キッテル回想記『空の王冠』   作:c.m.

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中央大陸 各国勢力図1923年6月

【挿絵表示】


戦略ゲームってさ、要するに塗り絵を楽しむものだと思うんだ(帝国主義者並感)

※募集した主人公のコールサインを、クロウに決定いたしました!
 まーろんさま、おめでとうございます!
 そして、多数のご応募を頂きまして、この度は本当にありがとうございました!
 投票していただいた読者様、そして、コールサインをご応募してくださった読者様に、改めて厚く御礼申し上げます!


21 フェアリー〇八-善き少女に『幸運』を

 レガドニア協商連合軍の越境侵犯と、それに伴う帝国の宣戦布告を耳にしたとき、私は帝国軍情報部が、自作自演で開戦理由をこじつけたに違いないと本気で信じて疑わなかった。

 

 勿論、今日の読者諸氏はそれが誤解に過ぎず、レガドニア協商連合の政治家が自国内の貧富格差を誤魔化す為であったり、或いは支持率獲得の為のアピールとして自国軍を差し向けた事はご存知の事と思う。しかしながら、当時の私はそのようには考えなかった。

 

 内側の問題を外敵に向ける事で、その場を凌ぎたがるのは政治屋の常であるが、まさか軍事的観点から見て、ここまでの無能を協商連合が晒すなどとは露とも思わず、不当かつ大迷惑極まりない怒りを、心中で味方の情報部に向けていたのである。

 正直に告白すると、情報部連中を一人残らず銃殺刑にしてやりたいとすら思った。今となっては謝罪の言葉しか出てこないが、とにかくこの時は、それぐらい本気で腸が煮えていたのだ。

 

“まだ空軍は新型機を更新し切ってさえいないのだぞ!? 陸・海軍だけで勝てるとでも考えたのか!?”

 

 確かに彼我の国力差なら、それも可能ではあるかもしれない。だが、こんな真似をすれば間違いなく列強諸国は黙っていない。確実に自分達(ライヒ)を横合いから、全力で殴りつける事が予期し得ただけに、私は苛立ちつつも将として冷静に対応すべく頭を回した。

 

“帝国には『プラン三一五』がある。内線戦略の粋として練り上げられ、芸術とまで謳われた鉄道ダイヤによる域内機動ならば、地上兵力の迅速な大規模導入は可能であるし問題ない。

 我々空軍は第三国の介入に備えて警戒網を各基地が敷き、仮に共和国やダキアが帝国に踏み入るようならば、共和国は制空権を確保しつつ遅滞戦闘に留め、地上軍の増援を待つべきだ。ダキアは空軍の『プラン』通り、地上軍到着より先に航空勢力を潰す”

 

 私は仮に自分達の戦力が万全であったとしても、空軍だけで戦争を終わらせられるとは考えていない。

 決定的な勝利をもたらすのは、常に歩兵の銃剣を敵首都と指導者の喉元に突き付ける事*1であり、空の上からだけで首都を包囲、制圧する事など不可能だからだ。

 まして、戦力が全くと言って良いほど整っていない現状では、出来る事など限られている。

 

「基地司令官閣下、小官もゾフォルトで出撃します」

 

 総司令部付きの佐官が出撃するなど正気の沙汰ではないが、フォルカーを尽く売却してしまった手前、どの基地でも軍用機が不足している状態だ。出せるのなら一機でも。動ける人員は一人でも多く出撃し、敵航空兵力を叩く必要がある。

 正直なところ、今回の私は不運であったが、同時に幸運にも恵まれた。視察にあたっては陸路より空からが速いからと、総司令部勤務となって以来、最低限の飛行訓練以外で乗る事のなかったゾフォルトに乗って、他の基地からより前線に近いこの基地まで飛んで来ていたのだ。

 

“前の基地の者に勧められた通り輸送機で来ていては、出撃もままならなかったろうな”

 

 この日、私の後席に着いたのはシャノヴスキー少尉ではなく、年若い色白の伍長だ。シャノヴスキー少尉は、出来れば是非空軍総司令部で私の副官になって欲しかったのだが、将校としても軍人としても学ぶべき事は多いとして、ファメルーン以降は別の任地に就いていた。

 とはいえ、この伍長も線こそ細いが目にはしっかりと力が入っており、私は十分に活躍してくれるだろうと信じることが出来た。

 伍長は私の後席に座る事を大変畏れ多いと言っていたが、私はそれを笑って否定した。

 

