ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公35

【ハルツィナ樹海】の大迷宮の初戦。襲いかかってくる蜂モドキに奮闘する光輝達は確実に強くなっている。

しかし、蜂モドキの強みはその数の多さだ。

蜂モドキは幾百の群れ、数の力で光輝達を押し切ろうと迫りくる。

―――が。

不意に蜂モドキ達は地面へと墜落して動かなくなった。

「何が……?」

あまりにも唐突なことに驚きながらも困惑する光輝だったがその理由もすぐに判明した。

「浩二か…?」

突然蜂モドキが動かなくなったその理由は他の誰でもない幼馴染である浩二の仕業だと理解するにはそう難しいことではなかった。というか、こんな芸当ができるのは浩二ぐらいしか思いつかなかった。

そして光輝の考えは正しかった。

いくら光輝達が強くなったとしても幾百の数の蜂モドキを相手にできるほどではない。だから浩二は魔物のみに有効のあるウイルスを体内で生成、放出することで蜂モドキの生命活動を停止させた。

「お疲れ様。光輝それに鈴、特訓の成果は出たみたいだな」

「あ、ああ……」

「うん! イリリンのおかげだよ!」

「どういたしまして」

無事に特訓の成果を発揮した二人に嬉しそうに頷く浩二に光輝はとりあえず頷き、鈴はイリエに抱き着いていた。

「とはいえ、流石にあの数はきついだろうから手を出させて貰ったが、ひとまずは大迷宮の魔物相手でも通用できることは証明されたな」

通用するとはわかっていても実際に戦わなければわからないこともある。だが、今回は問題はないようで浩二も一安心だ。

「こ、浩二……。私のことを忘れていますわよ……」

「ひぃ!」

地面に這いつくばって近づいてきたのは身体中がズタボロ状態の血塗られたレイナだ。魔物の返り血や自身の血も含めて服が血塗れとなっているレイナは見て分かるように瀕死の状態だ。光輝を守った時の怪我も含めて全身怪我だらけ。むしろ怪我をしていないところを探す方が難しい。

それでも這いつくばって近づいてくるだけの力は残しているようだが、その凄惨な姿に鈴は思わず悲鳴を上げた。

「なんだ、生きていたのか?」

しかし浩二はその姿のレイナを見てもお前、いたの? みたいな反応で返した。

「当然ですわ……。浩二を私のモノにするまで死ぬつもりはありませんわよ。ですが、回復魔法をお願いしますわ……。そろそろ意識が……」

「一回死んだら少しは大人しくなるんじゃねえか?」

死に体であるレイナに死体蹴りでもするかのように言い返す浩二は治す気はないようだ。むしろ、一度心肺停止してから蘇生させようとさえ考えている。

「浩二。レイナさんを治してあげてくれ。彼女の怪我は俺を庇ってくれたせいでもあるんだ」

「チッ。優しい勇者様に感謝しろよ。‶絶象〟」

舌打ちして再生魔法を行使する浩二。流石に幼馴染である光輝の懇願を無視するのは気が引けるし、きちんと光輝のサポートはしていたのは事実。再生魔法の光がレイナに降り注がれて怪我が完治したレイナは何事もなかったかのように立ち上がる。

「流石は大迷宮ですわね。楽しませてくれますわ」

あれほどの怪我を負っていたにも関わらず、戦意は揺れるどころか増すばかり。これだから戦闘狂はと、浩二は内心で愚痴を溢していた。

「レイナさん、すまない。俺のせいで怪我を負わせてしまって……」

「あら、謝る必要はありませんわよ? 浩二に頼まれたことでもありますし、子供の世話ぐらいみる器量はありましてよ」

「こ、子供……?」

光輝のことを手間のかかる子供のように言うレイナにどういうことか説明して貰おうとした光輝であったが、レイナは光輝を置いて浩二に抱き着こうとするもアイアンクローを受けている最中だった。

「……」

地面に倒れている蜂モドキを見つめていると自然に光輝の手に力が入る。

強くはなった。それは確かだ。だが、幼馴染である浩二は自分が苦戦した蜂モドキを一瞬で全滅することができたことに隔絶した実力差を嫌というほど痛感した。

無言で佇む光輝を、ハジメはチラリと見やった。

「……天之河」

「っ。な、なんだ?」

「今は、お前の幼馴染を捜し出すことだけ考えとけ。あれこれ悩むのは、やることやってからで十分だろ」

「……言われなくても分かってる。そんなこと」

多少言葉に棘が含まれながらも、ハジメの言葉に頷く光輝。一度大きく息を吐くと、行方不明の親友を思って気を引き締め直す。

ハジメは、そんな光輝をしばらく見つめた後、頭を振って視線を逸らした。

実のところ、ハジメには光輝が今抱いているものがどういう感情か、手に取るように分かっていた。劣等感や焦燥感、強さへの嫉妬……かつて、ハジメも抱いたこともある感情だ。

