ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公02

【メルジーネ海底遺跡】に挑戦する前に浩二とハジメの二人は万全の状態で七大迷宮に挑む為に十分な休息とその準備に勤しんでいる。

ハジメは消耗した分の武器の補充と新たな兵器の開発。特に浩二から聞いた本物の神の使徒との戦闘も踏まえて新しい兵器の開発は必須となっている。

しかしそれだけではない。浩二との戦いでハジメは〝強くなる〟と自身と愛する恋人に誓いを立てた。だからこれまで以上に兵器の開発に熱が入っている。

そうして浩二も新たな魔法薬の開発や改造による能力改善、向上を目指して己自身と武器を片っ端から改造している。

そして―――

「りゃぁああああああああ!!」

「フッ!」

ドリュッケンを振り回し、攻撃を仕掛けるシアと鋭い槍の連撃を披露するイリエ。二人の攻撃は浩二を襲う。しかし、浩二にはかすりもしない。

「ああもう! どうして当たらないのですか!?」

「文句を言う暇があったら攻撃する!」

「わかっていますよ!!」

愚痴を叫ぶシアにイリエは注意を飛ばす。

何故二人が浩二と戦っているのか? それはこれから大迷宮に挑戦する為にも互いの力量や足を引っ張り合わないようにする為に訓練している。

そこで浩二がシアとイリエ。近接戦闘を得意とする二人の相手を浩二がしている。それ以外にもティニアはユエと共に空中で魔法訓練。ティニアはそれに並列して神の使徒の力に慣れるようにしてユエは対神の使徒戦に向けて備えてエフェルは同じ竜人族であるティオと訓練している。無論、全員周囲に被害を出さない様に力は抑えている。

「てやぁぁああああ!!」

シアは技能である〝未来視〟を使って先の未来を読んで攻撃を仕掛け、イリエも〝幻惑〟の技能を駆使して攻撃するも浩二には届かない。

「二人共まだまだだな」

「ッ!?」

シアはこれから浩二が攻撃をしてくる未来が見えて躱そうと動く。だが、未来を見たはずなのに浩二の蹴撃がシアを襲う。

「ぐふ!?」

蹴り飛ばされるシア。イリエはシアに攻撃をしてできた浩二の隙を狙う様に槍を穿つ。当然槍には〝幻惑〟を施しており、本物の槍は浩二にはわからないはずだ。

それなのに……。

「うそ……」

浩二は見えない筈のイリエの槍を掴んで止めた。

「残念」

ポン、と頭に手を置かれてイリエは敗北し、浩二は二人に完勝する。そこで蹴り飛ばされたシアが二人のところまで戻ってきて反省会が始まった。

「うぅ~~、ここまでやられたのはユエさんの時以来ですよ……。浩二さんはどうして私の動きがわかったんですか? もしかして浩二さんも予知系の能力を持っているんですか?」

「あたしもどうして〝幻惑〟を見破ったのか知りたい」

どうやって二人に完勝できたのか、浩二はその答えを言う。

「俺は別にシアのように予知系の能力は持っていない。未来が見えるというのならそれを踏まえて動けばいい。これは駄目ならあれみたいな感じで対策を三つ、四つ踏まえて動いただけだ。まぁ、見える未来は一つとは限らないってことだ」

「なるほど……?」

どうやらシアはよくわかっていないようだ。

「まぁ、経験を積めば技能を使わなくても相手の動きを予測することはできる。シアは少し技能に頼り過ぎている傾向があるからもう少し地力を鍛えた方がいいぞ」

「うっ」

どうやら心当たりがあるようだ。

「そしてイリエだが、一つ勘違いをしている。お前は〝幻惑〟の技能を使っていない。俺が先に闇系魔法で〝技能を使ったと錯覚させた〟からだ」

「……つまり、あたしは技能を使わずにあんたに攻撃をしていたってこと?」

「ああ」

〝幻惑〟はイリエにとって切札であり、最も得意とするもの。その力で魔人族から逃げきれたと言ってもいい。だが浩二は闇系魔法によってその力を封じた。それならば〝幻惑〟を使っていると錯覚していたイリエの攻撃を簡単に防ぐことができたことに説明がつく。

