ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公08

最初に、その騒動に気づいたのはシアだった。

「あれ? ハジメさん、あれって……何か襲われてません?」

その言葉の通り、どこかの隊商が賊に襲われているようで、相対する二組の集団が激しい攻防を繰り広げているのだが、隊商全体を覆うような結界に苦戦しているのか、賊の数は徐々に減っている。今は数の差で賊が押しているようだが、すぐにその有利も消えて賊が逃走するのも時間の問題かもしれない。

それならばスルーしても問題ないのだが、香織と浩二はその結界に見覚えがあった。

「なぁ、香織。あの結界って……」

「うん、間違いないよ。あれは鈴ちゃんの結界だよ」

同じ勇者パーティーに所属していた二人はその結界がすぐに天職が‶結界師〟の谷口鈴のものだとわかった。だが同時に疑問を抱いた。

勇者パーティーのムードメーカーである彼女がどうしてこんなところにいるのか? という疑問が浮上するも今は助けに行く方が優先だ。

助けに行こうと香織はハジメに救援を求め、浩二は翼を広げて飛んで行こうとする前にティニアが一足先に動いていた。

「失礼」

そう告げて魔力駆動四輪から飛び出すティニアに続いて浩二もそれに続く。ティニアはハジメから借りた‶宝物庫〟から二振りの大剣を手にして賊に斬りかかる。

悲鳴を与える猶予も与えずに両断するティニア。その銀色の瞳からは普段は見せることのない怒気に近い感情が込められており、その怒りを賊にぶつけている。

「散りなさい」

そして白銀の羽を宙に散らし、その羽は弾丸となって賊を一瞬で皆殺しにした。

浩二が手を貸すまでもなく賊は全滅したので浩二は賊にやられた負傷者達の治療をしていく。そして逃げる暇すら与えることなく全滅させたティニアは安全を確認すると結界内にいる鈴に声をかける。

「鈴様。周辺に賊はおりませんので、もう結界を解いても問題ありません」

「は、はい……」

啞然としながらも結界を解いた鈴だが、その恰好は如何にも怪しい目深のフードを被って正体を隠しているようにも見える。しかし、ティニアはそんなことを気にも止めずに鈴の隣にいる同じく目深のフードを被っている小柄の人の前に跪いた。

「ご無事でなによりです。リリアーナ姫殿下」

「はい。助かりました、ティニア」

そこにいたのはハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒその人だった。ティニアはかつての主人であり、恩人でもあるリリアーナを助ける為に誰よりもいち早く動いたのだ。

「リリィ!? それに鈴ちゃん!」

魔力駆動四輪でやってきたハジメ達。香織はここにいる二人の存在に驚愕する。すると、顔なじみである香織を見て鈴は飛びついた。

「カオリン!!」

「わっ! 鈴ちゃん!」

飛びついてギュッと抱き着いてくる鈴に香織は受け止める。

「よかったよ~。二人に会えて本当によかったよ~」

涙ながら再会を喜ぶ鈴だけどハジメ達からすればどうしてここに谷口が? という疑問が浮上するが、その隣でリリアーナは浩二に歩み寄っていた。

「浩二さん。お久しぶりというわけではありませんが、こんなところで会えるとは思いませんでした。……僥倖です。私の運もまだまだ尽きていないようですね」

「そ、そうだな……」

治療が終えた浩二はリリアーナから視線を逸らしつつ歯切れ悪そうにそう返事をした。

何故なら顔を合わせずらいからだ。

雫にフラれた日に浩二はリリアーナの胸で思いきり泣きじゃくった。王女とはいえ、自分よりも年下の女の子に慰められたことを浩二は少なからず意識している。

「……あの時は、助かった。ありがとう」

「ふふ、あれぐらいでよければ何度でもしてあげますよ」

慰めてくれたことに礼を告げる浩二にリリアーナは微笑みながらそう告げる。するとそこで鈴が香織達と再会できたことで落ち着きを取り戻したのか、香織達に言う。

「大変なんだよ! 愛ちゃん先生とシズシズが攫われたの!!」

鈴の口からとんでもない言葉が出てきた。

 

 

 

 

鈴とリリアーナの話を要約するとこうだ。

最近、王宮内の空気がどこかおかしく、リリアーナは違和感を覚えていた。国王を始めとする重鎮が‶エヒト様〟を崇め、信仰心を強めていった。それだけではなく、生気のない騎士や兵士達が増えている。更にはハジメの異端者認定にリリアーナは国王であり父親でもあるエリヒドに猛抗議をしたが、考えを変える気はなかった。

極めつけは銀髪の修道服を着た女に愛子が気絶させられ担がれているところをリリアーナは目撃した。幸いリリアーナは王族のみ知る隠し通路で息を潜めていた為に難を逃れることが出来たが、このことを誰かに伝えなければいけないと思い立ち上がった。

悩んだ末、リリアーナは、今、王都にいない頼りになる存在である香織と浩二を思い出した。そして香織の傍にはハジメがいる。リリアーナは隠し通路から王都に出て、一路【アンカジ公国】を目指す際に偶然にも鈴と遭遇した。

そして鈴もまた雫が銀髪の修道服を着た女に雫が攫われていくところ目撃してしまい、そのことを浩二に伝えようと黒刀を手に王都を出ようとしたらしい。

そこからユンケル商会の隊商にお願いして便乗させてもらい、その道中で賊に襲われている所をティニアに助けられた。

そこまで話を聞いた浩二は……。

「へぇ? 雫をねぇ……」

そうぼやいた。

その顔は笑っているも目は全く笑っていない。そして幼馴染である香織はその顔が本気で怒っていることにすぐに気付いた。

(こ、浩二くんが本気で怒ってる……)

思わず鈴を抱きしめたくなるほど怯えている香織。鈴も香織に抱き着いて恐怖を和らげようとするほどに今の浩二は怖いのだ。

これまで浩二を怒らせる人はいた。だがそれは別に本気ではない。精々、軽いトラウマを植え付ける程度で終わらせるぐらいだ。だから浩二が本気で怒るところを見たことがあるのは香織でも数える程度しかない。だが本気で怒った浩二に僅かな慈悲も無いことを香織は知っている。

「浩二様。落ち着いてください」

「旦那様。お気を確かに」

そんな浩二の気持ちを静めようとティニアとエフェルが歩み寄ると浩二も気持ちを落ち着かせて鈴が持つ黒刀に視線を向ける。

「……なるほど。だから鈴が雫の刀を持っているんだな」

「う、うん。それぐらいしか鈴にできることがなくて……ごめんなさい」

鈴も修羅場を潜ってきた。だから一目で銀髪の修道服を着た女との力量差を理解したからその上で自分にできることを考えて行動したのだ。そのおかげで浩二はそのことを知ることが出来た。

「鈴が謝ることはねえよ。それは俺が持っていてもいいか?」

「うん、鈴もそれが一番だと思う」

浩二は鈴から刀を受け取り腰に携える。そしてハジメに言う。

「南雲。俺は今から王都に行って雫を助けに行くが、お前はどうする?」

「俺も行くぞ。あの人がさらわれたのは俺が原因でもあるし、放っておくわけにもいかない」

そんな二人の言葉にリリアーナも鈴も顔を上げた。

無論ハジメも目的がある。【神山】にある神代魔法を手に入れる為に愛子を助ける時に神代魔法を頂こうと考えている。こうしてハジメ達は王都を目指すのであった。

 

 


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