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モスコーの空、私と列機は死地に集う者達を見た。敵五機編隊は未だ遠く、小さな点にしか見えないほどだが、その一糸乱れぬ鏃型の編隊は私達への礼なのだろう。
群れ為す翼は陽光に反射され、その美しい輝きに思わず私は目を細める。
鏃の先端。傷一つない純白の機体は
帝国機を研究し、莫大な労力を払い完成させ、しかし余りにも遅すぎた登場となったその機体は、我々にとって未知に等しい相手だったが、それを恐れた者は私たちの中に一人として存在しない。
強敵との出会い、戦の誉れ。大空の歴史に己の名が刻まれる事を望んで止まない空の騎士達にとって、強敵との出会いは本懐そのものであった。
「『良い選択です。計画経済式のボロに乗って来られては、張り合いがありません』」
「『過剰な自信は危険だぞ、イェーリング』」
「『それぐらいが丁度良いかと。ヨセフグラードの白薔薇は二番機ですね、動きで分かります。私の相手は分かりましたので、他はご自由に』」
「『ハルトマン大尉は実に目敏い。私は右端を頂くとしよう。では、閣下。ご武運を』」
「諸君らもな。主と聖母のご加護を!」
敵の散開に合わせ、こちらもまた散って行く。純白の機体が、有効射程ギリギリから曳光弾を飛ばしてきたが、それ以上に私の目を引いたのは、敵機より更に後方に放たれた高射砲の砲撃だ。
航空機には低いが、魔導師には最適の高度。シェスドゥープ親衛中佐ら同様、見事な編隊で飛行する赤軍親衛魔導師達は私達に目もくれずにモスコーの襲撃を始め、帝国軍は赤軍魔導師らを通すまいとそれを阻む。
“尋常の立合いだった筈なのだがな”
だが、私に他の戦場を気にするだけの猶予はない。それを許してくれるほど、シェスドゥープ親衛中佐は甘くも、侮って良い相手でもないからだ。
尾を喰らい合う蛇のように絡み合い、雲を引きながら、私はシェスドゥープ親衛中佐と高く、果てのない空を飛んだ。
◇ターニャの記録25
我が婚約者は、空と戦いに取り憑かれている。何処までも無邪気に、子供のように。
だが、私にとって空も戦いも、どちらも忌み嫌うものだった。
一体どうして、殺し合いを楽しめるのだろう? そこに、誇りだの美学だのを見出すことができるのだろう?
戦争は残酷だ。理不尽で不条理だ。私はそれを、婚約者と同じモスコーの空で味わった。
モスコーを占領下に置き、そのまま占領地防衛の任に就いた帝国高射砲部隊の苛烈な砲火を掻い潜りながら突貫する、死兵となった魔導師達を見る事で。
ある者は高射砲でバラバラに吹き飛び、ある者は私同様に出撃した戦闘団魔導師の手で仕留められながらも、敵魔導師は遮二無二突き進んでくる。その最先鋒の少女は、私を見るや否や、殺意のこもる銃口を向けてきた。
「殺してやる! お父様の仇!」
赤軍魔導師ではない。明らかに北方の、レガドニア人の容姿だと私には分かった。そして、そう叫んだ少女──とはいえ、私より年上だが──はPMCの制服を纏い、イニシャルの刻印された短機関銃を手に、二つの演算宝珠を首にぶら下げていた。
協商連合製の、今や旧型の演算宝珠。その中に収められているのはきっと戦闘記録か何かで、その手に握られた短機関銃を、魔導刃で鍔迫り合い、凝視する段になって、ようやく得心した。
“ああ、あの時のか”
私が殺した協商連合の大佐。これぐらいの娘は当然いるだろうと思える年嵩で、きっと海に落ちたのを拾われたが、助からなかったのだろう。
「私が、殺した男の子供」
「そうよ……肺に血が入って溺れて、苦しみながら逝ったわ。私の声も届かなかった。手を握っても、分かってくれなかった」
