ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公11

「そっちも終わったみたいだな」

ドリットとの戦いが終えると同時にハジメが二人のところまでやってきた。

「南雲。そっちも無事に終わったみたいだな。先生は?」

「今はティオと一緒だ。そっちも無事に八重樫を助けられたんだな」

「ああ。それじゃ香織達と合流―――」

するか、と浩二がそう言おうとしたその時だった。

――――ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

【神山】全体を激震させるような爆発音が轟いた。

今度は何事かと振り返ったハジメ達の目に映った光景は……巨大なキノコ雲と轟音を立てながら崩壊していく大聖堂を含む聖教協会そのものだった。

「「「……うそん」」」

ここで奇跡的に三人の言葉が揃った。

あまりの光景に呆然としているとティオからハジメに念話が届いて愛子と共にいるティオと合流して詳しい話を聞くとどうやらティオと愛子が原因であるようだ。

大聖堂そのものが強力な結界を発動させるアーティファクトであり、その結界に守られているイシュタル達にはティオのブレスでも届かなかった。そこで天職が‶作農師〟である愛子が技能‶発酵操作〟を使って地球でいうメタン発酵を行った。結界も攻撃魔法ではなくただの発酵なので反応せず空気と同じように結界内に溜まり続けた。

そこでティオのブレスを当てれば結界を破壊できると思いきや……。

「こうなったと」

『うむ。妾達も盛大に吹き飛ばされてなぁ。久しぶりに死を感じたのじゃ。結界を破壊するどころか、教会そのものを崩壊させるほどとは……このような方法、妾の長い生のうちでも思いつかんかった。流石はご主人様の先生殿じゃ。感服じゃよ』

「ちがうんです! そうじゃないんです! こんなに爆発するなんて思ってなくて! ただ、半端はいけないと思って! ホントなんです! はっ!? 教会の皆さんはっ!? どうなりました!?」

愛子が涙目でオロオロしながら弁解し、廃墟と化した教会に視線を彷徨わせる。

「肉片も残ってないでしょうね。これは流石に俺もどうすることはできねえわ」

南無。と死者に祈りを捧げる。

イシュタル達も教会の結界に過信していたこともあって無防備の状態であの爆発を受ければ助からないだろう。愛子は教会関係者を爆殺してしまったことにその場で嘔吐してしまい、雫が愛子の背中を擦る。

そして愛子が落ち着いた頃にティオがある異変に気づいた。

『ご主人様よ。人がおる。明らかに普通ではないようじゃが……』

「なに?」

視線の先には白い法衣のようなものを着た禿頭の男がおり、ハジメ達を真っ直ぐに見つめている。しかしティオの言う通り普通の人間ではない。何故ならその身体が透けてゆらゆらと揺らいでいるからだ。

禿頭の男はハジメ達が自分を認識したことを察したのか、そのまま無言で踵を返して瓦礫の山の向こう側へ移動した。

「行こう」

ハジメ達は警戒しながらもその禿頭の男についていく。すると目的地に到着して禿頭の男が指す瓦礫の場所に踏み込むと瓦礫がふわりと浮き上がり、その下で地面が淡く輝き出した。見れば、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれていた。

「……あんたは、解放者か?」

ハジメが質問したのと、地面が発する淡い輝きがハジメ達を包み込んだのは同時だった。気がつけば全く見知らぬ空間に立っており、部屋の中央には魔法陣が描かれている。どうやら大迷宮の深部に到着してしまったらしい。

そして全員でその魔法陣の踏み込むと魔法の知識が刻み込まれる。そう、神代魔法である魂魄魔法。魂に干渉できる魔法を手に入れたのだ。すると浩二が。

「雫も手に入れたみたいだな」

「……ええ、そうみたい。これが浩二が言っていた神代魔法なのよね」

ハジメ、ティオ、愛子、浩二だけではなく雫も神代魔法である魂魄魔法を手に入れていた。それには浩二もちょっとびっくり。

【神山】のコンセプトは神に靡かない確固たる意志を有すること。

本来なら正規ルートでその意思を確かめるなにかがあったのだろうが、元々この世界の人間ではないハジメ達は神に対して信仰心など持ち合わせていない。雫も攻略が認められたのは神の使徒に屈することなく脱出を試みようとしていたからかもしれない。

