場所を変えて訓練場へとやってくるとこれから戦う光輝と浩二の二人が訓練場の中心になって他の皆は端でこれから行われる二人の戦いを見守っている。そのなかで雫は心配そうにオロオロとしている。
「落ち着けよ、八重樫。別に殺し合うわけじゃねえんだから」
「そ、それはそうでしょうけど……というか南雲くんがあんなことを言ったからこうなったのよ?」
二人が戦うことになった発端はハジメにあるもハジメは悪びれもなく言う。
「そりゃどこぞの勇者(笑)様と違って俺は平野のことを認めているからな。認めた相手が馬鹿にされたら怒るだろ?」
「それはそうだけど……というよりも南雲くんはどうして浩二のことを認めているの?」
「殺し合った仲だからな」
「嫌な関係ね……」
どうしてそうなった? と問い詰めたい雫であったが浩二の事を認めてくれている人がいるというのは嬉しいという気持ちもある。その関係性については気にはなるも。
「平野の強さも覚悟も本物だ。八重樫、お前はいい男に惚れられたもんだな」
「――――っ」
悪戯笑みを浮かべて告げるハジメに雫は顔を赤くする。ハジメは既に浩二が雫に惚れているということは承知済み。浩二はもうそれを隠すのは止めているからこれをネタに揶揄えないが、雫の反応を見て愉快と言わんばかりに笑うハジメさんだった。
「ま、心配すんな。結果はもうわかっているからな」
何も心配していないかのように告げるハジメを置いて二人の戦いが始まった。
「行くぞ!」
聖剣を持って突撃する光輝。‶縮地〟で一気に距離を詰めて聖剣を振るう光輝だが、流れるような一連の動作で聖剣は受け流されて光輝の腹部に攻撃は入る。
「ぐっ!」
痛みはあるも傷はない。浩二が手に持つ刀は逆向き、峰打ちされたことに光輝は激情する。
「ふざけているのか、浩二!」
「……」
手加減されていると思い、文句を投げる光輝だけど浩二は何も答えない。ただ黙って刀を構える。それがまた光輝の神経を逆なでさせる。
聖剣に光を纏わせて攻撃を繰り返す光輝の連撃。しかし、その攻撃は浩二にはかすりもしないどころか振るう度に光輝の体に攻撃を受ける。
冷静に淡々と刀を振るう浩二に光輝は戦慄する。これが本当に自分の知っている浩二なのかと、まるで別人のように感じられる。明らかに手加減されている光輝は歯を強く噛み締める。
「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け――――‶光刃〟!」
聖剣に光の刃を付加させて袈裟斬りするも簡単に避けられる。それでも光輝はまるで意地になっているかのように攻撃の手を緩めなかった。
「万翔羽ばたき、天へと至れ、‶天翔閃〟!」
曲線状の光の斬撃が轟音を響かせながら浩二に放たれるもそれも‶分解〟を付与させた刀を一閃することで消滅する。そこで浩二が重い口を開いた。
「……光輝。お前、今まで何をしてきたんだ?」
「どういう意味だ!? 俺を馬鹿にしているのか!?」
「違う。今のお前の動き、何もかも滅茶苦茶だ。太刀筋も踏み込みも元々雫の道場で教わった剣術までもできちゃいない。剣筋も派手さばかり追求して大雑把だし、ハッキリ言ってこの世界に召喚される前のお前の方が強かったぞ」
まるで自分が目立つかのような動きに身に付けてきた技術を生かし切れていない。そのことに忠告する浩二だけど光輝からはこの世界の人々の為にしてきた自分の努力を否定されているように聞こえた。
「うるさい! 本番はここからだ! ‶限界突破〟!!」
光輝の‶限界突破〟の宣言と共に、その体を純白の光が包み込む。
魔力を消費しながら一時的に基礎ステータスの三倍の力を得る技能。限界を突破した力で浩二を圧倒しようと聖剣を振るう。
「――――‶天翔剣四翼〟!」
振るわれる聖剣から曲線を描く光の斬撃が飛翔する。‶限界突破〟により強化された光輝の十八番だが、浩二はそれを避けることなく先ほどと同じように‶分解〟を付与させた刀を振るうことで消滅させる。
「まだだ!!」
己の限界を突破した力で浩二に攻撃をするも二人の力量はもう一目瞭然。圧倒的なまでの力の差を前にしても光輝は怯むことなくただ我武者羅に聖剣を振るっている。
しかし、限界を突破した力を発動させているのに先ほどと何も変わらない。光輝の攻撃は躱されるか、受け流されて浩二の攻撃は吸い込まれるように光輝に当たっていく。
「っ!?」
光輝は目の前に起きている現実が信じられなかった。未知の相手ならともかく自分が相手にしているのは幼少の頃から付き合いのある浩二。試合では一度も負けたことのない幼馴染相手にどうして勝てないのか? そんな疑問と‶限界突破〟の制限時間が迫る焦りで光輝の攻撃は更に雑になる。
