ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公29

ハウリア族が帝国に勝利を収めて帝国にいる亜人奴隷達は全て解放されることになった。そして浩二は亜人奴隷達の治療を終えてハジメ達の下へ足を動かそうとした際に恵理が浩二の前に姿を現した。

「まさかこんなところで再会するとはな……」

浩二はそう口にするも内心は疑問が尽きなかった。

(どうして恵理がここにいる……?)

本来なら恵理はここにはいない。魔人族の国である【ガーランド】にいる筈だ。そこで戦力増強、原作で出てきた屍獣兵を育てている筈だ。

なのに恵理はここにいる。浩二の前に姿を見せている。

本物か? と浩二は一瞬疑ったが紛れもない本物。共にこの世界に召喚された中村恵理本人だと理解した。

「……俺達のところに戻ってくる気になったのか?」

「まさか。僕は戻る気なんてないよ」

肩を竦めながらそう答える恵理の返答は予想通りであったために驚きはしない。しかし、それならばどうしてここに姿を現したのか? そう問いかけようとした時に恵理が浩二が出てきた治療院に目を向ける。

「ちょっと見てたよ。こっちの世界でも君のそういうところは変わらないよね。反吐が出るほどにお節介でお人好しで皆を裏切った僕がこうして姿を現しているのに捕まえようとしないもんね」

「捕まえて欲しいのなら捕まえてやるが?」

「冗談。その気もない癖によく言うよ」

ここで恵理を捕まえるのは簡単だ。二秒で捕縛、意識を奪うことが出来る。しかしここで恵理を捕まえれば王城で恵理を逃がした意味がなくなってしまう。だから恵理は浩二が無理に自身を捕まえる気はないことに気づいている。

「それならどうして俺の前に姿を現したんだ?」

わざわざ捕まるかもしれないリスクを犯してまで浩二に会いに来た恵理のその理由を問いかけると。

「浩二はさ、人間って自分勝手な生物だと思わない?」

前後のかみ合わない言葉に浩二は口を閉ざす。

「僕の母親も僕を犯そうとしたあの男も光輝くんも、自分の事だけで考えて気にくわなければ逆恨み。自分の都合しか考えない人間なんて酷く醜いよね。まぁ、今となっては僕も人の事は言えないけど」

「……そうだな。だけどそれも人間という生物だ。おかしなところはない」

「ハハ、人を殺すような危険な女にそんなことを言うのは浩二だけだよ」

「かもな……」

自分でも何を言っているのかという思う。

「僕が言えた義理じゃないけど君は変わってるよね。王国を裏切ってクラスメイトを殺した僕を逃がしただけでもおかしいのに、こうして会っても前と変わらない目で僕を見てくる。鈴とかなら面白いぐらいに驚くだろうに」

その様子が目に浮かぶとでも言わんばかりに告げる恵理だけどそれには浩二も同意見だ。

しかし―――

「鈴はお前の事を諦めていないぞ。もう一度話すんだって今も必死に努力している。お前の為に」

恵理と会って話をする為に鈴は今よりも強くなろうと努力、躍起になっている。

「無理だよ。あんな臆病者がいくら努力しても僕は止められないし、変わらない。それは元親友よりも君の方が知っているでしょう?」

「……そうだな。鈴、いや、俺でもお前を救うことはできない」

それはわかっていたことだ。だからこそ浩二は皆の前にこう告げたのだ。‶終わらせる〟と。‶助ける〟でも‶救う〟でもない。終わらせることが恵理にとっての最後の救済だ。何故なら恵理はもう……。

「自覚はしているよ。僕はとっくに壊れている。今の僕は中村恵理という形をした‶獣〟。疑心と猜疑心でいっぱいで誰も信用も信頼もせず、ただ内から溢れ出る衝動のままに動く獣同然の女だよ」

己を語る。

「それでもまだ僕が‶人間〟として呼べる部分があるとすればそれは君が懲りずに声をかけて来てくれたおかげかもね。だから、どうしても君にだけは伝えたかった」

「何をだ?」

尋ねる浩二に恵理は告げる。

「僕はこの世界を壊す。そして皆をお人形にする。その中で浩二、君だけは特別に可愛がってあげるよ」

歪んだ瞳と笑みと共に告げられる恐ろしくもおぞましい内容に浩二は言う。

「勧誘か告白でもされるかと思った……」

予想外と言わんばかりに少し驚いた顔をする浩二に恵理はハッと嗤う。

「僕が君に告白するわけないでしょう~。それに勧誘しても君が応じないのはわかっていることだしね~」

軽薄な声音でそう言い返す。

自分の告白にそう返してくるとは恵理も予想外なのだろう。

「まぁ、確かに。世界を壊すって言うのなら俺はそれを阻止する方に動くな。あと、人形にされるのも可愛がられるのも遠慮する。雫なら別に構わないけど」

「……もう自分の気持ちを隠すのは止めたんだ」

「ああ、色々と吹っ切れたからな」

「……そう」

恵理は踵を返して浩二に背を向ける。

「僕が言いたいのはそれだけ。次会う時は敵同士。その時は必ず僕の手で君を殺す」

「殺されるつもりはないからいつでもかかってこい。お前が納得できる答えを出すまで俺はお前を生かす。終わらせるのはお前が答えを出した後だ」

「……本当に君はお節介でお人好しだよ」

その言葉を最後に恵理はこの場を去っていく。浩二は今にも壊れそうなその小さな背が見えなくなるまで恵理を見送った。

 

 

 

 

魔人族の国【ガーランド】

その国の王城付近で大型の鳥の魔物の背から跳び降りる恵理。その恵理に近づく一人の男性。魔人族の軍部で最高司令官である将軍の地位にいるフリード・バグアーが歩み寄ってきた。

「恵理。どこへ行っていた? 独断行動は裏切り行為と―――」

「フリード。僕は今から大迷宮に挑みに行くから試作品をいくつか持って行くね」

フリードの言葉を遮るように告げられた恵理の言葉にフリードは思わず口を閉ざす。

「今のままじゃ駄目だ。もっと力が、神代魔法が僕には必要だ。ふふふ、待っていてね、浩二。僕は君が思っているほど甘い女じゃないってことを思い知らせてあげる……」

「……」

それは怨嗟や憎悪といった負の感情でもなければ愛情でも物欲のような欲望でもない。なんとも形容しがたい恵理の表情にフリードは顔を強張らせる。

(浩二、平野浩二か……)

恵理の言葉から出てきたその名にフリードは思い出す。

ミハイルの恋人であるカトレアを殺した張本人であり、薬を調合して多くの人間族の病から救っている。しかしそれだけではなく、イレギュラーである南雲ハジメと同等の実力者という報告は既にフリードに届いている。

しかし、その危険性はイレギュラーである南雲ハジメほどではないと軽視していたが、恵理のこの態度を見てフリードは思う。

(恵理がここまで執着する平野浩二とは何者なんだ……?)

そんな疑念を抱いた。


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