ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公27

全ての光が消え失せ、会場は闇に呑み込まれた。

一瞬で五感の一つを奪われた帝国貴族達が、混乱と動揺に声を震わせながら怒声を上げたり、比較的冷静だった者達が指示を出しながら魔法で灯りを確保しようとするも闇に乗じてハウリア族が強襲してくる。

そんな闇の中で浩二の瞳はハウリア族達が見えている。

「浩二様。リリアーナ姫殿下の保護に動いても」

「大丈夫だとは思うけど、頼む」

ハウリア族がリリアーナに危害を加えることはないとは思うも念のためにリリアーナを保護に向かうティニア。天職が‶探索者〟であるティニアからすれば暗闇だろうとも乱戦だろうとも関係なくリリアーナの元に辿り着いて保護できるだろう。

「落ち着けぇ! 貴様等それでも帝国人かっ!」

暗闇の中、ガハルドの覇気に満ちた声が響き渡る。

闇夜を払拭しそうなほど大音量の喝は、暗闇と悲鳴の連鎖で恐怖に陥りかけた帝国貴族達の精神を強制的に立て直した。流石は実力至上主義を掲げる国の皇帝にいるだけはある。

しかし、そんなガハルドに矢が強襲する。それも驚くほどの速度と威力を秘めた上に実に嫌らしい位置を狙って正確無比に間断なく撃ち込まれているので、さしものガハルドも防戦一方に追い込まれてしまった。

それでも真っ暗闇の中、風切り音だけで矢の位置を掴み、儀礼剣だけで捌いているのは流石というべきだろう。しかし、そこにやけに股間に集中して飛んでくるナイフやフォークがあるのは何故だろうか? それもハウリア族の動きを一切阻害することなく神業レベルまでの正確無比な精密性を発揮している。

「旦那様。先ほどから何をなされているのですか?」

「何もしてないよ」

暗闇なのにさっと視線を逸らしながらそう答える。

断じてハウリア族の強襲と暗闇に乗じてガハルドを不能にしようとは企んでいない。

次々と上がる悲鳴と、物や人が倒れる音が響く中、ようやく冷静さを取り戻した幾人かの者達が灯りとして火球を作り出すことに成功した。反撃に入ろうとする帝国人だが、その結果首が宙を舞った。

死神の鎌に等しい暗闇と襲撃者の存在に帝国人、令嬢や文官それと前線から引いて贅沢の極みを尽くしてきた元軍の将校達は一人の例外もなく、何もできないまま、そしてしないまま、音もなく肉薄した黒装束に手足の腱を切られて、痛みにのたうちながら倒れ伏すことになったのだが……。

「暗闇と共に強襲とは随分と楽しませてくれますわね!」

ガハルドやその側近達や近衛達を除いて貴族のなかには例外がいた。レイナだ。ドレスの内側にでも隠し持っていたのか、短剣で暗闇と共に帝国人達を倒していくハウリア族の攻撃を凌いでいる。

気配を殺して、連携を駆使して攻めるもレイナは倒れない。むしろ、もうそんなもの慣れたといわんばかりにハウリア族に攻撃を当て始めている。

(うわぁ、あいつマジかよ……)

皇帝陛下達でさえ防戦一方だというのにもう反撃している。いくらガハルド達よりもレイナを狙っているハウリア族の数が少ないとはいえ、これは浩二さんも引いた。

そこにハジメから念話が届いた。

『おい、あいつどうなってやがる?』

流石のハジメも驚きを隠せないでいる。

『知らん。あいつがおかしいだけだ』

浩二さんは正直な気持ちで答えた。

『あいつらの攻撃は確かに当たっているんだが、全然怯まねぇ……。むしろ攻撃を受けて笑っているぞ。変態(ティオ)の同類か?』

ハジメの言う通り、ハウリア族の攻撃は当たっている。だが通じていない。その理由はレイナの持つ技能にある‶物理耐性〟の派生技能である‶金剛〟を使って防いでいるからだ。

『……違うと言いたい』

浩二は本気でそう言いたかった。しかし、「ホホホホホホ!」という愉快な笑い声が聞こえてくる。

「この程度、浩二との勝負(デート)に比べたらたいしたことありませんわねぇ! 浩二はもっと強く、激しかったですわよ!!」

『おい、元凶』

浩二は耳を塞いだ。暗闇だというのに光輝達からジ~と視線を向けられている気がする。‶お前の仕業か!?〟という無言の圧力まで伝わってくる。

そんなレイナの活躍? もあってかガハルド達は十個近い《炎弾》を作り出して闇を払い始めて反撃を開始しようとするも目の前に転がってくる金属塊がカッ! と光が爆ぜ、キィイイイイン! と耳を裂く爆音が周囲を無差別に蹂躙する。あまりの不意打ちにガハルド達は一時的に視力と聴力を失うことになった。

