ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公30

ハウリア族が帝国に勝利して亜人奴隷達を解放することに成功した。そして現在はハジメが製作した飛空用アーティファクト。その船底に外付けされた超大型のゴンドラに亜人族を搭乗させて亜人族の故郷である【ハルツィナ樹海】への帰路の途中なのだ。

しかし、数千人の亜人族を乗せ、樹海に帰路の途中にあるフェルニルだけどその驚異的な運搬能力の代償に、操縦者は結構な負担を強いられる。

「あ~~~」

その証拠に今のハジメはだらけきっている。

重量に比例して魔力消費量と操縦難易度が上がる為に今のハジメは割と余裕がない為にその姿も仕方がない。

莫大な魔力消費に耐えつつ、操縦に集中し、更には魔力操作の訓練までしているハジメは、本当に真面目に頑張っている努力の人なのだが、悲しいことにこの場にいる全員にはその強さへのひたむきな内面は伝わっていない。

何故なら左右にユエとシアがハジメに密着状態で香織も、ハジメの背後から抱き着くように密着している。つまり、誰から見ても今のハジメはハーレム野郎にしか見えない。

 

だが―――

 

そのハーレム野郎はこの場にもう一人いるのだ。

「どうしてお前がここにいる?」

「あら、私言いましてよ? ついて行きますと。ええ、どこまでも貴方について行きますわ」

浩二の腕にくっついているのは帝国の令嬢であるレイナだ。いつの間にか皇帝と共にこのフェルニルに同乗していた。全ては浩二を夫にするまでレイナはどこまでも浩二のことを追いかけるだろう。それが本気だということは勝負(デート)の際に嫌と言うほどに思い知らされた浩二さんである。

「レイナ様。浩二様はお疲れです。ご遠慮ください」

しかし、そんなレイナにティニアが物申す。

「それでしたら私の膝の上で休ませて差し上げますわ」

自分の膝をポンポンと叩くレイナにティニアは表情一つ変えることなく告げる。

「浩二様がお疲れなのも帝国が亜人奴隷に非人道的な行いをしていたせいで本来、帝国が負担すべきモノを代わりに行ったからということをお忘れなきようお願いします」

ティニアの言う通り、亜人奴隷が受けた傷や病は全ては帝国による亜人奴隷の扱いが原因だ。奴隷解放されて重症患者であった亜人奴隷の治療は本来であれば帝国が行わなければいけない負担であるが、浩二がその負担を一身に引き受けて亜人奴隷達を治療した。だからティニアは少しでも恩を感じているのなら、申し訳なく思っているのなら遠慮しろと、言外にそう告げている。

しかしそこで折れるレイナではない。

「それならば浩二には恩赦を与えるべきですわね。どうぞ、浩二。思う存分に私が膝枕をして差し上げますわ」

「失礼ながらレイナ様では浩二様も存分に安らぐことはできないでしょう。ここは浩二様のメイドである私がそのお役目を果たしますのでレイナ様も皇帝陛下と共に艦内の探検に行かれたらどうでしょう?」

互いに表情一つ変えずに浩二を膝枕しようとする二人だが、そこにレイナの反対側に座っているエフェルが浩二に言う。

「旦那様、私の膝の上で休まれますか?」

そう提案してくるエフェルはすぐ近くに竜人族の姫であるティオが恍惚痙攣しているというのにまるでいないものとして扱っているあたり成長したというべきか、それとも現実逃避しているのか、もしくは浩二に膝枕して気持ちを落ち着かせたいのかはわからない。

「ああ、頼む」

とはいえエフェルの誘いを断る理由はない浩二はお言葉に甘えてエフェルの膝の上に頭を置いてあくびをする。そんな浩二ををエフェルは愛おしそうに微笑みながら優しく浩二の頭を撫でる。

