キッテル回想記『空の王冠』   作:c.m.

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さぁ皆様、塗り絵のお時間ざます!(hoi的無慈悲タイム)

中央大陸 各国勢力図 1925年11月20日

【挿絵表示】


※2020/2/24誤字修正。
 すずひらさま、水上 風月さま、佐藤東沙さま、オウムの手羽先さま、ご報告ありがとうございます!


35 三国紛争-列強の介入

 一一月二〇日。私の誕生日より少し早く、レガドニア協商連合は降伏を受け入れた。ダキアと同じく首都を完全包囲されてのものであったが、彼らにはダキア大公国ほどの温情はかけられなかった。

 ロンディニウム条約より更に一歩踏み込んだ、二度と帝国に対して領土侵犯を起こせないようにする為の本土割譲要求*1

 帝国軍の北方戦線での戦費を補填して、尚余り有る賠償金。アルビオン連合王国・フランソワ共和国との同盟破棄と、帝国との不可侵条約の締結。

 

 勿論、これらの降伏条約がダキアのように即時発効出来るかといえば別だ。亡命政府こそ成立していないが、連合王国と共和国が健在である以上、彼らを潰さねば協商連合の心が折れる事はない。

 そうなれば帝国は、協商連合が折れる──共和国・連合王国との終戦──まで、その領土に軍を駐屯するしかなくなるが、国土を占領し続けた結果、ゲリラ活動に勤しまれても迷惑極まりないし、出来る事ならば直ちに兵を引いて西方に全力を注ぎたい。だからこそ、帝国は一計を案じた。いいや、既に案じていた。

 帝国外相は静かに、そして不敵に笑いながら語ったという。

 

「我々を呪い殺すように見ているが、お前達の背中も、美味そうに見られているぞ?」

 

 協商連合は全てを察した。そして、亡命しそこねた国民を守るべく残った評議委員は、勢いよく机を叩いて吠えたという。

 

「取引したのか、ルーシー連邦と!?」

 

 協商連合の驚愕と怒りは当然だろう。あのような血腥い、共産主義などというカルトめいた思想を持つ社会主義国家と組もうなどというのは、それこそ人としての倫理をドブに捨てているようなものだ。

 

 現在のルーシー国民ならび政府におかれては、気分を害される事を承知で述べるが、革命以前からルーシー軍兵士の蛮行は余りに有名であった。

 占領下の町や村での虐殺や強姦、略奪と放火は当たり前であり、その残忍性は中央大陸各国が『悪臭を放っている』と不評を隠さなかった程なのだ。

 連邦になってからもその体制が変わらなかったどころか、一層酷い有様となった事は、他ならぬ協商連合が最もよく、そして()()()知るところであろう。

 とはいえ、国家に真の友はなく、たとえテーブルの下で足を蹴り合う間柄でも、机の上ではにこやかに笑みを浮かべて握手ぐらいは出来るだろう。

 信頼でなく利益のみを追求する間柄にあっても、相互利益が約束されている間ならば、不倶戴天の敵同士であっても、笑い合う時間が持ててしまうのだから。

 

 ダキア大公国相互不可侵の締結時、裏で結ばれた秘密条約はこうだ。

 一、帝国のレガドニア協商連合への防衛戦争勝利後、ルーシー連邦の協商連合侵攻について、ネースナからメオーウまでの進出を帝国は無条件で認める。

 二、ルーシー連邦は帝国に対し、帝国北西部における『三国紛争』への介入とその結果を、内容の如何を問わず承認する。

 

 条件だけで見るならば連邦は濡れ手に粟といった所だが、流石に帝国も悪魔に魂を売る程堕ちてはいない。確かに協商連合は帝国の国土を蹂躙した侵略者であり、長きに渡る戦争のきっかけとなった諸悪の根源ではあるが、無辜の民に罪はないのだ。

 

「犬畜生であろうと、『お座り』と『待て』は覚えられるようでね。我々が『良し』と言うまで待つぐらいは、連中(ルーシー)にも出来る。

 国民の擁護者にして、代弁者たる評議委員諸君。国民と軍を戦争という地獄に突き落とした評議員諸君。度重なる和平交渉を蹴り、国土を戦火で焼いた愚かな評議委員諸君。

 今回は、正しい判断が出来るだろう。我々が意地汚い野犬に『良し』と言う前に、合州国にでも国民を逃すと良い。勿論、可能な限り財産も持たせて」

 

