ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公20

【ヘルシャー帝国】は数百年前の大戦で活躍した傭兵団が設立した新興の国で、実力至上主義を掲げる軍事国家だ。帝都民の多くも戦いを生業としており、よく言えば剛気、悪く言えば粗野の気質だ。帝都内には大陸最大規模の闘技場などもあって、年に何度も種類の違う催しがなされ大いに盛り上がっている。

その【ヘルシャー帝国】の皇帝の座にいるのがガハルド・D・ヘルシャーその人だ。そして謁見の部屋で現在、皇帝陛下とリリアーナ姫殿下が魔人族による被害の詳細やこの世界の真実。そしてこれから連携について語り合っている。国のこれからのことについての大事な語り合いの邪魔にならないように浩二達は近くの部屋で待機しようとしていたのだが……。

「あの、これはどういうことでしょうか?」

帝城に到着して馬車に降りるとすぐにドレス型の甲冑を身に付けてミディアムの金髪と碧眼をした女性に訓練場と思われる場所まで連れてこられた。突然のことに戸惑いながらも好戦的な意志はあるものも殺意などは感じられないからティニア達を控えさせている。すると女性は好戦的な笑みを浮かべながら口を開いた。

「貴方、皇帝陛下に勝利したようですわね」

「はぁ、失礼ですがどちら様で……?」

やや吊り気味な碧眼で浩二を見据えながらそう言ってくる女性に浩二は戸惑いながら名を尋ねた。そこで初めて女性は名乗る。

「これは失礼しましたわ。私はレイナ・デューク。一応この国の令嬢ですわ」

「そのような高貴なる身分の方がいったいどのようなご用件で私をここに?」

「それはもちろん、我等が皇帝陛下に勝利した貴方に興味があってですわ。是非とも一手お手合わせをお願いしますわね」

ニコリと淑女のように品性のある笑みを浮かべながら細剣(レイピア)を構えるご令嬢。流石は実力至上主義を掲げる国のご令嬢なだけあって強者に目がないのか、戦わずにはいられないのだろう。

その瞳は自信に満ちていて己の実力に一切の疑いを持っていない。けれど慢心はしていない。笑みは浮かべているもののその瞳は浩二の一挙手一投足を見極めようとしている。

自分は誰にも負けない自信はあるけど慢心はしない。つまり僅かな油断すらも利用してくる最も油断できない相手ということだ。

「それに私自身、貴方に興味がありましたの。この帝国でも貴方の噂は結構耳にしますわ。とても素晴らしい腕の持ち主だと」

「恐縮です」

「ですので私が貴方に勝ったらこの国に仕えて欲しいのですわ。貴方専用の治療院の準備はできていますので」

(これ、絶対あの皇帝の仕業だな……)

まだ諦めていなかったのか、と内心嘆息する。

(どうやらこの勝負、勝っても負けても面倒事が起きるのは確定か……)

勝負の先を見据えた浩二は周囲を見渡してどうにかこの場から逃れようとも一考するも、既に兵士達が取り囲むように立っている。他にも手練れが数名、身を潜めているのがわかる。

(万が一に俺が帝国に来ることを予測……いや、俺を帝国に招いた時の事も想定して用意していたな、こりゃ……)

帝国に来ても、帝国に招かれてもこうするように画策していたのだろう。浩二を帝国に仕えさせる為に。

(用意周到なことで……)

もはや呆れよりも感心した。

(まぁ、でも勝負を申し込まれたら断るわけにもいかないよな……)

それはそれ、これはこれだ。

こうも真っ向から勝負を申し込まれたら断るのは気が引ける。

「失礼を承知でお聞きしますが、もしもこちらが勝てば?」

「ふふ、その時はとっておきのものをお渡ししますわ」

それを聞いて内心嘆息する浩二は刀は抜かずに八重樫流体術の構えを取る。

「……剣は抜きませんの?」

「必要ありませんから」

「言ってくれますわね……ッ」

ご令嬢の美しい顔が僅かに怒りで歪む。そしてご令嬢から審判役を任された兵士が開始の合図を送ったその瞬間、浩二はレイナの懐に潜り込んだ。

「え?」

すぐさま、ズドンとレイナの腹部に肘鉄が打ち込まれる。

「かはっ……」

「―――八重樫流体術 雷突」

開始速攻の一撃。打ち込みと同時に回復魔法をかけて傷も痣も残らず、痛みだけが残るという離れ業を密かに使用した浩二は衝撃と痛みで倒れそうになるレイナを支える。そして痛みが引いたレイナは顔を上げる。

