帝城に到着するなり、帝国の令嬢であるレイナと戦わせられてレイナに勝利したら夫になれと告白された。浩二はそれを丁重に断るも逆効果であり、レイナは意地でも浩二を惚れさせようと躍起になり、早速(ティニア達込みの)デートで帝都を回った。
バスガイドのようなレイナの案内のおかげで割と満足いく帝都巡りができた浩二達は今度こそ帝城の城内に入れた。
『私の屋敷に来れば盛大にお祝いしますわよ?』
レイナにそう誘われた浩二だったがそれは頑なに断った。わざわざ相手の有利な
ないとは願いたいが、既成事実なんてことをされたら浩二はレイナの家族とその関係者の記憶を改竄して回らなければいけない。
そして城内に入れた浩二達は使用人の案内でリリアーナがいる部屋に訪れた。
「皆さん、お帰りなさい。それと浩二さん、お疲れ様です……」
部屋に入って最初に訪れたのは同情がたっぷり込められた眼差しで出迎えの言葉を送ってくれたリリアーナだった。どうやら何があったのかガハルドから聞いているようだ。
「……ありがとう、と言えばいいのか? それともただいまか? まぁとにかく王女様、ただいま戻りました。糞、いえ、皇帝との協議の方はいかがでしたか?」
「はい。そのことについて浩二さんにもお話があります」
ソファに腰を掛けてリリアーナは皇帝との間で決めた話し合いの内容について語る。魔人族の侵攻や恵理の裏切り、王国の被害そしてこの世界の真実やその他諸々を話してハジメと浩二のことについてもリリアーナはガハルドに少し話した。既に知っている浩二はともかくハジメのことについては流石のガハルドも冗談だと信じたかったようだ。
だが、大切なのはこれから。
魔人族に備えた支援や今後の連携。それと対外的に関係強化を示すことでリリアーナは皇太子と婚約話をまとめ、帝都でそれを発表する。とはいえ、すぐに帝国に輿入れは不可能なので王国が落ち着いたら改めて輿入れする。
俗に言う。政略結婚という政治的やり取りの一つだ。
「……そうですか」
それに対しての浩二の返答はそれだけだ。
何故ならそれは王族として生きる者の果たさなければならない義務だからだ。リリアーナもそれを承知している。それをこの世界の人間ではない浩二が口を挟むべきことではない。
「……それで陛下は浩二さんを手に入れようとデューク家のご令嬢を差し向けたようですが」
「ええ、まさに今、困っていますよ」
女性をコレクションのように言うのも気が引けるが浩二はこれ以上増やすつもりはない。だけど自身を自尊心を傷つけられたレイナは宣戦布告通り、あらゆる手段を使って浩二を惚れさせようとしてくるだろう。
ブルリ、と悪寒が走る。
(本当に去勢してやろうか、あの野郎……)
今なら何の副作用もなく去勢することができる浩二は割と本気で考えた。皇帝から女帝にしてやろうかと。
「浩二さん。何を考えているのかわかりませんが一応言います。やめてください」
どうやら王女様には人の心を読む技能が備わっているようだ。
「いえ、香織と雫から浩二さんが人の顔とは思えない邪悪に満ちた笑みを浮かべていたらろくでもないことを考えていると聞いているので」
流石は幼馴染。浩二の事を良く知っている。
「というよりもどうして陛下に対して浩二さんはそんなにも辛辣なのですか?」
「あいつは雫を愛人にしようとした。つまり、俺の敵、いや、怨敵だ」
以前に雫を愛人にしようとしたことをまだ根に持っているようだ。
「やはり、浩二さんにとって雫は‶特別〟なお方なのですね……」
王都に戻ってきてからの浩二と雫の様子を見ていたリリアーナは薄々そうではないかと思っていた。
「ということはデューク家のご令嬢とは……」
「断る一択ですよ。そもそも俺はティニア達と一緒に元の世界に帰るつもりですし、例え帰れなかったとしても帝国に仕える気はありません。この国で生活しようとも思えませんし」
今日の観光であちらこちらと見て回って住みたいとは思えないほどの粗野な人達が多い。
「帰れなかったら場合は王都で病院、医療院でも建ててそこで医者として生活しようとは思ってます」
(まぁ、帰れないなんてことはないだろうけど……)
それでも万が一の事も考えておく。
「まぁ、俺の事はいいです。どうせレイナがどんな手段を使っても断り続けるだけですし、あの糞、皇帝陛下の思惑通りになるのも癇に障りますから」
どうやら浩二はとことん皇帝陛下が嫌いなようだ。
「それよりも俺達にも何か手伝えることはありますか? 色々とやることもあるでしょう? 皇帝暗殺ならぬ皇帝去勢なら今すぐにでも実行可能ですよ? 王女様」
「やらないでくださいね? いいですか? 絶対にやらないでくださいね? ……ってなんですか!? その不満そうな顔は!? どれだけ去勢させたいんですか!?」
