ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公10

量産型である神の使徒をオリジナル魔法である‶言霊〟によって戦闘不能にした浩二は第三の使徒であるドリットとの戦闘が始まった。

銀翼をはばたかせて銀羽の魔弾を射出するドリット。恐るべき連射性と威力が秘めた銀の魔弾は雨の如く浩二達に放たれる。その銀羽一枚一枚には当然のように‶分解〟が付与されており、本当に浩二達を神の元に連れて行く気があるのかとツッコミたい。

「雫! しっかり掴まっていろよ!」

片腕で雫を抱きかかえながら灰色の翼をはばたかせて高速移動をしながら同様に‶分解〟を付与した灰羽で相殺していく。

しかし、ドリットはそんなことは承知かのように鍔無しの双大剣を手に浩二に接近して斬りかかる。その狙いは雫。だけど浩二がそんなことを許す訳もなく浩二は刀を抜いて防ぐ。

「ぐっ」

「浩二!?」

だがそれはドリットにとって大きな隙だ。浩二の腹部に鋭い蹴撃が炸裂して雫は声を上げるも浩二は無傷だ。咄嗟に‶魔力操作〟の派生技能である‶魔力硬化〟で防いだことによって傷はない。しかしドリットの攻撃の手は緩めない。

銀翼をはばたかせて銀羽を宙にばら撒く。そしたらドリットの前方に一瞬で集まると、何枚もの銀羽が重なって魔法陣を形成する。銀色に輝く巨大な魔法陣がドリットの眼前から浩二を睥睨する。

「―――‶劫火浪〟」

発動された魔法は、天空を焦がす津波如き大火。うねり上げて二人を覆い尽くすように迫る熱量・展開規模に桁外れの大火に、雫は一瞬、世界が紅蓮に染まったのかと錯覚した。

「‶聖絶〟」

だが、その大火に覆われるよりも早く浩二は光属性上級防御魔法を発動する。こちらも‶分解〟を付与されている為に大火は障壁に触れる度に分解されていく。

(す、凄い……ッ! 私達とは次元が違う!)

浩二にしがみつきながら雫はただ啞然する。

ドリットと浩二。二人の戦いは雫が入り込める余地がないほど圧倒的な実力差がある。もし、雫が浩二の手助けをと思い余計な動きをすれば浩二の寿命を縮めるだけだ。

(浩二、貴方に何があったの……?)

浩二が王都を出て行く前はたいした違いはなかった。むしろ、純粋な戦闘力なら雫や光輝、龍太郎の方が上だっただろう。だがしかし今の浩二は違う。

男子、三日会わざれば刮目して見よ。という日本の諺があるが、今の浩二は雫が知っている浩二ではない。王都から出て行っていったい何があったのか。

そして術の効果が終わり、大火が霧散していくと次に雫が目にしたのは灰羽がドリットを取り囲むかのように包囲している光景だった。

「お返しだ」

‶分解〟が付与された灰羽は一斉にドリットを襲う。

大火を死角にしてそのままドリットの周囲に灰羽を動かして一斉にドリットに向けて放つも、ドリットは銀翼で身を包み防御態勢をとって防いだ。

「‶縛煌鎖〟!」

全方位からの攻撃から身を守る為に防御態勢に入ったことによって動きを止めたドリットに浩二はドリットを拘束しようと光属性捕縛魔法を発動させる。光の鎖がドリットを捕縛しようと迫るもドリットは分解付与した双大剣によって光の鎖を斬り払い、お返しと言わんばかりに銀の砲弾を放つ。

「‶天絶〟!」

二十枚の障壁を展開させてそれを防ぐ。しかしその背後から高速移動してきたドリットの大剣が浩二に迫る。

「‶邪―――」

「遅い」

振り下ろされる大剣が浩二の腕を斬り落とした。

肘から先の腕が宙を舞い、血が噴出する。それを間近で見た雫は目を見開いて悲鳴を上げそうになるも……。

「‶絶象〟」

斬り落とされた腕は何事もなかったかのように元に戻っていた。そしてその腕で抜刀してドリットに一閃するもドリットは浩二から距離を取ることで躱した。

「……腕を斬らせてやれば油断してくれると思ったんだけどな」

「貴方は油断ならないことは承知済みです」

チッと内心舌打ちする。

浩二の腕が何事もなかったかのように元に戻ったのは【メルジーネ海底遺跡】で手に入れた神代魔法である再生魔法のおかげだ。だから相手の油断を誘う為にもワザと斬られたのだが、相手は浩二をかなり警戒しているようだ。

「それにしてもお荷物を抱えたままよく凌ぎますね。ですがそれを抱えている以上貴方に勝ち目がないことは理解している筈です。そろそろ諦めて我が主の元に来て貰います。そうすれば我が主も貴方を歓迎するでしょう」