流石の浩二も徹夜での治療は心身共に限界だったみたいだが、本来なら別に問題はない。

いつもなら体内にある魔法薬などで消耗した分を回復させることができるが、これからすぐにではないが【ハルツィナ樹海】にある大迷宮に挑む為にも、自然回復できるものは自然回復させるようにして体内にある魔法薬などの消費を抑えている。だからこそ疲労が残っている為に疲れているのだ。それに少しだけ誰かに‶甘えたい〟という気持ちもなくはない為にそういう理由を述べているのかもしれない。

仮にその理由がなくてもティニアもエフェルも存分に浩二を甘やかすだろう。その証拠に現在進行形でエフェルは浩二を甘やかしていることに嬉しそうに頬を緩めている。

「お待ちなさい、浩二。そちらの方より私の」

「なりません。イリエ様」

「……はいはい」

「ちょ!? 放しなさい!」

ティニアの言葉にイリエは呆れながらレイナを拘束して強制的に浩二から距離を取らせる。排除するべきモノを排除したティニアは毛布を持ってきて浩二にそっとかけるのであった。

甲斐甲斐しく一人の男に奉仕する美女二人。徹夜で亜人奴隷を治療して疲れているのはわかっていても南雲同様にただのハーレム野郎にしか見えなかった。

「……おいおい。皇帝を前に随分な態度だな、南雲ハジメ、平野浩二」

艦橋の扉をウィンと開けて入ってきた【ヘルシャー帝国】皇帝陛下――ガハルド・D・ヘルシャーが、呆れと怒り半々のジト目を二人に向けた。

「うらやま――――ごほんっ。ふしだらですよ、南雲さん、浩二さん」

「リリアーナ様。本音がダダ漏れでございます」

苦言を呈したのは、【ハイリヒ王国】の王女――――リリアーナ・S・B・ハイリヒ。そして、的確にツッコミを入れたのは専属侍女のヘリーナだ。彼女達がここにいるのはガハルドの宣誓を見届けるためでもある。

そして何故かリリアーナはハジメよりも浩二の方に強い眼差しを向けている。

浩二が疲れて休んでいるその間、ガハルドはハジメが製作したこのフェルニルがお気に召してハジメに交渉するも、

「俺が本当に欲しいものは、この通り、既に腕の中にあるんだ。これ以上、何を望めってんだ?」

ユエとシアをグッと抱き寄せてそう言い切る。

ガハルドは交渉が失敗に終わると今度は浩二に目を付けた。

「いい女に手厚く看病されて羨ましい限りだな、おい、平野浩二。まぁ、それでも一応言わせてもらうぞ。今の帝国は今回の奴隷解放で労働力はガタ落ち。演説した帝都はともかく、他の町では騒動が起きるのは確実。その辺の対応と鎮圧にも人手を割かなきゃならん。おまけに今回のリリアーナ姫の婚約も白紙になった今、帝国が王国に援助を頼みたい状況だ」

状況が落ち着いて皇族の命が一応でも保証されれば今度は帝国から王族に娘を嫁がせるのがベターだと語るガハルドは続けて浩二に言う。

「それで状況次第ではお前さんの力も借りたい。無論、無償で力を借りようとは思ってねぇ。そうだな……」

ガハルドはチラリとリリアーナに視線を向けて言う。

「リリアーナ姫が欲しけりゃ皇帝の権力をフル活用して協力してやるぞ?」

「なっ!? 陛下! 何を言っているのですか! わ、私はそんな……」

「ちょっと皇帝陛下! 浩二は私が! そう、私が手に入れますのよ! これ以上お邪魔虫を増やさないでくださいまし!」

激しく動揺するリリアーナは浩二をチラ見すると頬を染め、もじもじしながら。そこにレイナがガハルドの発言に異を唱える。これ以上ライバルというお邪魔虫を増やさない為に。

しかし当の本人はというと……。

「あの、旦那様、浩二さんはお休みになられているのですが……」

自身の膝の上で小さく寝息をたてながら眠りについている浩二にエフェルは少し申し訳なさそうに告げた。道理で先程から何も言ってこないと思えば寝ていて話を全く聞いていなかったからだ。