「私は所詮、一士官に過ぎんよ。そう気負わず、己の勤めを果たしたまえ」

「はっ!」

 

 元気の良い返事に、私は良しと頷いた。現在、協商連合軍は地上軍の越境侵犯から何故か遅れる形で──後に判明したが、協商連合軍にとってこの越境侵犯は、自国主権領域圏内の哨戒任務としか考えていなかったらしい──侵攻する敵航空兵力に対し、防空遊撃に徹する事が私の任務である。

 本来、最低でも二機編隊での出撃に、単機飛行で駆り出されている所からも、空軍の余裕のなさが伺えた。

 

 とはいえ、単独飛行が私だけだったのを考えるに、基地司令部も私が撃墜されるなどとは夢にも思っていないのだろう。

 確かに私は今のところ戦傷十字章どころか、傷痍徽章さえ得る機会のない身だが、そんなものは所詮運であって、何時墜ちても可笑しくないのが空の世界だ。

 私はひょっとしたら、自分が嫌われているのではなかろうかと不安になって伍長に尋ねてみたが、伍長は私の問いかけに吹き出してしまった。どうやら冗談に聞こえたらしい。

 

「キッテル少佐殿を墜とすなら、一個師団は必要ですよ!」

「過分な評価だ」

 

 皮肉でも謙遜でもない。幾ら私でも、単機で一個師団に囲まれては確実に死ぬ。

 弾薬も燃料も足りないのだから、当然だろう。

 

 

     ◇

 

 

 私と伍長の遊撃は、実に呆気ないものだった。ゾフォルトの爆裂術式弾の前に、密集編隊を取る複葉機など的が集まっているような物に過ぎず、散開したところで既に貫通術式の有効射程内に入っている以上、私には鴨打ちも同然の有様だった。

 接敵した飛行中隊をあっさりと片付け、伍長から賞賛と拍手を貰ったが、これは私の腕というより純粋に機体性能の差でしかない。

 かくして悠々自適な空の旅を切り上げ、通信機から次の指示を受け取ろうとした矢先、女性管制官の声が響いてきた。

 

「ノルデンコントロールよりクロウ〇一*2へ。応答せよ(ピテ・メルデン)

「クロウ〇一よりノルデンコントロールへ。我、受信せり。感度良好」

 

 私は無線機から求められたままに応答すると、間髪入れず、しかし沈着を保ったまま管制官が用件を述べた。

 

警報(アハトゥング)、空中状況報告。砲撃観測手としての任に就いたフェアリー〇八からの救援要請。座標、戦域α、ブロック八、高度四三〇〇」

 

 友軍の撃墜さえ淡々と報じると、航空部隊より皮肉られて止まない管制官は、今日も今日とで冷静であるが──勿論それは、訓練と指導によって不動の精神を培っているに過ぎず、管制官に血が通っていない訳ではない──反面、私は気が気ではなかった。

 小隊でも分隊でもなく、単騎のコールサインでの救援要請。間違いなく危機的状況下に有り、一刻の猶予もない事は即座に察せられた。

 

「クロウ〇一からノルデンコントロールへ! 一八〇以内に到着する! フェアリー〇八の即時離脱許可を乞う!」

「ノルデンコントロールからクロウ〇一へ。防空圏維持の為、フェアリー〇八の戦域離脱は許可出来ない。至急、応援に向かわれたし」

了解(フィクター)……フェアリー〇八に『幸運を祈る。神は我らと共に』と伝えられたし」

「ノルデンコントロール了解……全速、願います(ビッテ・フォルガス)

 

 最後の一言は、感情を殺して必要事項のみ述べ伝えねばならない管制官の職責を逸脱するものではあった。

 それでも口にしたのは、管制官にとっても友軍の窮地を理解していた為の泣訴であり、紛れもない戦友愛の発露だったことが私の胸を打ち、最大級の返礼を述べる。

 

その言葉が聞きたかった(ヤヴォール)!」

 

 管制官の信頼と安堵の吐息が吹き込まれた通信が切れると同時、私は己が使命を全うすべく、勢い良く操縦桿を切った。

 

“待っていろ、すぐに駆けつける!”

