ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

5 / 92
脇役05

―――‶ベヒモス〟

それはかつて‶最強〟と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった六十五階層の魔物。いくらチートである光輝達でも今は決して敵わない相手にメルドは即座に撤退を宣言した。

だが、数百体を超えるガイコツ戦士、トラウムソルジャーが逃げ道を塞いでいる。

前門ベヒモス、後門トラウムソルジャー。

二つの魔物に挟まれてしまったクラスメイトと騎士団達は端的に言って絶体絶命の状況に立たされている。

迫りくるベヒモスにハイリヒ最高戦力の騎士達が生徒達を守る。

だが、撤退中のクラスメイト達は突然の事に半ばパニック状態。目前に迫る恐怖にがむしゃらに階段を進もうとしていく。

そのなかクラスメイトの谷口鈴にトラウムソルジャーの剣が振り下ろされる。

「鈴!?」

それに気付いた中村恵理が声をあげるも少し遅い。

トラウムソルジャーの剣が鈴を両断しようとその凶刃を振り下ろす。

「大丈夫か? 鈴?」

だが、その凶刃を受け止めた者がいる。

「こ、浩二くん……………」

それを止めたのは天職は‶医療師〟の後方支援の役割を持っている平野浩二は両腕を漆黒に染め上げた腕で凶刃を受け止めていたのであった。

「そ、その腕……………いつから武装色の○気を……………」

「結構余裕があるな、お前……………」

こんな時までネタに走る鈴に若干呆れるように息を漏らしつつ元の世界で身に付けた八重樫流体術でトラウムソルジャーを地面に叩きつけてその剣を拾う。

「言っておくけど俺は海賊の世界にまで転移した覚えはねえよ。この腕は体内にある炭素の結合度を変化させて表皮に集中させることでダイヤモンド並みに硬化しているだけだ」

「にゃるほど、浩二くんはホムンクルスだったと」

「お前もホムンクルスにしてやろうか? まぁ、今はおふざけは置いておいて鈴、結界を張って防御に専念しろ。突破口が開くまで防御に専念しておけば助かる可能性が高い」

「りょ、了解! でも浩二くんは…………?」

「他の奴等を出来る限り助ける。天職‶医療師〟にかけて誰も死なせはしない」

そう告げて浩二は元の世界で身に付けた八重樫流の技を披露する。

例え後方支援の天職でも戦闘の技能がなくても幼い頃から身体に叩き込んだ技術と経験はこの世界でも通用できる。

「‶回天〟 ‶縛煌鎖〟」

トラウムソルジャーを退けながら怪我をしたクラスメイトを治癒させ、トラウムソルジャーの動きを封じる浩二は舌打ちする。

(クソ! 今の俺じゃこれが精一杯だ! 突破口を開けるだけの力もなければこの状況を打破できる方法もない! 本当に脇役だよ、俺は!)

いくらこうなることが原作知識でわかっていたとしても、それに備えていたとしても震える身体を誤魔化して一人でも多くのクラスメイトを助けようとするので精一杯。

己の力の無さに痛感していると背後から奇襲してきたトラウムソルジャーの一撃を許してしまった。

「ぐっ! ‶自己改造〟!」

斬られた箇所に灰色の己の魔力を循環させて傷口を修復、いや、細胞分裂を活性化させて無理矢理治した。

(やべぇ! 流石に数が…………ッ!)

クラスメイトを助けながらトラウムソルジャーの相手をするのは浩二には荷が重すぎる。このままでは浩二の方が先に倒れてしまう。

(奥の手はあるが…………こいつらには効果が薄そうだな)

