キッテル回想記『空の王冠』   作:c.m.

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 yuzupon_hamburgさまより、素敵なイラストを頂きました!
 yuzupon_hamburgさま、この度は本当にありがとうございました!

【イラストタイトル:Sutuka in Famerun】
【挿絵表示】


※2020/2/10誤字修正。
 かめがめさま、水上 風月さま、ご報告ありがとうございます!


23 ターニャの記録1-選択肢

 親愛なる読者の皆様に、この場をお借りしてご挨拶申し上げます。私はターニャ・リッター・フォン・キッテル。若りし頃は魔導兼参謀将校として戦場を駆けた身ではございますが、今は軍を退役し、我が夫、ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルの妻として夫を支え、家族を愛する事を至上の喜びとしております。

 

 本書はその表題にある通り、我が夫の軍人としての半生を記録したものでありますが、回想記の構成上、夫の視点だけでは分かり得ない部分や、説明が不十分となる箇所が出て参ります。

 そこで、夫が本著を執筆するに辺り、私にも是非補足として、当時のあるがままのターニャ・デグレチャフを綴って頂きたいとのご依頼を出版社から受け、こうして幕間とも外伝とも取れぬ記録が完成する事と相成りました。

 この度、私が本著の紙文を割く事にご不満の声が上がる事は想像に難くはありませんが、何卒、ご寛恕頂きたくあります。

 

 加え、誠にお恥ずかしい話ではございますが、当時の私は夫や一般的な帝国国民のように日記をつける習慣は持ち合わせておらず、軍から許可を得てお借りした行動記録や私自身の報告書。夫との私信等を元に、当時を回顧しつつ執筆致しました。

 記憶が曖昧な部分は、複数の証言等を元に可能な限り再現している筈ですが、意図せず事実と異なる部分が記載されてしまう可能性がある事を、予めご了承下さい。

 

 

     ◇

 

 

 一九二三年、六月。私ことターニャ・デグレチャフが目を覚ましたのは、北方戦線でも比較的安全な空軍基地の医務室だった。

 だが、この時の私は自爆したところまでしか記憶がない。敵魔導師に背後から抱きつき、出来うる限り多くを巻き込んでの自爆術式を発動させたところで、記憶は途切れてしまっていたのだ。

 だから、私は可能な限り自分の状況を確認する事にした。まるでムチウチにでもなったように首を動かすと痛みが走る。右腕は三角布で吊られ、右足も骨折故か、クッションの上にギプスで固定された状態で置かれていた。正しく満身創痍と称すべき負傷である。

 そして、この段になってようやく、私は左手に柔らかな布の感触があるのに気付いた。

 

“『幸運を』『N.A.v.K』?”

 

 誰かが私に持たせたのは、容易に察せられる。リネン生地のハンカチは当時としてはそこそこに貴重で、戦地に赴く男達に、家族や恋人がイニシャルを刺繍したハンカチを贈るのはよくある話だったからだ。

 だが、それを態々私に持たせた事が解せなかった。ハンカチに血が付着していないところや色褪せもない事からして、おそらく普段使いの類ではない。にも関わらず私に持たせたのは、恋人と別れでもしたか、家族と疎遠になってしまったからか。

 

“或いは純粋に、私の身を案じてくれたのか”

 

 いずれにせよ、やはり幼い少女というものは、同情心を擽るのだろう。私としては役得と思う反面、こうした気遣いは少々重くもあった。

 する事など何もないので、手元のハンカチについて軽く思考を巡らせたつもりだったが、いざ礼を返すとなると、どの程度のものが適切なのかという子供らしからぬ思考に至るのは、やはり軍人としての生活に染まったが故だろう。

 そうした事を考えている内、私の元へ近付く足音が聞こえた。敵でないという事は分かりきっているというのに、それでも小銃と演算宝珠を手探りで探してしまうのは、魔導士官候補生として身に着いた悲しき習性だ。

 

「目が覚めたようだね?」

 

 空軍軍医少佐は私を笑顔で見下ろすと、カルテを手に私の負傷を出来る限り簡潔に説明した。四肢への被弾に、各部への裂傷と火傷。幸いにして臓器と脳は防殻術式で無事だったものの、救助と応急処置が遅れれば危うかったと言う。

 

「キッテル少佐の処置の賜物だ。あの方に足を向けては眠れんな」

 

 軍医少佐は勿論冗談のつもりだろうが、私は理解が追いつかなかった。

 

“助けられた? 誰に? キッテル少佐?”