だから、仇を討ちに来たのだ。合州国に亡命し、軍人となり、PMCの魔導師となって、私の前に現れるのを望んでいた。
少女の復讐は正当な権利だった。かつての、自分以外に大事なもののなかった頃の私なら、戦争に私心の殺し合いを、それも軍人だった人間の死を、親といえど復讐に持ち込むなど頭がどうかしていると吐き捨てたことだろう。
殺し殺されの世界。戦争など外交の一環に過ぎぬと切り捨てられる、歴史の一幕。だが、どのような形であろうと、そこで大切な者が、愛していた者が失われたならば決して許せはしない。理屈など人の持つ感情の前には無力であり、その感情が燃料となって、時として世界さえ動かす。
ニコが死んだと錯覚し、狂乱し、共産主義を根絶すべく、小モルトーケ参謀総長の背を押した私のように。愛する兄の、家族の為に核兵器を産み落とした、エルマー兄様のように。
「やっと、ここまで来た……帝国の犬! お前の目の前まで!」
私を仇だという少女は、強い。少女に同伴した親衛魔導師は、我が戦闘団の魔導師らに倒されていた。破れかぶれの、上空で戦うシェスドゥープ親衛中佐らのように、死ぬ為にモスコーにやってきたのだと分かる連中だった。
だが、この少女は違う。死ぬ為でなく、殺す為だけに来た。その魔力量は桁違いで、ヴィーシャやヴァイス少佐でも止められない。
苦もなく多重発現される
抗魔導術式弾の掃射さえ弾く防御膜に加え、超長距離光学狙撃術式にさえ等しい貫通術式弾を駆使する少女は、正しく怪物の名に相応しい力量だった。
「中佐、殿。今そちらに……!」
「来るなヴィーシャ! 他もだ! 私以外は殺されるぞ!」
自己保身に塗れきっていた私が、戦友の安否のみを考えて叫ぶ。ああ、人とは変わるものだ。そして、何となくだが婚約者の気持ちが分かった。
自分でなければ止められない。自分でなければ倒せない。
シェスドゥープ親衛中佐とやらは、今の私がこの少女に対して思うような、本能的な危機を否応なく感じてしまえる相手だったのだろう。
囲んで袋にしてしまえるような、そんな生易しい次元でない。物語の住人のような、理不尽極まりない恐るべき敵。
その強さを骨身に染みて感じ、その憎悪が正当なものだと承知していながら、けれど、私とて死んではやれない。
「仕方なかった! 殺しに来ていたのだぞ! 戦争だ! 殺すしかないだろう!?」
だから武器をおけ。話し合おう。嗚呼、全くなんと馬鹿で愚かな発言だろうか? 昔の私なら、口より先に引き金を動かせと叱咤したに違いない。相手だって、私の言葉など耳にも入れたくない筈だ。
「なら、戦争なのだから、死ね!」
ああ、少女は正しい。軍人として正しい発言で、個人としては正しい憎悪だ。けれど。
「それは、出来ない」
だって、私は幸せになりたいんだ。他人を殺しても、不幸のどん底に陥れたのだとしても、私だって人間だ。人間として、生きていたいんだよ。
「だから、すまない」
私は少女を殺す。異国の地で。復讐心を縁にここまで来た、まだあどけなさの残る、十代の少女を。
銃剣が深々と胸を裂いて、肋を砕いて、肺を潰して、心臓を貫いた。
「あ、っ、ごぷ」
血を吐きながら、少女は術式を起動する。自爆だろう。この手の相手は、過去に幾度となく出くわした。
「本当に、済まなかった」
こつんと、私は抱きついてきた少女のこめかみに銃口を添える。
引き金は軽い。事切れた少女は、糸の切れた人形のように大地に身を投げ出した。
私は大地に降りる。感傷だが、少女の名前を知りたかった。だが、少女は何も持っていなかった。PMCの人間だからだろうか? それとも、私を殺した後は自決するつもりだったからなのだろうか?
