ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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主人公53

樹海の大迷宮攻略を終え、【フェアベルゲン】での新たな宗教‶医神教〟が生まれ、香織とアルテナによる義妹決闘も滅茶苦茶になったり、浩二の魂魄が現実逃避したり、全ての元凶であるハジメに浩二が怒り狂い、大暴れしたりと休むに休めない日々を送り、遂に最後の大迷宮がある【氷雪洞窟】に向けて旅立つのだった。

【氷雪洞窟】がある【シュネー雪原】――大陸最南東一帯を覆う一大雪原。晴れることのない雲天が常闇の如き暗い世界を作り出し、たださえさ最悪の視界を、更に猛烈な吹雪がホワイトアウトさせる。

その雲天よりも更に上空、空の海を遊泳するように飛行する物体――飛空艇‶フェルニル〟。

そのフェルニル甲板で浩二達は新たなアーティファクトに慣れる為の訓練を行っている。

「うん、まぁ悪くない」

新たなアーティファクトを手に一通り使ってみた感想を口のする浩二。悪くはないようだ。後は実戦でどう使っていくかは実戦を経験してどうにかしていくしかない。

(新しいアーティファクトの性能……ひとまずは俺の欠点は補えそうだ)

新しいアーティファクトの性能具合に納得するように頷く。

アーティファクト以外にも【フェアベルゲン】で開発した新しい技もある。上手く活用すれば【氷雪洞窟】でも遅れは取らないだろう。

(雫達も問題はなさそうだが……)

浩二以外にもハジメからアーティファクトを貰った者もいる。

雫は今ある黒刀を更に強化した状態で、龍太郎、光輝、イリエ、レイナは今ある武器を改良して貰い、‶空力〟が付与されたブーツも与えられている。

鈴に至っては完全に新しいアーティファクト。それを使いこなせるかは鈴次第といったところか。

ティニアは自らの力を高めたいということで自分が納得いく状態になるまで【フェアベルゲン】で特訓を続け、エフェルは浩二の手で新たな領域に辿り着いた。その力を使い慣れる為の訓練も浩二は共に行った。

全員気合も準備も万全。そう思いたい浩二であるのだが……。

(やっぱり一番の心配は光輝か……)

龍太郎と一緒に新しく生まれ変わった聖剣の性能確認を行っている光輝はどこか複雑そうだ。新しい聖剣が気に入らないというよりも納得できないような、そんな顔だ。

浩二は光輝の心に揺らいでいるその感情が悪い方向に進むのではないか、そう危惧している。

(原作だとそうだったし、だからといって今の俺が何を言っても逆効果か)

今の浩二と光輝の間には断崖とまでは言わないが、亀裂が生じている。

それは光輝の一方的な子供の癇癪に近い感情によるものだが、だからといってそれを理解して納得しろというのは光輝にはできないことだ。もし、あれこれと浩二が光輝に対して何か言えばそれこそ修復不可能なほどに関係を崩してしまうことになる。

(雫を通して間接的にがベストか……)

雫の言葉ならまだ問題ないかもしれない。雫に負担をかけてしまうことは申し訳なく思うもそうでもしなければ光輝は浩二の言葉に耳を傾けない。

(さてそろそろいい頃合だな)

全員の性能慣れや疲労具合を考慮してそろそろ訓練を打ち止めにし、休憩する為に全員をブリッジに誘導する為にパンパンと手を叩く。

「休憩がてらそろそろ戻るぞ」

浩二の言葉に雫達は頷く。確かに少し熱を入れ過ぎた自覚はあるようだ。

もうすぐ大迷宮ということもあってか、レイナも浩二に勝負(デート)を仕掛けてくることがない。いくら戦闘凶でもそれぐらいの配慮はあるようだ。

そうして全員がハジメ達がいるブリッジに戻ると、そこにはいつものようにイチャイチャしているハジメ達とどういうわけか着物がはだけた状態で正座し、エフェルに説教を受けているティオがいた。

