ティオの変態を矯正しようと決意したエフェル。二人の竜人族の話し合いの詳細はとりあえず大迷宮攻略後ということで落ち着きはしたもののティオは項垂れていた。攻略後に矯正される自分でも想像したのだろうか?
そんなこんなで大迷宮を進んで行くとオーガ同士の死闘に遭遇し、そのうちの一体が龍太郎だとすぐに判明した。その一体だけやたら洗練された武道の動き――空手をしていたのですぐに分かったのだが、逃げればいいものの何故かガチンコで殴り合いをしていた。光輝達が慌てて助けに入り事なきを得た龍太郎だったが、その後でオカンモードの雫にめちゃくちゃ説教を受けた。
だけどこれで逸れたメンバーとも合流することができたハジメ達は巨木が鎮座している場所に辿り着いたのだが……到着直後、その巨木が暴れ始めた。
この階層の主と思われる巨大トレント。この先を進むには打倒することが必要だと思い、光輝、鈴、イリエ、レイナ、
『ぐらぉおお!』
実際のオーガと変わらない雄叫びを上げながら、岩のような拳を振るう龍太郎。元の姿でならともかく今の姿では本来の力を十二分に発揮できていないのは痛手だ。そんな龍太郎に丸太のような太さの枝が風を切り裂きながら迫る。
「龍太郎! 伏せろ! ‶天翔閃〟!」
『うおっ!?』
だが、すぐに光輝が十八番である‶天翔閃〟。光の斬撃を放って枝を斬り落とした。
「油断するな! 龍太郎!」
『悪ぃ! 助かった!』
しかし、光輝達が攻めあぐねているのは事実。
「ぐぅう! 重い攻撃ですわね…ッ!」
「天絶天絶天絶ッ! ああもう! 数が多すぎるよ!!」
「近づけない…ッ!」
巨大トレントの鞭のようにしなり不規則な軌道を描いて襲い来る巨大な枝。刃物のように舞い散り飛び交う葉。砲弾のように撃ち込まれる木の実。突如、地面から鋭い切っ先を向けて飛び出してくる槍のような根。一つ一つが致死の攻撃。
撃ち込まれる木の実をレイナは‶金剛〟で防ぎ、鈴は高速展開する結界を常時発動させて葉や木の実から光輝達を守り続けているも攻撃の多さに思わず愚痴を叫ぶ。
イリエは‶幻惑〟を駆使しながら巨大トレントに近づこうとするも巨大トレントには‶幻惑〟が通用しないのか、接近することができずにいる。
香織と浩二のおかげで継戦能力の心配はないが、気を緩めれば即座に命を刈られかねない。とはいえ、攻撃力不足は明白。そこで鈴が……。
「光輝くん! ‶神威〟を使って!」
「なっ、いやだが……」
鈴の言葉に光輝は即断できなかった。
浩二のおかげで‶魔力操作〟を使えるようになってから無詠唱で発動することはできるようになったが‶神威〟を放つのに意識を‶神威〟に集中させる必要がある。つまり溜めの時間が有する。
タダでさえ巨大トレントの猛攻を防ぐのに精一杯なこの状況で無防備な状態を晒すのはリスクでしかない。しかし、鈴は言う。
「大丈夫! 皆は鈴が守ってみせる!! だから鈴を信じて!!」
力強いその言葉に光輝は決断する。
「……わかった。鈴を信じる!」
光輝が、その場で聖剣を頭上に掲げたまま微動だにしなくなった。‶神威〟を発動させる溜めを始める。その隙を巨大トレントが見逃すはずもなく、左右から木の枝が、頭上から竜巻のように迫る葉の刃が、正面から木の実の砲弾が襲いかかる。
「イリリン! レイレイ! ついでに龍太郎くんも光輝くんの近くに!」
「了解」
「レイレイって私のことですの? まぁ、構いませんが」
『俺はついでかよ!?』
鈴の言葉に即座に行動する三人は光輝の傍まで辿り着くと鈴は大きく息を吸う。
「浩二くん! カオリン! 後で回復お願い!」
そこで鈴は切り札を発動する。
「‶第二魔力炉起動〟!!」
刹那、鈴の魔力が爆発的に上昇してその場を橙色で染め上げる。その光景を目撃したハジメ達も目をパチクリさせて浩二はニヤリと笑みを浮かべていた。
「‶聖絶〟!!」
橙色の障壁を展開。今まで何度も自分達の窮地を救ってきた十八番の障壁は初撃の集中砲火を全て凌ぎ切っただけではない。それがどうしたと言わんばかりの強固を見せつける。
それに対して巨大トレントは障壁を粉砕するかのような連続攻撃を放つも鈴の障壁は亀裂どころか傷すら与えない。
これこそ浩二が鈴に与えた切り札‶第二魔力炉〟。
その正体は複製した神の使徒の魔石に似た器官を浩二が‶改造〟の技能を駆使して造り上げて鈴の体内に移植させた。とはいえ、あくまで複製品の為に神の使徒の技能を使うこともステータスが神の使徒同様に上がるわけでもない。代わりに得られるその器官の特性は‶魔力蓄積〟。
本来持つ魔力とは別に魔力を溜め込むことができる器官を鈴に移植させて起動ワードと共に魔力炉は解放されて通常以上に強力な魔法を行使することができるし、発動時間も伸びる。今の鈴は魔力だけなら神の使徒に匹敵する力を行使できる。
それが浩二が鈴に施した‶神の使徒対策〟の切り札。
神の使徒との戦いは避けては通れない道。だから万が一にも神の使徒と戦える戦力を増やす為に浩二は鈴と龍太郎にその切り札を施したのだ。
だが欠点もある。
