ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公16

ハジメ達と王都を出る前に浩二はある場所へ足を運んでいた。

王宮の敷地内にある【神山】の岩壁を利用して作られた巨大な忠霊塔。その忠霊塔には今回の騒動で亡くなった多くの人々の遺品や献花が置かれている。

未だ、戦死者の確認中で忠霊塔に名は刻まれていないが、メルド団長もここに名を連ねることになる。浩二は花束を献花台に置いて両手を合わせる。

今の浩二の胸に渦巻くのは悔恨と自責の念。もしかしたらメルドを含めて多くの人が死なずに済んだかもしれないという‶IF〟の考え。恵理のことを誰かに話していたら、メルドに忠告していたら、自分が王宮に残っていたら何かが変わっていたかもしれない。もちろんそれは全て‶IF〟でありもう変えることのできない過去である。今更後悔しようとも自責の念に苛まれようともどうすることもできない。

出来ることと言えばこうして冥府へ旅立った者達に冥福を祈ることぐらいだ。

「……」

数分後、浩二は祈りを捧げると何も告げることなく踵を返した。

悔恨も自責も後悔もある。だけど、いや、だからこそここで足を止めるわけにはいかない。まだやるべきことが残っている。守るべき人がいる。その為にも浩二は今よりも強くならなければいけない。

少なくとも今は過去に振り返る余裕はない。

浩二はハジメ達がいる場所に向かう道中で愛子と‶投術師〟の園部優花と遭遇した。

「先生、それに園部も……どうした?」

一瞬、浩二と同じ墓参りかと思えば二人の表情からそれは違うと察した浩二は尋ねると愛子が口を開いた。

「平野くん、残って貰えないでしょうか……? 王都にはまだ平野くんのような人が必要なんです」

ハジメ達と共に大迷宮攻略を目指すのではなく、愛子は浩二に優花や永山パーティーと共に残って貰えないかと懇願した。その懇願に一瞬驚くも浩二はすぐに愛子の意図を察した。

もちろん王都復興の為に王都に住む人々の為に天職が‶医療師〟である浩二に残って欲しいという期待もあるのだろう。だがそれ以上に愛子は浩二を心配してくれている。

魔人族を殺して一人王都を去った浩二。愛子はそのことに何の力にもなれなかったことに後悔していた。だから今度は生徒である浩二を支えたいと思い、王都に残って貰えるように懇願している。

それは間違いなく浩二の為を思っての懇願だろう。だけど浩二の答えは変わらない。

「すみません。それはできません」

浩二はその懇願を断った。

「王都復興の為にも医者は必要だとは思います。ですが、南雲達が向かう大迷宮は誰が死んでもおかしくはない危険な場所です。あいつらの為にも、そして俺自身の為にも俺は行きます」

「そう、ですか……」

浩二の意思の固さは本物だとわかると愛子は肩を落とす。先生として生徒の力になれないことに少なからずのショックがあるのだろう。それには申し訳ないとは思うも浩二にも譲れないことがある。

