ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公49

「んぅ……んぅ?」

どこか艶めかしさを感じさせる声を漏らしながら、雫は薄く目を開けた。

意識は未だ微睡みの中にあり、焦点の合わない瞳がぼ~っと虚空を見つめている。

その視線の先には木目調の天井があった。更に、半覚醒状態の意識が、背後と後頭部に柔らかな感触を伝えてくる。

そんな寝起きの無防備な顔を晒してぽへ~としている雫に、耳慣れた声がかかった。

「あ、雫ちゃん、起きた? ぐっすりだったね。もうお昼だよ」

「ぅ? ……香織?」

雫が親友の方へふらふらと視線を向けると、そこには確かに親友の姿があった。すっかり身支度を整えており、窓際の椅子に腰掛けたまま雫に優しい微笑みを向けている。

深い水底から浮上していくように意識がはっきりとしてきた雫は、上体を起こして女の子座りをしつつ、丸めた手で目元をコシコシとこすった。ぼんやりとした頭で、意識がなくなる前の記憶を辿っていく。

「ん~? 私、どうして部屋に……確か、森の奥で……っていうか、ここ、香織の部屋?」

【フェアベルゲン】では、それぞれ個室が用意されている。そのため、見覚えのない部屋で香織がいることからすれば、ここは香織の部屋と推測できる。

香織は、こてんっと首を傾げながら尋ねてくる雫の可愛らしい姿に、ちょっぴり頬を染めつつ答えた。

「うん、私の部屋だよ。朝、早い時間にね、浩二くんが雫ちゃんを連れてきたの。徹夜で鍛錬してたんだってね? もう、ダメだよ、大迷宮から帰ってきたばかりなんだから、ちゃんと休まないと」

「え、えーと、そうね。ごめんなさい。そ、それで、浩二が私を連れてきてくれたの? 全然、覚えてないのだけど」

「雫ちゃん、ぐっすりだったからね。すっごく疲れていたんだよ」

メッ! と叱るように指を立てる香織を尻目に、雫はどこか落ち着きなくそわそわと身を捩らせた。

普段、ポニーテールにしている長い黒髪が下ろされているせいか、クールさよりも大人しさを感じさせ、女の子座りと相まって中々のギャップを発揮している。

見れば服も脱がされており、シャツ一枚という姿。

こんな姿をクラスの男子達や、雫を‶お姉様〟と呼び慕う女子達が目撃でもしようものなら、きっと鼻血で虚空にアーチを作りながら良い笑顔で血の海に沈んだことだろう。

雫は、頬を少し染めながら、上目遣いでおずおずと香織に尋ねた。

「えっと、浩二はどうやって私を?」

「お姫様抱っこで雫ちゃんを私の部屋まで運んできたよ。浩二くん、凄く優しい顔で雫ちゃんを見ていたよ」

慈愛に満ちた表情で告げる親友の言葉に雫の顔を毛布で隠す。

そんな乙女を発揮する雫を香織はよしよしと撫でる。

すると、外から何やら騒がしい音が響いてきた。更には「オホホホホッ!」という高笑いや「ええいっ! いい加減しつけえぞ!!」という聞き慣れた声が聞こえてきた。

「な、なんだか騒がしいわね? 何かあったのかしら?」

「あ~ あれは浩二くんとレイナさんだね。浩二くんが起きてからずっと勝負(デート)しているんだよ」

勝負(デート)?」

それは男女が手を繋いで遊ぶもの(デート)ではない。戦闘・闘争という名の血みどろで血生臭い勝負(デート)だ。

 

 

 

 