見た目は完全にガイコツ。こいつらに薬も毒も通用するかわからない。

襲いかかるトラウムソルジャー。そこに希望の一閃が放たれる。

「全てを斬り裂く至上の一閃、‶絶断〟!」

魔法によって自身の魔力色である瑠璃色を纏い切れ味を増した雫のアーティファクトの剣が浩二を襲うトラウムソルジャーを一刀両断した。

「雫……………」

「皆を守ってくれてありがとう、浩二。後は私達に任せて」

颯爽と現れたのは天職‶剣士〟を持つ八重樫雫。そして続けて光輝と龍太郎も参戦してトラウムソルジャーを倒していく。

「‶天翔閃〟!」

「オラッ!」

光輝達の参戦にクラスメイト達は沈んでいた気持ちが復活して訓練通りの連携を取り始めて反撃の狼煙が上がった。

チートであるクラスメイト達は強力な魔法と武技の波状攻撃に凄まじい速度で殲滅していく。そして階段への道が開ける。

「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」

光輝が掛け声と同時に走り出す。

続けてクラスメイト達も包囲網を突破した。後はベヒモスを抑えている南雲ハジメだけ。

そうして後衛組は遠距離魔法準備。それによる一斉攻撃でハジメが逃げる為の足止めを行おうとする。

そしてハジメが猛然と逃げ出した五秒後にあらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

ハジメのすぐ頭上に致死性の魔法が次々と通っていくなか、それは起きた。

空を駆ける数多の魔法の中で、一つの火球が軌道を曲げてハジメに突き刺さり、ベヒモスの前に吹き飛ばされてしまう。

そして……………。

ハジメはベヒモスと共に奈落に落ちた。

(ごめん、南雲……………)

こうなることはわかっていた。恐らくではあるが魔法を放った檜山を止めることもできた。それでもこの世界の命運の為にと浩二はハジメを見殺しにした。

必要なことだと、世界の為だと、死ぬ訳じゃない、と頭の中で散々言い訳が思いつくが少なくとも浩二はこうなることを選んだ時点でハジメを見殺しにしたと同然だ。檜山のことをどうこう言えることはできない。

(どうか生きていてくれ、南雲)

後はもう祈るしかない。

そしてもし原作通りに再会することができたら謝ろう、と浩二はそう決めた。

「離して! 南雲くんの所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

飛び出そうとする香織を光輝と雫が必死に羽交い締めする。

「香織っ、ダメよ! 香織!」

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ体が壊れてしまう!」

「無理って何!? 南雲くんは死んでいない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

ハジメを助けに行こうとする香織に浩二が近づいて香織の頭に手を置く。

「‶侵入〟」

灰色の魔力が浩二の手に出た瞬間、香織は糸が切れた人形のように動かなくなった。

「浩二! 香織に何をしたんだ!?」

「眠らせただけだ。三日あれば目を覚ます。それよりも速く離脱するぞ。このままじゃ他の皆にまで危険を晒すことになる」

淡々と言いながら香織を背負う。それがまるで自分が犯した罪の重さでも背負っているかのように重たかった。

「浩二……………クラスメイトが死んだのにどうしてあんなに平然としていられるんだ?」

まるで作業をするかのように淡々と傷ついたクラスメイト達を治療する姿に光輝は思わずそう口にしてしまう。

「光輝。本当にそう思っているのなら浩二に謝りなさい。誰よりも命の重さを知っている浩二が平気なわけないでしょう? でも今は無理をしてでも平静にしておかないと皆の心にダメージが残ってしまう。だからああして無理にでもいつも通りにしているのよ」

雫の言葉に黙り込んでしまう光輝。

「それよりも今は浩二の言っていた通りに速くここから脱出しましょう」

「そうだな。早く出よう」

そうして光輝達は撤退し、全員が無事に地上に戻ることに成功した。

 

 

 

 

迷宮で死闘と喪失を味わった日から三日が経過している。

浩二達は既に王国へ戻って迷宮でのトラップと南雲ハジメの死について国王とイシュタルに報告。初めての死という現実を目前にしたクラスメイトの大半は自室に引き籠もった。

この世界では死は隣りあわせ。漫画のようなご都合主義など一切ないことにようやく気がついた。

それでも光輝や龍太郎。少数のクラスメイトはそれを受け入れてより一層に訓練に励んでいる。

そんななか、浩二は雫と共に香織が目覚めるのを待っていると香織の瞼が開いた。

「香織!」

ベッドに身を乗り出し、目の端に涙を浮かべながら香織を見下ろす雫。香織はしばらく焦点の合わない瞳で周囲を見渡してから親友の名前を呼んだ。

「……………………雫ちゃん?」

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう? 違和感はない?」

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど…………寝ていたからだろうし…………」

「そうね、三日も眠っていたのだもの……………怠くもなるわ」

「三日? そんなに…………どうして…………私、確か迷宮に行って………それで…………」

そこでようやく香織は思い出した。

「それで………あ………………………………南雲くんは?」

「ッ……………それは」

「雫。いい。俺が話す」

苦しげな表情でどう伝えるべきか悩む雫の代わりに浩二が代わって口を開いた。

「浩二くん?」

「香織。南雲はここにはいない。あの時、ベヒモスと共に奈落に落ちた」

一切誤魔化すことなくありのままに現実を伝えた。

「……………………嘘だよ、ね。そうでしょ? 雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ? ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰って来たんだよね? 南雲くんは……………訓練かな? 訓練所にいるよね? うん………私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ……………だから、放して? 雫ちゃん」

