ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役04

新しい技能である‶魔力操作〟を獲得することに成功した浩二は更なる研究と実験を積み重ねて様々な薬を調合できるようになった。

それ以外にも‶投擲〟の技能を上げる為に密かに訓練したり、日本で身に付けた八重樫流刀術、鞘術、体術を忘れない為に時折雫と模擬戦をしている。

二週間、みっちりと入念な準備と取り組み、訓練を行ってきた。

まぁ、それでも光輝を除いた他のクラスメイトよりかは少しはマシ程度だが。

そしていよいよ、その日がやってくる。

【オルクス大迷宮】

実戦訓練の一環として向かう大迷宮。

ここで現在‶無能〟のレッテルを貼られた南雲ハジメが豹変して吸血姫ユエと出会う。まさにこの世界の運命が左右されるルートである。

(南雲には悪いけど、原作通り奈落に落ちて貰わねえと…………)

浩二は自分でも最低なことを思っている自覚はある。だけどエヒトと戦い、勝利する為にはここでハジメが奈落に落ちて貰う必要がある。

それを転生者である浩二が変えてしまえばこれから先の運命がわからなくなってしまう。

だからこそ、浩二はハジメとの接触を避けてきた。

仮に浩二がハジメを助けて代わりに浩二がユエと出会うようになったら主人公になれるかもしれない。だが、浩二とハジメは違う。

最終局面でエヒトと戦うことになったら浩二は自分では絶対に勝てないと断言できるし、奈落に落ちたからこそハジメはエヒトを殺して多くの人を救う結果になった。

ハジメの代わりに浩二がそうなったら最悪の展開が起きても不思議ではない。

「トリアージだ、俺。最善を尽くせ」

主人公になりたい。そんな自己満足の我儘を貫く為に多くの人達の命を犠牲にするわけにはいかない。

全てはこの日の為に。これから先のこの世界の命運の為に。

【オルクス大迷宮】の入口を見据えながらこれから待ち受けている悲劇に生唾を飲み込む。

そこへ龍太郎が。

「なぁ、浩二よ。初めての実戦訓練だから緊張しているのはわかるけどよぉ……………」

どこか緊張が抜けるというか、なんとも言えない顔で龍太郎は言う。

「その格好。どうにかなんねえのか?」

龍太郎の言葉に近くにいたクラスメイトはうんうんと頷く。

「どこか変か? 割と似合うと思うんだけど?」

「いや、似合っちゃいるけどな。なんで医者の恰好で来ているかって言いたいんだよ、俺は」

浩二が現在身に付けている装備は元の世界の医者がよく着ている白衣コートもしくはドクターコート。他のクラスメイトは鎧や装備はしっかりしているのに一人だけ場違いの恰好で立っている。

それを聞いた浩二は龍太郎を鼻で笑う。

「ふっ、龍太郎よ。これがただのドクターコートだと思ったら大間違いだ」

「はぁ? もしかしてそれもアーティファクトか?」

「いや、自作だけど? 縫うのは苦労した」

「自作かよ!?」

脳筋を揶揄う医者。しかしながらも浩二の言った通りただのドクターコートではない。特殊な魔物の皮を薬液につけて伸縮自在にして、更には魔力操作によって柔軟性と強靭性を高める。もはやアーティファクトと言っても過言ではない浩二、自慢の一品だ。

(とはいえ、奈落から這い上がった時の南雲のよりかは格段に劣るが……………)

錬成と生成魔法によって銃から手榴弾。それ以外のも様々なアーティファクトを創り上げるハジメに比べたらどうしても劣ってしまう。

鍛冶職に比べれば専門外だから仕方がないということもあるが、少しはそちら方面に手を伸ばしてみるのもいいかもしれない。

「浩二くん。どうしたのその恰好? 似合ってるよ」

「サンキュー、香織。お互い回復役として頑張ろうな」

「うん」

お互いに後方支援の役割を持っている浩二と香織。そこにいつもの幼馴染メンバーである光輝と雫もやってくる。

「浩二。戦う気があるのか?」

「何を言ってんだ、光輝。俺の天職は‶医療師〟だぞ? 後方支援が俺の役割なら下手に鎧を着るよりも回避しやすい装備を身に付けるもんだろう?」

「だからといってこれから戦いの場に行くのにその恰好はおかしいだろう?」

「何を言ってんだ? 俺達の世界でも戦場に軍医はつきもの。そうだろ?」

それを言われれば何も言い返せなくなる光輝に雫は小さく息を吐いて言う。

「つまり浩二は医者として戦場に赴くてことね」

「ああ、言うなればこれが俺の鎧であり、医者として戦場に立つ決意の表れだ」

「浩二くん、今の台詞格好いいね」

「そう褒めるな、香織。はい、魔力回復薬グレネード」

「あ、ありがとう……………」

褒められてドクターコートの内側から魔力回復薬(強化版)を差し出す浩二に香織は苦笑しながらも受け取った。

そうこうしている間に実戦訓練が始まった。

騎士団に守られながら順番に魔物の討伐を行っていくなか、一体の魔物――ラットマンが光輝の間合いを向けてその素早い動きで向かってくるも、一本のナイフがラットマンの胸部に突き刺さる。