雫が目覚めるより少し前。

「浩二様。起きてください」

「……んぅ」

浩二は雫を香織に預けた後で自分の部屋で休んでいるとティニアに起こされた。優しく声をかけられ、ゆっくりと揺さぶられながら浩二は寝惚けたまま上体を起こす。

「おはようございます」

「……………ん、おはよう」

まだ意識が目覚めていないせいか、上体は起こすもまだ眠たそうにしている。「あと、五分……」とか言いそうだ。

そんな子供っぽい浩二のティニアは薄っすらと笑みを浮かばせながら浩二の目を覚まさせる。

「目をお覚まし下さい。もう皆様、食堂に集まっていますよ」

「……………………ん」

ゆっくりと動きながらベッドから出ながらティニアが用意してくれたであろう服に手を伸ばしながら身支度を整える。その間に寝惚けていた頭も徐々に目覚めていく。

「実は今朝方、アルテナ様が浩二様のお部屋に尋ねてきました」

「アルテナが? 要件は?」

「いえ、要件と呼ぶほどではないようです。ただ浩二様を起こしに来ただけと」

丁重にお帰り頂きましたが、と付け加えて告げるティニアにそうか、と答える浩二はん? と疑問が過った。

「……なぁ、ティニア。いつからいたの?」

今朝アルテナが浩二の部屋に来たということは、恐らくは雫を香織の部屋に連れて行き、自分の部屋で休み始めた頃だろう。そしてその頃にはティニアは既に起きて浩二の部屋の近くにいたということになる。

「浩二様の寝顔、しっかりと堪能させて頂きました」

「……うん、まぁ、寝顔なんて今更だし、別にいいけど」

「あと、抱き枕の代わりを少し」

「本格的に抱き癖がついているな、俺……」

誰かに甘えたい年頃なのか? といい歳した青年はそんなことに思わず悩んでしまう。しかし、ティニアからすれば役得なのでむしろ嬉しい限りだが。

どうにかしないと、と思いながら浩二はティニアと共に皆がいる食堂に向かうと、そこには既にハジメ達がいてそれ以外にもエフェル、イリエ、レイナの他に給仕係の亜人族とアルテナとその側仕えが多数いる。

「旦那様、おはようございます」

「浩二、おはよう」

「ようやくお目覚めのようですわね。浩二」

エフェル、イリエ、レイナが浩二の存在に気づいて声をかける。浩二もそれに応えるように軽く「おはよう」と挨拶する。ついでにハジメ達にも。

「浩二様。おはようございますわ。すぐにお食事の用意をしますわ」

アルテナが浩二の傍に歩み寄り、給仕係に食事の用意をさせようとするもティニアがストップをかける。

「アルテナ様。浩二様の食事につきましては既にこちらでご用意させて頂いておりますのでお気遣いは結構です」

見ればテーブルの上には食事が用意されている。恐らくそれが浩二用の食事なのだろう。

あれ? さっきまではそこになかったよね? さっき見た時はなかった筈の食事が気がついたら用意されていた。

本当にいつの間に、と浩二は言いたそうだ。

「では食後の飲み物の用意でもしましょう。いい茶葉がありますので」

しかし、アルテナは退かない。

森のお姫様に相応しい素敵な笑顔で言い寄ろうとするアルテナ。だが、ティニアは冷然と対応する。

「いえ、そちらも結構です。茶葉の用意もこちらでしておりますのでお気になさらず」

甲斐甲斐しく浩二の世話をしようとするアルテナをティニアは丁重に断りを入れていく。その光景を少し離れた位置で見ていたハジメとユエはニヤニヤと底意地の悪い笑みを見せる。

「流石は‶医神〟様だ。森のお姫様も篭絡したか」

「……ん、順調にハーレムを築いてる」

「いや、ハジメさん。浩二さんがああなったのもハジメさんのせいですよ? 浩二さんを見てくださいよ、見て分かるぐらいにオロオロしてますよ。それにユエさんもそんな意地悪を言わないであげてください」

自分を巡って言い争う森のお姫様にメイドさん。その二人の間でどうしようかとオロオロする浩二をシアは擁護する。

「ふむ。どうやら浩二は自分に好意などを向けられることには慣れておらぬようじゃのう。かといって冷たくあしらうこともできぬようじゃ。攻めは良くても守りには弱いのぉ、浩二は」