 

 私の知るキッテルという軍人は、かの高名な軍人一家しか居らず、しかも空軍佐官とくれば、該当する人物は一人だけ。今日日、教養ある帝国国民なら子供から老人まで、誰もが知る大英雄だ。

 

“『N.A.v.K』──ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル!?”

 

 嘘だろうと私は頭を抱えた。いや、私自身はフォン・キッテル参謀少佐に苦手意識がある訳ではないし、そもそも面識など一切なかった身だ。しかし、まかり間違っても不興を買う訳には行かない人物ではないか。

 とんでもない相手に借りを作ってしまったぞ、と私は冷や汗を掻いたが、軍医少佐は勘違いも甚だしく、私に熱があると考えたらしい。

 

「酷い発汗だな。今、従軍看護婦に着替えを持って来させる。君はもう目を閉じて休み給え」

 

 軍医少佐の気遣いは見当違いのそれだったが、目を閉じて休めというのは嬉しかった。無駄にどうにもならない事を考えるぐらいなら、静養に務めるのが最良というものだ。

 

 ……と。この時の私は考えていた。

 

 

     ◇

 

 

「キッテル少佐殿が、面会に来られていたのですか?」

「ああ。私も含め、必要なら起きて頂くと言ったのだがね。君に負担がかかるような事はしなくて良いと断られて、帝都に戻られたよ。まぁ、あの方がお忙しいのはいつもの事だ。キッテル中佐殿から君宛の手紙を預かっている」

 

“進級しているではないか!?”

 

 どうやら大英雄殿は、順調に立身出世の道を歩まれておいでのようである。私はフォン・キッテル参謀中佐の文を軍医少佐から受け取ったが、片手では口でも使わねば開封出来る筈もないので、軍医少佐は気を利かせてペーパーナイフで封筒を開けて下さった。

 封筒も便箋も軍で使用されるものではなく、私信用の上質紙であったし、文も万年筆の手書きである。帝都への出立前、この基地で書いて軍医少佐に渡されたそうだ。

 軍医少佐は読み辛ければ朗読してくれるとも言ったが、それが私への好意ではなく、厭らしい好奇心の類である事は誰だとて分かる。現に、横の従軍看護婦は冷ややかな目をしているぞと言いたかったが、その看護婦も興味は隠せていない。

 

 物好きな連中め、と内心嘆息しながら、私は文に目を通した。

 

『戦友たるフェアリー〇八へ。貴官の功績と挺身は帝国軍将兵の模範であり、私もまた、軍人として貴官を誇りと思います。一日でも早い貴官の快復と、武運長久を心より願い、お祈り申し上げます。

 ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル参謀中佐』

 

 ここまで目を通して、これだけか、という思いと、なんとも堅苦しい軍人の挨拶だなという印象を同時に抱いた。

 そして未だ興味津々そうな、うら若き従軍看護婦に「見たいのであれば」と手紙を渡し、看護婦は落胆の面持ちを隠す事なく手紙を返したが、ふと私は違和感に気付いた。封筒の底に貼り付けるように、別の便箋が隠されていたのだ。

 私は席を外した軍医と看護婦に礼を述べ、封筒を片手でバラバラにしてみると、先程とは打って変わった私信が出てきた。

 

『このような形で、淑女に文を差し上げた非礼をお許し下さい。

 他の帝国軍人は、貴女の負傷を栄誉のものと称えるでしょうが、私は自分を不甲斐なく思います。貴女が軍人としての道を行く事に一切の疑念も躊躇もなく、ただ国家への献身が全てなのだとしたら、私の言葉は侮辱以外の何物でもないのでしょう。

 それでも、私は貴女の傷ついた姿を見て、こう感じたのでございます。私は、私達大人は誰も彼もが愚か者だと。救いようのない人間なのだと。

 貴女のように幼い少女が花でなく銃を取り、ドレスでも流行りの服でもなく、軍衣を纏う事を由としたこの世は酷く歪んだものであり、それを強要してしまったのは、我々が今日という日まで、争い続ける日に終止符を打てなかったからです。

