ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公36

大迷宮の試練によって猿モドキへと姿を変貌されたティニアと再会することができた浩二達はユエ達もティニアと同じように魔物の姿に変えられ散る可能性が高く、ユエ達の為にも南雲達はユエ達を探す為に大迷宮を進んで行くなかで浩二が光輝に言う。

「しかし光輝、俺がいてよかったな」

「いきなりどうした? それはまぁ、浩二のおかげで強くはなれてはいるが…」

ユエ達を捜索している道中で突拍子もなく言う浩二に光輝は少し複雑そうな顔でそう言うが浩二はそれを否定した。

「いや、そっちじゃない。魔物の姿に変えられているティニア達に見て気づくことができるのは俺か南雲ぐらいだろ? 後は日頃からその人の仕草や行動などで判断するしかない」

「ああ」

「もし、俺がこの大迷宮に参加せずに最初に出会ったのは姿を変えられたユエだったらお前はどうなっていたと思う?」

「それは……」

そこまで口を開いて光輝はハジメに視線を向けて血の気が引いたかのように顔を青ざめる。光輝の直情的な性格をよく知っている雫達も同様に顔を青ざめた。

きっと魔物と間違えて攻撃していただろう。ただでさえ大迷宮を攻略しようと躍起になっているのだからユエ達に気づくことなく攻撃を仕掛けてその後もしくはその前にハジメの手によって……。

「浩二。ありがとう……」

「ああ、気にするな」

光輝さんは心からの感謝の言葉を浩二に送った。もう命の恩人と言ってもいいだろう。

そこにハジメが呆れたように口を開く。

「いや、流石に殺しはしねえよ。お前等、俺を何だと思ってんだ?」

流石のハジメもいくら相手が光輝だからといって問答無用に殺すことはしない。いくら魔物の姿に変えられたとはいえユエはユエだ。一目見ればすぐに気付く確信はハジメにはあった。だから仮にそうなっていたとしても光輝がユエに攻撃をする前に止める自信はある。

「精々、地獄を見せるだけだ」

冗談半分のように告げるハジメだったが全員少しハジメと距離を取った。

「浩二。貴方の眼が頼りよ」

「ああ、早くユエさんを見つけてくれ」

二人は頼りになる幼馴染に速くユエを見つけてもらうように頼み込む。他の皆もどうようにどうにかしてくれと縋るように浩二を見ている。どうやらハジメの冗談が冗談とは思えなかったのだろう。

シア以外の全員がまるで危険人物でも見るかのような眼差しでハジメを見ている。

「いや、冗談なんだが……」

「いえいえハジメさん。全然冗談には聞こえませんよぉ。目が本気(マジ)でしたよ」

ハジメ的には冗談のつもりでも、万が一にそんなことになっていればと思えば本当に地獄を見せるつもりだったのだろう。皆の為にも一刻も早くユエを見つける必要がある。

「しょうがない。‶魂感知〟」

すると波打つ波紋のように浩二を中心に何かが広がっていく。

「何をしたんだ?」

「魂魄魔法の応用をしたソナー探知」

‶魂感知〟。魂魄魔法を応用した索敵能力。使用者を中心とした一定範囲内の魂魄を見つける魔法だ。だが、そんな便利な魔法があるのならもっと早く使ってくれと、ハジメ達は目で訴えたが、それに察した浩二はそれに答える。

「ティニアに比べたら俺のはそこまで範囲は広くないからな」

天職が‶探索者〟であるティニアに比べて浩二のは精度は高くても範囲はそこまで広くはない。だからある程度は迷宮を進まないといけなかった。

『申し訳ございません。この姿でなければ私が…』

探知・感知系の技能を多く有する‶探索者〟であるティニアが最も本領を発揮できる状況だというのに今のティニアは大迷宮の影響で魔物の姿に変えられている為に技能どころか魔法すらも使えない。

