ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公15

強くなる為に光輝達を鍛えている浩二達は一休憩する為に食堂に足を運ぶとハジメ達がいた。ハジメはチラリと見るだけで興味がないかのように視線を外すもクラスメイト達の方はそうはいかない。ハジメに対して複雑な心境を抱きながらチラチラと視線を向けている。

「ハジメくん! 隣いいかな?」

「ああ、別に構わねえよ」

香織を筆頭に浩二達も普通にハジメ達に歩み寄って近くに座る。するとハジメは浩二達に尋ねる。

「それでどうなんだ?」

「取りあえず大迷宮に挑むメンバーには‶魔力操作〟を獲得させた。今はまだ慣れない力に戸惑っているみたいだけど問題はないだろう」

「応ッ! だいぶコツも掴んできたぜ!」

「鈴も結界の発動速度が上がったんだからね!」

龍太郎も鈴も新しい力にだいぶ慣れてきたようだ。

「う~~ん、私はまだ慣れないかな……」

「ええ、自分でも思っていたより制御が難しいことがわかったわ」

龍太郎や鈴とは逆に神の使徒の力を手に入れた香織と雫はまだ慣れない力に戸惑いを覚えているようだ。それでも能力的にはハジメ達と肩を並べるのでこれからだ。

「勇者はどうした?」

「光輝はまだ訓練場で俺と訓練している。よっぽど俺に負けたのが悔しかったんだろうな」

休憩を挟みながらとはいえ、ぶっ続けで模擬戦を繰り返している。そんな光輝に思うことはあっても口にすることはなく浩二αは相手をしている。そんな浩二にハジメが思わず言う。

「八重樫もそうだが、お前もよくあんな勇者の面倒がみれるよなぁ? いくら幼馴染でもどうかと思うぞ?」

最もな言葉に浩二と雫は困った顔で肩を竦めた。

「まぁ、身内だからな」

「ええ、見捨てたりできないわよ」

香織と龍太郎以外の頭上に‶?〟が浮かんだ。

「雫の道場というより八重樫流の正式な門下生は‶家族〟として扱われているんだ」

八重樫流―――地元に古くから根ざしている剣術道場だ。一般向けの剣道教室とは区別されていて、警備会社や警察関係者への武術指南などもしている業界では名の通った流派である。門下生になれる者は限られていて、逆に、一度入門すれば、八重樫家は彼等を‶身内〟と見なす。

―――家族は、決して家族を見捨てない。見捨てないからこそ家族なのだ

数ある八重樫流の教えで雫と浩二が最も大事にしている。

ちなみに光輝は母親で浩二は父親が元は八重樫流の門下生であり、その伝手で入門が許可された。

(忘れねぇ……。父さんの伝手で道場に入門した時の師範の顔は……)

それはもうしごいてやろうといい顔をしていた。そしてその通りにしごかれた浩二さんであった。

「そんなわけでいくらあいつがムカつくぐらいのイケメンクソリア充野郎でも、ケッ、地獄に落ちやがれと思うほどの憎たらしいクソガキでもこの機会にちょっとボコボコにしてそのイケメン面を整形させてやろうかと考えていても放っておくことはできねえよ」

「……浩二。光輝のことそんな風に思っていたの?」

「浩二くん……」

「浩二……」

幼馴染達からジト目を向けられるも浩二さんは華麗にスルーする。

「ま、俺にとって光輝は‶優秀だけど面倒な弟〟ってところだ」

同級生に弟扱いされる勇者とは……。

「浩二様、どうぞ」

「ああ、ありがとう」

香織と雫の監督役を務めていたティニアが浩二に食事を用意してくれてティオと行動していたエフェルとイリエが移動して浩二の隣に座る。すると浩二がイリエに言う。

「それでどうだった? 話せたのか?」

既にエフェルから魔人族の侵攻の際にフリードと話をしたということは聞いている。けど浩二は本人の口から直接聞きたい為にそう尋ねた。

「……あたしの言葉は届かなかった。けど」

イリエは結論から告げた。

父親を神敵として殺したフリードの真意を確かめる為にフリードと出会ったイリエだがフリードの答えは変わらなかった。いくら魔人族の未来のことを考えて欲しいと訴えてもフリードは神の為に戦うと断言した。