 私達大人の無能が、貴女にその道を選ばせてしまった。いいえ、他の道を選ぶ機会さえ用意できませんでした。

 だからこそ、私は貴女に誓わせて頂きたいのです。一年でも、一日でも早く、貴女に戦争のない日をお届けする事を。今すぐは無理なのだとしても、貴女の人生に、貴女自身が選択肢を得られるようにしたいのです。

 私のこれは、傲慢なのでしょう。自己満足の類でしかないのでしょう。もしお怒りを抱いたならば、私は改めて心からお詫び申し上げます。

 帝国軍人としてでなく、一個人として貴女の快復を心からお祈りしております。

 ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル』

 

 私は手紙を折り畳むと、今度は他人に見せようとは思わず、枕の下に入れておく事にした。私はフォン・キッテル参謀中佐の想いを、侮辱とは思わなかった。私が軍人となったのは、参謀中佐の想像通り、他に選択肢がなかったからに過ぎない。

 魔導適性を持つが故に赤紙を受け取り、いつかは徴兵される身ならば、己が才を信じて士官学校の門を叩くのが最適解だと。私は子供らしからぬ早熟さであったが故に、躊躇なく軍人としての道を歩んだ。

 別段、私は花やドレスになど興味はなかった。衣食住と金銭が保証され、不自由しない範囲での一生を送れたなら、他に望むものはさして無い。

 

 だが、人生に選択肢が有るというのは良い事だ。人間の選択とは、常に当人の能力と健全な社会制度の下にある、自由の中に置かれたものでなくてはならない。

 人は生まれを、時代を選べない以上、どうしたところで不自由とは出てくるものだが、それでも用意してくれるというなら、期待ぐらいしても良いだろうと……そんな甘っちょろい考えは、この時の私は抱けなかった。

 むしろ、将来の夫の事をこの時は鼻で笑ったものである。

 

“今更か?”

 

 今更、女子供を戦場に送る異常性に気付いたのか? 目の前で幼子が傷つく様を見てでしか自覚も出来ず、その頭で想像する事も出来なかったのか?

 戦争というものは、人間の死を始めとする倫理観を狂わせてしまうものだが、大英雄殿とてそこに例外はなかったらしい。

 お笑い草だよ、と私はハンカチを見て思った。現役時代の私は、祖国に対しては自己犠牲を厭わぬ忠勇烈士の人という印象であったようだが、少なくともルーシー戦役までのそれは自己保身や栄達の為に自ら作った偶像に過ぎなかった。

 

 私は唯、生き残りたかっただけだ。上官や軍の不興を買わず、勤勉で誠実な軍人として見られれば、安定したキャリアを得られると疑わなかったからだ。

 勿論、私が軍人としての義務を誠実に果たした事は、誰に対しても胸を張れる仕事ぶりであったと自負するものではある。しかし、好き好んで軍人をやっていた訳では決してない。何度も言うが、その魔導適正故に赤紙を受け取った孤児院育ちの小娘には、他に選択肢など無かったからだ。

 

 選択肢を与えてやるというのなら、後方勤務にでも就けるよう融通を付けるぐらいはして欲しいものだ。

 最前線で小さな家畜と同居し(ノミやシラミにかじられ)、塹壕で泥塗れになる生活など御免蒙る。白いベッドと食事を出せ! と思ったところで、その二つは今は有るな、と気を静めた。

 

 どうやら私は、ひどく動揺していたらしい。おそらくは、ようやく真っ当な価値観を持った人間に出会えた事と、その相手が自分に対して甘さを許してくれる手合いだと文面から察する事が出来たからだろう。

 怒られる心配のない相手の方が怒り易いというのは、実に理不尽な話であるが、おそらく、この時初めて子供らしい癇癪を許してくれる相手を得た事が、私の精神を幼稚に……というより年相応にさせたのだろう。

 私は一人ベッドの中で、まだ直接お会いした事もない参謀中佐に、心の中で当たり続けていた。

 

 

     ◇

 

 