 

 方位指示計を目標地点に合わせる形での右旋回。ノルデンの分厚い層雲を突き破り、吹き募る風を引き裂きながら、エンジンが燃え上がらんばかりに機速を上げた。

 スロットル全開(フォルガス)! 早く、早く、急げ、急げと、意味もないのに自分を急かす。戦友が私を待っている。傷を負い、多くに囲まれ、一方的に甚振られながら、それでも救援を信じて待ってくれている。それを思えば、私の心は早鐘が鳴った。

 

 どうか無事で居てくれと。絶えず狂うほどに祈り続けて。だが、嗚呼、だが……。

 

「止めろ、フェアリー〇八……!」

 

 私は絶叫した。敵魔導中隊を巻き込んでの自爆。花火のように美しく、しかし凄絶で残酷な爆炎が、曇天の空に吹き荒れた。

 

 

     ◇

 

 

 撤退する敵魔導中隊の生き残りと、落下するフェアリー〇八。冷徹かつ合理的な軍人ならば、戦友の稼いだ時を無下にせず、ここで魔導中隊を始末すべきだろう。少なくとも、私ならば敵魔導師を確実に、一名たりとて残さず片付ける事は容易だ。

 だが、この時の私には、そんな気は微塵も起きなかった。それどころか、敵の事など視界にさえ入っていなかった。

 

「フェアリー〇八!」

 

 私は機首を落とし、減速して潜り込むようにフェアリー〇八の落下域に先んじた。同時、フェアリー〇八の落下速度が鈍り、風防を開けた私のコクピットへと吸い込まれるように綺麗に落ちる。

 

「伍長、感謝するぞ!」

 

 私は振り返って礼を言った。後席に宝珠核が搭載されている以上、伍長ならば術式を起動出来る。とはいえ、魔導師としての基準値を満たしていない人間のしたことである。伍長はなけなしの魔力を使い切ってしまったのか、肩で息をして顔を青くしながらも、無理に私に微笑んだ。

 

「お役に立てまして、光栄で、あります。少佐殿、基地への帰還までは、私が操縦します。フェアリー〇八は」

「ああ、私が手当する! よくやってくれた伍長!」

 

 私は自分が被弾した際の応急キットを取り出しつつ、フェアリー〇八のプレートキャリアのベルトに巻きつけるように背に装備されたシースナイフで、不要な各種装備を切り離して空に捨てた。血液の循環と気道を妨げないようにする為だ。

 頻脈に頭のふらつき、蒼白となった顔面に冷汗。全てが危険な兆候を示すサインである。先程まで死ぬまで離すまいとの覚悟の表れから銜えていた演算宝珠さえ、今は口からこぼれて首にぶら下がっている有様だった。

 

“骨折は右腕と左足。右目からは出血しているが眼球は無事。おそらく傷は瞼の裏か何処かだろう。左頬の裂傷も後回しで良い。問題は四肢の被弾に伴う出血だ”

 

 おそらくは動脈を傷つけている。私は腕と足の付け根をベルトで縛って止血した。血を止めるには十分な緊縛力が必要とされるので、フェアリー〇八には相当な痛みが走るが、我慢して貰うより他にない。きつく縛ると、フェアリー〇八は強く体を痙攣させた。

 

「済まない、耐えてくれ」

 

 謝罪しつつ、次に腹部銃創の類がないか確認したが、幸いにも致命傷は避けていた。おそらく、防殻で臓器類や致命部位を重点的に保護したのだろう。私は僅かに安堵の息を吐いたが、しかし予断は許されない。フェアリー〇八は、今まさに生死の境にあるのだ。

 

「フェアリー〇八! 目を開けろ、フェアリー〇八!」

 

 私は頬の裂傷にガーゼを当て、被弾のみならず火傷を負った左腕に包帯を巻きつつ、懸命に声をかけた。

 

「ぅ……、あ」

 

 パクパクと。陸に上がった魚のように口を開く。それが私のかけた声に対してのものなのか。それとも死の間際の兵士が、水を求めるように口を開いているのかは判断できない。

 だから、私は右腕と比べて無事な左の手を握って、必死に声をかけ続けた。

 

「もう敵はいない! 居ないのだ! 貴官は義務を果たした! 生きて帰るんだ! 神も、聖母もそれをお望みの筈だ!」

「か、み……」

「ああ、神のご加護を、」

「神など、いない」

 

 震える声音で。この世の全てを恨むような目で、フェアリー〇八は私を捉えた。初めて耳にした声は幼くも美しく、けれど、どうしようもなく掠れていた。

 

「あ、あ、いや、だ」

 

 嫌だ、嫌だとフェアリー〇八は漏らす。声は何処までも悲しく、私の胸を、これ以上なく締め上げて止まない。

 

「しに、たく、ない」

 