「皇帝が女帝になるまで」
「浩二さんもなにもしなくて結構ですから変な行動だけは起こさないでくださいね!! いいですか!?」
「保証はしません」
「素直に‶はい〟って言いなさい!!」
「王女様、夜中に大声をあげるのはマナー違反ですよ?」
「誰のせいですか!? 誰の!?」
声を荒げるリリアーナ。そして浩二達はヘリーナによって丁重に部屋から追い出されて浩二達は用意されている部屋に向かう道中でティニアが浩二に尋ねた。
「浩二様。どうしてリリアーナ姫殿下を怒らせるようなことを?」
「少しでも感情を吐き出せばスッキリするだろ? 王女だからって色々溜め込み過ぎなんだよ、あの王女様は」
ティニアは浩二がわざとリリアーナに大声を上げさせるように仕向けた。溜め込んでいるものを声と一緒に吐き出させる為に。
「ティニア。お前なら自然に王女様の傍にいられるだろう? 色々と手助けしてやってくれ。何かあれば南雲から貰った念話石で報告を頼む」
「かしこまりました」
「エフェルとイリエは俺の傍にいてくれ。レイナと二人っきりは避けたい」
「わかりました」
「わかった」
今後どうするかを決めて浩二達も用意されている部屋に入って身体を休ませる。
帝都に訪れた次の日。
「さぁ、始めますわよ」
浩二はまたしてもレイナによって訓練場に連れて来られた。
「……始めるってまた勝負か?」
昨日に続いて今日もまた勝負? 流石に一日二日で勝てるような相手ではないことぐらいほど愚かではない筈だ。するとレイナは言う。
「それは勿論ですわ。負けっぱなしは性に合いませんし、私はこう見えてとても負けず嫌いですので」
オホホ、と笑うレイナだけどその目は笑っていなかった。
「実力差がわからないわけないだろ? 俺とお前とでは――」
「勝負にもならないとでも仰りたいので? そんなことは百も承知ですわ。ですがそれほどまでの強者を前にして喜ばない帝国人はおりませんことよ? それも私の将来の夫となるのならその強さをもっと知りたいと思うのも当然のことではありまして? それならば私は何度でも挑み続けますわ」
強者との戦いを喜び、挑み続けるのもレイナが帝国人だからだろう。浩二も武術を身に付けている端くれとしてその気持ちはわからなくはないのだが……。
「……あのな、俺はお前の夫になるつもりはないし、この帝国に長く滞在する予定もないぞ」
早くても数日、長くても一週間以内に浩二達は帝国を去る予定だ。そして帝国に来る日はもうないと言っていいだろう。だからいくら挑まれても限度があるし、その間でレイナが浩二を惚れさせるのも不可能に近い。するとレイナはあっけらかんと言う。
「それでしたら心配無用ですわ。私は貴方のパーティーに入って行動を共にしますので」
「はぁ? 何を勝手に……」
「断られても勝手について行きますわよ。どこへでも」
「……」
浩二は悟る。あの目はマジだと。
「……ついてきたとしても今のお前の実力じゃ死ぬかもしれないほどの危険な旅だぞ? それでも俺に挑む為だけについてくるのか? それともそこまでして俺を惚れさせたいのか? この際だからハッキリ言うぞ? 俺はお前の夫にはならないし、お前がついて来てもお荷物の上に迷惑だ。俺の事を諦めて帝国にいろ」
浩二が帝国にいる間は挑み続けるのはまだいい。その間、惚れさせようとあの手この手を使ってくるのも容認する。しかし旅についてくるとなれば話が変わる。確かにレイナは強いが、それはこの世界の人間を基準にすればの話で大迷宮に挑戦できるほどではない。だから諦めて帝国にいろと浩二は告げるも……。
「嫌ですわ」
レイナはそれを拒絶した。
「諦めろと言われて諦めるほど私は大人ではありませんの。それに弱ければ強くなればいいだけではありまして?」
「それはまぁそうだが……」
「それと浩二は一つ勘違いなされているようですけど、私は貴方に意見など求めてはいませんわ。私がそうしたいからそうするだけの話ですわ」
なんて自分勝手な……。
「それに実のところ私はあまり物事には執着しない性格なのですが、不思議なことに貴方に敗れてからというもの胸が熱くなって頭から貴方のことが離れませんの」
レイナは自身の胸元に手を当てる。
「この焦がれる想いが愛だというのであれば光栄に思ってください。私が一人の殿方にここまで
「誰が取るか!」
「あら、いけず。それならば私を諦めさせてくださいまし。いつまでも、どこまでも私は何度でも貴方に
その碧眼はもはや一種の狂気を感じた浩二は思わず引いた。
どうやら浩二がレイナの中に眠る目覚めてはいけない何かを目覚めさせてしまったようだ。だがしかし、ここで折れる浩二ではない。
「……いいだろう。その
ここで逃げれば男が廃る。その
「さぁ、私達の
こうして二人の