 協商連合国とて、この事態を全く予期していなかった訳ではないだろう。だからこそ、彼らはかつてスオマの地を見捨てたという前科がある。

 自分達協商連合が連邦と相互不可侵を結ぶ為に、ツァーリの統治が揺らいだタイミングで独立し、抑圧からの開放を祝った、あの平和な国家を切り捨てた。そうして、自分達の安全を。相互不可侵を手に入れた筈だった。

 

 国家が自国の利益を最優先にする事も、自らの安全の為に他を犠牲とする事も、決して悪ではない。しかし、それをする以上、他の犠牲の上に安寧を掴んだ以上は、自分達も同様の犠牲を、自国民と共に払う覚悟を有するべきだろう。

 同盟関係にあったスオマを直前に見捨てて梯子を外し、飢えた野犬に食い荒らさせる事で生き存えた時点で、協商連合に帝国を非難する資格はない。

 

 スオマからの難民が、その地でどのような辱めを受け、懸命に戦い散った若者達がどのような最期を遂げたか。スオマ国民の多くの嘆きは、私自身筆を執って語る事さえ憚られるような蛮行であり、協商連合国は、本来ならばその報いを受ける筈だった。

 

 条約などというものは互いに利益が有り、破れば手痛い目に遭うから破らないというだけだ。ツァーリ統治下から特に理由も用意せず、機と見るや敏に動いて横紙を破りつつ支配域を拡大してきたルーシーが。

 ましてや、かつての時代などと比ぶるべくもない、アカなどという野盗の群れと化した今のルーシー連邦が、国軍の崩壊した相手との不可侵を維持する筈がない。

 帝国が連邦を秘密条約という首輪で繋いでおかなければ、彼らは何食わぬ顔で協商連合国に進軍を開始しただろう。

 正しく、慈悲という言葉では足りぬ程の温情だ。

 

「但し、亡命させるのは占領予定にある土地の住人だけに留めて貰う。他の国民まで逃す事は出来ないし、現役・予備役軍人も当然例外*2だ。国民の生活と財産を保証する事こそ国家の務め。諸君が政治屋でなく、政治家として正しく決断してくれる事を祈る」

 

 脅しではない。有線電話は既に会議場に引かれている。もしも評議委員が拘泥するならば、すぐにでも連邦が食らいつく。それを止めるには、帝国外相に『良し』を言わせないよう、満足の行く答えを出すしかないのだ。

 柱時計の振り子が揺れる。外相が針を確認し「正午まで待つ」と最後の慈悲を示した時、評議委員達の心は折れた。降伏文書の調印と、条約の即時発効。それが為されたのは日付と同じ、午前一一時二〇分だった。

 

 

     ◇

 

 

 レガドニア国民は、帝国が事前に手配していた合州国輸送船団に乗船し、脱出した。外洋民間クルーズ船を始めとする脱出船団の費用は、当然協商連合持ちであるが、それでも『時間』という最も貴重な財貨を、帝国がもたらしたのは大きい。

 父親が軍人であったが為に、離れ離れとなる家族には、本当に酷な事をしたと思う。しかし、彼らには賠償金を払う上でも、また、海外から連合王国や共和国の義勇兵にならない為にも、協商連合国内に残って貰わねばならない。

 彼らの敵である私が、こんな事を言うのも烏滸がましい話だが、それでも私は戦争の終わった世界で、離れ離れとなった家族が再び野原でピクニックが出来る日が来る事を、心から望んで止まない。

 いいや、それさえも我々の努力次第だろう。共和国と連合王国との戦争が終わり、帝国に平和が戻れば、離れ離れとなる日々も終わるのだから。

 

 

     ◇

 

 

 読者諸氏は、ここまでの戦いで戦線に疑問を持った点はなかっただろうか? 帝国軍はプラン三一五を瑕疵なく発動させ、各戦線を安定して維持したばかりか、早々にダキアを下し、連邦と不可侵を結んだ時点で、東部兵力を可能な限り北方と西方に注ぎ込む事が出来た。