仕方がないこととはいえ、自分の不甲斐無さを責めてしまうが。

「ティニア。気にするなって言ってもティニアは納得できないだろう。だから元の姿に戻ったら頼りにするからそれまでは俺を頼ってくれ」

『……はい』

優しく告げられたその言葉にティニアは嬉しそうに頷く。

「さて、こっちだ」

ユエ達の魂を感知した浩二はハジメ達の先頭に立って歩き始める。しばらく歩き始めるとハジメも‶気配感知〟でこちらから近づいている生物の気配に気づき、シアもウサミミを動かしている。

そしてハジメ達が発見したのは一体のゴブリンだった。

「グギャッ!」

ゴブリンはハジメ達の姿を見つけるとどこか弾んだ声で鳴くも、自分の声にハッとしたように動きを止める。そんなゴブリンにハジメは愛おしそうに言う。

「ユエ」

浩二に確認して貰うまでもない。魔眼石を使うこともない。一目でそのゴブリンがユエだと断言できるハジメは愛する人の名を口にした。

ゴブリン姿のユエ――ユエゴブは自分を呼ぶハジメの言葉に嬉しそうに泣きながら駆け出してハジメの胸に飛び込んだ。ハジメも自分の胸に飛び込んできたユエゴブを愛おしそうに抱きとめる。

一見すると、抱きしめ合うゴブリンと男の図――なのだが、周囲に満ちる空気はどこまでも甘やかで桃色だった。

「後は龍太郎とティオか……。ティオの魂はこの近くにあるからすぐに見つかるな」

ティニアに続いてユエとも合流することができたハジメ達は今度は近くにいるティオの方へ足を向ける。

 

 

 

 

「……ハジメさん。浩二さんに確認して貰わなくてもわかります。あれがティオさんだって」

「私も分かるよ。どう見てもティオだよ」

『……ん。むしろ、ティオ以外にあんなのがいたら大変』

「姫様……」

「よしよし、エフェル。元気だしてな」

「満場一致で、あれがティオだな」

なんとも冷たい目を前方に向けているハジメ達。それはまさに、汚物を見るかのような蔑みの目だ。雫と鈴それにイリエは「うわぁ」とドン引き顔で、ティニアと光輝は直視できないと言わんばかりに顔を背けている。そしてその姿にエフェルは頭を押さえ、浩二は慰めに入っている。

「グギャ! ギゲゲゲッ!!」

「ひぎぃ!?」

「ゴフゥッ!! ゴブブブゥ!!」

「ぶひぃっ!?」

鳴き声で分かる通り、ハジメ達の視線の先にいたのはゴブリンの集団だった。その集団は、寄ってたかって一匹のゴブリンに殴る蹴るの暴行を加えている。

しかし、そこには相手を殺傷しようという意図はなく、どこかイジメじみた雰囲気が漂っていた。事実、暴行を受けて蹲っているゴブリンに目立った傷はない。

それだけなら、仲間内の序列争いとか、あるいはただの弱い者イジメと考えられるのだが……。

「あ~、一応、誰がティオか言った方がいいか?」

『結構です』

全員が声を揃えてそう言った。

誰が見てもイジメを受けている方がティオだってわかる。だってどう見ても虐められて恍惚している。そんな顔をするのは一人しかいない為に確認するまでもなかった。

「ティオ、お前って奴は……。お前等、あいつはもう手遅れだ。残念だが諦めよう」

ハジメは悲しげな表情で頭を振ると、そっと踵を返した。ユエ達もなんの躊躇いもなく追随する。

「お待ちください」

だが、浩二に慰められていたエフェルがハジメ達の足を止めさせた。浩二の傍からスッと離れるエフェルのその表情はまるでこれから死地に赴くことを決意した戦士のような表情でハジメに歩み寄る。

「南雲さん、念話石を」

「お、おう…」

後退りさせるほどに気迫に満ちた表情にハジメは言われた通りに念話石をエフェルに渡すと、エフェルは「ありがとうございます」とお礼を言ってゴブリンになっているティオに歩み寄る。