こうして【神山】の神代魔法を手に入れたハジメ達は香織達がいる場所へ向かった。

 

 

 

 

 

王都を守る大結界が破られた大音量で光輝達も目を覚ました。そして光輝達はクラスメイト達を起こしに行って万が一に備えて一緒に行動をすることになる。そこで雫の専属侍女であるニアから魔人族の侵攻のことについて聞かされた。

そこで光輝が王都の人達を避難させる為の時間稼ぎをしようと提案するも、恵理がメルドと合流して騎士団と連携を取るべきだと助言する。

そんな恵理に助言に光輝達も同意してそのように行動したのだが……。

「ど、どういうことだ、恵理!」

光輝達は兵士や騎士達に地面に組み伏せられて身体を剣で貫かれている。それだけではなく、魔力封じの枷までつけられている。

そして唯一襲われていない中村恵理だけはそんな光輝達を愉悦たっぷりの眼差しで見下ろしながら嗤っていた。そのすぐ傍で兵士や騎士達を従えて。

光輝は体を貫く剣の痛みに耐えながら必死に疑問をぶつける。すると恵理はニマニマと嫌らしい笑みを浮かべたまま答えた。

「そんなの決まっているよ。僕が魔人族側に行く為だよ。だってこのまま戦争が続いても人間族に勝ち目があるとは思えないからね~。だから、王都への手引きとお人形にした騎士団の献上して僕は魔人族側に寝返ることにしたんだよ」

その言葉に誰もが啞然となる。突然の恵理の言葉が理解できない者もいれば彼女と親しい者は信じたくないという者もいる。しかし恵理は本気だ。

その為に恵理は色々と準備してきたのだ。

苦手と言っていた降霊術を極めて‶縛魂〟という生前の記憶と思考パターンを付与してそれなりに受け答えを可能としたオリジナルの降霊術を開発して王や騎士団を殺害してその‶縛魂〟で操り、その人形で王都を守る大結界の破壊、そしてこの国の兵士や騎士達を魔人族に提供しようとしている。その行動だけで恵理がどれだけ本気なのかがわかる。

しかし、それを信じない者がいた。

「え、恵理! 君はそんなことをする筈がない! 魔人族に操られているだけだ! 頼む、目を覚ましてくれ!」

光輝だ。本気で恵理が魔人族に操られて仕方がなくそうしていると疑わない光輝に恵理は可笑しそうに笑う。

「アハハ、本当、光輝くんは優しいね。うん、僕の好きだった光輝くんならそう言うと思っていたよ」

好きだった。そう告げる恵理は光輝の髪を握りしめて無理矢理顔を上げさせる。

「心にもないことを言わないでよ。僕を裏切ったくせに」

狂気と怒気が入り交じった瞳を至近距離で見せられた光輝はその瞳に戸惑いと恐怖を抱きながら頭から困惑が離れない。しかし恵理は光輝から手を離して一番近くにいた近藤のもとへ歩み寄り近藤の背中に剣を突き刺して殺害した。そして‶縛魂〟で恵理の操り人形となる。

光輝は困惑しながらも言った。

「恵理……なんで……」

「決まっているでしょ? 初めから僕はそのつもりだよ。ここでみんなを僕のお人形にしてあげる。決して僕を裏切らない、僕だけを見てくれるお人形に。だから安心して、みんな。ちゃんとみんな一緒に可愛がってあげるから」

彼女は狂っている誰もがそう確信した。その時だった。

「え、恵理……?」

その場に香織、ティニア、リリアーナそして鈴が駆け付けた。

目の前の光景を目の当たりにして驚く鈴はとても信じられない顔を露にする。

「え、え? どういうこと……? どうして恵理が……? うそだよね……」

親友が生み出したその光景を鈴は信じられなかった。しかし、恵理は笑みを崩すことなく口を開いた。

「ああ、鈴、戻ってきたんだね。戻って来なかったらまだもう少しだけ親友でいてあげようと思ったのに。残念だな……それに香織がいるってことはあの二人も王都にいるのか?」