通常魔力は自然回復を待つか回復薬や回復魔法などで回復することができるが、‶第二魔力炉〟は回復魔法でしか回復することができない。回復役である香織と浩二がいるから鈴は‶第二魔力炉〟を使うことに躊躇いがなかった。
いや、例え回復役がいなくても鈴はここで使っていたかもしれない。今の鈴は前に進まなければいけない。恵理の為に、力を、神代魔法を手に入れようと鈴も必死なんだ。
「鈴は、進まなきゃいけないんだ!! 邪魔しないで!!」
歩む道を阻む巨大トレントに向けて鈴は叫ぶ。そんな焦りを感じさせるような痛々しい叫びに香織は「鈴ちゃん…」と悲し気に彼女の名を口にする。
(鈴…)
言葉にはしないも浩二も香織と同じ心境だ。親友を助ける為に、浩二に親友を殺させない為に鈴は力を求めている。
そこで遂に光輝から膨大な魔力が迸り、掲げる聖剣に収束した。太陽のように燦燦と輝く聖剣をグッと握り直した光輝は、大きく息を吸う。
「行くぞ!―――‶神威〟ッ!!」
自身の切り札たる最大の魔法を解き放った。
光の奔流が射線上の地面を削り飛ばしながら爆進する。葉の刃を吹き飛ばし、木の枝を消滅させ、木の実の砲撃を真正面から呑み込み―――
轟音と共に光が爆せ、周囲を白に染め上げる。
「やったか!」
光輝が会心の笑みを浮かべて叫ぶ。
後方に控えて観戦していたハジメが、思わず「あ、フラグ立てやがった……」と呟く。
フラグはきっちり回収された。光が収まり粉塵が晴れた先には……あちこち欠損しつつも、堂々と立ち塞がる巨大トレントの姿があった。
「うそ、だろ……」
光輝の呆然とした声が虚しく虚空に響く。だがそれも無理もない。‶神威〟は勇者の切り札に相応しい威力を持った最上級の攻撃魔法だ。トータス世界に来たばかりの光輝ならいざ知らず、練度も上がり、それなりの戦闘経験を積んできた今なら大抵の敵は屠れる。文字通りの必殺技だ。
だがそれは直撃していたらの話だ。
巨大トレントの手前には木端微塵になった大量の木々が散乱していた。それは巨大トレントの固有魔法‶樹海現界〟によって大量の木々を生み出し、それを操って光輝の‶神威〟が直撃するのを防いだのだ。
光輝が‶限界突破〟していたらそれごと巨大トレントを屠れたかもしれない。だがそんなの今更の話だ。
茫然自失する光輝。だがしかしこの瞬間、巨大トレントの猛攻は止んでいた。
巨大トレントの眼前に現れる二つの影。
イリエとレイナは巨大トレントに接近して得物を構えていた。
「ここまで近づければ」
「倒せますわ」
二人は別に光輝のことを信用していないわけでも巨大トレントの固有魔法を知っていたわけでもない。どちらかと言えば二人が動いたのはこれまで積み重ねてきた戦闘経験による直感のようなものだ。
光輝の‶神威〟では倒せないかもしれない。その可能性が脳裏を過った二人は光輝が‶神威〟を放ったと同時に動いた。光輝の‶神威〟で倒せれたのならそれでよし。そうでないのなら自分の手で倒す。ただそれだけの話だ。
魔人族の兵士と帝国人。共に数多くの戦闘経験を誇る二人だからこそその可能性を感じ取ったのかもしれない。
そして振るわれる二つの刃は巨大トレントを切り裂いた。
地面に倒れ伏せる巨大トレント。動かなくなったことを確認して得物を収める。
「ふぅ、流石は大迷宮ですわ。胸が躍りますわねぇ、イリエ」
「あたしは別に」
満足そうにするレイナはイリエに同意を求めるもイリエはレイナのような戦闘凶ではないので同意しなかった。「つれませんわね……」と少し不服そうにしながら光輝達の下へ戻ると香織は地面に座り込んでいる鈴に回復魔法をかけ、浩二は光輝と龍太郎の傷を治している。
「鈴ちゃん。大丈夫?」
「うん! カオリンのおかげで鈴はまだまだいけるよ!」
元気いっぱいです! と言わんばかりにいつものように明るく振る舞う鈴だが、先ほどの必死になっている鈴を見たせいか、香織は無理をしているように見えてしまう。
「あの、二人共……一ついいか? どうして俺の‶神威〟が防がれると思ったんだ?」
それとは別に光輝はイリエとレイナにそう尋ねていた。
光輝からしても文句のない一撃だった。直撃していたら確実に倒せていた。それなのに二人は巨大トレントを倒す為に動いていた理由を光輝は知りたかった。それに対して二人は……。
「「なんとなく?」」
揃って首を傾げながらそう答えた。
「そ、そうか……」
思いも寄らない答えに光輝は何も言えなかった。
「あら?」
すると地面からメキメキッという地響きを立てながら生えてきて、急速に成長する巨木の姿。先の巨大トレントそっくりの為に身構える光輝達だったが、巨大トレントは特に襲いかかるでもなく、しばらく佇むと大樹の時と同じように洞を作り始めた。幹が裂けるように左右に割れて中に空間が出来上がる。
「中ボスっぽいなとは思っていたが、次のステージに行く扉でもあったんだな」
ハジメが納得したように頷き、躊躇うことなく洞に向かった。その後もユエ達も付いて行く。身構えていた光輝達も構えを解いて慌てて追随した。
案の定、大迷宮の入口同様に全員が入った直後、洞の入口は勝手に閉じていき、ほぼ同時に足元が輝き出した。そして全員の視界は莫大な光によって塗り潰された。