まるで皇帝陛下の話なんかどうでもいいかのように熟睡している。

「……南雲ハジメといい、平野浩二といい……俺は皇帝だぞ……」

ハジメに続いて浩二にまで雑な扱いをされる皇帝陛下。いや、この場合は話を全く聞こうともせずに寝ることを選んだ浩二の方がハジメよりも酷いのかもしれない。

見事なまでに熟睡している浩二にガハルドは起こす気もなれず、気分転換をしに甲板で景色を堪能しに艦橋を出て行った。

ガハルドが出て行って艦橋の居心地が悪い。目の前で堂々イチャつくハジメや皇帝陛下の話をフル無視した浩二。それと浩二の態度にリリアーナが少しだけへこんでいる。どうやらガハルドの質問に答えようともしなかった浩二の態度に思うところがあったのだろう。

と、そこで、ハジメの背後と足元から声が上がった。

「うぅ~、ユエとシアだけずるいよ! ね、ねぇ、ハジメくん。‶腕の中〟っていうのは比喩的な表現だよね? ユエとシア限定って意味ないよね? ね?」

「ご、ご主人様よ。素晴らしい足技を頂いた直後ではあるが、妾も抱き締めてくれんか? ‶腕の中〟がいいのじゃ……」

香織とティオはそれぞれ必死な感じに自分の存在をアピールするも、そこにユエが言う。

「……残念でした」

「ど、どういう意味っ!?」

「むっ!? 今のは聞き捨てならんぞ、ユエ!」

無表情で告げるユエに憤る香織とティオにユエはおもむろに自分とシアを指差し、

「……勝者」

次いで、香織とティオを指差し、

「……敗者」

と、無表情で言ってのけた。そして、そのままハジメの胸元に頬をスリスリ。その瞬間、艦橋内に‶ブチッ〟と何かが切れる音が響いた。

「フ、フフフ……ユエったらおかしいね? 訳の分からないことをいきなり……きっと、どこか悪いんだね?」

「そうじゃな。きっと、そうに違いない。ならば妾達が直してやらねばな」

ゆらりと揺れる香織に同様にゆらりと立ち上がるティオは言った。

「叩いて直す!」「叩いて直すのじゃ!」

そんな凄まじい怒気? 闘気? みたいな何かが溢れ出している。そんな二人を前にしてもユエは……。

「……やめて? 本気でやったら、私に勝てるわけないでしょ?」

素晴らしくイラッとさせる素敵なセリフを二人に送った。それに更にヒートアップする香織とティオにユエは煽る煽る。

「ちょっ、ちょっと三人共! 落ち着きなさいって!っていうか、南雲君! 見てないで止めなさいよ!」

雫が、あせあせ、オロオロとしながら頑張って仲裁しようとするも早々に諦めてハジメに助けを求めた。

「無理。だるい……」

だがそのハジメはぐて~とソファーに沈み込んだ。動く気は全くないようだ。

「浩二! お願いだから起きて三人を止めて!」

こいつは駄目だ! と見切りをつけた雫は共に香織の暴走を止めてきた同じ苦労人の業を背負っている浩二に仲裁して貰おうと浩二の身体を揺すって起こそうとするも、浩二は寝惚けた眼で雫が視界に入ると雫の背に腕を回して拘束。そのまま雫を抱き枕にする。

その際、浩二の顔は雫の胸に埋まるように抱き枕にされた。

「ちょっ!? 浩二!?」

突然抱きしめられてそのまま抱き枕にされてしまった雫は自分の胸に顔をスリスリしている浩二に顔を真っ赤にしながら叫ぶも浩二は聞く耳持たず、まるで最高に寝心地のいい抱き枕でも見つけたかのように抱き着いている。

(そういえば浩二様、お好きでしたね……)

(私に抱き着く時もこのような感じでしたね……)