協商連合の演算宝珠も、中身のない空っぽ。合州国製のそれも、自爆の間際であったからか融解していた。
少女の名前を、私は今も知らない。協商連合軍の大佐たる父親筋から当たってもみたが、当時の協商連合は末期戦の様相を呈しており、情報保全から各種書類を焼却していたという事であったし、何より、私が殺した少女の父親が居たのは、亡命政権樹立の為の秘密作戦であったから、元より記録など残りようがなかったそうだ。
父親の着けていた大佐の肩章さえ、本物かどうかは疑わしいと後年になって帝国情報部から告げられた。
夫の著作でこのような内容を書いたのは、この手にかけた親子を知りたいが為で、夫もそれを了承してくれた。
許されないとしても、恨まれ続けるのだとしても、私はこの少女の名前を知りたい。遺体は祖国の土で眠るのが、協商連合の習わしと知って送ろうとしたが、共産主義者に与した人間であると拒絶された為、私が個人的に埋葬するしかなかった。
私は静かに十字を切り、鎮魂の言葉を唱えてから、力なくその場に座り込む。見上げれば、まだ空では戦いが続いていた。
「本当に、嫌いだ」
私はずっと、ずっとそれを叫び続ける。戦後、元軍人として不朽の栄光や戦果を語るのでなく、戦争がもたらす負の面を訴えると、この時に誓った。
「戦争なんて……、大嫌いだ!」
この、モスコーで叫んだように。
◇ニコラウスの回想記
虫の知らせというものは、本当にあるらしい。私は空で、婚約者の声が聞こえた気がしたのだ。誇張や脚色の類ではない。私は確かに、ターニャの声が聞こえた気がしたと、日記に書いていたのだから。
だが、私はモスコーにターニャが居たことなど知らなかった。サラマンダー戦闘団は、核攻撃時には後方に下がっており、そのまま本国に帰還したのだろうと考えていたからだが、現実には親衛中佐らと同じく、モスコーを墓場にしたがる連邦軍の攻勢に備え、防衛の任に就いていたと知ったのは後のことだ。
不思議なものだった。地上にいる時は、空が恋しくなるというのに、空に上がれば、愛する者が恋しくなるのだから。
しかし、そんな感傷に浸れるほど、私の相手は悠長な構えを許してはくれなかった。
正確な射撃、太陽を背にしたがる最適解な機動。そうした基本的な部分以上に、シェスドゥープ親衛中佐には戦闘機乗りとして天賦の才があるのだろう。
示し合わせたような曲技飛行。互いが背後を取るために急旋回を繰り返し、鋏の開閉運動のようになる。私も親衛中佐も、どちらも本気だった。本気であるが故に、傍目にはきっとおかしな飛行に映っただろう。
地上から私達を見ていた戦友らは、デモンストレーションか、本当に空中サーカスをしているのではないかと思えていたそうだから。
ただ、やっている私達は真剣そのものだ。汗が冷え切り、操縦桿を持つ手が震える。背後を取られるというプレッシャーが、私に久しく感じさせなかった、死という根源的な恐怖を抱かせる。
太古から、人という種が羨望してきた果てのない世界。何処までも澄み渡り、遮るもののないはずの世界が、この時の私には狭くて仕方がなかった。
動きが読まれる。制限される。地を翔ける獣が、猛禽の爪に掴まれるのを恐れるような、その影が自分の空を呑み込むのではないかと錯覚するような恐怖。
それを振り払うように、私は一層固く操縦桿を握りこむ。
もつれ合うその一瞬。私はこれ以上ないタイミングで乗機を旋回させて捻り込んだ。
取ったか? 否、そう感じた瞬間に、シェスドゥープ親衛中佐は
“まさか……”
そのまさかだ。我が偉大なる恩師にして巨匠の芸術。
最早敵味方を問わず、数多のパイロットがその御技を習得していたが、私が目にした多くが、芸術の域に達せぬ贋作止まりであった
それを見様見真似でなく、真に
これは、この技は唯の
だが、これは、この
“本物だ。正真正銘、マルクル中佐殿と寸分違わぬ、撃墜王をも殺せるほどの!”
かつて、マルクル中佐殿からこの芸術という洗礼を受けたとき、私は撃墜という敗北を受け入れた。そして、今まさに私は実戦で、あの時受けなかった弾丸を受けようとしている。
“だが、私もあの頃の私ではないぞ!”
