ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公47

雫達との大迷宮反省会を終わらせた浩二は今度はティニア達を呼んで雫達と同様の反省会を開いたのだが、ティニア達の行動方針は変わらずに浩二と共に行動することであり、大迷宮での反省会も雫達よりもスムーズに終わらせることができた。

「武器は南雲に頼むとして、新しい神代魔法を使いこなせるようになるのはもちろん、自分達の力も磨いておく必要があるな」

「それでよろしいかと」

特にコレという異論も否定もなくティニア達は頷いた。

「浩二。私もそろそろ‶魔力操作〟を覚えたいですわ」

「ああ、そうだな。これからの戦闘では必要だな。後はエフェル、お前の‶竜化〟を改良しておきたい」

「できるのですか?」

「ああ。龍太郎といういいモル……コホン、竜人族の‶竜化〟については概ね把握した。昇華魔法を手に入れた今の俺なら改良も可能だ」

その言葉にエフェルは少なくない驚きを見せる。

竜人族の代名詞である固有魔法‶竜化〟。その形態は生まれた時から決まっていて大きさ自体は年齢や修練で変わるが、姿形自体が変わることはない。

‶部分竜化〟という竜人族の中でも限られた物しか使えない能力もあるが、残念ながらいくら修練を積んでもエフェルはそれが使えないことに悩んでいた。

「……それは‶部分竜化〟も可能になる、ということでしょうか?」

「ああ」

浩二はあっさりと肯定した。

嘘でも冗談の類ではない。エフェルは浩二のその瞳を見て確信する。

(本当に、凄いお方ですね。旦那様は……)

ここ最近、エフェルは自身の力の伸びしろに悩みを抱えていた。

旦那様と慕う浩二はどんどんと強くなって前に進んでいるというのに自分はまだ浩二と出会ったあの日から碌に前に進めていない。神代魔法は手に入れてはいるも、それだけだ。

どうしても、竜人族の姫君であるティオの下位互換になってしまう。

(きっと、私の悩みも見透かした上での提案なのでしょう)

なら、自分はどうすればいいのか? そんなものは決まっている。

「よろしくお願いします、旦那様」

「任せろ」

心から信じ、その身を委ねるのみ。

自分の愛する人とその仲間の為に更なる力を手にする為に。

「浩二」

イリエが少しだけ申し訳なさそうに言う。

「次に向かう大迷宮……フリード様が攻略した大迷宮――【氷雪洞窟】のことを少しでも知っていれば役に立つのだけど、一兵士であったあたしには何も教えてはくれなかったから、わかるのは精々場所ぐらいで肝心の大迷宮については何も知らない。父さんなら知っていたかもしれないけど」

「いや、イリエが気にすることじゃないから心配するな」

無論、少しでも情報があればよかったという考えもあった。しかし、それにばかり頼るのもよろしくない。

(一応、原作知識として内容はわかってはいるが……)

次の大迷宮のコンセプトがどのようなものか、それはわかっている。

わかっているからこそ困難なのかもしれない。

(光輝、雫だけじゃない。俺にとっても一番の鬼門なのかもしれないな……)

下手をすれば失敗するかもしれない。

それこそ今、ここにいる仲間の誰よりもその可能性はある。

「それよりも浩二様。一つよろしいでしょうか?」

「どうした?」

「あの勇者も連れていかれるのですか?」

冷静に淡々と告げるも、その顔は少し嫌そうにしていた。

「盗み聞きをするつもりはなかったのですが、先ほどの雫様達との反省会で勇者の声が部屋の外にまで聞こえまして」

「あ~~、いや、か?」

「そうとは申しませんが、危惧は抱いております。あの勇者が浩二様に剣を向けるのではないかと」

ティニアは勇者である光輝を快く思っていないようだ。

そして浩二は思う。確かに次の大迷宮ではそれもありえそうだと。

(原作では南雲だったけど、俺になったりしてな……)

いや、流石にそうはならないだろうけど。そう自分に言い聞かせることにした。

「ちなみに他の皆は?」

一応、ティニア以外にも勇者の同行についても訊いてみる。

「旦那様が良いのでしたら私は構いません。ですが、今のままでは危ないというティニアさんの考えはわかります」

「そうですわね。一人だけ攻略が認められませんでしたし、思うものもあるのは理解できますわ。それを必死に抑えているようにも見えますけど、明らかに不満などを募らせているのは一目瞭然ですわね。というか、前から思っていたことなのですけど、あの方は本当に勇者なのですの? 一応、勇者様相手にこうは言いたくはありませんが、まるで小さな子供がそのまま成長した。そんな感じがしますわね」

