ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役09

過去を乗り越えて見事ベヒモスを打ち倒すことに成功した勇者一行は、一時迷宮攻略を中断してハイリヒ王国王都に戻っていた。

マッピングされていない階層の地道な探索や、魔物の強さの上昇などから疲労が激しく休養を取るという意味もあるが、一番の理由はこれまで音沙汰のなかったヘルシャー帝国から勇者一行へ会談の申込みがなされたのだ。

ヘルシャー帝国はとある名を馳せた傭兵が興した国であり、完全実力主義の国だ。

ハイリヒ王国とは同盟国であっても、突然現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得はできず、召喚されたばかりの光輝達には興味がなかったとも思われる。

だが、歴史上の最高記録である六十五階層を突破したという事実を持って帝国は光輝達に興味を示して今更ながら会ってみたいという知らせが来たのだ。

そんな話を馬車の中で教えられながら王宮に到着すると、一人の少年が駆けて来る。

十歳ぐらいの金髪碧眼の美少年。やんちゃそうに見えるもその正体はハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒである。

そのランデル殿下は思わず犬耳と尻尾が幻視してしまいそうな雰囲気で駆け寄ってくると大声で叫んだ。

「香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」

まるで香織以外見えていないように叫ぶが光輝達もしっかりいる。ただ召喚された日からランデル殿下は香織に惚れているのである。

恋は盲目とはよく言ったものだ。

召喚された日から香織に猛アピールするランデル殿下だが、彼は十歳。香織からして見れば弟のようにしか思われていない為にランデル殿下の初恋は実らないだろう。南無。

「ランデル殿下。お久しぶりです」

「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行っている間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか? 余がもっと強ければ、お前にこんなことをさせないというのに……………」

精一杯男らしくするも香織からして見れば少年の微笑ましい心意気でしかない。

「お気づかい下さり有難うございます。ですが、私なら大丈夫ですよ? 自分で望んでやっていることですから」

「いや、香織に戦いは似合わない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」

「安全な仕事ですか?」

「う、うむ。例えば、侍女などどうだ? その、今なら余の専属にしてやってもよいぞ」

「侍女ですか? いえ、すみません。私は治癒師ですから……………」

「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線に行く必要はないだろう?」

医療院とは、国営の病院であり、王宮のすぐ傍にある。要するにランデル殿下は香織と離れるのが嫌なのだ。しかし、鈍感な香織にはその気持ちは届かない。

「いえ、前線でなければ直ぐに癒せませんから。心配して下さり有難うございます」

「うぅ」

(憐れな……………)

幼き少年の決して敵わむ無垢な初恋に浩二は憐れみと同情の眼差しを向けながら少しだけ尊敬の念を送る。

(俺も殿下みたいに積極的にアピールするべきか…………?)

チラリと雫に視線を向けながらそう考えてしまう浩二も現在進行形で初恋の相手は雫だ。だが、アピールしようにも自分に向けられる恋路には鈍感な雫はきっと気付かない。普段はあれだけ人の機微に察せられるのに自分の事に関しては雫も香織のことは言えない。

浩二自身も香織や殿下のように積極的に自身をアピールする度胸がない為に想いは秘めたままだ。

「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」

(それかこの馬鹿みたいに空気を読まずにやってみるか?)

己の恋心に空気を読まない幼馴染を参考にしようと割と本気で考える浩二さんだった。

そんな空気を読まない勇者にランデル殿下は猛犬のように敵意を剥き出しにしていると少し厳しさの含んだ声が響いた。

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 光輝さんにもご迷惑ですよ」

現れたのはランデル殿下の姉である王女リリアーナを目撃した浩二は雫の背に隠れた。

「あ、姉上!? …………し、しかし」

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所で引き止めて…………相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「うっ………で、ですが……………」