 その言葉を。一切の虚飾のない生の渇望に、私は打ち拉がれた。そしてようやく、この時になって初めて、私はフェアリー〇八を、彼女を義務を果たした軍人ではなく、一人の少女として見た。

 まだ、一〇にも届かない幼い少女。彼女が小銃を握って戦い、傷つき、そして今その命が尽きようとしている中、神を否定する言葉を口にしたが、それを罪だと私は思えなかった。

 

 本来なら、彼女のような少女は、こんな場所に居るべきではない。普通に学校に通い、同級生と恋やお洒落の話で盛り上がり、休みには家族と街に出かけて、温かな日々を送らなくてはいけない筈だ。

 私達大人が、私のような軍人が不甲斐ないばかりに、彼女に銃を握らせたのだ。

 人は、生まれを選べない。才があれば、齢がどれだけ幼かろうと魔導師として取り立てられる。彼女は決して、私のように空に憧れた訳ではあるまい。ただ、他に選択肢がなかっただけだ。

 それ以外に、一体どんな理由がある? 私のように貴族であったとして、戦地に女性士官として赴くのだとしても、せめて婚姻を果たすなりしてから来る筈だ。

 実際、齢に差はあれど、彼女のような魔導師や軍人は多い。赤紙を寄越された孤児院が、まだ徴兵年齢に達してない少年少女を、『自主志願』として幼年学校に送り出すのは帝国の恥ずべき現実だった。

 

「しに、たくない」

 

 死にたくない。うわ言のように、彼女はその言葉を繰り返している。歯の根は合わず、ガチガチと全身を震わせて。美しい薄紅色だった筈の唇が紫になっても、そう漏らし続けている。

 

「死なせなど、するものか」

 

 強く強く、震える少女の手を握りながら、私はそう宣誓する。

 

「フェアリー〇八! 神を信じないなら、それで良い! 私を信じてくれ! 私が君を必ず助ける! 必ず君を、伍長と病院に届けてみせる!」

「しん、じ、なくて」

「ああ、神も聖母も、今は忘れていい! 否定して良いんだ! そんな事で、誰も君を責めるものか!」

 

 私の発言を知れば、母上は卒倒するだろう。けれど、今の彼女に必要なのは神の愛でも、許しでもない。生きたいという、誰もが当然のように願う事を、叶えてくれる手足こそが必要なものだ。

 

「そう、か。わたし、は」

 

 その言葉の後に、何が続く筈だったかは分からない。ただ、先程のような怒りとも嘆きとも違う、安堵するような吐息が、私の耳へと届いた。

 

 

     ◇

 

 

 最短距離の帝国空軍基地に到着した私は、伍長を後席に乗せたまま、担架で運ばれるフェアリー〇八に寄り添い、手を握り続けた。

 

「少佐殿、後は軍医が」

「ああ……そうだな」

 

 私が出来るのは、ここまでという事なのだろう。出来る事ならば最後まで付き添いたかったが、しかし、フェアリー〇八に必要なのは治療であって、私ではない。

 私は片手でフライトジャケットのボタンを外し、母上から贈られたロザリオを握らせようと思ったが、止めた。フェアリー〇八は神を必要としていない。彼女が、本当に必要なのは別のものだ。

 

「これを」

 

 私はポケットから、姉上のハンカチを取り出した。『幸運を』という言葉が、私にツキを運んでくれるような気がして、ずっとお守り換わりにしていたものだ。

 

「大丈夫。君は、助かる」

 

 私の手を固く握っていた左手は、そのままハンカチをギュ、と握った。私はその力強さに、きっと大丈夫だと安堵する事が出来た。担架に乗せられ、遠ざかるフェアリー〇八を見送りつつ、私は曲げた親指でもう一方の親指を押す(◆1)

 そして、魔導軍医の治療が行われているだろう間、母上のロザリオを握り祈った。

 

「いと高き主と聖母よ、彼女の罪をお許し下さい。彼女は貴方達の愛を、知らず生きて来ました。私達大人が不甲斐ないばかりに、彼女はロザリオでなく剣を握り、国に身を捧げ、己と敵を傷つける人生を歩ませてしまいました。

 全ての罪は、私達にこそあるのです。どうか、慈悲深き御心をもって、かの者に慈悲と許しの機会をお与え下さい。彼女は、祖国の為に身を擲って下さいました。私達、不甲斐ない大人の代わりにです。

 どうか、かの者に加持を。そして祈りの機会をお与え下さい。彼女は善き少女です。今は無理だとしても、いつかきっと、貴方達と世界を愛する事が出来る筈です。

 その日までは私が彼女の分まで懺悔し、彼女の分まで祈りを捧げ続けます」

 