(平野も苦労しているわけだ……)

ハジメは元来の性格から割り切ることもできたが、なんでも持っていた光輝には持たざる経験がない。己の中の暗い感情を律するように教育(ちょうきょう)している浩二の苦労が少し分かった気がした。

「ハジメさん、向こうは片付きましたよぉ~」

「こっちも終わったよ」

はぐれた仲間を捜すべく、一行は樹海の奥へと進んで行くのだった。

 

 

 

「あれは……猿か?」

暫く樹海の奥へと進んでいたハジメ達は猿モドキの魔物と遭遇したのだが……。

「仲間割れ、か……?」

困惑するように呟く光輝。棍棒や石のナイフなど一応の武装をした猿モドキの群れは一体の猿モドキを攻撃していた。猿モドキの群れに両手に棍棒を持って応戦する猿モドキ。

仲間割れか、リンチか。判断に悩むハジメ達よりも先に動いたのは浩二である。

一瞬で一体の猿モドキを攻撃していた猿モドキの首を刎ね、次々に猿モドキ達を切り裂いていく。

俊敏さと樹海という地の利を活かしたトリッキーな動きで浩二を翻弄させようとするも、そんなものが浩二に通用することもなく瞬く間に猿モドキは瞬殺されていく。すると茂みの奥から満身創痍の龍太郎が姿を現した。

「龍太郎!?」

行方不明だった親友に光輝は思わず龍太郎の傍に駆けつけようとしたが、その前に浩二が龍太郎の首を斬って捨てた。

茫然自失する光輝。しかし、首を刎ねられた龍太郎の姿が猿モドキになった光景で先の赤銅色のスライムのようにこの猿モドキも‶擬態〟の固有魔法を持っていて彼等も大迷宮からハジメ達の情報を受け取っていたのだろうと理解した。

それでもいくら‶擬態〟しているのがわかっていたとはいえ、一瞬の躊躇いもなく幼馴染の姿をした猿モドキの首を刎ねるのもどうかとは思うが。

そして猿モドキの群れに応戦していた一体だけを残して全滅した浩二はその猿モドキに歩み寄り、口を開く。

「ここにいたのか、ティニア」

「キキ」

「なるほど。転移した後、気が付いたらその姿になっていたのか」

「キキ。キキキ」

「肉体も変質して、装備も失って、魔法も使えなくなっていたから姿を隠していたけど見つかってどうにか応戦していたのか。まぁ、お前が無事でよかったよ」

「キキキ」

「謝る必要なんてないぞ。お前を助けるなんて当然のことなんだから」

猿モドキと普通に会話する浩二。

そんな浩二に置いてけぼりにされてポカンと口を開けて呆ける光輝達はハッと正気を取り戻した。

「いやいやいやいや、待て待て待て」

「ちょっと待って浩二、その猿がティニアさんなの? どう見てもそうは見えないのだけど……」

「というかなんで普通に会話してるの!? なんでわかるの!? 鈴にはキキとしか聞こえないよ!」

阿吽の呼吸でツッコミを入れる光輝、雫、鈴。それに対して浩二は当たり前のように言う。

「なんでって説明しただろ? 俺の眼には魂が見えるって。だから一目でティニアだと気づいたし、会話だって視線の動きを見ればわかる」

「浩二くん、当たり前のように言っているけど普通はできないからね」

辛辣な言葉を頂戴する浩二。そしてハジメ達は魔物の姿をしているティニアを見て頷いていた。

「なるほどな。魔物がユエ達の姿に擬態していたようにユエ達も魔物の姿に変えられているようだな」

「この様子ですとユエさん達も……」

「ああ、急いで捜した方がいいかもしれねえな」

危機感を抱くハジメ達。とりあえず言葉が通じないのは不便なので猿モドキとなっているティニアには‶念話石〟を渡した。

『皆様、お手数をおかけして申し訳ございません』

「いえ、そのような姿になっているのでしたら仕方がありませんよ」

猿モドキとなって姿を変えられた今のティニアは戦力にはなれない。そのことに申し訳なさそうに謝罪するもエフェルは気にしていないかのように答える。

その間、浩二はティニアに再生魔法を行使したり、元に戻す方法を模索してはいるも原作通り肉体そのものが変質している為に元に戻すことはできない。‶改造〟の技能を使えば元の姿に改造することはできるかもしれないが、大迷宮を進めば元には戻るのは分かっている為に余計な手を出せば本当に元に戻らないかもしれないのでそのままにしておいた。

「よし、先を急ぐぞ」

ティニア同様に魔物の姿になっている可能性が高いユエを一刻も早く見つけたいハジメは先を急ぐのであった。

 

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