ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公33

「っ……ここは……」

【ハルツィナ樹海】の真の大迷宮に挑む為に大樹に中へと足を踏み入れたハジメ達は転移系の魔法によってどこかに飛ばされてしまった。光を取り戻したハジメ達の視界に映ったのは、木々が生い茂る樹海だった。一瞬、大樹の外へ放り出されただけかと錯覚したハジメ達だが、わざわざ転移させる必要性はないので、ここが大迷宮の中なのは確かだろう。

大樹の中の大樹……なんとも奇妙な状況だ。

「みんな、無事か?」

光輝が、軽く頭を振りながら周囲の状況を確認し、仲間の安否を確認した。それに雫達が「大丈夫」と返事をする。ハジメや浩二達も特に問題はないようで、既に周囲を警戒し視線を飛ばしている。

光輝は困惑したように尋ねる。

「南雲、ここが本当の大迷宮なんだよな……? どっちに向かえばいいんだ?」

周囲三百六十度、全てが木々に囲まれたサークル上の空き地であり、取るべき進路を示す道標は特に見当たらなかった。上は濃霧で覆われているので、飛び上がって上空から道を探すことはできそうにない。

「……取り敢えず、探すしかないな」

ハジメは、どこか不機嫌そうな表情で、微妙に噛み合わない言葉を呟いた。

その視線も、光輝には向いていない。

「……そうか。俺が先頭を行く。何か気づいたら教えてくれ」

ハジメの言葉を訝しみつつも、光輝は先陣を切った。神代魔法は、大迷宮に試練攻略を認められないと授かれないと聞いていたので、率先して動きたかったのだろう。

特に異論もなく、ぞろぞろと他の者達もその後をついて行く――――と思われたが、何故か、ハジメと浩二だけはその場を動かない。前を行く者達の背を、冷たい眼差しで見据えている。

「浩二様。いかが―――」

なさいましたか? とティニアが浩二を心配して歩み寄ったその瞬間、浩二は抜刀。ティニアの首を斬り落とした。

ゴロゴロと、ティニアの首が地面を転がる。

突然のことに一拍の静寂。目の前で起きた光景に理解が追いつかず誰の思考も真っ白に染まり上がり、そこから徐々に現実を認識してようやく浩二がティニアの首を斬り落としたことを理解した。

「きゃぁあああああああああああああああああああああああッッ!!」

悲鳴をあげる。

悲鳴を上げなくても誰もが顔を青ざめて茫然自失するなか、今度はハジメが神速で‶宝物庫〟から拘束用のアーティファクトであるボーラを取り出し投げつけたのである。

標的はユエ、ティオ、そして龍太郎だ。三人共、浩二の首斬りによって抵抗する余地すらなくワイヤーに絡みつかれ空間に固定されてしまった。

「……ん!?」

「ご主人様!?」

「いきなり何しやがるっ」

ジタバタともがくユエ、ティオ、龍太郎。

ハジメは銃口をティオ、龍太郎に向けて躊躇うことなく引き金を引いた。額を撃ち抜かれた二人、茫然自失するなか一番に我に返った光輝は思わず怒声を上げて二人に意図を問おうとする。

「光輝。よく見ろ」

だが、その前に浩二が静かな口調でそう語りかける。

「いったい何を見ろって―――ッ!?」

鋭い眼差しを浩二に向けながら文句を言おうとしたが、そこで光輝の視界にはあるモノが映った。それは浩二が斬り落としたティニアと首と胴体。切断面からは血が一切出ていないだけではなく、その身体はドロリと溶けて赤銅色のスライムのようなものだった。そしてそれはそのまま地面の染みとなった。ティオ、龍太郎も同様にスライムのようになって地面の染みとなる。

「そういうことだ。で、聞きたいことだけ答えろ、紛い物」

その場が極寒の地になったかのような殺気交じりの声。あまりにも濃密な殺気に光輝達は呼吸が自然と浅くなり冷汗が滝のように流れ落ちた。

「お前はなんだ? 本物のユエはどこにいる?」

「……」

ユエの姿をしたスライムは何も答えない。無機質な雰囲気を纏って無言を貫いた。ハジメはユエモドキの肩に銃弾を撃ち込むも表情一つ変えない。痛覚はないようだ。

「答える気はないか。いや、答える機能を持っていないのか。ならもういい。死ね」

ドンナーの銃口を額に向けると、レールガンで吹き飛ばした。そしてユエモドキは先程のティニア達同様にスライムに戻って地面の染みとなった。

「チッ。流石、大迷宮だ。いきなりやってくれる……」

ハジメがドンナーをホルスターに仕舞いながら悪態を吐く。

「ハジメさん……ユエさんとティオさんは……」

「転移の際、別の場所に飛ばされたんだろうな。僅かに、神代魔法を取得する時の記憶を探られる感覚があった。あの擬態能力を持っている赤銅色のスライムに記憶でも植え付けて成り済ませ、隙を見て背後からって感じじゃないか?」