「……ん、押しに弱いところはハジメに似ている」

ハジメの顔から底意地の悪い笑みは消えて同情的なもしくは仲間を見つけたかのような眼差しで浩二を見始めた。

そしてようやくアルテナは引き下がり、浩二はやっと食事に手を付けることができるようになった。

「そういえば光輝達は?」

食事をしながらこの場に光輝達がいないことに気付く。

雫はまだ寝ていて香織は雫の傍にいることぐらいは予想できるも、光輝達はもう起きていてもいい筈だ。

「鈴達なら外で新しい神代魔法の練習をしている。勇者は自室」

イリエが端的にそう教える。

「そっか。まぁ、せっかく新しい力が手に入ったのだから試したくもなるか」

納得し、食事を進めながら光輝について考える。

(昨日の俺の言葉をよく考えてくれるといいんだけどな……)

そう願うも無理だろうと予測できる。

光輝の歪んだ正義感、自己解釈がそう簡単に変えられるわけがない。簡単に変えられるのなら苦労はない。きっと今は浩二の言った言葉を自分の都合のいいように解釈しているのだろう。

(さて、どうしたものか……)

光輝について悩みながら食事を終わらせ、ティニアに食後の飲み物でも用意して貰おうとすると。

「さて浩二。勝負(デート)ですわ」

「はぁ?」

不意にレイナが椅子から立ち上がりながらそんなことを言ってきた。

「いや、俺、今、飯を食い終わったばかりなんだけど」

「いいではありませんの。食後の運動になりますわよ」

「いや、せめて時間をくれよ。後で付き合ってやるから」

「私が我慢できませんわ」

レイナは火照った顔で艶のある吐息を漏らしながら頬に手を当てながら浩二に言う。

「この火照った身体を鎮める為には浩二との血湧き肉躍る闘争を求めますわ。ふふ、私はもう浩二無しでは生きられない身体になってしまいましたの。その責任を取ってくださいませ」

「御免被る」

浩二さん、真顔で拒否した。

だが、それで止まる戦闘狂(レイナ)ではない。

「問答無用ですわ!!」

「うおっ!?」

レイナは細剣(レイピア)で鋭い一突きを放つ。それを紙一重で回避する浩二は面倒だ、と言わんばかりに小さく舌打ちする。

「お前、場所ぐらい考えろ!? ここ食堂!! 食べるところ!! わかる!?」

「闘争に時も場所も関係ありませんわ!!」

「ああもう! これだから戦闘狂は!!」

応戦する浩二だが、ティニア達やハジメ達はともかくとしてここにはアルテナや戦闘に不慣れな亜人族もいる。場所を変えようとするも先程のレイナの攻撃から回避した場所が悪かったのか、背後にはアルテナがいることに気付いた。

「ちょっと待て! レイナ!!」

「待ちませんわ!!」

浩二の制止も聞かずに些かな躊躇いもなく細剣(レイピア)による鋭い攻撃を行う。浩二だけなら避けるのも容易い。しかし、後ろにいるアルテナはそうではない。避ければ間違いなくレイナの細剣(レイピア)がアルテナを貫くだろう。

「ひっ」

アルテナが小さく悲鳴を漏らす。

「くそっ」

仕方がねぇ、と思った浩二は咄嗟にアルテナを抱えてレイナの攻撃を躱す。

「え?」

「悪い。ちょっと我慢してくれ」

「は、はい」

浩二の顔がすぐ近くにある。お姫様抱っこだ。

アルテナを側使えの近くで降ろし、浩二は食堂の窓を開けて飛び出す。レイナはそれをつかさず追いかける。そしてアルテナは浩二達が飛び出した窓の外をぼけ~と見つめている。

「……お兄様」

 

 

 

 

 