「シアはもう少し地力を鍛える必要はあるけど、イリエは下地はできているから後はその力をどう応用、発展するかだな」

「はい……」

「………わかった」

欠点と改善点を告げる浩二に二人は頷いた。とはいえ、二人が本気で戦えば浩二もここまで簡単には勝てない。本気で戦うことになれば負けることはなくても多少の手傷は負う。

「……浩二さんってなんといいますか、面倒見がいいですよね。頼りになるといいますか」

「そりゃ、手のかかる問題児の面倒を三人もみていたらな……」

遠い眼差しで答える。

馬鹿(こうき)脳筋(りゅうたろう)突撃娘(かおり)と雫と一緒に手のかかる問題児(おさななじみ)の面倒をみていれば自然と面倒見もよくなるというものだ。

「あ~浩二さんと香織さんは勇者さんの幼馴染でしたね……」

【ホルアド】で一度光輝と出会っているシアは若干尊敬の眼差しで浩二を見た。よくあんなのと幼馴染でいられて、見限ることもしなかったことに。

「どうしてあんな人が勇者なんですかね……?」

「そう言わないでやってくれ。あいつはあいつでいいところはあるんだよ。ただちょっと挫折を知らずに育っただけなんだよ。ガキだと思えば別にそう思うこともないから」

幼馴染として一応弁明する。

「人間族の勇者はそんなにおかしいの?」

「おかしいというより生理的に受け付けないです。思い出しただけで鳥肌が立ちますよ」

シアは思い出しただけで両手で腕を擦っている。よく見れば本当に鳥肌が立っていた。

(そんなにか……)

そんな幼馴染を持つ者としてシアの反応には少なからず思うところはあるも、事実ゆえに言い返せない。

(異世界に来てから光輝のやつ、ご都合解釈が増したからな……。そう思われるのも無理はないのか?)

日本に比べて命の値段が軽いこの世界にとって光輝の理想はただの理想でしかない。子供がヒーローの活躍するシーンを見て僕もヒーローになると言っているようなものだ。

しかしながら光輝にはヒーローとしての実力とカリスマ性があるからタチが悪い。

「まぁ、あの馬鹿の事は置いておいて。まだするか?」

「当然です!」

「もちろん」

三人の訓練は再開する。

 

 

 

 

昼間の訓練が終えた浩二は夕方は【エリセン】の人達の治療。夜は魔法薬の調合に没頭している時。

「浩二くん。ちょっといいかな?」

「香織か? ああ、いいぞ」

「お邪魔します」

部屋に入ってきたのは幼馴染である香織が最初に目に入ったのはマッドな笑みで何かしらの怪しい薬を調合している幼馴染の姿だった。

「……何してるの?」

既に見慣れた姿に香織は特に思うこともなくそう尋ねる。

「ん? 新しい薬の調合」

簡潔にそう答える浩二はフラスコに入っている出来立ての薬を飲み干す。そしてその効果はすぐにでてきた。

「よし、まぁこんなもんか」

及第点。と言わんばかりにひとまず納得した浩二は改めて香織と対面する。

「それでどうした? どこが具合でも悪いのか?」

「それなら自分でどうにかできるよ」

「それもそうか」

香織は浩二から医学を学んでいる。浩二ほどではなくても症状だけである程度のことは理解し、治療することぐらいできる。そんな香織に具合の良し悪しなど確認するまでもない。

「………浩二くんに相談したいことがあるの」

「ふむ、それで相談の内容は?」

断ることもなく相談する内容を問う。思いを寄せているハジメではなく幼馴染である浩二に相談するのはハジメには言い出せないこと。香織はそれを浩二にぶちまけた。

「…………私って弱いよね?」

「ああ、そうだな」

スカートを強く握りしめながら己の弱さを口にする香織を浩二は肯定した。

何故ならそれは紛れもない事実だから。「そんなことはない」や「これから頑張ればいい」などという空っぽな励ましなど何の意味がないことことを浩二は知っている。だから肯定したのは。

己の弱さとその現実を受け入れさせるために。

「それでも一応言わせて貰えば、俺達は一般人よりかは強い。けど俺達より強い奴等などいくらでもいる」

「……うん」

香織は力なく頷く。

その〝強い奴等〟が誰を指しているのかわかるからだ。

「魔物の肉を食べてその特性を手に入れた南雲ハジメ、吸血姫のユエ、生まれながら魔力操作と固有魔法を持つシア、最強種族である竜人族。それ以外と言えば神代魔法を持つ者そして神の使徒。挙げればキリがないな……」

(比較する対象も悪いか……)

