【メルジーネ海底遺跡】を攻略してエリセンに戻ってきた浩二達はレミアの家で世話になりながら新たに手に入れた神代魔法の習熟と装備品の充実に時間を当てている。
「予想通り、再生魔法の適性は高かったな……」
浩二は神代魔法である再生魔法が自身に適正のある魔法だと再認識する。ハジメ達も含めて一番適正が高かったのは浩二。次に香織だ。
(本当ならこの魔法を手に入れてからアレを飲むつもりだったんだけどな……)
南雲ハジメの血液と魔石を調合、改造して作り上げた特性薬。本来であればそれを大迷宮を攻略した今頃に飲む予定であった。
しかし、予想外にも神の使徒の襲撃を受けて先に飲んでしまった。あの時、神の使徒であるフィーアトを取り込んでいなければ死んでいたかもしれない。もしくはエヒトの肉体を作る為の駒として働かされていた可能性もある。
こうしてここにいられるのはある意味、奇跡に等しい。しかし、結果的には当初の予定以上の力を手に入れることができたのは嬉しい誤算だ。
(神の使徒の力、それに再生魔法。体内にストックしている薬物などを含めれば完全とまではいわないが、不死身に近い存在になれたな……)
今の浩二であれば身体の一部でも首から下が消滅しようともすぐに復活することができる。ゲームで言えば即死出ない限りHP全快で復活する化け物になったということだ。
だけど油断はできない。
(頭部もしくは全身を消滅させるほどの広範囲高威力の攻撃を受けたら流石に死ぬな)
例えば、ハジメが開発した広範囲攻撃やフリードの
となれば……。
(次に手に入れるべき神代魔法は‶魂魄魔法〟だな……)
魂の干渉する神代魔法。それを手に入れる為には【神山】に赴く必要がある。
(本当なら再生魔法よりも先に手に入れようと思ったのだが……)
まだ王宮で活動していた頃に浩二は何度か【神山】でもある聖教協会の総本山に足を踏み入れたことがある。だが、結果的には手に入れることが出来なかった。
何故なら聖教協会の総本山でもある【神山】のどこに大迷宮の入口があるのわからないだけではなく、神聖な場所ということもあって守りがガチガチだ。
更には何かしらの手段で手駒にされかねない為に当時の浩二はこれは無理だと悟り、魂魄魔法を一度断念した。
しかし今なら問題なく足を踏み入れることが出来る。それだけの力を身に付けたのだから。
だがそれは王都に一度帰還するということだ。それはつまり……。
(雫……)
想い人である雫の事を思い出す。一度はフラれて諦めようと思っていた雫をどうしても諦めきれず、もう一度想いをぶつけようと浩二は心に決めている。今度は何の打算もなしに真っ直ぐに自分の気持ちをぶつける。
(今の雫は俺の事をどう思うのだろうか……?)
王都を出てから浩二は変わった。見た目や実力もそうだが、なによりハジメと戦った事で心境にも変化が生じた。
なにより、‶大切〟な存在が二人もいることに雫はどう思うのか?
(それでも俺はお前の事を諦めないぞ)
浩二は思考を切り換えて今の自分自身を受け入れて貰えるように努力すればいいと考える。
(雫や皆は大丈夫かな……?)
