に気づいて声を投げる。

「ああ、実はかくかくしかじかまるまるうまうま」

「え!? 光輝くん達のパーティーにいられなくなったからパーティーを抜けて一人で行動しているの!?」

「……よくわかるな」

「……んっ、以心伝心」

「ハジメさんとユエさんみたいですね~」

流石は幼馴染なだけあって意思疎通などお手の物。

「ふむ。それでお主はそちらの者達と行動を共にしておるのじゃな」

「はい。旦那様がいなければ私はこの場にはいなかったでしょう」

「ふふ、お主もよき出会いがあったようでなにより」

竜人族の二人も互いの事情を説明し合い、納得するように頷いていた。

「まぁ、ここじゃなんだし。落ち着く場所で話をしないか? 南雲達にも伝えておきたいこともあるしな」

浩二達は一度場所を変えて話をすることにした。

 

 

 

 

「なるほど。本物の神の使徒か……」

場所を変えてレミアの家で浩二は勇者パーティーを抜けて王都を出てその時、神の使徒と出くわし、戦って生き残った。オッドアイなのはその際の影響だと告げてハジメはその話に頷いて、浩二は本題を告げる。

「俺はあれから色々と知った。これからに備えて大迷宮の攻略、そして神代魔法は必須だと。そこで南雲達に大迷宮攻略の為に同行させて貰おうと思ってな。行くんだろう? 大迷宮に」

「いや、行きたきゃお前等だけで行けよ」

同行を求める浩二達にハジメは呆れ顔でそう言った。

その瞳は迷惑だと物語っている。

もちろん浩二はその答えは予測済み。だから原作知識も含めたその情報と戦力になることを対価に同行を許して貰おうと思い、口を開こうとした瞬間。

「ご主人様よ、この者達の同行を許しては貰えぬか?」

まさかの援護射撃。ティオがハジメに口添えした。

「あぁ? なんでだよ?」

「エフェルは里でも妾の次に続く強者でエフェルも己より強い者しか伴侶にしないと告げるほどじゃ。そのエフェルが選んだ相手であるこの者は下手をすれば妾、いや、ご主人様と同等かそれ以上に強いと思うのじゃ」

ティオの言葉にハジメ達は目を見開く。

ハジメのその強さを間近で見て来たユエ達にとって浩二がそのハジメと同等以上に強いことにまさかと思うも、それを告げているのがティオならあり得るかもしれないと思ってしまう。

思慮深く聡明なティオの言葉には一考の価値はある。

「当然です。旦那様は私を倒したその神の使徒を一人で二人も倒したのですから」

自身満々に答えるエフェルだけどハジメ達はその神の使徒がどれだけ強いのかは知らない為に実感は持てない。だが、ティオに続く竜人族であるエフェルを圧倒した存在であることは確かだ。

なら、それを二人も倒した浩二の実力はそれ以上と考えた方が妥当だろう。

「ハジメくん。私からもお願いできないかな?」

続けて香織がそう言った。

「浩二くんの治療の技術は私より上だし、浩二くん自身も凄く強いよ。いつも目立たないけど光輝くんや雫ちゃんたちのフォローをよくしてくれたし、ダメかな?」

幼馴染である香織にハジメに浩二達の同行を許して貰おうと口添えする。仲間であるティオと香織の口添えにハジメは肩を竦めながら浩二に言う。

「寄生したところで、魔法は手に入らないぞ? 迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要だ」

「覚悟の上だ。それに南雲にとってもこれからの戦いに向けて戦力は多い方がいいだろ?」

その言葉にハジメは逡巡する。

浩二の言葉が本当だとするのならいずれハジメの前にもその神の使徒は現れるというのなら浩二の言う通り、戦力は多い方がいい。なにより面倒事を押し付けることもできるし、いざという時の肉壁にもなる。

(碌でもないことを考えているな、こいつ……)