ブルリ、とこの瞬間、浩二の背に亜寒が走った。

「なんだ!? 今の寒気は!?」

「余所見は厳禁ですわよ!!」

今までに感じたことのない亜寒に身を震わせた浩二は思わず周囲をキョロキョロと見渡す。余所見をする浩二にレイナはお仕置きの一突きを与えようと突きを放つ。

「くらうかッ!」

だが、余所見をしたぐらいで攻撃を受けてしまうほど浩二は甘くはない。更にはお返しと言わんばかりに蹴撃をレイナの腹部に叩き付ける。

「ぐふっ!?」

蹴り飛ばされるレイナは樹に背中を強打させる。しかし、その顔は凄絶な笑みを見せる。

「流石は浩二! 情け容赦のない攻撃に私、滾ってきますわ!」

「俺は滾らねえよ」

むしろ萎える。だが浩二の心情など知ったことかとレイナは浩二に向かって駆け出し、細剣(レイピア)による連続突きを炸裂させる。

一突き一突きがとても洗練されており、雨の如く突き放たれる刺突は普通の人間なら回避不可能。全身が穴だらけになってしまうが、浩二はそれを紙一重で躱し続ける。

「それでこそ私の夫ですわ!! さぁさぁ、もっと激しく踊りますわよ!!」

オホホホホッ! と笑うレイナに浩二は叫ぶ。

「ええいっ! いい加減しつけえぞ!!」

浩二さん、あまりにもしつこいレイナに思わず叫ぶ。どういうわけかレイナを暴走もとい闘争または勝負(デート)をティニア達は止めてくれない。遠くから微笑ましく眺めるだけだ。

「まだまだ行きますわ!!」

その時、レイナの動きが加速した。

「ッ!?」

それには流石の浩二も思わず目を見開いた。

何故ならレイナの身体から淡紅色の魔力を纏っている。

「身体強化!? しかもお前、それ、魔力操作だろ!?」

‶身体強化〟の技能はある。レイナがそれを使うこと自体は別に不思議ではない。むしろ納得すらできる。問題は無詠唱、詠唱も魔法陣も無しで身体強化を発動させたのだ。

驚く浩二にレイナは不思議そうに答える。

「あら? 魔力操作を使えるようにしたのは浩二でしょう?」

「確かにそうだけど! だけどな……ッ!」

レイナが‶魔力操作〟を使えるように寝ている内にちゃっちゃと浩二は済ませていた。目覚めてステータスプレートを確認すれば‶魔力操作〟の技能が発現していることぐらい気付くだろう。

だが、すぐに使えるようになるのは別問題だ。

特にこの世界トータスの人間ならば尚更、詠唱や魔法陣有りでのやり方に慣れている。だから無詠唱での魔法の使用は慣れるまで難しいだろうと踏んでいた。

それをレイナは元から使えますが何か? と言いたげに使いこなしている。それも‶身体強化〟のおまけ付きで。

「ああ、身体強化は今使えるようになりましたわ」

「このバグキャラめッ!!」

レイナのステータスプレートを見れば‶魔力操作〟の派生技能に‶身体強化〟が追加されているだろう。発現したばかりの派生技能を昔から使えるように使いこなすレイナに浩二は叫ばずにはいられない。

闘争という名の勝負(デート)を繰り広げる二人の騒ぎを嗅ぎつけたのか、多くの亜人族がぞろぞろと集まり始める。

「何事か!? あ、あれは‶医神〟様!?」

「あれほどの攻撃もああも容易く躱し続けるとは……ッ! ‶医神〟様は武にも秀でておられたとは!!」

「皆の者、集まれ! ‶医神〟浩二様の戦いが見られるぞ!!」

いや、止めてくれてもいいんだよ? 我々は決して邪魔をいたしませんみたいな眼を向けなくてもいいからね? 子供達も「がんばれー!」って応援しなくてもいいからね?

浩二の心情とは裏腹に亜人族、それも戦士達は浩二の動きを一挙手一投足見逃すことがないように目をしっかりと見開いて観察し、亜人族の子供達からは応援される浩二の心情は複雑だ。