そこに優花が……。

「平野くん。その、ありがとね。私達のことを守ってくれて」

「……何の話だ?」

「あの後、先生から聞いたんだけど平野くん、戦争に参加させようと催促してくる聖教協会から戦えなくなった私達を守ってくれていたって」

「ああ、だけどそれは先生も同じだろ?」

「それでも薬も作ってくれたし、支えてくれた。だから私達はもう大丈夫。代わりに南雲達のことをお願い」

「……ああ、任せろ」

もう大丈夫だとその顔は告げていた。それならもう優花達に医者は必要ない。浩二は二人と話を終えて廊下を歩いていると。

「平野」

「永山……それに野村も……」

今度は永山パーティーと遭遇した。よく遭遇するなと思っていると突然永山達は浩二に頭を下げてきた。

「すまない。助けてくれたのにお前を避けるようなことをしてしまった。どうか謝らせてくれ」

永山達は魔人族の女を殺した浩二とどう接すればいいのかわからずに避けるように距離を取っていた。永山達はそのことに謝罪を口にする。

「別に気にしてないから安心しろ。いきなりあんなところをみたら誰だってどうすればいいかわからなくなるのは当然だ。永山達は当然の反応をしただけだから気にするな」

「……すまない。ありがとう」

謝罪と感謝の言葉を口にする永山。浩二は律儀だなと思いながら足を動かそうとした時、永山が口を開いた。

「……平野。お前にこんなことを頼むのはどうかとは思うが、天之河に代わって俺達のリーダーを務めてくれないだろうか?」

「え?」

それを聞いて浩二は思わず足を止める。すると永山に続けて野村が言う。

「お前の事を避けていた俺達がこんなことを言うのもどうかとは思ってる。けど俺達はもう天之河と一緒には戦いたくねぇ」

「平野くんが私達の事をよく思っていないかもしれないし、私達がこんなことを言うのも嫌なのかもしれない」

「それでも私達は話し合って決めたの。あの時、誰よりも戦う覚悟を抱いていた平野くんにリーダーをお願いしようって」

それが永山パーティーが話し合って決めた結論だ。

光輝とはもう共に戦いたくない永山パーティー。だけど自分達だけでは難しいこともある。だから自分達を引っ張ってくれるリーダー的存在が永山パーティーには必要だった。それで話し合いの末に浩二が選ばれた。

「できることなら王都に残って欲しいが、無理強いはしない。いざという時に天之河の代わりに戦闘の指揮を平野に任せたい。お前なら俺達も安心して戦える」

元々後方支援で天職が‶医療師〟である浩二。それに勇者パーティーにいたころは中衛も務めていて魔人族の女との戦闘の際は的確な指示を出して撤退した。無謀にもその場で魔人族の女を倒そうとしていた光輝とは違って浩二なら自分達の命を預けられるとそう判断して。

だから浩二は永山達に言った。

「悪いけど、それはできない」

申し訳なさそうに浩二は永山達のリーダーになることを断った。

「皆が光輝のことを信用できないのはよくわかる。あいつは現実に目を向けずに理想にしか目に向けないクソガキで変に高スペックでカリスマ性もあるから自分の正しさを疑うことをしなくなった甘ったれだけど」

いや、そこまで思ってない。と永山達は思った。

もしかしたら光輝に対して一番色々と溜め込んでいるのは浩二なのかもしれない。

「だけど、正しくあろうとするあいつの心は何も間違っていない。現実がどういうものなのかを知らずに育っただけのただの無知な子供なんだ」

まるで出来の悪い息子を持つ父親のように肩を竦めながら浩二は言う。

「子供のように癇癪を起こす光輝のことが信用できないのはわかる。その上で言わせてくれ。もう少しだけあの馬鹿(こうき)のことを信じてやって欲しい。頼む」

頭を下げて永山達にそう頼み込む。それには流石の永山達も驚きを隠せれなかった。

「あの馬鹿(こうき)は俺がきちんと矯正させる。だから少しでいい、光輝のことを信じてやってくれ。それでも駄目だったら俺が責任を取ってリーダーを引き受ける」

そう頼み込む浩二に動揺を見せる野村達だが、永山が浩二の頭を上げさせた。

「わかった。平野がそこまで言うのならもう少しだけ天之河のことを信じよう」

「……ありがとう」

どうにか永山達から光輝の信頼を失うことがなくなったことに安堵する。するとそこに香織が現れる。

「浩二くん! そろそろ行くってハジメくんが言ってるよ!」

「わかった! すぐ行く! というわけでこの事を遠藤にも伝えておいてくれ」

そう言って香織と共にハジメ達がいるところに向かう浩二は気付かなかった。遠藤は初めから永山達のすぐ傍にいたということに。

「俺、いるのに……」

遠藤の目から涙がほろりと落ちた。

 


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