そろそろ終わらせる。言外にそう告げるドリットの体全体が銀色の魔力で覆われており、感じる威圧感が跳ね上がった。

ハジメや光輝と同じ‶限界突破〟を発動したドリットに雫の瞳が絶望に染まっていく。

実力が違う、桁が違う、何もかもが違う。ドリットから感じる絶大なプレッシャーの前に雫は勝てるイメージがまるでできなかった。これは自分達とは違う。存在から何もかもが根本的に違う。

(いくら浩二が強くなったとはいえ、私がいる限り浩二は……)

――――勝てない。

その言葉が脳裏を過る雫の頭にポンと手が置かれた。

「え?」

「安心しろ、雫。俺は負けないから」

優しい手つきで頭を撫でられて安心させるかのように告げられるその言葉にドリットは言う。

「戯言を。そのお荷物を捨てない限り貴方に勝ち目はありません」

その言葉が雫に突き刺さる。

ドリットの言葉は正しかった。雫がいるから浩二は全力で戦えない。それならばと思う雫を前に浩二は口を開いた。

「やっぱり所詮は神が造った人形か。お前は何も理解していない」

「……どういう意味です?」

浩二の言葉に怪訝する。すると浩二はドリットに言った。

「雫がお荷物? 馬鹿言うな、俺は雫の事をそんな風に思っちゃいねえよ。むしろ嬉しいぐらいだ。こうして惚れた女を守れるのがな」

それは浩二の純粋な気持ちだ。

以前までは考えもしなかった。だからこそこうして雫を守れる存在になれたことが浩二は嬉しかった。

「エヒトにとってそしてお前等にとってもこの世界に住む人達はただの駒のようにしか思ってないがな、人間を甘くみるな。人間は守るべきものがいる限り誰よりもどこまでも強くなれる。その為なら限界の一つや二つ余裕でぶっ壊す。それが人間の強さだ」

だからこそ浩二はここにいる。守るべきものを守る為に。

「世迷言を。そんな言葉で現状が変われるほど現実は甘くありません」

ドリットの言う通り現実は甘くはない。

浩二の言う精神論でどうにかできるほど現実は、世界は優しくはない。

「これで終わらせます。お覚悟を」

ドリットは最後の攻撃に移ろうとしたその瞬間、ドリットの動きがピタリと止まった。何が起きたのかと首を傾げる雫を抱えている浩二は笑う。

「ああ、終わりだな。お前がな」

不意にドリットの手足が結晶化していく。

「―――っ!? な、なにが起きて!?」

突然自身の手足が結晶化していく自身の身体の異変に能面のようなその顔が驚愕に包まれている。そして浩二はそんなドリットに答えを教える。

「知っているかどうかは知らないが、それは魔結晶病。魔力が結晶化していく病気だ」

魔結晶病。それは浩二が王都を出て行って旅に出た先の村で子供が患っていた病名だ。

「魔結晶病の結晶は魔力を吸収するから常時魔力の供給を受けているお前等はいい苗床だろうな。治すには専用の薬を調合しないと治らない。なんたってそれは回復魔法ですら養分にしてしまう恐ろしい病気だ」

「いつの間にこんなものを! 私は貴方から攻撃を受けていない筈!」

「目に見えているものが全てではない。特に俺の前ではな」

浩二は己の身体を‶改造〟してあらゆる薬毒がストックしている。そして体内で‶調合〟を行って薬やウイルスを作ることも造作もない。そして体内で調合したウイルスを体外に放出させれば後は空気感染で感染させても直接ウイルスを打ち込んでもいい。少量でも相手に体内に侵入することができたらその時点で浩二の勝ちは揺るがない。

ちなみに雫にはきちんと予防薬を打っているので問題はない。

結晶化が進行して既に両腕と両脚は完全に結晶化してしまい、それでも結晶はドリットの身体を貪るかのように進行していく。

しかし、それでもドリットは‶分解〟の魔力で解毒を試みる。だがそれは悪化させるだけで終わった。

「ああ言い忘れていたけど、‶分解〟も通じないから。それぐらいの実証実験を俺がしていないとでも?」

悪戯笑みを浮かべながら告げる。

己の身体がなす術もないまま結晶化が進んで行くドリットに浩二は最後の言葉を告げる。

「地に落ちろ。神の人形」

その言葉を最後にドリットは全身が結晶化して全ての機能が停止すると地面に向かって落ちていく。それを眺めていると浩二が何かを思い出したかのようにあ、と口にする。

「ホルマリン漬けにするんだった」

そんなことを思い出すもま、いっか。と開き直る。

 


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