未だシェスドゥープ親衛中佐は、
上から下に向かう相手に対し、私は上に機体を捻った。急激な変化。過剰な負荷がかかり、機体に嫌な音が響くが知ったことではなかった。
シェスドゥープ親衛中佐の機首が下がりきれば、私は確実に絶命する。この
シェスドゥープ親衛中佐の火ぶすまは私を貫かず、私と親衛中佐は上下で向かい合い、対向しながら互いの顔を確かに見た。私も彼も、互いが驚愕で引き攣っていたに違いない。
至近距離での交叉。ゾッとするような鈍い音。激突するのではないかという位置にあって、私達は上と下に別れ、自然と距離が離れる形になってしまう。
戦闘機同士の超高速での交叉は、触発せずとも過流を生み、互いの機体を荒波に揉まれる小舟のように揺り動かしていた。
正直、どちらもこの一瞬に死を覚悟しただろう。弾が飛んできていた分、私の方が恐怖は上だったかもしれない。だが、私はまだ生きている、シェスドゥープ親衛中佐も、また同じくだ。
「は、はは!」
私は笑いを堪えきれなかった。シェスドゥープ親衛中佐は、強い。
“ダールゲ少将より、マルクル中佐殿より、そして……、この私よりも!”
これまで、対等と思える相手は居た。航空隊時代ではアントン中尉が。教官時代にはリービヒ大尉が。そして、今日という日まではダールゲ少将が。
だが、真に見上げ、挑むなどマルクル中佐殿以来だった。血湧き肉躍り、魂が燃焼する瞬間! 私は過去、魔導師から空の王冠を簒奪したと語られたが、その王冠は何時まで私の手にある!?
今! 目の前に! 新たな簒奪者が現れた! 生涯において最高の、我が人生で望み焦がれていた好敵手に私の心は震え続けていた!
妻は戦後、戦争とは悲惨だと、残酷で見るのも嫌だと言い続けていた。私もそれを認めよう。戦争とは、理不尽に命を奪われる場所だ。誇りや尊厳、愛国心などで包み込まねば、到底呑み下せない劇物だ。
だが、それでも私はどうしようもない馬鹿なのだ。命を落とすやもしれない瞬間にあってさえ、強敵を望まずにいられない! 自らが墜とされるとしても、一片の恨みさえ抱かず死ねてしまう!
ダールゲ少将のように、マルクル中佐のように、そして、シェスドゥープ親衛中佐と相対した、全てのパイロット達のように! 本懐だと納得して、笑って死んでしまえるだろう!
“私こそ感謝するぞ、シェスドゥープ親衛中佐!”
桧舞台を与えられたのは、私だった。敗者として惨めに終わり、無力に苛まれて終戦を迎えるばかりだった私に、再び貴方は活力を与えてくれた!
大空での、誇りある戦いを用意してくれた!
“嗚呼、だが……”
飛行手袋の下。指輪の感触が、死を上回ってしまうような興奮を冷たく冷やす。
『この心は、常にお側に』
銀の翼の彫刻と共に、刻まれた想いが、私の心を空から大地に縛ってしまう。
私は、シェスドゥープ親衛中佐と違って死ねはしない。死ぬことだけは、断じて出来ない。私には生きる意味がある。目的が、未来がある。愛しい女性を、ターニャ・リッター・フォン・デグレチャフを妻としたい!
「だから」
機銃を擬せる。興奮に血液が沸騰しそうな中にあって、照準を捉える私の瞳は、何処までも冷淡で冷血だった。
一八〇度のターン。マルクル中佐の芸術とは微妙に違う、対魔導師用の射線変換。航空機対航空機が主流となった現代では、余りお目にかかれない技法だろう。
距離を取るべく離れた筈の私は、敵の尾翼を捉えていた。
「
だが、やはり物語のようには行かない。創作物のような台詞を漏らしておきながら、必中を予見した私の弾丸は、シェスドゥープ親衛中佐の軽やかな横滑りで躱されたばかりか、親衛中佐はそのまま減速して、私を前に押し出し、背後を取ろうとしてきたのだ。
“やる!”