 だというのに何故、ダキア陥落後の一九二三年から西方が膠着状態にあるのか。それは、今回初めて本著に記した、三国紛争こそが原因だ。

 共和国と帝国の間。帝国北西部に位置する一帯は、アルビオン連合王国本土への渡洋を容易に可ならしむ海岸線を有する広大な土地であり、帝国にとっては連合王国への本土『攻勢』を主眼に置いた軍事地政学上の要地。

 連合王国にとっては本土『防衛』を主眼に置いた軍事地政学上の要地。そして共和国にとっては帝国からの『防衛』と連合王国への『攻勢』両面における軍事地政学上の要地。三国とも、決して他のいずれかの手に渡してはならない、中央大陸の緊要地形であった。

 

 無論、広大な土地である以上そこには国家があり、国民も存在する。帝国と共和国に挟まれ逆三角形となったその土地は、北洋から南へ順に、ネーデル王国、フランデレン王国、そしてレツェブエシ大公国が並ぶ形で存在する。

 三国はそれぞれが永世中立国である事を望みながら、同時に互いの国を征服、併呑しようという領土的野心を有していた。

 

 特にレツェブエシ大公国は、国土・軍備両面で他の二国に対して劣勢な状況に置かれており、ネーデル王国は彼の地への強い征服欲を隠そうとさえしなかったが、何とかレツェブエシ大公国は外交努力によって生存を許されていた。

 三国内での争いに、中央大陸列強の非介入を条約によって認めさせた功績によるものである。レツェブエシ大公国は帝国(ライヒ)・フランソワ共和国・アルビオン連合王国、そしてルーシー帝国(ツァーリ統治時代)から独立の保証と永世中立国家としての体制を認められ、結果、三国紛争と言いながら、実質的には二カ国が延々と泥沼の紛争を近年まで続けていた。

 協商連合の越境侵犯から始まった中央大戦が、それを変えるきっかけとなるまでは。

 

 

     ◇

 

 

 三国の紛争に列強が不介入を認めたのは、どの国家がこの地を得たとしても、得られなかった国にとっては甚大な被害をもたらす要衝であり、だからこそこの土地だけは空白にせざるを得なかったからだ。

 仮に列強の一国がこの地を独占しようとするならば、それこそどのような犠牲を払ってでも、他国はそれを妨害しなくてはならない。そうしなければ、自分達の安全を確保出来ないからだ。

 奪うと言うならば、その時点で全面戦争。それが列強国の野心の歯止めとなり、ギリギリのところで各々が踏み止まる事ができていた。しかし、最早列強が止まる理由は欠片もない。

 ルーシー連邦を除く三国は既に戦争状態に有り、かつてのルーシー帝国自身、この地に関しては不可侵の見届け人として席に加えられたに過ぎない。当然その分の見返りは旧体制の頃に受け取っていたが、いざツァーリの時代に事が起きたとしても、座視する姿勢は崩さなかっただろう。

 この地をどの国家が掴もうが、ルーシーにしてみれば痛くも痒くもない。むしろ、中央大陸が本格的な戦争で疲弊したところを、横合いから殴りたいとさえ思っていた筈だ。

 

 そしてそれは、紛争の当事者たるネーデルやフランデレンも同様である。特にネーデルは、以前から小国家にも関わらず、永世中立国の地位を一人得ていたレツェブエシが腹立たしくてならなかった。

 そこに領土的野心が加われば、真っ先に併呑の二文字がレツェブエシの脳裏に過ぎるのは当然だっただろう。レツェブエシは列強各国に自国保護を求め、帝国は真っ先に、余りにも早くそこに駆け付けた。

 無論、これは偶然でも何でもなく、レツェブエシが他の列強国に救援を求めるより早く、先んじて帝国に保護を求めたからである。ネーデルとフランデレンには既にして共和国・連合王国双方が介入していたという情報を掴んでいたからだ。

 