現実逃避するように次々と言葉を零しハジメを捜しに行こうとする香織の腕を雫は掴んで放そうとしない。

そんな香織に浩二はもう一度言う。

「香織。南雲はここにはいない」

「やめて……………」

「お前が見て、聞いた記憶通り」

「やめてよ……………」

「南雲は奈落に落ちた」

「いや、やめてよ……………やめてったら!」

「それが現実だ」

その時、浩二の顔に枕が直撃する。投げたのは言わなくても香織だ。

「ちがう! 死んでなんかいない! 絶対、そんなことない! どうして、そんな酷いこと言うの! いくら浩二くんでも許さないよ!」

「ああ、許さなくていい。だが聞け。南雲は」

「いや! 聞きたくない! それ以上言わないで!!」

イヤイヤと首を振りながら、何とか雫の拘束から逃れようとする香織。雫は絶対放してなるものかとキツく抱き締める。

「放して! 放してよぉ! 南雲くんを捜しに行かなきゃ! お願いだからぁ…………絶対、生きているんだからぁ……………放してよぉ」

いつしか香織は‶放して〟と叫びながら雫の胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた。

縋りつくようにしがみつき、喉を嗄らさんばかり大声を上げて泣く。雫は、唯々ひたすらに己の親友を抱きしめ続けて浩二は黙ってそれを見守っている。

次第に落ち着きを取り戻した香織に浩二は再び口を開いた。

「南雲は落ちた。だが死んだとは言い切れない。まだ誰も死体を確認したわけじゃないからな」

「うん……………」

「だが、今の俺達にはそれを確かめに行くだけの力はない。わかるか?」

「うん……………」

一つ一つ確かめるようにゆっくりと現状を伝えていく。

「なら俺達はどうすればいいのか、わかるよな?」

その問いに香織は力強く頷く。

「強くなる…………それであんな状況でも今度は守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。南雲くんのことを。だから浩二くん」

「なんだ?」

「私に医学を教えてください」

香織は今よりも強くなる為に同じ後方支援の天職で医学に長けている幼馴染に頼む。

「ああ、いいぞ」

それを聞いた浩二はすぐにそれに応じた。

「俺も確かめたいからな。南雲の捜索に俺も雫も協力する」

「ええ、香織が納得するまでとことん付き合うって浩二と話し合ったからね」

「雫ちゃん!」

香織は雫に抱きつき何度も礼を言う。

ちょっと百合百合しい光景に苦笑しながら親が子を見守るような優しい目で見守る香織に浩二はある提案をする。

「二人共。これを見てみろ」

渡したのは浩二のステータスプレート。怪訝しながらそれを見る二人は目を見開いた。

「本来魔物しか持たない魔力の直接操作。俺は‶改造〟の技能を使って‶魔力操作〟の技能を獲得した。それによって俺は詠唱も魔法陣も必要ない。無詠唱で魔法を発動することができる。そしてこれは迷宮を攻略するのなら必要な技能だと俺は思ってる」

「でもこれって……………」

「そうだ、雫。これは魔物と同然の力だ。下手にその技能を持っていることが教会にでも知られたら俺は魔物か魔人族、もしくは異端認定される可能性がある」

だからこその‶提案〟なのだ。

「選べ、香織。リスクを承知でその技能を獲得するか。地道に努力して強くなっていくかを。ちなみに俺は後者を勧める。流石の俺も幼馴染を改造するのは気が引ける」

選択権は香織にある。

どちらを選んでも後悔しない選択を選ばせる浩二だが、香織の答えは既に決まっている。

「浩二くん、お願い。私を改造して」

「香織……………」

「少しでも強くならないといけないから。その為のリスクなら私は背負うよ」

力強く輝くその瞳に浩二は深い溜息を吐いた。

こうなった香織はテコでも動かないことを知っているからだ。

「わかった。香織の覚悟、確かに受け取った。ならさっそくだが、着ているものを全部脱げ」

「「え?」」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。