弾を外すなどクローデル大尉を相手にした時以来で、あの時だってクローデル大尉は致命傷を避けただけで被弾はした。私が撃墜王の座に至った特技。射撃に対しての自負は、長く伸びきっていた鼻と共に、目の前の天才に無残にへし折られてしまった。
「くくっ」
吊り上がる口元を抑えきれない。外したという不覚以上に、死力を尽くす事の、自分の全てを搾り出しても、尚届かないという相手が居ることの、なんと爽快であることか!
聖句ではないが、私は今、幼子のように見、幼子のように感じている! この敵が、殺し合う相手が、たまらなく愛しくて仕方ない!
私は勢いよく敵機に突っ込んだ。もっと戦おう! もっともっと、私は至らない人間なのだと感じさせてくれ!
試してみたい技があるんだ! 上手い操作のコツを掴みたいんだ!
“ダールゲ少将、マルクル中佐殿。ファメルーン時代の頃に、新米少尉だった時に戻ったようだといえば、貴方達は笑うだろうか?”
「悔しいな。親衛中佐……敵になって欲しくなかった」
私は心から、味方なら友情を育めた筈だと、そう思う。そして、同時に。
「心から、敵になれて良かったとも思えてしまう」
生涯、最高の好敵手に出会えたことに感謝もしていた。もし、許されるのならば、私はこの親衛中佐に生きて欲しいと願った。それをするには難しい相手だが、私ならやれるかもしれない。エンジンに弾丸を叩き込み、脱出させることもと、そう考えて、頭を振った。
それは侮辱だ。実情はどうあろうとも、シェスドゥープ親衛中佐は人民の国に生き、人民の国で死にたいと願った。このモスコーの、既に帝国軍がひしめいていても、降伏するまでは自分たちの首都たる地の空で。
「今度こそ、本当にさようならだ」
私の宗教に、生まれ変わりはない。シェスドゥープ親衛中佐は、そもそも宗教を信じていない。私達は、これが最初で最後の出会いと戦いになる。
二度と味わえない興奮、歓喜、死の恐怖。そうしたものが、発射ボタンを押す一瞬で脳を駆け巡る。だが、私の指は躊躇しない。
何かを考えるより先に、私は名誉の死をシェスドゥープ親衛中佐に与えていた。
◇
「各機、ダメージレポート」
「『二番機、イェーリング。被弾二、飛行に問題なし』」
「『三番機、レルツァー。被弾一、飛行に問題なし』」
「『四番機、ハルトマン。被弾無、飛行に問題なし』」
「『五番機、マリエール。被弾無、飛行に問題なし』」
皆、無事だった。誰一人として欠ける事なく、我々は空の王冠を守り抜き、帝国空軍こそを、世界に冠たる
「地上に知らせてやれ、編隊を整えるぞ」
◇
五機の編隊が、空を翔る。親衛連隊が我々に見せたそれにも引けを取らぬ動きで、私達はモスコーの空を旋回した。
カーブを描くとき、外側を飛んだマリエール大尉の機が飛行機雲を引き、地上では割れんばかりの歓声が響いたという。
本来なら救難等に用いるオープンチャンネルを開いて、私は歌を、帝国国歌を口ずさむ。どの世界の歌よりも力強いと信じて疑わない、我らの祖国の歌に合わせて、皆高らかに歌ったが、私は皆が熱唱したその瞬間に合わせて、小さく連邦のインターナショナルを隠れるように口ずさんだ。
空で死んだ好敵手らに、聖句は意味を成さない。ならば、その代わりに彼らの奉じた思想の歌を、ほんの僅かに口ずさみ、静かに敬礼した。
私達は勝利した。けれど、この空で死んだ彼らは、惨めな敗者では決してない。
彼らは本懐を遂げた。不朽の名と輝ける戦いを歴史のページに綴り、平等を気高く叫び息絶えた彼らは、戦場に輝く星として、
私は祈る。願わくば、彼らの理想の通り──少しでも格差のない社会が、不当な差別のない、子供達が実り豊かな日々を過ごす時代が来ますように。
彼らの理想が、正しい形で報われる世界でありますように、と。