ハジメの僅かな仕草で何を考えているのか察した浩二は内心呆れていた。

「……ついてくるのなら好きにしろ」

「ああ、好きにさせて貰う」

こうして浩二達はハジメ達と共に行動することができるようになった。すると香織が……。

「浩二くん、なんだか雰囲気が変わったね。なんか落ち着いたというか、憑き物が取れたみたいだよ」

「まぁ、雫に告白して見事に玉砕したからな」

「ええ!? 雫ちゃんに!?」

軽く雫にフラれたことを幼馴染である香織に伝える浩二に香織はびっくりと言わんばかりに驚いていた。

「王都に出る前に恋人として一緒に来てくれって告白したらごめんなさいって返されてな。いや、その後は自分でも驚くぐらいに泣いた泣いた」

軽くそのことを口にするも香織はどう反応すればいいのかわからなかった。

ショックを受けているようにも見えず、けどその内容は決して嘘ではないようにも聞こえる為になんて声をかけていいのか、わからないのだ。

「えっと、大丈夫……?」

「ん? ああ、今ではあの時、フラれてよかったと思っている。自分がどれだけ最低な男なのか自覚することができたし、今度はちゃんと自分の気持ちを伝えるつもりだ」

「……?」

その言葉の意味がわからず首を傾げる香織に浩二はポンポンと香織の頭を叩いて言う。

「要は俺は雫を諦める気はないってことだ。雫が折れるまで何度でも告白するつもりだ」

「……そっか。うん、それでこそ浩二くんだね」

浩二の雫に対する想いを知っている香織は諦めない意思を見せる浩二に安堵の息を漏らす。

「それに今はこんな俺を支えてくれる〝大切〟な人達もできたしな」

後ろに振り返る。そこには雫という〝特別〟がいながらもそれでも浩二についてきた二人は笑みを見せる。

「え? 浩二くん、それって……?」

「香織の想像通りで間違いないぞ。まぁ、そのことは後で話す。それよりも南雲」

「なんだ?」

「ちょっと俺と模擬戦してくれないか? ほぼ実戦形式で」

「はぁ?」

突然の模擬戦の申し込みに訝しむハジメに浩二は言葉を続ける。

「理由は三つある。一つは今の俺がどこまで強くなったのか、それを把握する為。二つ目は俺達が戦力になるか、お前達の目で確かめて欲しい。三つ目は俺個人の理由だ」

「なんだよ? 個人的な理由って」

「お前も男ならわかるだろ? 打ち破りたいものが、乗り越えたいものがある。その為にはどうすればいいのかぐらい」

「……」

「俺は俺という過去を乗り越える為にはどうしてもお前と戦う必要がある。だから俺と戦ってくれ、南雲ハジメ(主人公)

浩二が乗り越えなければいけないもの、それは脇役という己自身。才能もなく素質もなくどこまでいっても物語の脇役でしかないと己自身で思い込んでいたその殻を破るには主人公(南雲ハジメ)と戦う必要がある。

もう主人公など脇役など関係ない。己の道は己で進む為にも浩二は主人公(南雲ハジメ)に模擬戦を申し込んだ。

「断る」

が、そこで断るのがハジメクオリティー。

「なんで俺がそんなことに付き合わなきゃいけねえんだよ? 戦いたきゃ大迷宮で存分に戦ればいいだろうが、めんどうくせぇ」

面倒くさそうにそう告げるハジメ。しかし……。

「自惚れるなよ、南雲」

そこで口調ががらりと変わった浩二は剣呑な眼差しでハジメを見据える。

「確かに俺達は同行を求めたが、別に俺がお前より弱いから同行を求めたつもりはない。【メルジーネ海底遺跡】に挑戦する為にお前達に同行した方が都合がよかっただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」

その言葉にはハジメもいい顔はしなかった。

「ハッ、言ってくれるじゃねえか。だったらなんだ? お前は俺よりも強いとでも言いたいのか?」

「それを知りたきゃ俺と戦え。俺とお前、どっちが強いか白黒つけようじゃねえか」

「おもしれぇ。いいぜ、受けてやるよ」

互いに剛毅な笑みを見せ合い、脇役(浩二)主人公(南雲ハジメ)の戦いの幕が開かれる。

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