苦笑いを浮かべながらそう思う。

「そもそも人間という種族は弱い。いくら強くなろうとしても人間という種族の限界がある」

「でも、浩二くんは……」

「ああ、俺と南雲、後はティニアは人間を辞めた」

あっさりとそう口にした。

「南雲は魔物の肉を食べ、俺とティニアは自分の身体を改造して人間族としての種族の限界を超えた」

浩二は紅く染まり上がった片目に手を置く。

「ティニアさんも……?」

「ステータスだけなら俺と南雲と同等だ」

その言葉に香織は目を見開いた。

「ティニアは雫にフラれて失恋中の俺を何度も励まし支えてくれた。命を投げ打ってでも俺を助けようとしてくれた。雫を諦めきれない俺をそれでもと言ってまで愛してくれる。ティニアがいなければ俺はまだ失恋から立ち直れていなかったと思う。もう、俺の中ではそれだけティニアの存在は大きい」

「…………………」

「エフェルも似たようなものだ。出会ってまだ間もないけど俺は二人を大切にしたい。雫という特別な人がいるというのに二人にそういう感情を抱き、尚且つ受け入れているなんて最低で不誠実だということは自覚している。そう言われても俺は否定しない。それでも俺は俺という最低な男を受け入れてくれた二人を大切にしたい」

ある意味では光輝のことは何も言えない。しかし、それでも浩二は譲る気は一切ない。

「香織はそんな俺をどう思う? やっぱり軽蔑するか? 雫ちゃんという人がいながらって」

「……………………そう思う私はいるよ。けど、軽蔑はしない。だってそれは浩二くんはいっぱい悩んで考えた答えだと思うから」

そう言った香織に浩二は微笑しながらその頭を撫でる。

「でもちゃんと雫ちゃんのことも見てあげないと怒るからね? 雫ちゃん、繊細で乙女チックなところがあるから」

「ああ、約束する。さて、話はズレたな。さっきの話の続きとして香織は強くなりたいってことでいいよな? 南雲達、正確にはユエ達と対等にいられるために」

「うん。浩二くんなら何かいい手があるかなって思って」

「ふむ……」

浩二は両腕を組んで思考に耽る。そして……。

「南雲達と同等は無理だけど、強くなれる方法はある」

「本当!?」

強くなれる方法。それがあることに香織は思わず立ち上がるほどに喜ぶも、浩二が指を二本立てる。

「一つはドーピングだ。身体能力向上、魔力増加、ステータス上昇の魔法薬をいくつか作ってある。それを使えば一時的とはいえ今以上に強くなれる」

「うん」

「二つ目は名付けて〝白崎香織改造人間計画〟。俺と南雲で香織を半機械化。アンドロイドやサイボーグと言った存在に改造する。どこまで強くなれるかは俺と南雲の腕にもよるが、最低でも今の8倍は強くなれることは保証する」

「うん。……ねぇ、浩二くん。もしかしてだけどそれって私が相談に乗って貰う前から考えていたのかな? かな?」

「そんなことないよ」

その背に刀を構えた般若が見えた気がするが、浩二はおもっきり目を逸らした。

「……浩二くんやティニアさんのように〝改造〟して強くはなれないの?」

「無理だな」

ハッキリと無理だと告げた。

「俺の〝改造〟の技能には材料がいる。そして俺とティニアは神の使徒を〝改造〟の材料にしてそのステータスと技能を手に入れることができた。その材料が手元にない以上は不可能だ」

「そっか……」

「そもそも香織の天職は〝治癒師〟で香織自身戦う術は限られてる。それは理解できるか?」

「うん……」

香織は浩二のように剣術を身に付けているわけでも何かしらの武術や格闘技を学んでいるわけでもない。浩二のように天職が‶医療師〟でありながら刀を扱えるわけではないのだ。

「だから今の香織が取れる手段はドーピングでパワーアップか回復役に専念するか、その両方か。それぐらいだ。今すぐに南雲達と同じぐらいに強くなることは現状は不可能だ」

浩二も強くなりたいと望む香織のお願いを叶えてあげたいが、無理なものは無理だ。浩二から香織に提案できるのはせいぜいドーピングか本当に半機械化のアンドロイドにしてやるかぐらいだ。

「まぁ、どうするかどうかは香織自身が決めてくれ。俺は香織の意志を尊重するし、協力もする。とりあえずこれだけは持っておけ。とっておきの魔法薬だ」

浩二が香織に渡したのは赤、青、緑色の液体が入った瓶と取扱説明書。

「どんな効果を持っているかはこれに書いてある。これをどうするかは香織が決めたらいい」

「……うん、ありがとう」

香織はそれを受け取って部屋から去ろうとする際に浩二に言う。

「やっぱり浩二くんは凄い人だよ。光輝くんよりもずっとずっと凄い人だよ」

「いきなりなんだよ?」

「ううん、なんでもない。それじゃおやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

部屋から出て行った香織を見送って浩二は再び調合に没頭する。

「さて、もうひと踏ん張りしますか」


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