ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公34

擬態した仲間を見破って大迷宮を進むハジメ達は樹海の中を当てもなく彷徨うことしばし、ヴヴヴッ!! と、まるで扇風機を最大で動かしているかのような音。一つや二つではない。おびただしい数だ。

「魔物か! 南雲、浩二、俺達が戦う! 手を出さないでくれ!」

「まぁ、初戦だしな」

「了解」

光輝が前に出た。少々、意気込みが強過ぎて危うい感じはするものの、ハジメ達が対応していては一緒に来た意味がない。それに光輝達にしてみればこれが初めての、本当の大迷宮での魔物戦だ。雫や鈴が緊張の面持ちで光輝の背後に控えようとしたが、浩二が雫を下がらせる。

「雫。お前の実力なら今はまだ控えていろ。代わりにイリエとレイナが行くから」

「え?」

どうして? と言わんばかりに浩二を見る。

「今のお前の実力なら二人の為にならない。いざという時まで控えた方がいい」

「でも」

「雫。俺達なら大丈夫だ」

「そうだよ! シズシズ! 鈴達だって浩二くんの特訓を受けてきたんだからここは任せて!」

二人の言葉に雫は渋々と言わんばかりの顔で下がる。それでもいつでも動けるように身構えているのは雫らしいと浩二は内心で笑みを浮かべた。

「それじゃあ、イリエ、レイナ。二人のサポートを頼む」

「了解」

「ええ、言われなくても行きますわ」

雫の代わりにイリエとレイナが前に出る。

「この音、羽音ですよぉ! 皆さん、気を付けてください! 飛行型の魔物の中でも、特に樹海の魔物は回避能力がすっごく高いですよぉ!」

「光輝くん、鈴ちゃん、頑張って!」

シアがアドバイス一つ。香織が声援を送る。

直後、木々の隙間をすり抜けるようにして、魔物の群れが襲来してきた。

その姿は‶蜂〟。ただし、赤ん坊ほどの大きさで、百足のようにわしゃわしゃ動く無数の足がある。蜘蛛の如き口はギチギチと開閉され、盛り上がった複眼は七つ。黄色と黒の毒々しい色合いに、ねちょりとした緑の粘液を纏っていて、尾の針を伝ってびちゃびちゃと撒き散らしている。

直視は避けたい、生理的にも受け付けられないような蜂モドキのその姿に鈴は……。

「‶天絶〟!!」

怯むことなく結界を展開。押し寄せてくる蜂モドキの波を、分断し、誘導する結界の道を作り出す。そこに光輝は十八番である‶天翔閃〟を発動―――

「‶炎狼〟!!」

するのではなく炎属性中級魔法である‶炎狼〟を発動した。範囲魔法である炎の津波は光輝が得意とする光属性の魔法に比べてやや劣るものの蟲の魔物だからか、眼前に現れた炎の津波に僅かに怯んだ。

「‶天翔閃!!」

その怯んだ一瞬の隙を見逃すことなくお得意の‶天翔閃〟で蜂モドキを一刀両断する。だが、蜂モドキの数は減らない。それどころか仲間が殺されたことに怒っているのか、その動きは激しさを増し、炎の津波をものともせずに突っ込んでくる。

「くっ!」

炎の津波の津波を突破してきた蜂モドキの鋭角移動するような俊敏性を目の当たりにして苦渋の顔を作る。蜂モドキはその蜘蛛のような口で光輝を捕食しようと襲いかかるも、光輝は後退ではなく踏み込んで突きを放つ。

――八重樫流刀術 霞穿

光輝は八重樫流の技で迎撃した。

「まだだ!」

――王国騎士剣術 旋刃

片手で横薙ぎした剣を、そのまま背中側で、もう片方の手に渡し、まったく同一方向からの横薙ぎを二連続で振るう王国騎士剣術。今は亡きハイリヒ王国騎士団前騎士団長メルド・ロギンスから教わった技を繰り広げた。