 但し、帝国が保護に動いたことを知らぬまま、「これで確実にレツェブエシを手中に収められる」とほくそ笑んでいたネーデルはその実捨て駒に過ぎず、共和国・連合王国は、要衝紛争地域の覇者たる地位は、フランデレンに掴ませる気でいた。

 確かにネーデルもフランデレン同様に親共和国・連合王国ではあったが、フランデレンとは違い、野心に見合うだけの能力を有していた事がネーデルの不幸だった。

 傀儡としておくならば、出来る限り小さく、そして扱い易い者が良い。その点フランデレンは能力的には平凡だったが、自分の置かれた立場をしっかりと理解できていた。

 どの道この要衝で覇者の座を得ようと、地政学上列強からの干渉を避けられない。ならばここで絶対服従の姿勢を見せ、自らを取るに足らぬ駒として手元に置いて貰えるならば、少なくとも生存だけは保証される。

 

 共和国も連合王国も、最終的にはフランデレンを中立国にした上で、いざという時に自分達に有利な要求を通そうとしてくるに違いない。それで中堅国としての地位が許されるというのであれば、フランデレンとしても断る理由は全くなかった。

 

 

     ◇

 

 

 対し、レツェブエシの状況はより深刻であった。彼らは自らの置かれた状況と立場を、誰よりも正確に理解していたからだ。

 共和国も連合王国も初めの内はレツェブエシの保護を理由に介入していたため、帝国がこの地を得る事のないよう、要衝を空白地帯のままにしたいのだろうと考えていたが、早々に考えを改めた。

 確かに空白地帯のままにしておく分には問題ないが、元々レツェブエシは親帝国として見られていた国家である*3

 

 加えて言えば、この紛争地域は軍地政学上の要衝。可能ならば空白にしておくより、自陣営に組み込みたいと思うのは当然の欲求であり、そうなれば組むべき相手は弱国よりも、現実的に勝ちの目のある国が良い。

 確かに弱国を勝たせれば感謝はされるだろうし、見返りも大きいのは道理。しかし、紛争地域の三国は何れも列強に抗する国力を有しておらず、たとえ紛争地域の覇者として全域を一国の国土に収めたとしても、精々が中堅国という立場に留まる。

 傀儡国家として利用するにあたりどの国でも問題ないのならば、態々敵国よりの弱国よりも、自陣営寄りの有利な側を推すのは当然だった。

 

 レツェブエシの国力は、他の二国と比して著しく劣る。国土面積にしてネーデルの一一分の一。フランデレンに比しては一六分の一という国土差からも、その力関係が窺い知れることだろう。

 よくぞこの国力差で今日まで生き存えてきたものだと感心する他ないが、列強不介入の功により永世中立国としての地位を得た事からも分かる通り、この国は外交努力によって生存権を確保してきた国家である。

 

 レツェブエシの決断は早かった。彼らは永世中立の地位をも捨て、他の二国よりも先に、全権を委任させた大使を帝国に派遣したのである。

 列強が大規模戦争に突入し、紛争地域に介入する意思を見せた以上、レツェブエシは既に中立国として自らを維持する事は不可能だと悟っていた。

 故に、彼らは今後の取引相手として、帝国をパートナーに選んだ。独立国家としての主権を維持する為ではない。

 たとえ要衝の覇者になろうと、傀儡国家として常に圧力に晒されては意味がない。誇りある独立は確かに甘美な響きだが、その結果、長きに渡って自国民に負担を強いるのは正しい事か?

 独立と言う名よりも、より多くの実という豊穣の未来こそ、真に望ましいものだろうと考えたレツェブエシは、自国民の為に独立国という地位をも捨てる『覚悟』を決めたのだ。

 

 

     ◇

 

 

 帝国に派遣されたレツェブエシ特命全権大使は、帝国外相を前に淡々と交渉を始めた。

 レツェブエシは帝国の独立保障の為の介入を認め、要衝の覇者として君臨する為に、自分達以外の二つの国家を世界地図から完全に抹消して貰う。

 その見返りとして、覇者となったレツェブエシは、かつての統一戦争で諸邦の王がそうであったように、プロシャ王たる皇帝(カイザー)に『恭順』を示し、『一州』として帝国に加わる用意があるという。

 

