ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公50

【フェアベルゲン】側も、復興やら負傷者の回復、何より奴隷だった同胞の解放に助力したことで、ハジメ達は大きな恩と好意を抱いてくれているらしく、それが待遇という形で示されている為にハジメ達は非常に快適な日々を送っている。

――筈だった。

美しき【フェアベルゲン】。その近くで二人の少女が対峙していた。

一人は亜人族の中でも地位の高い森人族の長老の孫娘であり、同族の間でも高貴な存在と見られている【フェアベルゲン】のお姫様。足元まである長く美しい金髪を波打たせた、翡翠の瞳を持つ美少女だ。

小さい頃から森のお姫様に相応の扱いと教育を受けて育ち、その能力は高く、気構えも申し分ない。聡明で心優しい少女に育った森人族の族長の孫娘――アルテナ・ハイピスト。

多くの同族達からも慕われ、人柄、容姿、能力も高いアルテナは弓を構え、矢を番える。

「さぁ、勝負ですわ」

その顔は真剣。その顔には姫に相応しい気品ある笑みの欠片もなくただ射抜くように真っ直ぐ相手を見る。

貴女だけには絶対に負けない。何があっても絶対に。

アルテナから伝わる凄まじいまでの気迫。あまりの気迫に戦いの行く末を見守っているアルテナの付き人や侍女達、そしてその場にいる多くの亜人族はその気迫に思わず後退る。

アルテナは本気だ。誰が見ても真剣だ。

かつて見たことがあるだろうか? アルテナのあの真剣な表情を。

多くの同族達に慕われ、絶えず微笑むアルテナがその微笑みを消してまで弓をその手に持ち、意を決したかのように矢先を相手に向けたことが。

いや、いない。

それだけにアルテナは本気だ。本気だからこそ勝たなければいけない。

例え、これから先の戦い全てに敗北することになってもこの戦いだけは何が何でも勝たなければいけない。

アルテナがそこまでしてまで勝たなければいけない相手とは誰か?

「構えてくださいまし。香織様、いえ、白崎香織!」

鋭い眼差しを向ける相手――白崎香織は自分に挑戦してくる挑戦者に対して不敵な笑みと共に告げる。

「いいよ。相手になってあげる」

両手に大剣を構えて戦闘態勢を取る香織はアルテナに言う。

「浩二くんの妹の座は誰にも渡さないよ!」

「お兄様の妹はわたくしですわ!」

対峙する二人の少女。

その行く末を見守るなか、一人の青年もとい元凶である――平野浩二は仲間から向けられるジト目を見てみぬフリをしながらただ戦いの行く末を見守るしかなかった。

どうしてこうなったのか? それは少し前に遡る。

 

 

 

 

【フェアベルゲン】の住民達は復興の続きや、解放された同胞の世話、戦士団の再編などに忙しく、浩二達もその手伝いや自己鍛錬、次の旅の準備をしている。

浩二も怪我人や病人の治療またその予防や対策、ケアなど、亜人族の為に身を粉にして働いていた。

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「‶医神〟様。本当にありがとうございます」

「いえ、お大事に」

もう崇められることにも慣れてきた浩二は『南雲の野郎、本当にあいつは……』と崇められる原因となったハジメに内心で文句を溢す。

だが、それは今はたいした問題ではない。今問題なのは……。

「お兄様~♡」

「ゲッ、アルテナ……」

浩二の腕に抱き着いてくるのは先日、レイナとの模擬戦から浩二のことを‶お兄様〟と慕う森のお姫様、アルテナだ。熱を孕んだ瞳で浩二を見つめる。

「お兄様。わたくしもお兄様のお仕事をお手伝いしますわ」

「いや、お前は族長、お前のお爺さんから仕事を任されていただろ?」

「そんなものよりもお兄様ですわ。お兄様の為なら【フェアベルゲン】だって陥落させてみせますわ」

「お姫様が言っていいセリフじゃないだろ」

祖父に任された大切な仕事よりも浩二を取るアルテナ。ああもう、とどうしてこうなったのかと頭を悩ませる。

(これがレイナなら簡単なのに……)

悪意、敵意、害意もしくはレイナのような闘争心ならば浩二も武力行使することに躊躇いはない。現に雫を慕うソウルシスターズに対しても浩二は一切の躊躇いもなくお仕置きができる。

それか邪な感情を抱いていても浩二は躊躇わない。しかし、アルテナが浩二に向けるのは純粋までの‶好意〟なのだ。

好意がこれほどまでに厄介だったとは、浩二はソウルシスターズに慕われている雫の気苦労を身を持って知ることになった。

「あ、雫!」

そこにちょうど復興の手伝いをしている雫と遭遇。助けて貰おうとするが、雫はプイ、とそっぽを向いて早足でどこかへ行ってしまった。

「雫さーん!!」

助けてくれないの? 大事な幼馴染だよね? 俺達。

(だけどまずい。このままでは……)