ティニアとエフェルは自身の胸に触れる。そんな浩二の姿に覚えがあるからだ。共に寝る際に浩二がたまに寝惚けて胸元に顔を埋めてくることが。まるで子供が愛情を求めるかのように抱き着いてくるので二人はそれが愛らしく可愛くも思えたのでよく覚えている。

「離しなさい! 浩二! 離して!」

雫は必死に浩二を引き剥がそうとするも手放してなるものか! と言わんばかりに浩二の力は強く、引き剥がせない。

「雫、羨ましい! やはり胸ですか!? 胸なんですか!?」

「あらあら、それでしたらリリアーナ様はお悔やみ申し上げますわ。私はある方なので」

自身の胸に触れて思わず叫びを上げてしまうリリアーナにイリエに拘束されているレイナは勝ち誇った笑みを浮かべているが、リリアーナもないわけではない。これからに期待だ。

「……」

イリエは無言で自身の胸をそっと撫でる。しかし、そこにあるのは山ではなく小山が精々だろう。

「雫ちゃん!」

「香織!」

浩二に抱き枕にされた雫に香織が声を投げる。自分を助けてくれる親友に雫は顔を上げると香織は満面の笑みで親指を立てる。

「大丈夫! 私には浩二くんから貰った切り札があるから心配しないで!」

親友は助けてはくれなかった。

違う、そうじゃない。そっちの心配じゃなくて、と雫は色々と言葉を出すも香織はただ慈愛に満ちた笑みを浮かべたまま。まるで二人を祝福する聖女のような微笑みで親友と幼馴染を見守っている。

そして。

「私もユエに勝って雫ちゃんと浩二くんのようにイチャつくからね!」

恋に燃える乙女の如く、香織もまたハジメとイチャつく為に倒さなければならない相手と対峙する。

「よくぞ言ったぞ! 香織! 妾もエフェルのようにご主人様に膝枕したいのじゃ! 鈴よ、防御は任せたぞ!」

「え? 鈴も入ってる!?」

竜人族の膂力で首根っこを掴まれた鈴は涙目で引きずられていく。

鈴は光輝や龍太郎に助けを求めるも二人はサッと視線を逸らした。女の戦いにはノータッチでいきたいのだろう。

「見捨てたな! 鈴を見捨てたな! 後で覚えてろぉ~」

という鈴の怨嗟の声は虚しく終わる。

「……シア、前衛は任せる」

「はいですぅ! 何人もユエさんのもとには行かせませんよぉ! 全員まとめて、うっさうさにしてやんよ! ですぅ!」

気合十分のバグウサギは口元に不敵な笑みを浮かべて荒ぶっている。

「……ハジメ、行ってくる。格の違いを叩き込んでくるから」

「お~う、行ってら~。ほどほどになぁ」

「……帰ったら、頑張ったご褒美にぎゅっとして?」

「早く帰ってこいよ~」

「……んっ」

そのやり取りがまた般若陣営を煽る煽る。戦意は既に天井知らずだ。

「ユエ、勝たせて貰うよ。私には浩二くんから貰った秘薬がある!」

「……ドーピングでもなんでも好きにすればいい。その上で格の違いを教えてあげる」

「シアよ。勝たせてもらうぞ」

「かかってこいやぁ! ですぅ!」

そうして、巻き込まれた悲壮感漂う一人を除いて、香織達は艦橋から出て行った。

空の上は常に快晴だ。いつでも戦闘日和である。

しばらくすると、派手な轟音やら爆音やらが聞こえ始めた。

ビクッとする光輝と龍太郎。本当に放っておいて大丈夫かと心配そうな表情になる。

「楽しそうだなぁ」

しかし、ハジメの感想はそれだけらしい。浩二に至っては雫を抱きしめたまま眠っていらっしゃる。まるで聞こえてくる轟音や爆音など聞こえないかのように。

「はぁ~、どうしたものかしら……」

聞こえてくる轟音や爆音を耳にしながら雫はどうしたものかと頭を悩ませるも、幸せそうに寝ている浩二の寝顔に若干イラッとするのであった。


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