「ランデル?」

「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

己の非を認めたくなく脱兎の如くこの場を離れるランデル殿下の背中を見送るリリアーナは溜息を吐く。

「香織、光輝さん。弟が失礼しました。代わってお詫びしますわ」

「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を遣ってくれただけだよ」

「そうだな。なぜ、怒っていたのかわからないけど…………何か失礼なことをしたんなら俺の方こそ謝らないと」

香織と光輝の言葉に苦笑いするリリアーナは雫の後ろに隠れている浩二に向けてスッと目を細める。

「浩二さん。御機嫌よう。どうして雫さんの後ろに隠れておいでなのですか?」

「はは………御機嫌よう王女様。どうか私の事は空気と思っていただいて構いませんよ?」

「ふふ、御冗談を。我が国の医学を発展し、これまで難病とまで言われた病の特効薬まで次々と調合してくださる浩二さんを空気になんてできませんわ。ささ、どうぞ前へ」

手招きするリリアーナ。浩二にはその手招きが‶地獄においで〟と言われているようにしか見えない。そこに雫が。

「浩二。何をそんなに怯えているのよ? 貴方らしくもない」

「そうだよ、浩二くん。リリィは怖くないよ?」

リリアーナは、現在十四歳の才媛だ。その容姿も非常に優れていて、国民にも大変人気のある

金髪碧眼の美少女である。正確は真面目で温和、しかし、堅すぎるということもない。TPOをわきまえつつ使用人達とも気さくに接する人当たりの良さを持っている。

だからこそ雫達は怪訝している。

どうして浩二はまるで恐ろしいものと遭遇したかのように怯えているのか。

ベヒモスの時でさえ怯えるようなことはなかったのに。

そこに光輝が。

「浩二。君のその態度はリリィに対して失礼だぞ? それに雫にも迷惑をかけるものじゃない。いったい何をそんなに怯えているんだ?」

「…………………………………………戦うことしか能がない勇者にはわかるまい」

だが、いつもなら適当に聞き流す光輝の善意の塊に文句を言う。

「王女様は俺が天職‶医療師〟だとわかった日から多種多様の魔法薬を調合させられ、それが終わったと思ったら今度は別の薬の調合を押し付けられてきた俺の気持ちが勇者にはわかるのか? わからないだろうな? ええ? お前、できるか? 毎日の訓練と座学その合間に薬の調合だぞ? 新薬の開発も含めて俺がこの世界に召喚されてから睡眠時間はたったの二時間だぞ? 倒れそうになるたびに魔法や薬でどうにかしているんだよ。無茶ぶりに言ってくる上司に振り回されるブラック企業の社員の気持ち、お前、わかるか? ええ? 言ってみろよ、勇者。俺がどれだけ薬を調合、開発してきたかわかるか? 覚えている範囲だけでももう五十種類は超えたんだぞ? また無茶を言ってくるかと思うと隠れるのは当然だろうが? ああ?」

異世界に召喚され、どれだけ苦労が増したのか、その言葉にはその重みがあった。

流石の光輝もその言葉に口を噤む。

「……………………リリィ。それは本当?」

雫は思わずそう尋ねるとリリアーナは申し訳なさそうに言う。

「………………はい。浩二さんには大変ご迷惑と苦労を掛けております。しかし、それも国民を一人でも多く救う為には浩二さんの知識と技術がどうしても必要だったのです。現に浩二さんが調合してくださった薬のおかげで多くの国民が救われております。本来であれば国を代表して感謝状の一つでも送るべきなのでしょうが……………どうでしょう? 浩二さん。私でできることでしたら何でも構いません。何かお望みのものをご用意しますが?」

申し訳なさそうに褒賞を与えようとするリリアーナに浩二は。

「……………………いや、別にいい。俺の苦労で一人でも多くの人が救われたのなら医者冥利に尽きるもんだ」

その褒賞を断った。

どれだけ無理難題を押し付けられても、苦労させられても、それで一人でも多くに人が病から救えるのなら医者としてのこれ以上の褒美はない。

そんな浩二にリリアーナは笑みを溢す。

「浩二さん。国王に代わり貴方様に感謝を。それと私の事はリリアーナとお呼びください」

「はいはい。感謝の言葉は受け取っておくよ、‶王女様〟」

「むぅ、なかなか手強いですわ……………」

頑なに名前を呼んでくれない浩二にむすっと頬を膨らませるもすぐに表情を変えて光輝達に告げる。

「とにかくお疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりとお寛ぎくださいませ。帝国からの使者が来られるのは未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

こうして迷宮で疲弊した心と身体を癒していく光輝達だった。

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