「お帰りなさいませ、すぐにお飲み物を用意しますね」

「ああ、頼む」

浩二達が戻ってきたのを確認したティニアは飲み物を用意し始める。そしてエフェルに説教を受けているティオを置いて浩二達はソファーに座った。

「それでどうだった? 不具合はあったか?」

尋ねるハジメ。

「ああ、問題はなかった。というか驚いたよ。魔力の通りが段違いだ。出力自体も随分と上がっているし、新しい能力もかなり有用だ」

そう言いながらも、光輝の表情は何とも複雑だ。

「いやぁ、マジですごいぜ! 空中を踏むって感覚は戸惑ったけどよ、慣れればマジ使える。籠手の威力も倍増しだしよ。実戦で使うのが楽しみだぜ!」

快活に笑いながら改造された籠手をガツンガツンと打ち合わせて、龍太郎は、まるで新しい玩具を与えられた子供のように喜びをあらわにした。その上機嫌な心情をあらわにするように、打ち合わされた籠手から衝撃波が迸る。

隣に座る鈴が、ちょろりんと伸びた二房のおさげ髪を盛大に煽られて、ちょっと迷惑そうな顔をしつつ頷いた。

「龍太郎くん達と違って、鈴は完全に新しいアーティファクトだから、ちゃんと扱えるかちょっと心配だったんだけど、実際に使ってみるとすごかったよ! これで鈴も……ちゃんと戦える。守るだけじゃない。戦える! ありがとう! 南雲くん!」

屈託のない、けれど強い意思を感じさせる笑顔を見せる鈴。

恵理ともう一度話をする為にもう一つ神代魔法を獲得したい鈴。その為の力が欲しいその意気込みにハジメは戦う為の力を与えたのかもしれない。

「私も問題ないわ。むしろ、機能が多すぎて実戦の中での選択に戸惑わないか不安だけど……そこは経験値を稼ぐしかないわね」

そして龍太郎、鈴、雫も手に入れた神代魔法についても着実にモノにしてきている。それも実戦で使ってみるしかない。

「俺の方も問題はない」

「大丈夫」

「ええ、むしろ早く実戦で試したいですわ」

浩二、イリエ、レイナも問題ないように頷く。

「そいつは重畳。昇華魔法の練習がてらとはいえ、本気で手を加えた甲斐があったみたいだな。つっても、天之河の聖剣に関しては少々納得し難いところなんだが……」

「え? ちょっ、ちょっと待て南雲! なんだその不吉な言葉は!?」

まさか、不具合を聞いたのは「あれ、ネジが一本余ったな……まぁ、ちゃんと動いているならいっか!」みたいなノリの質問だったのか!? と光輝は顔を青ざめさせた。

ハジメは苦笑しながら首を振る。

「心配すんな、そういう意味じゃねぇよ。ただ、聖剣ってのはやっぱり特別製みたいでな。キャパシティーを余すことなく、精密かつ絶妙なバランスの上に作られていたんだ」

「えっと、つまりどういうことだ?」

「聖剣は、それで改良の余地もなく完成しているってことだよ。下手に根幹部分に手を出したら、逆に性能を弱めそうでな。だから俺がしたのは、整備と外付けオプションの追加くらいだ。とても改造なんて言える仕事はしていないな」

曰く、聖剣は相当古いアーティファクトのようで、長い年月により少し機能不全を起こしていたらしく、ハジメがしたのは、言わば錆落としのようなものだったらしい。

ハジメをして、改良の余地なしと言わせる聖剣に誰もが目を丸くした。特に、光輝はマジマジと聖剣を見つめている。

「そう言えば宝物庫にあるアーティファクト。他のはともかくその聖剣だけは光輝以外使える人はいなかったってメルド団長も言っていたな。光輝、少しその聖剣を貸してくれないか?」