 レツェブエシ大公直々の署名と印章が為された書状を帝国外相は二度、三度と言わず確認し、大使にも間違いないのかと改めて問うた。

 勝利が前提とは言え、軍地政学上の要衝にして、七万四〇〇〇キロ平方メートルもの広大な土地を一州として得る事が叶うというのだから、裏の一つは有っても呑む用意は十分にあった。

 

「勿論、魚心あれば水心も御座います。帝国には、全レツェブエシ国民三〇万を、帝国内地に疎開させて貰いたいのです」

 

 それは無理だ、と帝国外相は思わず喉から出かかったものを呑み込む。確かに帝国には大規模鉄道網が存在するが、戦時体制に移行して以来、一つのダイヤの乱れも許されない状況下にある。

 加え、三〇万もの人間全てを鉄道網まで移送するには、それだけで莫大な時間と労力を伴うものだ。

 

「無論、私達も額面通り全員を移送しろとは申しません。我が国で他国の義勇兵として経験を積んだ三〇~四〇代の男手は、自由に各戦線に送って頂いて結構。国軍も当然、帝国の指揮下に入ります。

 我々が欲しいのは、貴方方帝国が我々の為に骨を折ってくださったという証拠と実績なのですよ。でなくば帝国の『一州』になる事を、国民に納得させられないでしょうからな」

 

 全てを救う事など、出来ないという事は大使も承知の上である。その上で、帝国には誠意を尽くせという。

 

「一月でダキアを下す程の戦略を有する貴方方だ。既にして持ち前の準備の良さで、航空機の輸送も終えている事でしょう? 紛争地域は軍地政学上の、紛れもない要衝。ライン戦線以上に、一刻も早く、最優先で人員と物資を送りたい筈。

 あそこを取れば、今次戦争の趨勢は決します。一日でも早く戦争を終わらせ、一ペニヒでも戦費を抑えたい帝国としては尚更に。

 そういえば、我が国は金融業も盛んでしてね。帝国の国債は、幾ら程買い求めれば宜しいですかな? それと、貴方方の前に立つ私も含め、私達の『舌』と、情報を得る『耳目』も付いてきます。勿論、報酬として国民の為に優先して輸送機を飛ばして頂いて貰いますが。

 どうですかな、私としては、大変お買い得だと思いますよ?」

 

 

     ◇

 

 

 帝国は介入を決めた。共和国も連合王国も介入した。既に戦争状態にあるのだから、今更不介入の規定通り黙って見逃すつもりはない。

 だが、他の二国と帝国が異なるのは、ルーシー連邦への根回しを行えていた事だろう。

 ルーシー連邦は人員や物資こそ送らなかったものの、帝国の対応は救援要請に対するものであったと支持を表明。

 対して、ネーデルとフランデレンの領土野心に乗る形で介入した共和国・連合王国の行為を『侵略主義に基づいた邪悪な行い』だと強く非難したが、他国から言わせれば「貴様が言うな」と呆れかえる声明であった事は間違いない。

 

 帝国とて、連邦の声明が当事国に対して役に立つとは微塵も考えていない。問題は、三国紛争への介入が、秋津島や合州国を始めとする第三国の目から見て、どう映るかという一点にある。

 

 今次戦争において、帝国は常に他国から不当な侵略を受け、それに抗する形で防衛戦争を続けてきた。我が祖国は複数国に包囲されながらも、奇跡のような快進撃を遂げた国家であると共に、領土的野心に晒された小国(レツェブエシ)にも率先して手を差し伸べ、侵略主義者の魔の手から救わんとした正義の国家でもある。

 字句として並べ立てれば、何とも陳腐で幼稚な三文劇ではあったが、それでも決して嘘偽りの類でない以上、効果はあった。

 

 特に、判官贔屓の向きが強く、はじめは共和国の軍事顧問を招いておきながら、プロシャ・フランソワ戦争勝利後に帝国の軍事顧問を招いた事からも、勝ち馬に乗りたがる癖のあった秋津島などは、帝国の国債を買い漁り、過去の植民地などにおける領土問題も合議した上で、軍事同盟まで提案してきたほどだ。

