ハジメとティオのプレイもといティオの治療後に【氷雪洞窟】に続く【
そして谷底の着地は無理であった為に崖の上にフェルニルを下ろす。
(いよいよか……)
ここからが本番だと気を引き締める。
それは浩二だけではなく他の皆も同様なのだが、唯一シアだけは初めての雪に興奮してウサミミみょんみょん! ウサシッポぶんぶん! 早く雪を堪能したい気持ちでいっぱいだったことから若干気が抜ける思いもしている。
下部ハッチを開けると、船内に身を刺すような冷気が流れ込んできた。
「ふひゃ!? さむぅ!」
「これはきついわね……ぴくちっ」
鈴が首を竦めて飛び上がり、雫も思わずくしゃみしながら自分を抱き締める。
どの程度の気温なのか体感しておこうとエアゾーンを起動していなかったのだ。それはハジメ達も同じで、全員、一瞬ぶるりと身震いし慌てて起動させた。
外に出ると、さっそく大量の吹雪が襲ってきた。顔面に張り付くようにして、ハジメ達の顔に白い化粧を施していく。
「わっ、これが雪ですか! あははっ、しゃくしゃくしますぅ! ふわっふわですぅ~」
皆がコートのフードを目深く被るなかでシアだけがフードを被らないどころかコートの前すら閉じないで、おおはしゃぎしている。
上機嫌に笑いながら足を踏み鳴らしたり、手で雪をすくったりしながら存分に人生初の雪を楽しんでいる。
「おい、シア。行くぞ。あんまりはしゃぐな――」
「これはもう、ダイブするしかないですよぉ!」
「……聞けよ」
諫めるハジメの言葉も聞く耳、聞くウサミミ持たず。シアはそのまま「とぉ!」と元気に声を上げてダイブを敢行した。
着弾地点は、目の前の汚れなき純白の雪――
「今日から私は雪ウサギぃあぁぁぁぁ~~~~~」
情けない悲鳴が木霊した。そして、シアの姿が消えた。
後には、シアの形をした穴だけが残っている。どうやら、ダイブした場所はクレバスの直上で、雪が降り積もっていただけだったらしい。
一拍。
「その後、愚かなウサギを見た者は誰もいない……」
「シア、安らかに」
シアが落ちた穴にジト目を向けながら、ハジメはRPGでゲームオーバーした時のナレーション風に呟き、浩二は胸元で十字を切る。
「いやいやいやっ、なに落ち着いているのよ!? シアが死んじゃうわ!」
「ひぃいいっ、シアシアぁ~~~!!」
突然の事態に絶句し硬直していた雫と鈴が、顔を真っ青にしながらパニックに陥る。光輝と龍太郎も、まさかの事態に呆然としている。
「高いところから落ちたくらいで、シアがどうこうなるわけないだろう? それより、俺達も下に降りるぞ」
ハジメは、なんでもないように手を振りながらフェルニルを宝物庫へ回収。
そして、そのまま散歩でもしているかのような気軽さで飛び降りた。谷底まで六百メートルはありそうな絶壁を、躊躇なく。
光輝達が「エッ!?」と声を漏らして目を剥く。その視線の先で、ユエもあっさり飛び降りた。二人が消えた崖の縁に、ひゅお~と、どこか虚しく風が吹く……
「あっ、二人共~、ちょっと待ってよぉ」
続いて香織もぴょんっと跳ねながら飛び降りた。
「ティニア。大丈夫だとは思うけど迷子になる可能性もあると思うからシアを探してきてくれ」
「かしこまりました。ではお先に」
浩二の頼みにティニアは浩二達に一礼してからひょいっとあっさりと飛び降りる。
「ふふっ、今回の大迷宮はどこまで私を楽しませてくれるのかしら? では浩二、お先に行ってきますわ!」
「おう、逝ってきていいぞ」
浩二の雑な返し。しかしそれでもレイナは楽しそうに谷底に向けてジャンプ。断崖絶壁を躊躇うどころか楽しそうに「オホホホホッ」という笑いながら飛び降りていく。
「……落ちても雪がクッションになると思うから」
飛び降りることに躊躇している光輝達にそう言いながらイリエもまた飛び降りた。