「あたしは父が為そうしていたことをあたしが為す。その為に戦うと決めた」

フリードが神の為に戦うというのならイリエは父親が最後まで胸に抱いていた理想――‶魔人族の未来〟の為に戦うことを決意した。父親の後を継ぐ、それがイリエの答えだ。

「その為にもあたしはまだまだ強くならないといけない。だから浩二、これからもよろしく」

「ああ」

その瞳は完全に迷いが消えていた。どうやら色々と吹っ切れたようだ。

「「……」」

そんなイリエをティニアとエフェルは見るも特に口を挟むつもりはなかった。

「浩二様。お口を開けてください」

「旦那様。あ~んしてください」

「……片方ずつにしてくれ」

食事を食べさせようとフォークを差し出す二人に流石に二人同時は無理なので片方ずつ食べる浩二。その近くではハジメはユエとシアにあ~んをされていて香織とティオも慌てて料理にフォークを突き刺す。

ハジメと浩二の二人を中心に桃色結界が発動されて雫達は居心地悪そうにしていた。他のクラスメイト達からは女子からは好奇心の眼差しを、男子からは嫉妬と羨望の眼差しを向けられるが二人は揃ってスルーする。

二人共‶絶世の〟と称しても過言ではない美女・美少女達に囲まれているので無理はない。シアのようなウサミミ少女はオタク的な趣味を持っていなくても男心を的確にくすぐられるが、綺麗なメイドさんにあ~んされたり、美女から‶旦那様〟と呼ばれたいのも男の願望の一つであろう。

見た目や強さもそうだけど王都から出て行ってから色々と変わった浩二に色々と秘訣を聞き出したい。特にモテる秘訣を。

「……変態」

「!? ち、違うよ! なんてこと言うの! わ、私は普通に食事しているだけだし!」

「……と言いつつ、ハジメ味を堪能」

「し、してないってば! だ、大体、そんなこと言ったらティオこそ変態でしょ! ほら、こんなに堂々とフォークを舐めてるんだよ!」

「レロレロレロ、んむ?」

「ティオ様! そのような品性の無いことはおやめください! 私まで恥ずかしいです!」

変態に変わり果てた竜人族の姫の品性の無い変態的行動に羞恥心で顔を赤くしながら声を荒げるも、ティオは不満そうに唇を尖らせる。

「むぅ、仕方なかろう。……ご主人様は未だに妾と口づけしてくれんし、こういうときに堪能しておかねば、欲求不満になるんじゃ」

「だからといって仮にも姫という方が恥もなくそのようなことを……」

「エフェル。妾は知っているのじゃぞ。浩二に毎晩のように愛でられておるということを。そんなお主に妾が言えることは一つ。羨ましいのじゃ!!」

「そのような本音は聞きたくありませんでした!!」

尊敬していた竜人族の姫が一人の男――南雲ハジメとの出会いによって変態になってしまったことにエフェルはまだショックが抜け落ちておらず、浩二に慰めて貰っている。ティオの変態化はエフェルの心に深い傷を与えた。

シクシクと愛する人の胸で泣くエフェルをよしよしと今日もまた浩二が慰める。

「平野、医者ならこの精神患者を引き取って治療してくれ」

「ティオの変態化は南雲が原因なんだから責任取って最後まで面倒みてやれ」

正論である。

「そうじゃ! ご主人様よ! ご褒美を未だもらっていないのじゃ! 妾は、約束のご褒美を所望するぞ!」

「あ? ご褒美だぁ?」

何のことかと思っていると、どうやら総本山で愛子を預けた時に最後まで愛子が無事ならご褒美を与えると約束したらしい。それでティオがハジメに望むご褒美はというと……。

「安心せよ、無茶なことは言わんよ。な~に、ちょっと初めて会ったときのように……妾のお尻をいじめて欲しいだけじゃ」

両頬を手で挟んでとんでもない要望を伝える。それによりユエ達以外の全ての人間が激しく動揺し、ハジメに向けられる眼差しが、どこか犯罪者を見るような目になっている。

そして更に涙を流すエフェルに魂魄魔法で精神力の回復・安定化を行う。

「却下だ、この駄竜が。著しく誤解を招くような発言をサラリとしてんじゃねえよ」

「な、なぜじゃ! 無茶な要求ではなかろう! あのときのように、黒くて硬くて太い棒で妾のお尻を貫いて欲しいだけじゃ! 早く抜いてと懇願する妾を無視して、何度もグリグリしたあのときのように! 情け容赦なく妾のお尻をいじめて欲しいだけなのじゃ!」