光輝は身に付けた二つの剣術を使い分けて大迷宮の魔物と戦えている。

「くそっ」

しかし、光輝は顔は何とも言えない、複雑な表情をしていた。

何故ならこうして自分が戦えているのは他でもない浩二との訓練のおかげだからだ。

『光輝。お前の戦い方は正直に言って単純なんだよ』

それは浩二の魔法‶クローン〟によって生み出された浩二αに言われた。

『お前は基礎スペックは高い。それに聖剣の力もあるからゴリ押しでこれまでは戦えて来た』

『ゴリッ!? こ、浩二! お前は俺が龍太郎と同じって言いたいのか!?』

『ぶっちゃけたら龍太郎よりマシって感じだな』

二人共、息をするかのように龍太郎を脳筋扱い。

『思い出してみろ。お前がこれまで使ってきた技を。基本的に同じ技しか使ってないだろ?』

『うっ』

そう言われたら心当たりがある。

光属性の性質が付与されている聖剣のこともあって光輝が基本的に使う魔法は光属性だ。勿論他の属性の魔法も使えるのだが、使用頻度は決して多くない。

『せっかく全属性適正や複合魔法の技能もあるのにそれを活用しないなんて龍太郎と同じだと思われても仕方がないだろ?』

『くっ』

光輝さんは何も言い返せなかった。

『逆に言えばこれまでゴリ押しの戦闘でも戦えていたのは聖剣の力とお前自身のスペックの高さがあったからだ。だけど、これから先の戦いではゴリ押しだけじゃ通じないことはお前も理解しているだろ?』

『……』

無言のまま静かに首を縦に振った。

魔人族が使役していた魔物。その魔物相手に苦戦を強いられたことは光輝は身を持って知っている。

『だからこれから俺がお前に教える、というよりも治すのは剣術の矯正と戦闘に使う手札を増やすこの二つだ。光輝、お前は八重樫流とメルド団長から教わった騎士剣術を戦闘で使い分けろ。そして手札を増やせ』

浩二αは抜刀する。

『時間もないから荒療治で行くぞ。安心しろ、死んでも三分以内なら蘇生可能だ』

そして今、その訓練の成果を発揮している。

(だけど、俺は……ッ!)

確かに強くなれた。こうして大迷宮の魔物と戦えるぐらいには。しかし、納得できているかと言われたらどうとも言えない。そんな光輝の心の隙をつくかのように蜂モドキは振り下ろされる聖剣を回避して光輝に毒針を突き刺そうとする。

「しま――」

目を見開く光輝。しかし、その毒針は光輝に突き刺さることはなかった。

「やれやれですわね。しっかりしなさいな、勇者様」

レイナがその身を挺して毒針を受けたからだ。

「ッ!? この!」

身を挺して守ってくれたレイナに一瞬驚くもすぐに我に返った光輝は聖剣でレイナに毒針を突き刺している蜂モドキを斬り捨てる。

「浩二! レイナさんを!!」

治療してくれ。そう言おうとするも。

「ん? ああ、大丈夫大丈夫」

どうでもいいかのようにそう返した。毒針を受けた仲間に対してなんて雑な対応。光輝は浩二に憤りを感じるも、レイナは腹に突き刺さっている毒針を素手で引き抜いた。

「ふふ、流石は大迷宮ですわ。面白い、ええ、とても面白いですわ!!」

腹から流れる血を無視してレイナは歓喜の笑みと共に蜂モドキに突貫していく。

え、ちょ、ちょっと、と言いたげな顔でレイナを引き止めようと光輝は手を伸ばすもそれは空を切った。毒針を受けている筈なのに、腹から血を流している筈なのに、そんなことよりも闘争を! と言わんばかりに蜂モドキと戦うレイナの顔はそれはもう新しい玩具を買って貰った子供のように嬉しさに満ちていた。

「……」

勇者は思わず引いた。表情も引き攣った。

おかしい、浩二、この人おかしい。特に頭が。そんな光輝の視線に気づいのか、浩二は諦観した眼差しで小さく首を横に振った。もう手遅れですと、言わんばかりに。

「オホホホホホホ!!」

高笑いする声が大迷宮に響く。

「天絶天絶天絶ぅ!」

光属性中級防御魔法‶天絶〟を連続で発動する鈴は蜂モドキの尾からマシンガンの如く掃射される針を防いでいた。しかし、絶えず周囲を旋回しながら多角的に撃ち込まれている。

‶天絶〟は展開数を重視した障壁であり、障壁自体の強度はそれほどでもない。しかし、‶結界師〟の鈴が展開する‶天絶〟は並の強度ではない上に浩二の特訓と人体改造によってその強度は大幅に上がっている。

油断さえしなければ蜂モドキが鈴の障壁を突破することはない。それでも鈴の表情からは焦りが生じている。

(こんなところで立ち止まるわけにはいかない……ッ!)

