ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

80 / 92
主人公44

――八重樫流投擲術改 鮮血時雨

魔力が込められた血を体外へ放出。血を凝固させて‶魔力操作〟の派生技能‶魔力硬化〟で強化させて投擲。空から降り注ぐ雨のように血の投擲武器が‶半人型〟を襲う。

――八重樫流体術改 魔鋼撃鉄

‶改造〟の派生技能‶肉体硬化〟と‶魔力操作〟の派生技能‶魔力硬化〟で硬質化させた肘鉄を‶半人型〟に食らわせる。肉体と魔力の同時硬化によって硬質化した浩二の肘鉄は‶半人型〟の胴体に風穴を空ける。

(キリがねぇな……)

内心でそうぼやく。

無限に等しい数のゴキブリ。‶小型〟や‶半人型〟をいくら倒しても終わりが見えない。‶人型〟はハジメとユエの方に集中しているようだが、このままではまずい。

(俺はまだ余裕がある。だけど龍太郎は‶竜人化〟と‶限界突破〟を二つ同時に使っているから消耗は激しい筈だからもう長くはもたないだろう)

ちょくちょく回復はしているも根本的な解決にはなっていない。シア達はまだ大丈夫のようだが、それもいつまで続くかと言われれば何も答えられない。

(殲滅能力が乏しい自分が嫌だな…)

浩二が本領を発揮するのは対人戦闘。元々八重樫流を身に付ける際に自然と身についた対人の戦い方。それに自身の強化だけでなく相手の意識を誘導したり、逸らしたり、五感を鈍くしたりなど弱体化を促す。だから肉体構造をよく知っている人間相手に浩二は本領発揮できる。

殲滅戦が苦手というわけではないが、ハジメやユエのように銃器や兵器での物理的な殲滅や魔法による殲滅力は持ち合わせていない。

(今度、その辺りも考えてみるか)

殲滅力は今後の課題として置いておいて浩二は仲間達に視線を向ける。

(特に問題はないようだけど、光輝は駄目っぽいな……)

感情が反転し、敵への情から精彩が欠けている。それでも無事なのは香織達がフォローしているからだ。

(大迷宮を攻略できたら反省会だな、こりゃ……)

恐らくは大迷宮の攻略が認められず、神代魔法が手に入らないだろうと推測した浩二は攻略後のこれからのことについて反省会を開くことにした。

すると膨大な魔力の奔流がこの空間に響き渡る。

見ればハジメから紅の魔力が竜巻となって天と地を繋いでいる。‶限界突破〟の最終派生技能‶覇潰〟だ。

(終わりが近い、か……)

何かに集中しているユエを守るように動くハジメを見て浩二は確信した。次のユエの一手で終わることを。

それなら……。

(俺も全力を出しますか……)

「‶改造・限界解除〟」

生存本能(リミッター)を意図的に破壊して本来使えない力に手を付ける疑似的な‶限界突破〟。‶改造〟の派生技能‶限界解除〟を発動させる。

そんな浩二を本能的に危険と察知したのか、数十体の‶半人型〟が全方位同時攻撃を仕掛けるも瞬く間に斬り捨てられる。

「行くぞ」

その言葉と同時に浩二は消えた。

否、残像すら残さない圧倒的な速度で‶半人型〟を次々斬り捨てていく。‶半人型〟は攻撃も防御もする暇も隙もなく気が付いたら斬られていた。

「凄い……」

次々と‶半人型〟を斬り捨てていく浩二の姿に雫は思わず感嘆の声を出した。それは単純に強いという意味ではない。技能によって強化されていたとしてもその動きには無駄がなく洗練されている。

その動きが雫が良く知っている八重樫流の動きとは若干異なっており、無骨とも言えるほど余計な動きはない。

剣を極めた者の動きは一種の舞のような動きにも見えるもの。幼少の頃より剣術を磨き続けてきた雫がまさにそれだ。素人が雫の剣技を見れば舞を踊っているように見えるだろう。だが、お世辞にも浩二の動きからは舞と呼べる動きではない。ただ淡々と敵を斬り捨てていくその動きに雫は‶凄い〟としか言えなかった。