「グギャ? ギャギャギャ!!」

「!?」

ティオを虐めていたゴブリン達は近づいてくるエフェルの気迫に押され、逃げるようにその場から離れていく。そしてティオはこれまで見たことのないほどの気迫に満ちたエフェルに思わずビクッと、肩を振るわせてしまい、額から冷や汗が流れ落ちる。

エフェルは畏まるかのようにその場に膝をついてティオに念話石を渡す。

「ティオ様。お話したいことがございます」

『な、なんじゃ…?』

「私は幼少の頃よりティオ様を尊敬し敬愛して憧れております。貴女様のお役に立ちたくて、貴女様のようになりたくて己を磨き、ヴェンリ様より淑女としてのなんたるかを教わり、いずれは貴女様の従者としてお傍に置いて貰うのが私の夢でございます」

『う、うむ……。そうじゃったのか』

「はい。族長、アドゥル様の任務を果たしたその時はティオ様に従者にして頂けるか直訴するつもりでいました。なのに……姫様はどうして、姫様ではなくなったのですか……?」

『……』

「臀部に杭を打ち込まれたまでならともかく、それでどうして変態になられてしまうのですか? 再会した時にティオ様が変態になったと耳にしたとき、私がどれだけ心を痛めたのかわかりますか? 私にはティオ様のように痛みを快楽にすることなどできないのですよ? それなのに行動を共にするにつれて見るに堪えない言動をするたびに私は旦那様から頭痛薬と胃薬を頂いているんですよ? 夜、涙を流す私を慰めて頂いているんですよ?」

『な、仲睦まじくてなによりじゃ…』

「ありがとうございます。ティオ様の仰って下さるようにとてもよくして頂いております。とはいえ、それは今のティオ様を受け入れていないことでもあります。そのせいで変態であるティオ様を見てみぬフリをしておりましたが、もう止めにします」

一呼吸置いてエフェルは告げる。

「不幸中の幸い、とでも言いましょうか。少なくとも竜人族でティオ様の変化を知っているのは私だけです。ですので、私さえ受け入れれば何も問題はございません。里の皆さんはまだ私達の知っている姫様のままです」

エフェルの言葉に怪訝する。

するとエフェルの竜眼がこれでもかと縦に割れる。

「ティオ様は私が矯正します!!」

『きょ!?』

思わぬ言葉にぎょっとする。

「ヴェンリ様に代わって私がティオ様に淑女としてのなんたるかを叩き込みます! 大迷宮を攻略した後はお覚悟を!!」

『ま、待って欲しいのじゃ! これも妾の個性じゃ! 受け入れてたもう!』

「ですから私は受け入れます! 私の前ではいくらでもハァハァして頂いて構いません! ですが、このままでは竜人族は変態ではないのかという風評被害を受けてしまいます! なによりティオ様が変態となったことが里の皆さん、特にヴェンリ様に知られたらショック死してしまわれるかもしれません!!」

『そこまで言うか!?』

「言います! ですから私は里の皆の心を御守りする為にも竜人族の未来の為にも私がティオ様を私達の知るティオ様へと矯正させてみせます!」

ティオの変態性をどうにかしようと覚悟を固めたエフェルにティオはただただ冷汗を流す。これは真剣(マジ)だと瞳がそう語っている。

(これは俺も協力することになるだろうな……)

しかし、エフェルに頼まれたら断ることはしない。なにより浩二自身もティオの性癖が本当に矯正できるものなのか色々と試してみたい気持ちもある。

『第一、お主も人の事は言えぬじゃろうが! 妾は知っておるのじゃぞ! 夜中、浩二にそれはもうたっぷりと後ろから』

「私は時と場所は弁えています! それにティオ様のような暴言や暴力で悦ぶ性癖は持ち合わせておりません!! ……ってなに人の情事を覗いているのですか!?」

顔を真っ赤にして叫ぶエフェルを置いてハジメ達は一斉に浩二に視線を向けるも浩二は視線を逸らして知らぬ存ぜぬに徹した。

そして騒ぐ竜人族が落ち着くまで数分の時間を有した。  

 


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