ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公07

浩二が王都を出て行ってから【ハイリヒ王国】の王宮内にある訓練場では光輝達は致命的な欠点である‶人を殺す〟ことについて浅慮が過ぎるという点を克服しようとしている。魔人族との戦闘に参加するのなら決して避けて通れないだから‶人殺し〟の経験は必ず必要になってくる。

現在はメルド団長率いる騎士団と対人戦の訓練を行っていた。龍太郎達や近藤達、永山達も、ある程度は覚悟はあったものの、実際、浩二が女魔人族を殺す瞬間を見て、その覚悟が揺らいでしまった。果たして自分にもできるのかと、対人戦を重ねながら自問自答を繰り返していた。

そのなかでも誰よりも訓練に励んでいる者が二人いる。‶勇者〟である天之河光輝と‶拳士〟である坂上龍太郎だ。今よりも強くなろうと日々激しい訓練を行っているも、その心情には違いがあった。

光輝はこの世界に転移してきてからと変わらず、皆を守る為、世界を救う為に強くなろうとしているに対して龍太郎は先の女魔人族の一件で幼馴染である浩二に負担を背負わせてしまったことを悔やみ、強くなろうとしている。

強くなるという気持ちは一緒でもその想いは違う。すると龍太郎が休憩ついでに光輝に言った。

「……なぁ、光輝。どうして浩二にあんなことを言ったんだ?」

「あんなこと?」

「雫に近づくなって流石に酷くねえか?」

そう言われて光輝の顔が若干不機嫌になるも、険しい顔で答える。

「浩二は人を殺したんだ。そんな危険人物を雫に近づかせるわけにはいかない」

「けどよぉ、浩二がいなかったら俺やお前だけじゃねえ。他の皆も死んでいたかもしれねえんだぞ?」

「だからといって無抵抗の人を殺すのは間違っているだろ」

光輝の言い分は何も変わらなかった。どう聞いても人を殺した浩二が悪いと言い切り、自分ならこうしたなどと供述する。

だが、そんな光輝に殆どのクラスメイト達は距離を取り始めた。そのことに光輝は気づいてはいるも気付かない振りをしている。

ここ最近では訓練相手に付き合ってくれているのは幼馴染である龍太郎だけであった。

「それに浩二がいなくなってから雫の様子がおかしい」

「……ああ、どうしちまったんだろうな」

光輝の言葉に龍太郎も同意する。

普段通りに振る舞っているように見えるもその表情には陰があり、時折、呆けていることもある。普段であればそんな雫を浩二が放っておくわけがなく、何かしらのケアを行うのだが、今はその浩二がいない。

「……」

龍太郎は思う。‶トータス〟に転移する前はいつも一緒にいた幼馴染が今ではバラバラ。もうあの頃の関係には戻れないのだろうか、と。

珍しくも物思いに耽っている龍太郎の隣で光輝がポツリと言葉を漏らす。

「……もしかしたら浩二は魔人族と繋がりがあるのかもしれない」

「はぁ?」

「だっておかしいだろ? これから大変なこの時期にどうして浩二はここから出て行ったんだ? もしかしたら浩二は魔人族と手を組み、この国を陥れようとしているのかもしれない。彼女を殺したのも万が一に自分の情報を俺達に漏らさないように口封じしたというのなら納得できるし、ここ最近、王宮内の空気がおかしいのにも説明がつく。そうだ、きっと浩二が―――」

刹那、光輝の頬に衝撃が走った。

突然の衝撃に転倒して痛みが後になって襲いかかり、自分が殴られたことに気づく。そしてその下手人はただ一人。

「光輝。それ以上言うんじゃねえ……。もし言ったら俺はお前を許さねえからな」

「……龍太郎」

怒りで顔を歪ませて手を強く握りしめる幼馴染の姿に光輝は啞然する。

「浩二が俺達を裏切るって本気で言ってんのか? あいつが、浩二が俺達を裏切るわけがねえだろうが」

「だが浩二は――」

「ああ、人を殺した。だけどあいつがそのことに一回でも否定したかよ? してねえだろ?」

「それは……」

「浩二がここにいないのも俺達の事を気に掛けてくれたからだろうが。ガキの頃からずっと俺達より一歩引いて助けてくれたのは誰だよ? あいつだろ? 俺とお前が喧嘩した後も文句言いながらも手当てしてくれたじゃねえか。病気した時も看病してくれたのもいつも浩二だったよな? そんなあいつが俺達を裏切るって本気で思ってんのか? 光輝」