「だから! いちいち誤解を招く言い方してんじゃねぇよ!」

ハジメに向けられる眼差しが、どこか悪魔を見るような目になっていた。そして残念なことに事実である為にこの場にハジメの味方はいなかった。とはいえ、このままではエフェルの精神に影響が及ぶ可能性があるので浩二が口を挟む。

「二人の変態的プレイはともかくティオ、少しはエフェルのことも考えてやれ。お前のせいで号泣してるんだから。最近なんて胃薬まで服用しているんだぞ?」

「うぅ……」

「南雲もティオがこうなったのはお前なんだから甘んじて受け入れろ」

「ぐっ……」

「それができないのならできるまで説教するけど、どうする?」

エフェルを慰めながら凄みのある笑顔を向ける。その笑顔を見て幼馴染達は「あ、説教モードだ……」だと呟いた。経験したことのある幼馴染達からしたら雫の説教よりもきついようだ。

「……う、うむ。ご主人様よ。添い寝でどうかのぅ? 妾は未だ一度も、ご主人様のすぐ隣で眠ったことがないのじゃ」

「あ、ああ…それぐらいならお安い御用だ」

互いに妥協して頷き合いこの話は終った。今の浩二には逆らえないと本能が悟ったのだろう。浩二も二人を見て再びエフェルを慰めることに意識を向ける。

その光景に殆どの人が浩二に尊敬の眼差しを向ける。悪魔のようなハジメに反省という二文字を与えることができるのは浩二ぐらいだろう。しかし、それはそれとして自分の胸で美女を慰めている浩二に若干嫉妬と羨望の眼差しが強くなったが浩二はスルーする。

「……」

雫はそんな浩二をじっと見つめる。

浩二は変わった。それは浩二自身が言っていたことで雫から見ても浩二は変わっていると思っている。見た目や強さだけではなく雰囲気までも以前の浩二とは異なるところが多い。雫自身、再会した時は浩二だとはすぐに認識することができなかったぐらいだ。

(本当に変わったのね……)

改めて浩二の変化を実感する雫は複雑な心境になる。

「雫様」

「っ!? ティニアさん……?」

不意に耳元で囁くように呼ばれた雫は驚く。そしてティニアは雫に忠告する。

「雫様ももう少し我儘になるべきですよ。そんな貴女様を喜んで受け入れてくれる人がいるのですから」

「え? それはどういう……」

「急ぎませんと浩二様の‶特別〟の席を私が奪う、という意味です」

「!?」

それは忠告であり、宣戦布告でもあった。

浩二にとって‶特別〟は雫だ。だが、だからといってその席をティニアが諦めたわけではない。今でも虎視眈々と狙っている。だが、何も伝えずに一方的に奪うのは気が引けたら宣戦布告も兼ねて忠告したに過ぎない。

「ふふ。では失礼」

最後に少しだけ微笑みを残して浩二の元に戻るティニア。その微笑みは挑戦的な微笑みでもあり、私は貴女よりも浩二の傍にいるという余裕の表れでもある。

(雫様がご自身の気持ちに気づくかはどうかはわかりませんが、まぁ、その時は私が浩二様を貰うだけです)

ティニアは浩二が複数の女性と関係を結ぶことに関して否定しない。むしろ推奨する。浩二にはもっと大切な人を増やして欲しいとさえ願っている。だけど‶特別〟は違う。

雫が何もしなければ浩二の‶特別〟を自分が奪う。ただそれだけだ。これ以上わざわざ一番の恋敵(ライバル)に手を貸す理由はない。所詮はその程度だったと見切りをつけるだけだ。

 


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