「ああ、‶医神〟様……なんて素敵なのでしょう」

「我等、亜人族にも分け隔てなく接してくださる慈愛の御心だけでなく、あれほどまでにお強いなんて……」

「お兄様! 頑張ってくださいまし!!」

「アルテナ様!! 今なんとッ!?」

亜人族の女性陣に紛れてさらりと何か聞こえた気がしたが浩二は突発性難聴のせいで聞こえなかった。そう、聞こえなかった。聞こえなかったら聞こえなかった。

「えっと、どういう状況なのかしら?」

「おはようございます、雫様。いつも通り、レイナ様と浩二様の勝負(デート)でございます」

「いつもなのね……」

食堂にやってきた雫は眼前に繰り広げている浩二とレイナの勝負(デート)に何とも言えない表情を浮かべる。

「いつもしているの?」

「そうですね。基本的には毎日でしょうか」

「毎日……あれを?」

「浩二は基本的に素手だけどね」

一応手加減(ハンデ)はしている。それでも毎日ああも激しい闘争を繰り広げているともなると呆れを通り越して何も言えなくなる。

そんなこんなと思っている内に勝負(デート)は終盤に近づいていた。

「さぁ、最後に行きますわよ!! ‶禁域解放〟」

レイナは新たに手に入れた力、神代魔法を行使した。

あらゆる能力を最低でも一段階進化させる神代の魔法――昇華魔法の一つ。

時の流れが遅くなり、世界が色褪せる。知覚能力が拡大し、感覚が鋭敏になる。

消費魔力が大きい為に今のレイナの扱えるのは一瞬だけ。だからこの一瞬にレイナは己の全てを愛する者にぶつける。

「――ッ」

浩二は反射的だった。

これまでレイナとの勝負(デート)で決して抜かなかった刀に手をかけた。そうしなければマズイと反射的に察知したからだ。

交差は一瞬。

決着も一瞬。

レイナの手から細剣(レイピア)がこぼれ落ちるもレイナの表情は晴れやかだ。

「……………やっと、抜きましたわね」

「……ああ、認めるよ」

抜けなければ今のレイナの一撃を受けていた。

「次は私が勝ちますわ、よ……」

パタリ、と倒れるレイナ。峰打ちとはいえ、ちょっと強く打ち過ぎたことを反省して浩二はレイナに回復魔法を施しておく。

「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」」」」」

信仰する神に捧げるような、勝利を祝福する雄叫びが【フェアベルゲン】に轟く。

あまりの雄叫びに浩二の肩がビクッ! と震えた。

「お兄様!」

「おっと!? ん? お兄様……?」

アルテナが浩二の胸に跳び込んできた。

上目遣いで顔を上げるアルテナ。恍惚した表情で熱が籠った眼差しで浩二をじーっと見上げてくる。美少女なだけあって男であればその顔だけで一目惚れしてもおかしくないのだが、浩二は盛大に頬を引きつかせている。

(いや、ちょっと待って、待ってくれ……)

この顔、見たことがある。元の世界でも、この世界でも何度も見たことがある。それ故に浩二は見間違えるわけがなかった。

そう、雫をお姉様と慕う《ソウルシスターズ》が雫に向けるものと全く同じ……。

「強く優しいお兄様。どうかわたくしのお兄様になってくださいまし」

(逃げよう)

浩二は迷うことなく逃走を選んだ。そしてほとぼりが冷めるまで、もしくは次の大迷宮に向けて出発するまで身を隠そうと思い、逃げようとしたが、アルテナの力が予想以上に強かった。

何があっても逃がさない。腕を背に回して力強く抱き着いてくるアルテナに浩二は身動きが取れなかった。

本当にお姫様なの!? と叫びたいほどに強く抱きしめられている。

強引に振り解こうと思えばできないこともないが、浩二は知っている。それをしたとしてもアルテナはめげない、挫けない、折れない。雫を慕う《ソウルシスターズ》がそうであるようにどこまでも追いかけてくる。

(どうしてこうなった!?)

意味が分からない。だが今は逃げることが先決。浩二は食堂の窓からこちらを見ている雫に助けを求める。

「雫!! 雫さーん!! 助けてー!! ヘルプ・ミー!!」

必死に助けを求める浩二さん。

だが、当のお姉様はぷい、と顔を逸らした。

「浩二もお兄様になってしまえばいいのよ」

「雫!?」

見捨てられた浩二の悲痛の叫びが【フェアベルゲン】に響いた。

「ふふ、お兄様♡」

「ひぃ」

この時、浩二は《ソウルシスターズ》に慕われるお姉様の気持ちが嫌というほど理解した。

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