無事に奴隷にされていた亜人達を故郷である【フェアベルゲン】に帰すことができたハジメ達。そしてアルテナに案内された場所で皇帝であるガハルドからの敗北宣言と誓約の内容が長老達に伝えられる。
長老達は数百年も続いた価値観の相違や恨み辛みなど、己の中の名状し難い感情を整理しながらも、この歴史的瞬間を呑み込もうとしている。
しかし、ガハルドの不遜な態度によく思わない亜人達はそんなガハルドに隠しきれない殺意や憎悪を滲ませるも、ガハルドが敬意を払うのは強い者だけ。戦場で強さを示したハウリア族だけだ。
そんな一触即発の空気が漂う。張り詰めた緊張の糸が今にも切れて、凄惨な殺意の応酬が繰り広げられる光景が幻視してしまう。
誰もが生唾を呑み込むような空気の中、その空気をぶち破ったハジメさんがガハルドを‶ゲート〟の向こうへ投げたことによって長老達や戦士達の溜飲が下がる。
そして此度の功績によってハウリア族の族長であるカムを新たな長老の座を用意しようとアルフレリックが提案するもカムはそれを断り、兎人族の独立、一種族にしてフェアベルゲンと対等と認められて更には大樹近辺と南方一帯を使うと追加要求。傍若無人な父親に対してシアは両手で顔を覆ってしまった。
その後、どうにか話はまとまり、浩二達はようやくゆっくりすることができるようになった。
都に滞在している三日間、アルフレリック達のもてなしもあって、ハジメ達は中々快適な時間を過ごすことができた。
主に絡んだり、絡まれたりしながら楽しく過ごした三日間。そしてハジメ達は遂に【ハルツィナ樹海】の真の大迷宮がある‶大樹ウーア・アルト〟のもとへ向かう道中で大迷宮初挑戦の光輝達にウォーミングアップを行わせている。
【オルクス大迷宮】とは異なる亜人族以外の種族の感覚を狂わせる樹海での戦闘。本来であれば光輝達は苦戦を強いらされるのも無理ではないのだが……。
「ハッ!」
「オラッ!」
「この!」
光輝達は善戦とまでは言わなくても苦戦に強いられることもなく戦闘を行えていた。それにはハジメも少し意外そうにしている。
「疾ッ!」
「……そこ! こうやって……こう!」
雫も香織も神の使徒の力を使いこなせる為に自主的に鍛錬をしている。黒刀に‶分解〟を付与して残像すら残る速度で魔物を次々と切り捨てていく雫に白菫色の羽を操作して魔物を一瞬で分解・消滅させる香織。
「そこですわ!」
「フッ!」
戦闘を始める前に何故かレイナは既にボロボロ状態だった。どうやらハウリア族と相当激しい殺し合いをしていたのだろう。しかし、レイナはそんなことお構いなしに
何故かハウリア族は仲間を見る目でレイナの戦闘を見守っているのが気のせいにしておきたい。
余りにもボロボロの姿だった為に浩二は一応イリエにレイナのサポートをするようにお願いしたが、余計なお世話だったのかもしれない。
「香織や八重樫達はまだしも、天之河達は戦えているのはお前が何かしたのか? 平野」
「まぁな」
やはり、と言わんばかりに浩二の返答に納得する。
王国を旅立つ前から光輝達の面倒をみていた浩二はハジメ達の疑問を解消させるように説明する。
「ちょっと人体改造を施しただけだ」
ちょっと? ハジメ達はその言葉が喉元まで出かかったがどうにか呑み込んだ。
「あ、光輝には特別なことはしていないぞ。‶魔力操作〟を出来るようにしただけだから後はあいつの実力だ。元々スペックは高いから少し背中を押すだけであいつには十分だからな」
どうやら今戦えているのは光輝自身の実力のようだ。
(とはいえ、大迷宮に攻略を認めてもらえるかどうかと言えば難しいだろう……)
光輝は原作よりも確かに強くはなっている。だが、精神の幼さはたいして変化はない。いくら浩二でも精神を改善させるには時間を有する為に光輝が大迷宮に攻略を認めて貰えるかどうかは定かではない。
(そこは光輝自身に何とかしてもらうしかないか……)
その結果どうなろうともそれを受け入れて貰うしかない。
「龍太郎と鈴には‶魔力操作〟は勿論、‶改造〟と魔法薬によるステータスの上昇及び五感の強化。そしてそれを十二分に扱えるように最適化させている。大迷宮クラスの魔物でも十分に通用するだろう」
「へぇ」
流石だなと、ハジメは改めて浩二の腕前に内心驚かされる。
浩二の天職は‶医療師〟。後方支援を得意とする。仲間の回復は勿論のことサポートもお手の物。仲間を強化させることなど浩二にとっては朝飯前ということだろう。
「それに龍太郎と鈴には切り札を施している。それは見てからのお楽しみだ」
切り札。そう言われて気にならないハジメではないが、そう言われたら追言できない。二人がその切り札を使う時まで楽しみにしていくことにした。
「ちなみに
「あいつは色々とおかしいだけだ。気にするな」
光輝や浩二の‶改造〟によって強くなった龍太郎や鈴に後れを取ることなく戦えているレイナはいったいどういうことなのだろうか? 本当におかしいとしか言えない。
そうこうしている内にハジメ達は枯れた巨木な木がそびえ立っている大樹の下まで到着した。
「これが……大樹……」
「でけぇ……」
「すごく……大きいね……」
頭上を見上げ、大樹の天辺が見えないことと、横幅がありすぎて一見するとただの壁のようにしか見えないことに、口をポカンと開けて啞然とする光輝達。
ハジメは‶宝物庫〟から攻略した大迷宮の証を取り出しながら、根元にある石板のもとへ歩み寄った。光輝達も正気を取り戻してハジメのもとへ集まる。
ここからは何が起こってもおかしくない本当の魔境。気を引き締めろと、ハジメは鋭い視線を巡らせる。
カム達、ハウリア族を下がらせてハジメは攻略の証を石板の窪みにはめ込んだ。一拍おいて、石板が淡く輝き出し文字が浮き出始める。
―――四つの証
―――再生の力
―――紡がれた絆の道標
―――全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう
それら条件を満たしてハジメ達はここにいる。
石板に攻略の証をはめ込み、ユエが大樹に再生魔法を行使すると枯れた木が生命力を取り戻したかのように大樹は鮮やかな緑を取り戻した。そして、突如、正面の幹が裂けるように左右に分かれ大樹に数十人が優に入れる洞が出来上がった。
ハジメ達は顔を見合わせ頷き合うと、躊躇うことなく巨大な洞の中へ足を踏み入れたが、洞の中は特に何もないようで、ただ大きな空間がドーム状に広がっているだけである。
「行き止まりなのか?」
光輝が訝しそうに呟いた。
直後、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始める。
徐々に細くなっていく外の光。思わず慌てる光輝にハジメが一喝する。入口が完全に閉じ暗闇に包まれた洞の中で、咄嗟にユエが光源を確保しようと手をかざした。が、その必要はなかった。
なぜなら、足元に大きな魔法陣が出現し強烈な光を発したからだ。
「うわっ、なんだこりゃ!」
「なになに! なんなのっ!」
「騒ぐな! 転移系の魔法陣だ! 転移先で呆けるなよ!」
動揺する龍太郎や鈴にハジメが注意した直後、彼等の視界は暗転した。