 この誓いに、嘘はない。私はこの日から主と聖母に祈り続ける日々を送った。

 

 

     ◇

 

 

 そして、別の誓いも立てた。

 

“あの子はまた、銃を執ってしまうのだろうな”

 

 目が覚めて、歩けるようになって、戦えるようになれば、きっとそうなる。

 花畑でなく荒野を見渡し、活気溢れる街でなく戦場を駆け巡り、殿御でなく銃と勝利を愛してしまう。

 

「それだけは、駄目だ」

 

 私は拳を強く、飛行手袋の上からでも爪が肉に食い込み、血が滲むほど固く握った。

 彼女が、フェアリー〇八が快復するまでに、戦争が終わる事はないだろう。それでも、終わらせる事を早めるぐらいは出来る筈だ。

 私は過去、ノルデンで教官にならなかった事を悔いた事がある。しかし、今日この日に私はそれを撤回した。

 必ずや、一日でも早く帝国に勝利を届けねばならぬ。もう、私はあの子のような幼い少女を、戦場に行かせては決してならない。

 瞳に闘志を宿して、私は滑走路のゾフォルトに戻った。伍長は地面に座っていたが、私を見るなり姿勢を正し「何時でも出撃できます!」と元気よく言ってくれた。

 

「良いのだな? 私は本当に飛ぶぞ?」

「構いません。もう動けます!」

 

 嘘はないと、私には分かった。血色の良い顔には、私にも負け劣らぬ意気込みが感じられる。

 

「宜しい。そして、感謝する。貴官の力が、敵飛行中隊を撃退し、一人の妖精を救ってくれた。これは白金十字にも値する功績だ」

 

 私は伍長の両肩に手を乗せ、再度ありがとうと感謝の言葉を贈った。

 

「光栄であります、少佐殿」

 

 感極まった伍長に対して私は満足げに頷き、弾薬と燃料の補給を終えたゾフォルトに乗り込んだ。

 そうだ。戦争を一日でも早く終わらせるのだ。一人でも多くの敵をこの手で倒し、殲滅し、この空と大地の全てから、帝国の敵を根絶やしにせねばならぬ。

 そうして初めて、フェアリー〇八は戦場の曇天でも荒野でもなく、黄金に輝く帝国(ライヒ)で生きる事が出来るのだから。

 


訳註

◆1:帝国(ライヒ)において、幸運を招くとされる動作。

 

*1
 より深く発言するならば、政治的中枢の破壊と、敵国領土の物理的占領が勝利に不可欠な要素である。敵野戦軍の駆逐をこれに加える識者は多いが、私はこれが勝利の決定打になるとは考えていない。

 何故ならば、野戦軍を駆逐したとしても『亡命政権』が成立してしまえば、義勇兵が組織され、勢力を盛り返すからである。

*2
 これは私のコールサインとして、最多撃墜王となってから、空軍内で用意されたものである。

 烏は魔女の相棒であり、魔導師とは陸軍航空隊時代から飛んでいたこと。

 クイーンズでの烏の訳はCROWであり、N(私の名である、Nikolausの頭文字)を末尾に加えれば“CROWN”=王冠になることから命名された。

(訳註:原著ではライヒ語である為、クレーエ[Krähe])




 ニコ君からしたら、協商連合との開戦はWW2ドイツのポーランド侵攻並みの自演臭だった模様。そりゃあ真っ先に身内を疑う。

 管制官の締めのセリフは原作だと『幸運を』だけで、アニメだと『幸運を祈る。神は我らと共に』でしたが、今回は後者にしました。ようやくここまで使えなかった姉上のハンカチと母上のロザリオを出せた(感無量)

 そして超絶欠陥機ゾフォルト君の一つ目の役割が終わりました。魔法が使えるようにしたのは、デグ様を浮遊させて優しくキャッチして、本音まで聞くためだったのです!
 後席の奴が操縦出来る仕組みなのも、デグ様とのお医者さんごっこに勤しむという、超絶マニアックプレイの為でしたとさ! 
 ……これだけの為に御大層な兵器用意したとか、作者はバカなのでは?(今更)

 あ。ゾフォルト君のもう一つのお役目は、至極まともで真っ当な理由です。そちらを説明するのはかなり後になりますが、この欠陥機がきちんと活躍できます。
(というか、大真面目にそれぐらいしか活躍させる理由がないという)

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