王都にいる皆のことを考え、浩二は薬の調合を進める。
時は少し遡る。まだ浩二達が【メルジーネ海底遺跡】を攻略する前のことだ。【ハイリヒ王国】王都にある王宮ではギスギスとした空気が流れていた。
その原因は元勇者パーティーのメンバーであった平野浩二が王都を去ったからである。クラスメイトの前で魔人族を殺したという現実を直視されてクラスメイトの大半は浩二に対してなんとも言えない気持ちを抱くようになってしまった。それに対して浩二はパーティーの士気を下げない様に自らの意思で王都を去ったのだが、それに非難の声を上げる者もいた。
それは畑山愛子を始めとする実戦で心が折れて戦線から離脱した園部優花達だ。
彼等彼女等は自分達の身を案じて薬を調合してくれたり、カウンセリングをしてくれたりと何かと浩二の世話を受けた者達。
「その場にいなかった私が言えることじゃないけど、平野くんは何も悪くないじゃない。それなのにどうしてここから離れる必要があるの……?」
優花の言葉に誰も言い返せる者はおらず。愛子は己を責めた。
「平野くんも私の大切な生徒で彼もまだ高校生なんですよ。それなのにそんな……」
教師として生徒にとんでもないものを背負わせてしまったことに対する罪悪感と何もできなかった己の無力さに後悔する。
彼女達だけではない。あの場にいた勇者パーティーにも溝が生じてしまった。
その原因は‶勇者〟である天之河光輝である。
始めこそは光輝の実力とカリスマ性で迷宮攻略を進めてきたが、いざ魔人族との戦いで見せた光輝の言動や行動。自身の正義を疑わない光輝に疑問が生まれた。
そして浩二が王都を出て行くこと皆の前に告げた時に言った浩二を責めるような言葉。なにより、そんな光輝に平手打ちをかましたティニアの言葉が決定打となった。
永山パーティーは今の光輝にはついていけないと判断してこれからのことについて話し合うことが多くなった。
「これからどうする?」
「どうするって、どうするんだよ?」
食堂の端で永山パーティーは話し合いを行っている。
「平野くんがいなくなったのはやっぱり痛いよね……」
‶治癒師〟である辻綾子の言葉に一同は口を閉ざす。
いなくなって初めて気づく。浩二がどれだけパーティーに貢献してきたかを。その行動は光輝に比べて地味で目立たないことでも、皆の支えになっていてくれた。
回復にサポートに治療にと。パーティー全体を支援してきた浩二の不在はやはり大きかった。
しかしここで浩二の事を話していても仕方がない。重吾は話題を変える。
「皆の意見が訊きたい。天之河について」
「無理だ。俺はあいつにはついて行けねぇ」
「私も……」
「同じく」
重吾の言葉に一番に否定的な言葉を述べたのは‶土術師〟である野村健太郎だ。綾子そして‶付与術師〟の吉野真央も便乗するように同意する。
「そりゃ天之河くんも思うこともあったとしてもあれはない……」
「私もあれは言いすぎだと思う。平野くんがいなかったら私達は……」
最悪の展開を想像した女性陣二人は顔を青くする。
「俺も二人に同意見だ。そりゃ、俺達にも平野を避けていた責任はあるけど平野は俺達を助けてくれたんだ。感謝はしても非難するのはおかしいだろ? 正直、あの時の天之河はどうかしているとしか思えねえ」
「ふむ」
皆の意見は概ね重吾が予想していた通りだ。
因みにその光輝は今も龍太郎と共に訓練に励んでいる。
「それに平野くんがいなくなってから雫の様子もおかしいし」
真央の言葉には全員が思い当たることがある。
いつもなら冷静沈着である雫は浩二が王都を去ってから表情が暗い。いつも通りに振る舞っているように見えるも隠しきれていない。どうしたのかと尋ねても何でもないの一点張りだ。今は雫の専属であるニアとムードメーカーである鈴がどうにか支えている状態だ。
「どう考えても平野くんがいなくなったのが原因だよね……。雫、何かと平野くんを頼りにしていたし」
「うん。八重樫さんと平野くんってどっちも頼りになるというか、苦労人というか……」
けど今はその浩二がいない。
雫にとってそれは頼れる人がいなくなったということに等しい。
「八重樫については鈴達に任せよう。俺達もどうすればいいのかわからないからな」
雫については頼ってきたら力を貸そうという話で終わり、これからのことについて話し合う重吾達。だが、彼等彼女等は気付いていない。
「あの、俺もいるんだけど……」
同じ永山パーティーである遠藤浩介の存在を。