そう、浩二は知っている。アルテナはまだ一人目だということを。

そしてここからソウルシスターズのように一気に増殖していくということを。

それはつまり、雫がこれまでしてきた苦労を浩二もすることになると同義。

なんとかしなければそう遠くない未来で浩二のことをお兄様と呼んでくる自称義妹達が浩二のもとに押し寄せてくる。ずっと雫の傍にいてソウルシスターズを迎撃してきた浩二だからこそそれがどれだけ苦労することなのかを一番よく知っている。心の平穏、そして安寧の為に浩二はそれだけは阻止したい。

そこに――

「アルテナ。ここにいたか」

「お祖父さま!? どうしてこちらに!?」

「当然。お前を連れ戻しにだ。まったく、仕事もせずに浩二殿に迷惑をかけるでない」

アルテナの祖父、アルフレリックが孫娘を迎えに来た。

「嫌ですわ! わたくしにはお兄様が必要なのですわ!」

「浩二殿はハジメ殿と同じく多くの亜人族を治療してくださった大恩人だ。その中にはもう助からぬ者もいた。その者達の命を浩二殿が救ってくださったのだ。今まで浮いた話がないお前にそういう感情が芽生えてくれたのは祖父として嬉しい限りだが、限度がある。さ、仕事に戻るぞ」

「いーやーでーすーわー! わたくしはお兄様とずっと一緒にいますの!」

取り上げられようとしている大事な人形を護るかのように浩二に抱き着く、しがみつくアルテナにアルフレリックも浩二も深い溜息を出した。

「浩二殿。孫娘がすまぬ」

「いえ、アルフレリックさんこそ……あ、これ胃薬(いつもの)です」

「助かる」

孫娘の覚醒にストレスでお腹を痛めるアルフレリックに浩二は調合したお薬を手渡すとすぐにそれを服用した。即効性もあるからすぐに効能が発揮してアルフレリックの表情が晴れやかなものになる。

「して浩二殿。話は変わるが浩二殿から見て孫娘はどう思う?」

「はい?」

「身内びいきに聞こえるかもしれぬが、孫娘は容姿も能力にも優れておる。正妻でなくても側室としてなら――」

「何言ってんだ、あんたは」

浩二さん、敬語を忘れて思わずツッコム。

アルフレリックは浩二と視線を逸らしてボソリとぼやく。

「……ぶっちゃけ、アルテナを貰ってくれるなら誰でもよいと思っておる」

「ぶっちゃけたな!!」

本当に。

そこにこれ以上にないぐらいに瞳を輝かせるアルテナが言う。

「お兄様。わたくし、妹と妻は両立できると思いますわ!」

「できないから!」

味方だと思っていたアルフレリック。しかし、アルフレリックも孫娘は可愛いもの。孫娘が慕う相手と結ばれて欲しいと思うのも祖父として当然のこと。

(クソッ! どうすれば……ッ!?)

浩二とて好意を向けられるのは素直に嬉しい。その気持ちに素直に応えてやりたいという考えだってある。だけど、いやだからこそ誠実でありたいと思っている。

(ティニア達を……いや、無理か)

ティニア達は浩二が複数の女性を囲むことに抵抗がない。むしろ推奨している。ちゃんと浩二のことを愛しているのならティニア達はそれを受け入れる。

(俺に味方はいないのかッ!?)

浩二の新たな嫁? 妹? が誕生するかもしれないその時、天使がやってきた。

「浩二くん。向こうの人達の治療は終わったよ。次はどうするの?」

「香織ッ!!」

浩二と同じく亜人族達の治療に回っていた香織がこれからどうするのか相談しようと浩二のところにやってきた。すると浩二は香織を見て何かを閃いた。

「……アルテナ。悪いが、俺はお前の兄になることはできない」

「え?」

突然の言葉に啞然とする。何を言っているのか理解できなかった、いや、したくなかったアルテナの顔はこの世の終わりかのように青ざめる。

そんなアルテナの腕を振り解き、浩二は香織に近づく。

「何故なら俺には既に可愛い妹がいるからだ!!」

「え?」

「な、なんですって!!?」

これが俺の妹だと主張するかのように香織を前に出す浩二に「え、浩二くん、何を言っているのかな?」と尋ねるも浩二は答えない。

「お前の好意は素直に嬉しい。けど、妹がいるのにこれ以上義妹を増やすのはよくないだろ?」

「私、いつから浩二くんの妹になったのかな? 確かに浩二くんのことはお兄ちゃんみたいだとは思っているけど……」

「……南雲の身体データを贈呈」

「浩二くんは私のお兄ちゃんだよ! アルテナさんには悪いけど諦めて!!」

ボソリと呟いた香織を動かす魔法の言葉に香織は一瞬で浩二の妹と化す。伊達に雫と一緒に幼馴染の面倒をみてきていない。香織の思考を読むことも言葉で誘導することも浩二にとっては朝飯前。

「み、認めませんわ!!」

だが、ここで折れるアルテナではなかった。

「勝負ですわ! 香織様!! お兄様の妹の座を賭けてわたくしと勝負なさい!!」

「望むところだよ!」

妹の座を賭けて二人の少女が互いに火花を飛ばし合う。

「……浩二殿」

「なんか、すみません……」

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