「あああああああああああああああああああああああああっ!!」
吠える光輝。我武者羅に聖剣を振るうその姿はまるで自分の思い通りにならないことに癇癪を起こしている子供のようにも、信じられない現実から目を逸らそうと見える。
その姿にクラスメイトだけではない同じ幼馴染である龍太郎、香織、雫でさえもなんとも言えない哀れむような寂しいような眼差しを向けている。
そしてあっという間に‶限界突破〟のタイムリミットが訪れて弱体化してしまう光輝は倦怠感に襲われて、本来の力の半分程度しか力を発揮できなくなる。
「もういいだろう? 光輝」
「くっ!」
首元に刃を突きつける浩二に光輝は苦悶の顔を作る。そして光輝は嫉妬、猜疑、恐怖、自負、反感、焦燥といった様々な負の感情が込められた瞳を浩二に向けながら言った。
「なんで……なんで隠していた!? それだけの強さを隠す意味がどこにあるんだ!?」
「……? ああ、そういうこと」
何を言ってんだ? こいつみたいな顔を作る浩二だけどすぐに光輝の言っている意味を察した。どうやら光輝は浩二はずっと実力を隠していたと思い込んでいるのだろう。
「隠していたつもりはないぞ、光輝。これが今の俺の実力だということだ。お前等から離れるまではこんな風に勝つことなんてできなかっただろうな」
「嘘をつくな! こんなはずは、こんな筈はないんだ! 俺はお前が出て行ってからもずっと訓練を続けてきた! 毎日、動けなくなるまで必死に努力してきたんだ!」
「だろうな。お前はそういう奴だもんな。そういうところは昔から尊敬している。お前は天才でも努力を怠るような奴じゃなかった。けどな、光輝。一つ質問させてくれ。お前はどうしてそんなに頑張っているんだ?」
意味深の質問に光輝は一瞬怪訝の表情を浮かべるもすぐに答えた。
「その狂った神からこの世界の人達を守る為だ! 力は正しいことに使うべきだ!」
「力は正しいことに使うのが当然だというのならお前の‶意志〟はどこにあるんだ?」
「……意志?」
「困っている人を助ける。迷いもなくそれを為そうとするお前は素直に凄いと思ってる。だけどそこに天之河光輝という人間の意志はあるのか? その為に何かを捨てる覚悟も失う覚悟もお前にはあるのか?」
「そんなの―――」
あるに決まっている。そう言おうとするも言葉に出ない。
「当たり前の事を当たり前にするという行為は普通はできない。だから正しくあろうとするお前は冗談抜きで凄いと思っているし、幼馴染として誇らしいとも思ってる。けどな、‶力〟も‶強さ〟も何かを為そうとする‶意志〟の後についてくるものだ。間違ってもその逆じゃない」
「うるさい! そんなこと言われなくてもわかってる!」
‶限界突破〟の副作用で弱体化しているにも関わらず聖剣を振るってくる光輝に浩二は言葉を続ける。
「力があるから誰かを救うのではなく誰かを救いたいから力を求めるとはまるで違う。光輝、それだからお前の剣は軽いんだ。そこにお前の‶意志〟がないから」
「黙れ! 俺は本気でこの世界を救おうと―――」
「しているか………。それなら光輝、お前はここで‶敗北〟を知れ」
刹那、聖剣は宙を舞い、光輝は地面に倒れ込む。
瞬く間のような一瞬で攻撃。雫ですら視認することができなった。そして多くの者が間抜けな顔になるなかで刀を鞘に収める浩二はまだ意識のある光輝に告げる。
「敗北を知って挫折して自分がどうあるべきか一度考えてこい。挫折することで見えてくることもある」
今の光輝に最も足りないもの、それは‶敗北〟。高すぎるスペックが、現実の壁を理想通りに乗り越えさせてしまった。それ故に失敗も挫折もなく、あらゆる局面を自らの力で押し通せてしまった。そのせいで光輝は己の正しさを疑うことをしなくなった。だから幼馴染として同じ雫の道場の門下生―――家族として光輝の為に敗北を与えた。
ここから新たに成長することを願って。
「それでも認めないというのなら何度でも挑みにこい。逃げずに受けてやる」
その言葉を耳にして光輝は意識を失った。
‶勇者〟の敗北。それも天職が‶医療師〟である浩二に負けた。辛勝ではなく圧倒的なまでの実力差を見せつけるかのようなその戦い方に殆どの人が自分の目を疑った。
光輝は強い。光輝のことをよく思わない永山達でもそれは共通の認識だ。だがその光輝に傷一つ負うこともなく完全勝利を収めた。
雫も改めて浩二の実力を目の当たりにして驚く。その隣で初めからこうなることがわかっていたハジメは「俺の言った通りだろ?」と言うも雫の耳には届かなかった。