「みなさん! いったい、どうしたのですか! 正気に戻って! 恵理! これはいったいどういうことです!」

本当に残念そうに、そして諦観するかのように小さく息を吐いた恵理は冷静だった。リリアーナは恵理に説明を求めて声を張り上げる。

「見ての通りだよ? ここにいる兵士や騎士達は今は僕の可愛いお人形。ああ、安心して。ちゃんとみんな、僕のお人形にするから。仲間外れなんて可哀想なことはしないよ」

今日の夕飯でも決めるかのようにあっさりと告げられた恵理の言葉にリリアーナは理解できなかった。そんなリリアーナにティニアが言う。

「リリアーナ姫殿下。残念ながら騎士達はもう亡くなられております。今は恵理様の魔法で操られていると見てまず間違いないでしょう」

「そんな……ッ!」

ティニアの‶熱源感知〟によって感知した兵士や騎士達の体温が明らかに低すぎる。それこそ死者と呼べるほどに。そんなティニアに恵理は何かを思い出したかのようにティニアに告げる。

「ああ、浩二にゾッコンのメイドさんか。お仕事クビになったって聞いたけどもしかして浩二と一緒にいるの?」

「はい。浩二様に治療をお求めなら大人しくして頂きたいのですが」

「残念だけどもういいかな。まぁ、浩二にはそれなりに恩はあるし、大人しくしてくれたら手は出さないよ。僕は恩は返す女だからね」

「そういうわけにも参りませんので」

「そっか。残念」

恵理は兵士や騎士達に香織達を拘束するように命令を下す。リリアーナは動けない鈴と‶治癒師〟である香織を守ろうと結界を展開しようとするも。

「リリアーナ姫殿下。必要ありません」

「え?」

ティニアはその背に白銀の翼を広げて白銀の羽を宙にばらまかせて兵士や騎士達の四肢を切断した。

「え?」

恵理は呆気を取られるような声が口から出た。

自慢の人形が一瞬で地に倒れた。そしてなによりティニアから感じるプレッシャーとその姿が恵理の計画に協力した神の使徒と酷似していた。

「なんなんだよっ! それっ!」

目の前の理不尽に叫ぶ恵理。しかしそれも無理はない。ティニアの存在は完全に計画から外れたもの。対処する術など持ち合わせていない。なにより恵理が知っている範囲ではティニアにそんな力はなかった。つまり……。

「浩二か!? 本当にお節介な人だよ!」

「ええ、そうですね」

「!」

いったい誰がティニアを理不尽な存在に仕立て上げたのか、その犯人がわかった恵理の喉元に大剣が突き付けられる。

「何もしないことを勧めます。今の私はそこに転がっている勇者よりも強いですよ?」

冗談だと思いたいが、ティニアから感じるプレッシャーが冗談ではないと告げている。

しかし、恵理にはまだ手札が残っている。

まだ温存していた騎士達やメルド、先ほど人形にした‶槍術師〟近藤礼一がいる。先ほどティニアに倒されたのが雑兵だとすれば今度は精鋭部隊。それも一人は傀儡に成り下がりながらも異世界チートの力を十全に発揮できる礼一だ。いくらティニアが強くても守りながらでは必ず隙が生じる。

狙いは――香織。傀儡と化した精鋭部隊を一斉に香織に向けて強襲させる。

ティニアは一度だけ視線を横にずらして他の騎士達同様に操られているメルドを見て小さく呟く。

「……残念です」

刹那、ティニアはその場から一歩も動かすことなく白銀の羽のみで傀儡と化したメルド達を行動不能にした。これには流石の恵理も驚きを隠せない。

「生憎と羽の扱いに関しては浩二様よりも上ですので」

ティニアの天職は‶探索者〟。探知、感知系の技能に優れており、視覚外からでも何があるのかぐらい認識することができる。そして神の使徒の力を己の手足のように自在に操れるのはティニア自身の才能(センス)とユエとの特訓そして努力で成し得たものだ。加算されたステータスも含めて今のティニアを止められるのは同じ化け物である南雲ハジメか平野浩二ぐらいだ。