ハジメがユエをダシにされて不機嫌そうに表情を歪ませる。ハジメの推測を聞いて、雫と鈴はゾッとしたように身震いした。

「なるほどね。……いきなり浩二がティニアさんの首を斬った時はどうしたのかと思ったわ」

「だよね。……いくらなんでもあれには鈴も真っ青だよ」

よほど浩二の首斬りがショッキングだったのだろう。二人の顔はまだ青ざめたままだ。そんな二人に代わって光輝がどうやって気付いたのかを浩二に問いかけた。

「神山で手に入れた魂魄魔法との相性が良くてな。俺には生物の魂が見えるんだよ」

‶魂眼〟と名付けた浩二の瞳には生物の魂が手に取るようにわかる。それだけじゃなく、その魂から相手の性格や本質、嘘まで見抜けて‶医療師〟の技能も含めて肉体構造まで完璧に把握することができる為にどれだけ精度の高い偽装や擬態も浩二の前では無意味に終わる。

「なら、南雲はどうやって?」

「どうって言われてもな。見た瞬間、分かったとしか言いようがない。目の前のこいつは‶俺のユエじゃない〟って。平野が動いたおかげで俺も‶魔眼石〟で違和感を見抜くことができたし、それ以外だと、普段の様子や性格を照らし合わせて、自力で気が付くしかないな」

「そ、そっか。でも龍太郎くんとか、どうやって見分ければいいのかなぁ。鈴的に、脳筋発言された時点で、むしろ『本物だ!』ってなりそうなんだけど」

「も、もしかして、龍太郎が替え玉に選ばれたのは、そのせいか……くっ、龍太郎……」

「お前等、酷いな」

しかし、それを否定しない浩二も大概だ。

「でも、浩二くん。いくら偽物だとわかっていてもいきなりあれはどうかと思うな……」

「そうね。流石にあれは……」

どうやら突然の首斬りに思うことはあるようだ。いくら偽物だとわかっていてもハジメのように拘束する手段も持ち合わせているのにいきなり首を斬り落とすのはどうかと思うのだろう。それに対して浩二も思うことがあるようだ。

「……まぁ、ティニアが利用されて少し頭に血が上っていたからな。俺もまだまだだ、か……」

どうやら大迷宮に大切な人を利用されたことに腹を立てていて思わず斬ったようだ。それでもいきなり首斬りはどうかとは思うが、ハジメだけはわかると言いたげに頷いた。

と、その時、シアが何か思いついたようで、ウサミミをピコンッとさせた。

そして、もじもじとしつつ期待を込めた眼差しでハジメに問うた。

「あのぅ、ハジメさん。……私でも見た瞬間に気が付いてくれますか?」

「!」

シアの問いかけに香織が敏感に反応。グリンッと顔をハジメに向けると、視線で「私はどうかな!? かな!?」と問いかける。

「旦那様、その、私が偽物にすり替えられても腹を立てて頂けますか……?」

「当然私でも怒りますわよね?」

なんとなく視線が二人に集まる。微妙に甘酸っぱい雰囲気の中、二人は特に気負った様子もなくあっさり答えた。

「さぁ? 見た瞬間は無理じゃないか?」

「……」「……」

普通なら「もちろん、気が付くに決まってる」と答えるべき場面で、しかし、容赦なく、いらぬ正直さを発揮するハジメクオリティーにシアと香織は思わずジト目になる。

「当たり前だろ。大切なお前を利用されて心が穏やかでいられるか」

「旦那様……」

そう言って貰えて嬉しそうに頬を緩ませるエフェルだが、浩二はレイナは完全に無視(スルー)する。しかし、レイナはその程度で屈するほど柔な女ではない。むしろそれを糧にして行動する女である。

「くっ、浩二に勝つにはまだまだのようですわね。ですが、これもまた面白いですわ」

まだまだ勝負(デート)が必要のようですわね。という呟きが聞こえるも浩二は無視(スルー)

「カ、カオリン、シアシア! 元気出して!」

「香織は本当に、なんだってあんな奴を……」

羨ましそうな目でエフェルを見ながらほっぺをぷっくりと膨らませるシアと香織に鈴のフォローや光輝の呟きを耳にしつつハジメは小さく苦笑いを浮かべながら前を歩く。

「……」

そんななかで雫は何とも言えないような顔で浩二を見ると浩二と目が合って思わず目線を逸らした。するとポンと頭を軽く叩かれた雫は思わず頭を両手で押さえて叩いた張本人である浩二に視線を向けるも浩二は何も言わずに前へ歩き始める。

(浩二……)

前を歩く浩二の背中が雫にはとても大きく見えた。


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