そして、その絶好のチャンスを襲撃者たるハウリア族が見逃すはずもない。

絶妙なタイミングで窮迫した黒装束のハウリア族が、極限の気配殺しで標的の懐に踏み込む。そして、漆黒の小太刀を一閃、二閃。それによる近衛達の手足の腱はあっさり切り裂かれてしまった。

激痛な痛みに悲鳴を上げて倒れ伏す近衛達の口にナイフを突き込ませて舌を裂き、詠唱を封じる。離れた位置でも同じように、反撃しようとしていた者は容赦なく首を飛ばされている。

そんな中、ガハルドそしてレイナはハウリア族の斬撃を凌いでいた。目も耳も潰された状態で、極限まで気配を殺したハウリア族の斬撃からだ。これは襲撃者であるハウリア族も驚きをあらわにした。

ガハルドはまだいい。驚きはするもまだ納得できる。しかし、ハウリア族にとってもハジメ達にとってもレイナの存在は予想外だ。まさかここまで耐えるとは。

それもそれも全ては浩二の仕業(おかげ)だ。

反撃するガハルド。目も耳も使えない状態で正確な斬撃を繰り出し、ハウリア族を吹き飛ばし、迫りくる矢を‶風壁〟で防いで‶炎弾〟で矢の射線に沿って一斉に掃射する。

魔法の発動速度も威力も尋常ではなく、気配を殺して近づいても何故か気がつく。鞭のようにしなる剣劇には防御が精一杯。そんなガハルドにハウリア族は戦慄が湧き上がる。これが軍事国家の頭。力こそ全てと豪語する戦闘者たちの王。

そしてもう一人……。

「まだパーティーは終わっていませんわよぉ!」

ある意味、浩二の手によって魔改造されたレイナはガハルド同様に目も耳も潰された状態だというのにハウリア族に攻撃を当てている。ハウリア族の攻撃は当たるも刃は通らず、むしろ当たった瞬間にレイナはそれを頼りにハウリア族の攻撃している。視覚と聴覚が駄目なら触覚でどうだと言わんばかりだ。

おまけに……。

「パターンも読めてきましたわ」

今度はハウリア族が攻撃を仕掛けようと動いた瞬間にレイナはそこに短剣を振るう。背後から襲撃するハウリア族の刃をひらりと躱して飛んでくる矢も見えているかのように素手で取る。

どこから、どのように、どんな攻撃がくるのかハウリア族の攻撃パターンを先読みするかのように動き出す。おまけにハウリア族の攻撃は通らないほどの鉄壁の防御力。

そんな二人の実力を実感したハウリア族は……

「上等」

「なます斬りにしてやる」

萎縮するどころか誰もがその口元に凄惨な笑みを浮かべた。覆面の隙間から覗く瞳はギラギラと獰猛に輝き、一人一人から濃密な殺気が噴き出す。

四方八方からヒット&アウェイを基本とした絶技と言っても過言ではないレベルの連携攻撃が二人に殺到する。

「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか! なぁ、ハウリアぁ!」

「ふふ、いい殺気ですわ! ゾクゾクしますわね!」

ここで心の底から笑う二人はまさに帝国人。おまけに襲撃者はとっくにハウリア族だとばれていたようだ。

「あぁ? ビビッて声も出せねぇのか!?」

言葉からして、やはり、魔法のおかげで聴力だけは少し回復しているらしい。そのガハルドの叫びに、一際強烈な殺気を振りまくハウリア―――カムが小太刀の二刀を振るいながら、その溢れ出る殺意とは裏腹に無機質な声をポツリと返した。

「戦場に言葉は無粋。切り抜けてみろ」

「ハッ、上等だ」

暗闇に火花が舞い散り、更に激しさを増す剣戟は嵐の如く。それを聞いたレイナはほくそ笑む。

「あらあら、皇帝陛下は楽しそうですわね」

「それなら私達が楽しませてあげるわ」

「ええ、よろしくお願いしますわ」

そんなレイナにハウリア族――‶疾影のラナインフェリナ〟、ラナに続くハウリア族の女性陣がレイナと激しい剣の舞踏会が開かれる。

ガハルドとレイナが単体戦力では圧倒。しかし、ハウリア族は群体戦力。両者の力は拮抗し、互いに決定打が打てない千日手状態。

数十秒か、数分か……。

会場で、意識はあるものの口も手足も切り裂かれて苦悶に表情を歪める者達は、なぜ外から誰も駆け付けないのかと苛立ちながらも自分達の王の勝利を祈る。

だが同時に、襲撃者が兎人族であるというあり得ない事態に、その未知に、恐怖に慄く体を止められずにいた。

と、その時、彼等の期待を裏切るように事態が動いた。

「ッ! なんだっ? 体がっ」

ガハルドが突如ふらつき始め、急速にその動きを鈍らせたのである。「待ってましたぁ!」と言わんばかりに、四方八方からハウリア族が飛びかかった。

それからはあっという間だ。ガハルドは隠し持っていた魔法陣やアーティファクトを破壊または弾き飛ばされ、腕と足に矢が突き立つ。迸る激痛。悲鳴こそ上げなかったが、その体は意志に反してゆっくりと傾いて……ガハルドは倒れ伏した。ヘルシャー帝国皇帝陛下の敗北。その事実は、帝国人から言葉あるいは思考自体を奪うには十分過ぎる衝撃だったのだが……。