先ほど飛び降りたレイナやイリエ、そして光輝達全員に〝空力ブーツ〟が支給されている上に、魔法で風を起こして落下速度を落とすという方法も取れるので、冷静に考えれば光輝達だって問題はない。
とはいえ、理屈は理屈。感情は感情だ。断崖絶壁をフリーフォールするというのは、普通の感性からすると勇気がいるものなのである。
「鈴と光輝はどうする? 俺達が運びながら降りるというのもできるが?」
浩二、雫、ティオ、エフェル、龍太郎は空を飛ぶ飛行手段を持ち合わせている。
しかし鈴と光輝はそれを持ち合わせていない為に浩二は一応どうするかを尋ねる。
「……鈴は、行くよ」
「鈴……」
谷底を覗いた鈴は決死の覚悟を決めたかのように崖っ緑に立つ。全てはもう一度、親友と話をする為に鈴は大迷宮に挑戦する。こんなところで足を止めている暇なんてないのだ。
(鈴、貴方は……)
親友の為に力を求める鈴のその小さな背を雫はじっと見据える。
その背にはいったいどれだけの覚悟を抱えているのか? 雫には想像もできない。
すると浩二がそんな鈴の肩に手を置いた。
「よし行け」
そして押した。
「へ?」
「え?」
鈴と雫の声が重なる。
トン、と軽く押された鈴はそのまま谷底に向かって落ちていく。
「こ、浩二くんのばかぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………」
せっかく覚悟を決めて自分の意志で飛び降りようとしたのにそれを台無しにするかのような所業。鈴は自身を谷底に突き落とした犯人に怒りながら落ちていくのであった。
「ちょっ!? 浩二!!」
「大丈夫。大地の染みになっても俺や香織もいるからどうにでもなる」
「そういう問題じゃないでしょう!?」
鈴になんてことを! と憤る雫を置いて浩二は次に光輝に視線を向ける。「お前はどうする?」と瞳が物語っている。
「くそぉ!」
落とされるぐらいなら自分で! 光輝はやけっぱちの気持ちで飛び降りていく。
「よし」
「よし、じゃねえよ。たく」
浩二の行動に呆れながら龍太郎も親友を追いかけるように降りていく。飛べるということもあって精神的余裕があるからか龍太郎は割とあっさりと飛び降りて行った。
(龍太郎、なんか雰囲気が少し変わったなぁ……)
いつもと変わらないけどどこか少しだけ大人びたような雰囲気を時折醸し出すようになった気がする。
(大迷宮を攻略して心境の変化でもあったのか?)
どちらにしてもいい傾向だ。
「はぁ、浩二。降りたら鈴に謝りなさいよ?」
「へいへい」
雫そして浩二も飛び降りていく。そして最後に残ったティオとエフェルも。
「ではティオ様。我等も」
「うむ。ではエフェル。妾に」
捕まれ、と言おうとするティオにエフェルは首を横に振った。
「いえ、ティオ様のお手を煩わせることもありません」
バッ! と背から翼を出す。
「……エフェル、お主‶部分竜化〟を」
「はい。旦那様のおかげです。それではティオ様お先に失礼します」
‶部分竜化〟の竜の翼を広げてゆっくりと谷底に向かって降りていくエフェルにティオは笑みを見せる。
「まったく嬉しそうな顔をしおって……」
竜人族の中でも限られた者しか使えない能力。エフェルにはそれが使えないと思っていたティオにとって目を見開かせるもの。
「浩二には後で礼を言っておくべきかのぉ」
エフェルが力の伸びしろに悩んでいたことにはティオも察していた。だがそれがどうだ? 今ではこれまでできなかった‶部分竜化〟が当然のように使えている。
浩二がエフェルに何をしたのかはティオは知らない。けれどエフェルの悩みを解消したことには変わりない。
「さて、妾も行くとするか」
ティオもひょいと飛んで崖下へのフリーフォールを行った。