「……」

龍太郎は浩二に殴られた頬に手を置く。

「俺は浩二にお前や雫のことを頼まれた。俺は馬鹿だから上手くできる自信はねえけど、もうあいつの助けが必要にないぐらいに強くなってみせる。もう浩二にだけ背負わせる真似は絶対にしねえ。光輝、お前は違うのか?」

「……俺は」

光輝は答えない。何か言葉を出そうとするも口を閉ざしてしまう。

「……悪ぃ。言いすぎた。ちょっと頭冷やしてくるわ」

殴ったことに謝ってその場から離れていく龍太郎。光輝は暫くの間、そこから動かなかった。

 

 

 

 

王宮の片隅、場所的に普段からほとんど使用されない別の訓練場で雫は黒刀を振るっていた。だが、その剣閃はいつもと比べて鈍く、日課を作業的に行っているようにも見える。

雑念がある。と言えばそれで終わりだ。雫も何度も心落ち着かせようと明鏡止水、精神を整えようとする度にあの夜の日のことを思い出す。

思い出すたびに雫は心になんともいえない気持ちが湧き上がる。

(浩二が私のことを……)

浩二が好意を寄せていたのは自分自身だったことに雫は微塵も気付かなかった。洞察力に優れ、人の機微に敏感な雫でも自身に向けられる好意には鈍いのか、それとも浩二が隠すのがうまいのかもしくはその両方か。

ともかく雫にとってあの日の夜の事はとても忘れられるものではなかった。

(私はどうしてあの時、あんなことを言ったのかしら……?)

雫は浩二をフッた。しかし、雫には浩二の気持ちを無下にする理由がなかった。ただ突然の告白になんて言い返せばいいのかわからなかった。

(私にとって浩二はなに?)

当然‶幼馴染〟と返す。現に光輝や龍太郎には幼馴染以上の感情は抱いていない。なら浩二も二人と一緒だ。大切な幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない。

これまでずっと幼馴染として共に過ごしてきた。暴走する幼馴染を共に止めては説教し、苦労を分かち合ってきた。

だから浩二は苦労を分かち合う大切な幼馴染だ。雫は何度もそう己に言い聞かせるも納得できないでいる自分がいる。

(そもそも私は浩二のことをどう思っているの?)

雫は浩二がいなくなってからそんな自問自答を繰り返してきた。けれど納得のいく答えが出てこないで迷走しているのは火を見るよりも明らか。そのせいでニアや鈴達に心配をかけている。

「駄目ね、私……」

これ以上刀を振っても無駄だと判断して雫は自室に戻ろうとする。そこに。

「はじめまして、八重樫雫」

「っ!?」

気落ちしていたせいか、彼女の存在に気づかなかった雫は反射的に彼女と距離を取って黒刀を構える。そして視界に捉えるのは聖教協会の修道服を着た女性である。

雫は彼女の瞳を見て本能的に理解した。目の前にいる彼女は女魔族よりも遥かに強いということを。

「……どなたかしら?」

警戒をしながら静かに問いかける。だけど女性は刀を構える雫に対して片手に白い鍔なしの大剣を手にする。

「少々手合わせを願います」

機械的な冷たい声音で雫の了承もなしに大剣を振るってくる彼女に雫は止む得ず応戦する。

「問答無用ってわけね!」

大剣と黒刀が衝突する。先ほどまで落ち込んでいた気持ちから戦闘に切り替えた雫は流石と言えるだろう。幼少の頃より磨き上げた剣技は洗練されており、一種の舞でも踊っているようにも見える。世界広しといえど雫ほど剣技を磨き上げた者は少ないだろう。

―――しかし。

「なるほど。もう結構です」

彼女にとってはただの確認作業でしかなかった。

雫の黒刀は弾かれて彼女の強烈な拳が雫の鳩尾に叩き込まれて雫は崩れ落ちる。意識が闇に呑み込まれていくのを感じながら雫は視線を彼女に向ける。

「もしもと思い貴女を警戒していましたが、やはり平野浩二には及びませんね。彼は例外だったということでしょう」

(浩二……?)

「ご安心を。貴女を殺しはしません。貴女にはこれから平野浩二の制御役としての人質になって頂きます。彼は我が主の役に立って貰わなければいけませんので」

(どういうことなの……?)

疑問が過るもそれを声に出すことが出来ずに雫の意識は闇に呑まれる。それから暫くして雫がその場に黒刀だけを残して行方不明になったことが王宮を騒がせた。

「し、知らせないと……浩二くんに……」

偶然にもそれを目撃してしまった彼女は黒刀を手に助けを求めに動き出す。

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