ティニアは愛する人(こうじ)の為に自らの意思で化け物になる道を選んだのだ。この場でその化け物を止められる者はいない。

「香織様。お手数ですが勇者達の治療をお願いします」

「は、はい! ‶聖典〟!」

光属性の最上級回復魔法‶聖典〟で倒れているクラスメイト達の傷を癒す。傷が癒えた光輝達は立ち上がって魔力封じの枷を壊していく。

「さて、二度目の警告です。大人しくしてください」

降伏を勧めるティニアに恵理は悔し気に歯を噛み締める。拘束から逃れて傷も癒え、枷も外れた今の光輝達をもう一度捕える術は恵理にはない。なにより目の前の化け物から逃げることが出来ない。

解放された光輝達は警戒しながらも複雑な視線を恵理に向けるなか、光輝がゆっくりと歩み寄る。

「……恵理、どうしてこんなことをしたんだ?」

クラスメイトの心情を代表するかのように光輝はそう尋ねた。やはり魔人族に操られているのでは? と思いながら尋ねるも恵理の口からは光輝達の期待を裏切るような答えだった。

「どうして? そもそも僕達が人間族に味方をする理由がどこにあるの? 何の関係もない僕達を戦争に巻き込んでどうして味方でいて貰えると思う方がどうかしてる。まぁ、どこかの勇者様はそんなことも考えずに皆を巻き込んで戦争に参加させたけどね」

恵理の言葉に一部は納得できる考えだ。

そもそもこの世界の戦争に参加する義理も義務もない。それはこの世界で生きる者達で決めることだ。いわば恵理達は戦争に巻き込まれた被害者だ。それなのに戦争に参加している要因の一つは光輝にある。

「俺が世界も皆も救ってみせるだっけ? よく言うよ、救うどころか自分が気に入らない相手は陥れているくせに」

「俺はそんなこと……ッ!」

「していないとでも? ならどうして浩二にあんなこと言ったのさ? 雫に近づくなって。普通はそこまで言わないよね?」

それは龍太郎からも受けた指摘だった。それに光輝は何か反論しようとした時。

「全員動くんじゃねえ!!」

怒声が響き渡る。

全員がその怒声がした方に視線を向けるとそこには香織を人質にしている檜山だ。

「檜山! お前、何していやがる!?」

「動くなって言ってんだろうが! 動いたら白崎を殺す! ヒヒ、俺は別に殺してもいいんだぜ?」

香織の首に剣を当てる檜山の瞳は狂気と欲望が混じった醜悪な笑みを浮かべている。

恵理が全員の意識を集めている間に檜山は行動を移した。このままでは恵理共々共倒れになってしまう。そうならない為にも人質が必要だ。そして檜山の目的は香織。だから檜山はここで香織を人質にして恵理共々この場から逃れるようしている。その後で香織を自分のモノにして。

「檜山!」

「動くなって言ってんのがわからねえのか、天之河!! そこのメイドも変な真似してみろ! 殺すからな!」

香織を人質に捕られて動けない光輝達を見て檜山は恵理に告げる。

「中村! この状況をどうにかしてやったんだ! さっさと逃げるぞ!」

檜山にとって目的は香織で大切なのは自分の命。だから後は恵理と共に逃げるのみだ。王宮を出て魔人族と合流する。そこまで行けば勝てると確信があった。

しかし檜山は気付いていない。

香織に対して重度とも言える過保護な幼馴染がすぐそこまで来ている事を。

「おい」

「は?」

頭上から聞こえた声に思わず反応してしまった檜山は顔を上げた瞬間、光の十字架が檜山を串刺しにした。檜山自身に傷はない。しかし、その動きは完全に停止している。そしてこの場にいる誰もが顔を上げた瞬間、そこには愛子を抱えるハジメと雫をお姫様抱っこしている浩二。そしてティオだ。

「雫ちゃん!」

動けない檜山から離れて親友の元に駆け出す香織は雫に抱き着いた。

「無事でよかったよ、雫ちゃん……」

「ええ、心配かけてごめんなさい」

互いの無事を確かめ合う様に抱きしめ合う二人の周りには百合の花が咲き乱れているように見える。その光景を見た浩二は「やはり、一番の強敵(ライバル)は香織か……」と馬鹿なことを考えながら檜山に麻痺毒と激痛を引き起こす猛毒を体内に入れて死なない程度に毒に犯させておく。

「……で? どうなっていやがる?」

ハジメの一声が響き渡る。

何がどうなっているのか、状況がわからないハジメを置いて浩二が恵理と対面する。

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