「あらあら、皇帝陛下。負けましたのね」

レイナだけはまだ交戦中だった。それも自分の国の皇帝が倒されたというのに平然としている。

「なんで……ッ!?」

平然と動いていられるのか? ガハルドが突如ふらつき始めた理由を知っているハウリア族だからこそ驚愕を隠せない。何故ならハウリア族は魔物用の麻痺毒を散布していたからだ。それが原因でガハルドは倒された。

しかし、皇帝陛下でもなければ王族でもない帝国の令嬢であるレイナがまだ戦っていることに驚くなと言う方が無理かもしれない。そんなラナの驚愕を察したのかレイナは言う。

「ああ、もしかして毒でも散布されていまして? それならお生憎様。私に毒は効きませんわ。浩二との勝負(デート)で‶状態異常耐性〟に‶毒無効〟の派生技能が目覚めましたので」

浩二との勝負(デート)。それはレイナにとって多くの壁を越える結果を生み出した。それこそ、浩二を逃がさない、私のモノにするという執念()が為せる偉業。

レイナは止まらない。それこそ浩二を我がモノにするまでは。

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴、大地が産みし魔眼の主―――」

レイナが詠唱を始めた。

その詠唱を聞いたガハルドは目を見開いた。

「止せ! 動けない奴等まで石化させる気か!?」

レイナが唱えているのは土属性上級攻撃魔法‶落牢〟。石化する灰色の煙を撒き散らす魔法だ。ほんの僅かでも触れれば、そこから徐々に浸食され石化してしまう魔法だ。確かに一対多数ならこの密閉された空間では有効な魔法ではあるが、それはハウリア族だけではないハウリア族によってその場から動けないガハルドも含めた帝国人まで石化させてしまう。

「宿るは暗闇見通し射抜く呪い、もたらすは永久不変の闇牢獄」

しかし、レイナの詠唱は止まらない。皇帝陛下であるガハルドの言葉を無視して詠唱を続ける。まるで敗北した弱者の言葉に耳を傾ける価値すらないかのように。

「恐怖も絶望も悲嘆もなく、その眼を以て己が敵の全てを閉じる」

その詠唱を止めようとカム達は一斉に動き出す。一つの生き物のように連携を駆使してレイナの首を飛ばそうとするもレイナは倒れない。

「残るは終焉。物言わぬ冷たき彫像。ならば、ものみな砕いて大地へ還せ」

そうして詠唱が完了してしまった。

ハジメ達や浩二達。そして土属性に耐性を持つ者はまだ大丈夫だろう。だが、そうでもない人達は物言わぬ石像へと変えてしまう。レイナはハウリア族を倒す為に帝国人すらを巻き込んだ魔法を発動する。

「‶落牢〟!」

詠唱は完了した。それと同時にハウリア族は詠唱を阻止できなかったことを悔やみながら即座に撤退を選択。ガハルドを含めた帝国人は顔を青くするのだが……。

「あら?」

本来、レイナの手から石化させる灰色の煙が出るのだが、どういうことか魔法が発動しなかった。確かに詠唱してその分の魔力も消費した筈なのにどういうわけか魔法が発動しない。それどころか‶落牢〟に魔力を使った為にもう‶金剛〟を維持するだけの魔力も残されていない。

ハウリア族はそのチャンスを逃さない。魔力による強化外装である‶金剛〟が消えた今ならレイナの身体に刃が通る。迫りくるハウリア族にレイナは小さく溜息を零した。

「まったく無粋な人……」

呆れるように、仕方がないかのように、それでも余計な手出しをしたことに少し腹を立てながら魔法を発動させなかった人がいた方向に視線を向けたレイナはその身を切り刻まれる。そしてカムがレイナの首を斬り飛ばそうと刃を一閃する。

「そこまでだ」

だが、その刃を受け止めた者がいた。

血塗れのレイナを抱えてカムの刃を防いだ浩二はハウリア族に告げる。

「皇帝が倒れた今、もうお前等の戦いは終わったはずだ。これ以上の血を流すのなら俺が相手になる」

「……いいだろう」

カム達は武器を収めた。それは浩二の言うことも一理あって浩二が娘のシアと自分達が祟拝しているハジメの友人でもあるからだ。戦いが終わった今、どうしてもレイナを殺す必要はない。

なにより、カム達は気付いている。浩二が先ほどのレイナの魔法からこの場にいる者達を守ったことを。そして悟った。自分達では浩二には勝てないという事実を。故にカム達は武器を収めたのだ。

ハジメ達にとって予想外な展開もあったが、これで帝国は最弱種族によって落とされた。

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