浩二には才能がないことぐらい誰よりも理解している。だからどこまでも実直に愚直に一からコツコツと己を鍛え、剣技を磨き続けることしかできなかった。

だからか、その剣技には舞のような美しさなどはなかった。だけど、いや、だからこそただ圧倒されるような凄さがそこにあった。

「……」

‶半人型〟を斬り捨てながらも雫はなんとも言えない複雑な表情で浩二を見据えて、その浩二を心から慕うティニア達に視線を向けてしまう。

それは葛藤か、羨望か、もしくは嫉妬なのかは雫自身にもわからない。

「うわぁ」

だが、そんな浩二の口からそんな声が漏れた。

噴火、そう錯覚するほどの勢いで、全ての壁からゴキブリの大群が噴出したのだ。

津波などという表現ではまるで足りない、地下空間の壁の縮小ともいうべき現象だった。

噴出するゴキブリで、壁や天井はもちろんのこと、もはや大樹も見えない。まさに、数億、数十億という数のゴキブリによる閉鎖空間。

―――‶神の使徒〟を、まともに相手取るな。本体を叩け。さもなくば呑まれるぞ。

そういう大迷宮の、引いては解放者達のメッセージなのだと悟った。

(本当に大迷宮は色々と考えさせられる……)

原作知識でわかっていたとしても大迷宮はそんなものは何の役にも立たないかのように理不尽を押し付けてくる。だからこそ、原作知識に縋ることも依存することもない考えを身に付けなければこれから先の戦いでは生き残ることができない。

「―――‶選定〟」

紡がれた言葉。

ユエの胸元には、祈るように合わされた小さな手。その中から漏れ出す蒼い光が、静かに脈動した。

不可視の、しかし確実に力ある何かが波紋を広げるのを、‶人型〟は明確な恐怖と共に感じ取った。

ユエが、そっと壊れ物を扱うように手を開いた。そこにあったのは、渦巻く小さな焔。蒼く煌めく、小さな小さな一粒の焔。

ハッと、‶人型〟は我を取り戻し、危機感と焦燥感を滲ませた絶叫を上げるも、全ては遅すぎた。

「―――‶神罰之焔〟」

直後、その魔法は殲滅の意志を乗せて発動された。

蒼く輝く星が、一際強く脈打った。

次の瞬間、蒼き星を中心に光が膨れ上がり、地下空間へと広がっていく。

まるで凪いだ水面に落ちた一滴の水滴がもたらす波紋の如く。静かに、穏やかに、されど慈悲など微塵も宿さずに。

まず、閉鎖空間を作っていたゴキブリが灰燼に帰した。一瞬の内に、一匹も余さず。

‶人型〟もまた‶神罰之焔〟と詠われた瞬間、脱兎の如く逃げ出したが、幾ばくも距離を取らない内に、空間全てを蹂躙する蒼い光に捕まって、悲鳴を上げることもできずにあっさりと消滅した。

しかし、浩二達には傷一つ付いていない。それだけではなく大樹や枝通路すらも傷ついておらず、ただゴキブリだけを滅ぼしていく。

不可思議で恐るべき現象の原因。それは、

―――炎・重力・魂魄複合最上級魔法 神罰之焔

炎属性最上級魔法‶蒼天〟を、重力魔法によって計十発分圧縮し、更に、魂魄魔法‶選定〟によってユエが指定した魂を持つ者だけ、あるいは指定しなかった魂を持つ者だけを焼き滅ぼす超広域殲滅魔法である。

(とんでもねぇな、おい)

蒼炎による火傷一つない。原作知識で知っていたとはいえ、やはりとんでもない魔法だ。

(これはユエにしかできねえな……)

‶御業〟に相応しい魔法を前にただ圧倒されながらも、‶限界解除〟を解いて雫達がいるところに戻る。

「皆、無事か?」

「おう」

「うん」

‶竜人化〟を解いて肩で息をしながらその場に座り込んでいる龍太郎はかなりの疲労が見られるもその顔は晴れやか。自分を全力を出し切ったと言いたげな顔だ。

鈴も息を乱してはいるも‶結界師〟としての役目を最後まで全うした。そのかいもあって大きな怪我を負ったものは誰一人いない。

「問題ありません」

「旦那様、それに皆さんの活躍のおかげで」

「大丈夫」

「ええ、問題ありませんわ」

ティニア達の方も問題ないようだ。香織達の方に視線を向けると香織は問題ないと、頷いた。

(雫も、大丈夫そうだ……)

雫にも怪我はない。だけど、先ほどから浩二に視線を合わせようとしてこない。いや、チラチラと浩二を見てはいるもすぐに視線を逸らす。

そんな雫の反応に気にはなるも、今は雫よりも気にしなければならない人物がいる。

――光輝だ。

感情反転魔法の効果が消えて正気を完全に取り戻した光輝はまた何もできなかったことに暗い表情のまま顔を俯かせていた。

(攻略は、認められないだろう……)

浩二自身、認められるかどうかはまだわからないが、少なくとも光輝は認められないだろう。龍太郎や鈴のように活躍していればまだわからなかったが、原作通り、光輝は駄目だろう。

(実力は問題なかった。となれば、やはり精神的問題か……。今度の大迷宮攻略前にどうにかしておかないとな……)

光輝の今後についてを頭の片隅に置きながら浩二達はハジメとユエの二人がいる場所に移動を開始する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。