すると、ラットマンは泡を吹いて倒れる。

「うん、ちゃんと効果は出てるな」

浩二が投げたナイフの柄尻にはビー玉サイズの球体が取り付けられていた。

ハイリヒ王国直属の筆頭錬成師ウォルペン達に頼んで錬成して貰った投擲ナイフ。投擲して相手に突き刺さると刺さった部分から毒物を注入させる。

調合した毒の効果がしっかりとラットマンに現れて満足げに頷く。

「おい、浩二! 今の絶対に俺達に当てるなよ!?」

魔物が毒殺されたシーンを目撃した龍太郎が額に冷汗を垂らしながらそう叫ぶ。

「安心しろ、龍太郎。俺が八重樫道場で投擲の練習していたの知っているだろ? それに投擲の技能もあるからヘマはしない」

「そ、そうか…………」

「万が一に当たったらちゃんと治してやるよ……………採血してな」

「おい!!」

最後にボソリと呟いたその言葉に背中に恐怖を抱く光輝達。そのなかで雫がぽつりと言う。

「出たわね、マッド浩二……………」

医学に長けている浩二は傷や怪我の手当てなどもきちんとするが、マッドサイエンティストの気質も併せ持っている。

蛙、鼠、その他諸々の小動物を切開して解剖するシーンを雫達はこれまでに何度も目撃している。浩二曰く‶医者の大半はマッドサイエンティスト〟らしい。

普段は隠しているが、幼い頃から家族同然に過ごしている幼馴染には周知の事実。

流石に人体実験の類はしていないだろうが、してもいいのなら彼はやる。

幼馴染一同は‶浩二ならやる〟そう断言できる。

ステータスプレートに闇属性適正があったのはマッドサイエンティストだからではないだろうか? という疑念が脳裏を過った。

(まぁ、それ以外にも色々と用意はしてあるが……………)

念には念を入れてドクターコートの下には様々な薬品などがあるが、使わないことを祈りつつ魔法で対応する。

そうこうしている内に二十階層を探索する。

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

忠告の直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。カメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物だ。

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 剛腕だぞ!」

メルドの声が響く。光輝達が相手をしているとロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

「グゥガガガァァァァアアアア――――――!!」

部屋全体を振動させるような強烈な咆哮が発せられた。

ロックマウントの固有魔法‶威圧の咆哮〟だ。魔力を乗せた咆哮は一時的に相手を麻痺させる。

硬直する光輝達を無視してロックマウントは香織達がいる場所に岩を投げた。と思いきや、その岩もロックマウント。両腕をいっぱいに広げて香織達へ迫る。

「‶縛光刃〟」

するとそこへロックマウントの上空から光の十字架――光属性捕縛魔法‶縛光刃〟が降り注がれてロックマウントは地面に縫い付けられる。

「浩二! よくやった!」

ロックマウントの動きを封じた浩二を褒めてトドメをさすメルドだが、ここでキレる若者が一人。

「貴様……………よくも香織達を……………許さない!」

怒りを露にする光輝は純白の魔力が噴き上がり、それに呼応するように聖剣が輝き出す。

「万翔羽ばたき、天へと至れ、‶天翔閃〟!」

完全なるオーバーキル。ロックマウントどころかその後ろにある破壊し尽くした。

当然メルドの拳骨が炸裂。説教を受ける勇者様いた。

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

「………………あれ、何かな? キラキラしてる…………」

そこには青白く発光する鉱物――グランツ鉱石が壁から生えていた。

それを香織は見ていると………………。

「だったら俺らで回収しようぜ!」

檜山が唐突に動き出した。崩れた壁を上って檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、トラップが発動した。鉱石を中心に魔法陣が広がって全員別の場所に転移した。

(ここが六十五階層……………運命の分かれ道……………)

転移した先は巨大な橋の上。南雲ハジメにとっての運命の分かれ道だ。

そしてこの階層には当然、奴がいる。

剣を携えた骨格だけの魔物トラウムソルジャー。そしてそれ以上に恐ろしい魔物が姿を現す。体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物。

その名は……………。

「まさか……………ベヒモス……………なのか……………」


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