「ん? ああ」

光輝は浩二に聖剣を手渡す。それに怪訝するハジメは浩二に尋ねる。

「どうするんだ?」

「別の方向性から聖剣がどんなものか調べてみようと思ってな。ほら、ファンタジーものでも意思のある武器とかあるだろ? それなら俺の技能で何かわかるかもしれない」

もし意思のあるものであれば浩二の技能である‶侵入〟でその意思を読み取ることができる。昇華魔法も手に入れた今なら武器に宿る残留思念さえもそれが可能だ。

「‶侵入〟」

浩二は聖剣に触れて‶侵入〟を行使する。灰色の魔力色が聖剣に包み込まれるように広がっていき……弾けた。

その光景に誰もが首を傾げた。ただ浩二だけは驚いたように聖剣を見据える。

「浩二……?」

光輝が呼びかける。しかし、返答がない。

困惑するなか、浩二はゆっくりと口を開いた。

「……弾かれた」

「……どういうことだ?」

「聖剣の意思もしくは残留思念を読み取ろうとして弾かれた。あれだな、中学の時にうっかり着替え中の雫の部屋の扉を開けてしまって追い出された、みたいな感じだ」

「浩二!? どうしてそこで私を出すのよ!?」

雫が顔を真っ赤にして叫ぶ。どうやらその時のことを思い出したようだ。

「手加減抜きの雫の拳は痛かった……あの痛みは生涯忘れない」

「ノックもなしでいきなり部屋に入ってきた浩二が悪いでしょうが!!」

わざとらしく頬を擦る浩二に雫は自分に非はないように言う。事故とはいえ、着替え中の乙女の部屋に入ったのだ、それぐらい当然の罰だ。

「浩二は雫の家に住んでますの?」

それを聞いたレイナはそう尋ねる。

「いや、ただ長期の休みになるとだいたい雫の家に泊まっているだけ。じゃないと師範達に夜襲ができないからな」

「そんな理由でうちに泊まってたの!?」

どうやら雫も初耳のようだ。

事実、師範達の普段のしごきに怒りを抱いた浩二は師範達から「いつでもかかってくるがいい」というお許しを頂いたのでならお言葉に甘えて奇襲、夜襲を仕掛けることはある意味では八重樫家では日常になっていることを雫は知らない。

「まぁ、だから休みの日はだいたい雫と一緒に生活しているから、もはや八重樫家は俺にとって第二の実家みたいなものだな」

八重樫家に泊まりに行くときも雫の両親からは「いらっしゃい」ではなく「おかえり」になっているほどに八重樫家は浩二を家族のように扱っている。

「あ、だから休みの日に雫ちゃんの家に遊びに行くといつも浩二くんがいるんだね。門下生だからって思っていたよ」

「まぁそれも間違いではないからな」

門下生であることにも変わりはない。現に泊りがけで八重樫流を鍛えていたのも事実だ。

「ただまぁ、雫とは本当の兄弟のように育ったのも確かだな」

「……ええ、そうね」

雫は若干眉根を寄せて浩二の言葉を肯定する。

(でも浩二は私のことが……)

本当の家族、兄弟のように育った。そのことについては雫も同じ気持ちだ。八重樫流の教えだけではない、寝食を共にして生活してきたから八重樫流の教え以上に雫は浩二のことを本当の家族の一員だと思っていた。しかし、浩二はそうではなかった。

雫のことを一人の異性として見ていた。家族としてではない、雫を一人の女として好意を向けている。

雫もきっと浩二も同じ気持ちだろうと思っていた。一人の家族として自分のことを好いてくれているのだろうと思っていたけど雫は浩二から告白されるまで浩二の気持ちに気付くことができなかった。

(浩二、私は……)

思い悩む雫。それは家族としてか、一人の女としてか、浩二に向けるその感情はいったいなんなのか雫自身でさえはわからなかった。

そんな雫の苦悩を他所に浩二は聖剣を光輝に返した。

「でも弾いたってことはその聖剣には何らかの意思が込められているのは確かだな。もしかしたら光輝の呼びかけにも応えるかもしれない」

「そ、そうか……」

意思が込められている聖剣。しかし、光輝はこれまで聖剣を使ってきてはいるもそんな意思らしく反応は少しもなかった。もしかしたら勇者である光輝に何かが足りないせいかもしれない。

そうこうしているうちに一行は氷の峡谷へ到着するのであった。

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