「大丈夫ですか?」

少し困ったように心配そうに尋ねてくる浩二にレイナは手も足も出ずに敗北したことを悔やむも己の敗北を受け入れて自分の足で立ち上がる。

「……勝負は勝負。素直に敗北を認めますわ」

駄々を捏ねることなくすんなりと己の敗北を受け入れた。強さこそ至上の帝国の人間らしい振る舞いだ。するとレイナは頬を薄っすらと赤く染めながら咳払いして言う。

「コホン。貴方の実力はわかりましたわ。なるほど、流石は皇帝陛下に勝っただけのことはありますわ。まさか私が手も足も出ずに敗北するとは思いませんでした。魔法薬の腕前だけではなく実力もあるとは……」

「お褒めに預かり恐悦至極です」

「ええ、素直に敗北を受け入れて認めますわ。平野浩二様、貴方を私の夫に迎え入れましょう。デューク家の婿養子となって共に帝国に栄光と繁栄を築き上げましょう」

 

――――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

レイナの告白と同時に兵士達の新たな帝国人を迎え入れる歓迎の叫びが上がる。レイナは自分の告白に断るわけがないと信じて浩二に手を伸ばすのだが……。

「お断りさせて頂きます」

「……え?」

その手はピタリと止まり、静寂が訪れる。

歓迎の叫びが嘘のように静まり、静寂に包まれるなか、レイナは自分がフラれるとは思っていなかったのか笑顔のまま硬直するもすぐに硬直を解いて浩二に問いかける。

「な、何故!? 私の夫になるのですわよ!? 地位も権力も約束されておりますのに何故断るのですか!? それとも私に何かご不満でも!?」

納得できないと言わんばかりに叫ぶご令嬢に浩二は宥めながら言う。

「落ち着いてください。別に貴女に不満があるというわけではありません」

レイナはご令嬢ということだけあって誰が見ても容姿端麗の美少女だ。普通はそんな美少女に告白されたら二つ返事で了承するだろう。だがしかし、浩二には既に心底惚れている女と自分を慕ってくれる人達がいる。

「私は地位や権力には興味はありません。そして私には既に惚れさせるべき‶特別〟な人と‶大切〟な人達がいるので申し訳ございませんが断らせて頂きます」

ましてやそれが皇帝陛下の画策なら余計だ。勝負に勝っても負けても浩二を帝国に仕えさせようという魂胆が見え見えだ。とはいえ、大勢のいる前で告白してきた女性を無下に扱うのは酷というもの。浩二は正直な気持ちで答えた上で丁重に断った。

するとレイナは顔を真っ赤に染めて全身を震わせている。

「ふふ……ふふふ……。ここまでこけにされたのは生まれて初めてですわ……ッ」

レイナは自身に泥を塗った浩二にビシッ! と指を突きつける。

「宣戦布告ですわ! 私はありとあらゆる手段を用いて貴方を惚れさせてみせますわ! ええ、してみせますとも! そして私をフッたことを後悔させてあげますのでお覚悟を!!」

どうやら浩二はご令嬢の魂に火をつけてしまった。もしかしたらガハルドはこのことも見越してレイナを浩二に差し向けて戦わせたのかもしれない。

「ではまずは帝都を私が直々にご案内しますわ! まさか、女性からの誘いまでも断るなどという無粋な真似はしませんわよね?」

「……まぁ、それぐらいでしたら」

「誰か馬車の用意を! それと平野浩二様、私のことはレイナとお呼びくださいませ。私も浩二と呼ばせて頂きますので。それと敬語も不要ですわ」

「……わかったよ、レイナ。それと俺の仲間も一緒でいいか?」

「……二人っきりがベストなのですが、まぁいいでしょう。同乗を許可します」

こうして浩二達は帝国の令嬢に案内されながら帝都を観光するのであった。

 

 


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