それは一秒でも早く強くなりたい、神代魔法を手に入れたいという焦りだ。その理由は親友だと思っていた中村恵理のことを浩二から聞いたから。

帝都に出発する前に鈴は浩二に呼ばれてついていくと浩二は鈴に言う。

『鈴。さっき恵理と会った』

『…え?』

『‶僕はこの世界を壊す〟。その言葉を伝えに来ていたんだ、恵理は』

恵理が帝都に来ていたことにも、その言葉にも鈴はどうしても信じられなかった。どうして? という気持ちの方が強い。

『どうして……? どうして恵理はそこまでして……』

『恵理の中にある破壊衝動がそうさせているんだろうな。だからこそ恵理は本気で俺達を、この世界を壊そうとするだろう』

それこそ原作で光輝を自分だけのモノにしようとした以上に。浩二が中途半端にカウンセリングをしたせいで妄執に囚われることなく、ただその衝動のままに目に映る全てを破壊しようとする。

『鈴、先に言っておく。光輝はもちろん俺でも恵理を救うことはできない。俺にできることは精々終わらせてやることだ』

‶終わらせる〟その意味がわからない鈴ではない。

『当然、香織や雫、南雲達でも無理だ。本当の意味で恵理を救うことができるとすればそれはずっと恵理の傍にいた鈴、お前だけだ』

『……鈴が?』

『ああ、だけどそれはあくまで恵理を救える可能性があるのが、という話だ。むしろ救えない可能性の方が遥かに高い。恵理だって何も考えずにこの世界を壊すなんて宣言はしないだろう。だからきっと俺達と同じように神代魔法を手に入れようとするはずだ』

浩二は鈴の肩に手を置き、告げる。

『もし、鈴が本気で恵理を救いたいというのなら神代魔法は必須。僅かな期待も淡い希望も捨てろ。そうでなければ俺が恵理を終わらせる』

刀に手を当ててそれがどういう意味なのかを伝える。

そうさせない為にも鈴は今ここにいる。

「鈴は、恵理と会うんだ!! 会って、恵理とお話するんだ!!」

鈴の決意と覚悟。

強くなる為に、神代魔法を手に入れる為に、恵理に、親友に会う為にも鈴はこんなところで立ち止まるわけにはいかない。そこにイリエが声をかける。

「鈴で合ってる?」

「え? う、うん」

「前に出る。だからあたしを守って」

「っ! 任せて! イリリン!」

前に出るイリエ。一人、単騎に攻めるイリエを蜂モドキは恰好の的かのようの襲いかかるも。

「‶天絶〟!」

鈴が障壁を展開させてイリエを守った。

イリエ一人に対して多方面から攻撃を仕掛けてくる蜂モドキの攻撃を高速で障壁を展開させて防ぐ鈴。そしてイリエはその槍を振るう。

「‶魂斬〟」

槍を一振り。攻撃を受けた蜂モドキは無傷にも関わらず、まるで糸が切れた人形のように動かなくなった。

イリエは神山で手に入れた新たな神代魔法、魂魄魔法を扱えるように訓練して一つの技に昇華させたのが‶魂斬〟だ。それは相手の物理的な防御を突破して魂へ直接攻撃する防御力無効化攻撃。

いくら高い防御力を持っていてもこの技の前では無意味。そしてイリエが得意とする‶幻惑〟によって蜂モドキからはイリエの正確な位置が掴めず、攻撃が空振りに終わる。

動きも鈴の結界のおかげで制限されているし、防御も鈴に任せているから気にしなくてもいいからイリエは非常に戦いやすかった。

(訓練の成果は出ているようだな……)

浩二も蜂モドキを撃退しながら強くなっている二人を見て安心していた。

 

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