 これには海軍力の乏しい帝国としても乗り気であったのだが「中央大陸の問題は、中央大陸で片付けよ」という皇帝(カイザー)の鶴の一声で頓挫をきたした。

 確かに開化期以降、旭日の勢いで発展していた秋津島の海軍力は魅力ではあったが、仮に彼らの手を借りた場合の見返りなどを考えた場合、多くの問題を抱えることは避けられなかったであろうから、皇帝(カイザー)のご憂慮は尤もであった。

 

 合州国に関しては、連合王国の情報操作や工作活動によって、思うような成果は得られなかった。帝国がレツェブエシに対して、いち早い介入の姿勢を見せたのは、両者の間に要衝の覇権を得ようという心算があった為であり、むしろレツェブエシこそが、侵略主義的野心を有する国家だと非難されたのだ*4

 

 こうした結果、一部の有識者を除いて合州国では反帝国の声の方が強かったが、帝国国民も軍も、そして政府さえも、いつかは自分達こそが正しいという事を、分かってくれる筈だと考えていた。

 合州国の帝国系移民は、最大数たるアルビオン系に次する数であり、帝国人の多くは自分達の同胞が、言葉でなく自分達の行動を見る事で、他の者達の目を醒ましてくれると信じていたのだ。

 

 私達は、戦争そのものを望んで行っている訳ではない。協商連合に幾度となく和平交渉を行ったように。レガドニア国民を共産主義者の魔の手から逃すべく、合州国に亡命させたように。

 帝国の誠意と誠実さが、いつか彼らにも伝わる筈だと疑ってはいなかった。

 

 それが、その思いが裏切られるのだということを、知らないままに。

 

*1
 割譲地は帝国領ノルデンと併せ、ダンメルク州として帝国への統合を認めさせられた。

*2
 個人或いは団体が国籍離脱することや、他国軍に志願することは自由である。帝国においても過去にそういった事例が複数存在しており、これを危惧して帝国はレガドニア軍人の国外退去を固く禁じた。

*3
 これはレツェブエシの外交態度によるものではなく、帝国系国民が比率として多かっただけに過ぎない。

*4
 これは国家としての信用が既にして皆無であった、ルーシー連邦が帝国を支持した事も要因となった。合州国国民の中には、帝国が共産主義者と手を結んだという破廉恥な発言を行うものまで出る始末だった。




補足説明

【協商連合国民の避難協力について】
 レガドニア国民の避難は、当然ですが別に善意って訳じゃないです。
 ルーシー連邦に出来るだけ金品とか与えたくないし、後々の世論とか考えるに「ここいらで美談作っておかんと、マジで帝国は『世界の敵』になりかねない」からっていうのがあります。
 あとは合州国に「俺らいい子でしょ? 侵略者にもめっちゃ優しいでしょ?」アピールして、これ以上敵国を増やさないようにしたいという思惑がありました(上手く行くとは言ってない)

【スオマ侵攻時の赤軍と協商連合のやり取り】
 協商連合「スオマは中核州だけ取ったら帰るって言ったじゃないですか嘘つきー!?」
 赤いナポ公「んな約束律儀に守るわけねーじゃんバーカw」

 ~なおスオマ侵攻後~

 赤いナポ公「スオマ侵攻成功させたら粛清リストから外すって言ったじゃないですか嘘つきー!?」
 連邦「んな約束律儀に守るわけねーじゃんバーカw」
 ※まさに「狡兎死して良狗煮られる」。なお煮られる時期が早すぎた模様。

【秋津島と同盟できなかった理由】
 皇帝(カイザー)が秋津島の軍事同盟を蹴ったのは、本人が黄色人種を嫌っていたのが最大の理由だった模様。この作品の皇帝(カイザー)の元ネタは『黄禍』とかいう意味ワカンネー絵画を描いちゃう例のあの人が元ネタだからね、仕方ないね。

以下、名前・地名等の元ネタ
【史実→本作】
【国名】
 スオミ(フィンランド)→スオマ
 オランダ王国→ネーデル王国
 ベルギー王国→フランデレン王国
 ルクセンブルク大公国→レツェブエシ大公国
【地名】
 ウーメオー→メオーウ
 ネスナ→ネースナ
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