 それから五日。私は銀翼突撃章の授与と、恩賜休暇を言い渡された。私の傷は帝国軍が誇る魔導医療と従軍看護婦の献身的な看護の甲斐もあって一五日で快復し、あれ程までの痛々しい火傷や裂傷も、痕を残さず綺麗に消えてくれた。

 軍医少佐は、嫁入り前の身体に傷が残らなくて良かったよと笑ったが、そもそも嫁入り前の小娘を最前線に送る方が間違いだろうと、私はこの戦時下特有のズレに、内心辟易としたものである。

 しかし、私は短い時間とはいえ、前線から離れられる事には心から歓喜した。銀翼突撃章には、恩賜休暇だけでなく特別賞与まで付いてくる。私は帝都で優雅なランチを楽しみつつ、代用でない本物のコーヒーの香りを楽しむところまで想像して、すぐに北方駐屯地の司令官から呼び出しを受けた。

 

 いい空気に水を差してくれたものだと思いつつも、銀翼突撃章は白金十字以上の名誉ある勲功であり、それに付随する義務もまた多い。具体的には、宣伝局広報部に終始プロパガンダ作成の為に付き纏われる羽目になるのだ。

 どうせ撮影やらサインやらインタビューやらの打ち合わせをさせられるのだろうと、私は内心辟易しつつ、同時にこれで休暇が潰されては目も当てられないなとも思った。

 広報活動とて立派な軍務なのだから、しっかり仕事分の給料を支払って、別に休暇を用意してくれと。

 

 しかし、司令室に到着した私は、次の配属先を複数の書類から選べと言いつけられた。

 書類は全てが本国配置の後方勤務。しかも、自分が切望して止まない、完全な安全圏たる鉄道部や中央参謀本部勤務など、正に選り取り見取りの至れり尽くせりであったが、上手い話には確実に裏があるものだと、この時の私は変に勘ぐってしまった。

 

「前線勤務が見当たりませんが」

 

 それとなく、あくまでも一武官として当たり障りのない語句を選んだつもりであったが、これが不味かった。司令官は私の疑念に対し、当然の反応だなと言わんばかりに息を零された。

 

「不服なのは、分かっている。魔導師にとっての誉れたる二つ名まで頂いた貴官にとって、この人事に思うところがあるのは、私とて十分理解しているつもりだ。

 だが、上は幼子が最前線に勤務するのは、対外的にも問題だと言うのだ」

 

 分かってくれ、と。私を幼子として扱わず、帝国軍人として見る司令官は職務的にも帝国の価値観としても正しい。魔導適性故に赤紙が来たことが元凶(はじまり)とはいえ、どうせ義務兵役で軍に身を置くならと()()した時点で、私は徴募兵でなく職業軍人として奉職する立場にある。

 こと帝国に、帝国軍においてひとたび軍衣を纏った以上、年齢や性別への拘泥など──表向きは──存在しない。能力主義を第一の指標とする我が祖国は名誉、忠誠、献身こそを何よりも貴び、対外的な視点で見るならば、私は戦友と祖国の為に自己犠牲を惜しまなかった高潔な士官である。

 他国や後世の人間にしてみれば、私は国家ないし軍という血も涙もない暴力装置に強引に手を掴まれ、部品として組み込まれるように銃を担がされ、死の恐怖に怯えながら引き金を引く社会的被害者に映るかもしれないが、帝国の、少なくとも当時の常識の中にあって、それは正しい価値観ではない。

 この時代の、先の負傷と叙勲に伴う私の立場を帝国軍並び、国民が見るとこうなる。

 

 何と勇ましき武功である事か。

 何と言う祖国と戦友愛に満ちた、黄金の精神である事か。

 国民よ、戦友よ。ターニャ・デグレチャフの名誉を讃えよ。

 全ての国民は、その献身と忠誠を範とせよ。

 

 ……とまぁ。後世の人間が、この時代を狂気にあったと評するのもむべなるかなという一般論にして価値観であるが、それがスタンダードだったのである。

 はっきり言って、逆に我が未来の夫の価値観は、当時からすれば異常とさえ言って良い。

 子供だからという理由()()で、祖国に対しこれ程までの貢献をした職業軍人を餓鬼扱いしたばかりか、その名誉に泥を塗ろうなど、同じ軍人として見下げ果てた奴だと、仮にフォン・キッテル参謀中佐の思想が世間に広まれば、散々な酷評を受ける事は請け合いだ。