「……才能はあると思う。勇者としての素質も。けど、心が駄目」

(なんか、思っていた以上に言われているな、光輝のこと……)

浩二からして見ればすっかり慣れてしまったことではあるも、普通はこういう反応なのだろう。

だけど、幼馴染として家族としてこうも言われたら苦笑するしかなかった。

「まぁ、皆の気持ちはわかる……とは俺の口からだと言えないか。けど、皆には悪いけど光輝は連れて行く。あいつ自身がそれを拒んだとしても、だ」

「何か理由でもありますの? 正直、あの勇者が次の大迷宮も攻略できないと思いますけど?」

レイナの問いに浩二は頷いた。

「ああ、一つはさっきも皆が言っていた通り、今の光輝は危険だ。それこそちょっとした甘い誘惑に負けてしまうぐらいに。それこそ神の使徒が使う魅了なら一発で堕ちるだろうな」

「なるほど。確かに今の勇者ならあり得そうですわね」

「ああ、仮に光輝をリリィ達がいる王城や一人で別の大迷宮に向かわせてみろ。悪巧みに長けたあの神がそんな勇者を利用しない手はない」

「それならば旦那様、私達の傍に居て貰った方がまだ安全ですね」

「そういうこと。光輝のメンタル面はともかく才能と実力だけは一級品だからな。敵に回すと厄介だ」

「……確かに戦闘では何も問題なかった」

むしろ、才能と実力だけで大迷宮の魔物相手に互角以上の戦いをしていた。搦め手には弱いだろうが、正面からの戦いであればイリエでも勝てるとは断言できない。

「後は光輝、あいつ自身も強くなって貰わないと困る、というよりもなって貰うしかない」

「それはどうしてですか?」

「あいつが‶勇者〟だからだ」

浩二のその言葉にティニア達は首を傾げる。

「天職は才能だ。その領分においては無類の才能を発揮する。なら‶勇者〟の才能とはなんだ?」

これが‶剣士〟や‶拳士〟もしくは‶治癒師〟や‶医療師〟ならまだわかる。

‶錬成師〟でもそれぞれの才能に特化したものだと理解はできる。

なら‶勇者〟とはなんだ?

いったい何の才能があって‶勇者〟なのだろうか?

「‶勇ある者〟が勇者としての才能なら他にも天職が‶勇者〟の奴もいる筈だ。レイナ、お前の知る限りでそんな奴はいるか?」

「……いませんわね。少なくとも帝国でそのような人がいれば皇帝陛下が放置するわけがありませんわ。つまり、浩二はあの勇者には特別な何かがある。そう仰りたいので?」

「多分だけどな。もし、‶勇者〟に何かしらの意味があるのなら光輝にはもっと強くなって貰わないといけない」

ティニア達は気に入らないかもだけど、と内心付け加える。

(とはいえ、本当にそれでいいのかどうかはわからないけど……)

原作では光輝がいなければ勝てないというそんな場面はなかった。むしろ敵側に回っていた。エヒトはハジメとユエが倒しているし、光輝が絶対に必要な場面などない筈だけど。

(それでも強くなって貰うことには変わりない。とりあえず今はティニア達を納得させる理由にはなっているし、それでいいだろう)

「……かしこまりました。浩二様の意志に従います」

「悪いな。俺のことを心配してくれているのにこんな我儘を言っちまって」

「いえ、浩二様らしいとは思います」

薄っすらと微笑みを浮かべるティニアに浩二はコホンと咳払い。

「さて、反省会もこのぐらいにして今日はもう休もうか。ティニア、俺は少し薬の補充をしてから寝るから、悪いけど明日の昼前ぐらいに起こしに来てくれ」

「かしこまりました。ですが、浩二様もしっかりとお休みしてくださいね」

「そうですよ。旦那様はいつも一人で無茶をするのですから」

「浩二も早く休むべき」

「なんなら私が添い寝してあげてもよろしくってよ?」

「わかった、わかったから。俺もできる限り早く休む。だからそんなに心配しないでくれ。それとレイナ、お前の添い寝はいらん」

戦闘狂と同じ部屋で寝ても全然休めん、と告げるも「夫婦が寝所を共にするのは当然のことでしてよ?」ともう夫婦であることが当然のように言うレイナの意識を強制的に断つ。これで暫くは目を覚まさない。

「それじゃ、おやすみ」

これで安心して休める。浩二は用意された個室に向かう。

 


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