ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公41

どれぐらい時間が経ったのか。

いつの間にか、熱せられた地面や空気も元の温度を取り戻し、燻っていた火種も完全に鎮火した頃。ハジメ達の周囲は、妙に光沢のあるメタリックな地面へと変わっていた。その金属質の地面は、巨樹の方へ続いている。

「……もう、大丈夫です」

「こちらも、どうやら終わったようです」

湧き出していた快楽が綺麗さっぱりと消えたティニア達。浩二はハジメ達の方に視線を向けるとユエ達もどうやら無事に耐え切ったようだ。

「ふぅ……」

「耐えた、耐えたよ……」

イリエと鈴も正気を失いかねないほどの快楽効果を精神力だけで耐えきったようだ。

「"焦天〟。イリエも鈴もよく耐えきったな」

正気を保つ為に自傷していたイリエの足を回復魔法で治して自ら意識を絶った龍太郎を起こすと、浩二は上着を脱いで雫にかける。

「浩二……?」

「雫も流石だな。とりあえずそれで前を隠しておけ」

「前?」

浩二の言葉に怪訝しながら視線を下に向けるとカ~ッと頬を染め上げた。

快楽の試練……。恐ろしい試練だった。動かずとも酷く発汗するほど大変な試練だった。誰も彼も、全身、濡れそぼるほどべっとりしている。さぞかし、汗でベトついて気持ちが悪いだろう。

真っ赤な顔で浩二の上着で前を隠し、小さくなる雫は何度も背を向けている浩二をチラチラと見ている。

「南雲。更衣室を頼む」

「ああ」

拘束していた光輝を解放してとある記憶の一部を消去すると浩二はハジメに女性陣が着替える為の簡易な更衣室を作り出して貰う。ハジメは"宝物庫〟から予備の服を取り出して浩二もハジメから貰った‶宝物庫〟で服を取り出した。

「谷口の服は……サイズ的にユエしかいないな」

「……ん。今着ているのと似たようなものがあるから、それを出してあげる」

「光輝と龍太郎の服は俺が用意しているからそれを使ってくれ」

自分の‶宝物庫〟から、ユエが鈴用の着替えを出している間、ハジメは視線をシアから香織へ滑らせた。が、そこで善意のシアが前に進み出る。

「ではでは、雫さんの着替えは私が――」

「勘弁してください」

雫さん、まさかの土下座。シアが「何故です!?」とウサミミをみょんみょんさせる。

「いや、そりゃそうだろう。お前、その露出過多の服……服(?)、むしろ服(笑)しか持ってねえじゃねえか」

「私の衣装に何か文句でも!? っていうか服(笑)ってなんですか!?」

近接戦闘者なのに、女の子の大事な部分しか覆っていない衣装のことです。

「雫様。私の予備のメイド服でよろしければお貸ししますよ。私と雫様ではサイズもちょうどよいでしょうし」

「……それは、ありがたいけど…」

シアのと比べたらいいけど、メイド服は少し雫には抵抗があった。似合いそうなのに。

そこへ救世主が現れる。

「安心しろ、雫。こんなこともあろうかと用意してあるぞ」

「浩二……ッ」

笑顔で親指を立てる浩二に雫は笑みを見せる。

流石は幼馴染。共に苦労を分かち合ってきた間柄なだけあってよく理解してくれている。何故女物の着替えを持っているのかは今は置いておいて雫は浩二から服を受け―――

「さぁ、受け取れ。雫」

取れなかった。

何故ならその服は俗に言うゴスロリ衣装だからだ。

「ちゃんと髪紐代わりのリボンも用意してある」

リボンまでしっかり用意している浩二。え? その衣装、お前が作ったの? というツッコミは誰もしなかった。

「勿論ただの服じゃないぞ? 魔物の皮を素材に特殊な薬液に漬けて伸縮性と耐久性を高めてある。軽度の攻撃なら何も問題はない」

自信満々に語る浩二から少し離れた位置でハジメが香織に訊いた。

「なぁ、平野って服を自作できるのか?」

「うん、服じゃないけど私の誕生日の時はお手製のぬいぐるみとか貰ってたよ。雫ちゃんにも同じものをあげてたから浩二くんの手先はすごく器用なんだよ」

お店に売っているものと大差ないよと、教える香織にハジメはマジかよ…とぼやく。

「どうした? 雫。サイズならちゃんとお前に合うようにしてあるぞ」

「……」

雫さん、葛藤する。

シアの服か、ティニアのメイド服か、浩二のゴスロリ衣装か。

どれを選ぶか、雫さんは葛藤する。

「あら、いい服ですわね。これ、雫が着ないのでしたら私が頂きますわ」

「あ、おい!」

そこにレイナが横から浩二が持っていたゴスロリ衣装をかっさらった。

「いい服ですわね。私に似合いそうですわ」

「返せ! それはお前用に作ってねえんだよ!!」

「雫が着ないのでしたら私が着てもよろしいでしょう? というよりもこれはもう私のモノなので着ますわ」

「ふざけんな!」

ゴスロリ衣装を手にオホホホホッ! と笑いながら逃げるレイナを追いかける浩二。予想以上の素早い動きを発揮するレイナをそう簡単には捕まえられない。

「あの、雫ちゃん。私、雫ちゃんに合いそうなパンツルックの衣装持っているから」

「親友! 心の友! 私の香織ぃ!」

ゴスロリ衣装の雫を見てみたいという気持ちは香織にはあるも、今はそれどころではないと自重して親友に合うパンツルックを雫に渡す。

シアの服も、メイド服も、ゴスロリ衣装も着ることなく無事に服の問題は解決した。そして浩二が雫の為に作ったゴスロリ衣装は最終的にレイナの手に渡ってしまった。

「一ヶ月コツコツと頑張って作ったのに……」

「その努力は認めてやるよ」

雫に着て欲しいの一心で毎日コツコツと頑張って完成させた衣装だが、その努力は実らず、レイナの手に渡ってしまった。そんな浩二にハジメは励ましの言葉を送った。

簡易更衣室で心身を整え、さっぱりした様子で全員が出てくる。だが、光輝は落ち込んでいた。龍太郎も光輝ほどではなくも顔を俯かせている。

媚薬効果で正気を失っていても自分がしたことの記憶は残るらしい。

快楽地獄の果ての人間関係、そして、仲間内の絆を試す―――それが、今回の試練だろう。仲間内で、性的な意味で襲い合いそうになったのだから、その気まずさ、罪悪感は半端ないのは仕方がないことだ。

仲間意識の強い龍太郎も自ら意識を絶ったとはいえ、仲間を襲おうとしたことに思うことがあるのだろう。だが、光輝はそれだけじゃない。また自分だけが失敗してしまったという気持ちもあるかもしれない。

でも。

「浩二、さっきは助かった。止めてくれてありがとう」

光輝は浩二に感謝の言葉を送った。

誰かに何か言われたからではない。自分からそれを言いに来たのだ。

「ああ、そろそろ最後だと思うから気を引き締めて行こうぜ。龍太郎もな」

「あ、ああ。そうだな」

言外にお前も気を引き締めろと言う浩二は内心少しだけ嬉しかった。少しだけとは言え、光輝が成長してくれていることに。

(攻略が認められるかどうかは怪しいが、最後の試練をクリアすればもしかしたら……)

光輝も攻略が認められるかもしれない。

(頑張れよ、光輝)

内心、応援する。

そうして浩二達は遂に巨樹のもとへ辿り着いた。

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