 

 勿論、この()()()が個人的には大迷惑極まりない価値観である事は語るまでもない。

 いっそのこと、存分に甘やかしてくれて構わないのだが、そんな事を口に出来る場面ではないし、もしそんな態度を取ろうものなら、確実に不興を買ってしまう。

 私はようやく空軍の大英雄様だけでなく、自分の負傷を機に帝国軍も()()()の異常性に疑問を抱いてくれたのだなと感動しかけたが、ふと内心首を傾げた。幾らなんでも、都合が良すぎだろうと。

 

「キッテル中佐殿の、差し金でありますか?」

 

 思わず口にしてしまった私の疑問に司令官は息を呑み、やがて観念したように「そうだ」と零した。

 

「貴官を、いや、貴様を救出したのが奴なのは既に承知の事だろう。奴は貴様の負傷を機に、これまでより一層前線勤務者に甘くなりおったようだ。スコアを譲るだけならまだしも、名声を笠に宮中の人間まで動かして、陸軍の人事に容喙(ようかい)して来おったわ」

 

 不快極まりないと司令官は言う。しかし、私は少々自分を顧み、そして恥じていた。選択肢を与えて見せろと内心叫んだが、まさか本当に用意してくれるとは思わなかった。何より、今にしてみれば助けてくれた相手に当たるなど、場違い極まりないではないか。

 私はフォン・キッテル参謀中佐に心中で謝罪しつつ、司令官に向き直った。参謀中佐のご厚意を無駄に出来ない。何よりこのままでは、自分が後方勤務に就く事に同情した司令官が、強引に前線勤務に変えてしまう恐れがある。

 それだけは断固として阻止せねばならない。私は本国で安全に、そして安定した生活を送りたいのだ。ベルンのコーヒーが私を待っているのだ!

 

「ですが、ここで断る事はやはり対外的にも、司令官閣下にとっても宜しくはないでしょう」

 

 私がここで無理強いをしてしまえば、内示を受け取った司令官方にまで類が及びかねない。帝国陸軍の名誉の為にも、私は内示を受けるのだという事にしてしまえば、全てが丸く収まる筈である。誰も損をしない最高の展開だ。

 司令官は私に謝罪するような視線を寄越してきたが、私にしてみればこの中から当たり障りのない配属先を選ぶのが先決である。口惜しいが、鉄道部は安全すぎるので却下。

 中央参謀本部勤務も士官学校の成績面からすれば問題ないが、フォン・キッテル参謀中佐の梃子入れに人事局が気付かない筈もないので却下。変に同情されて最前線送りなど最悪だ。

 

 となると、残るは一つ。本国戦技教導隊付として、総監部付き技術検証要員への出向だ。

 字句だけでも飛び上がりたくなる内示である。帝国軍最精鋭部隊の教導隊員の末席に加わるのみならず、最新鋭機のテスト要員ともなれば、間違いなくキャリアは順風満帆。

 エースとして、銀翼突撃章保持者としての立場を崩す事なく、後方の代表格たる総監部の席も与えられるとなれば、正に一石二鳥ではないか。

 

「ここでならば、来るべき日の為に己を磨けます。『白銀』の名を錆びつかせずに済みそうです」

 

 そして最後に武官としてのアピールも欠かさない。ここまで言い切れば、私がこの内示を受ける事に疑問を挟む余地は欠片もない筈だ。

 私は踵を鳴らし、折り目正しい敬礼と共に、司令官の武運長久をお祈りした。そして、司令官はそんな私に一言。

 

「必ずや、貴様に相応しい戦場を用意する。壮健でな」

 

 結構だから、こんな戦争はとっとと終わらせてくれ、とは私は勿論口にはしなかった。

 

 




 デグ様は退役したのを良い事に、洗いざらい本音をぶちまける事にしたようです。
 それと、デグ様のお返しはサラリーマン的思考なのですが、流石にそれを口外する訳には行かねーので、本著では全部軍隊生活ゆえの思考に置き換わった模様。
 女性的な考えを持てないのも、同じく軍隊生活のせいということにしています。
 軍が悪いよー軍が(棒)

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