仮面ライダー01<ゼロワン> × 新サクラ大戦 ー新たなるはじまりー   作:ジュンチェ

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わーい、9000字ですって奥さん(吐血)

クラリス編、ついに完結。くそ長くてごめんね!

そして、アンケートも今回で締め切ります。沢山の参加して下さった方々ありがとうございました。


アニメのほうの感想は次回更新の時に。それでは、本編をどぞ。




夢見た幸せ/Nobody's Perfect.

 

 

…… 『 怪 物 』 は 幸 せ に は な れ な い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は再び支配人室へ。アナザーダブルのおかげで散乱した書類などの片付けに追われるカオルを傍目にすみれ支配人は神山とデスクごしに向き合っていた…無論、今後のクラリスの処遇についての話し合いである。助けられる手段があるとはいえ、重魔導を上乗せしたアナザーダブルの力は最早、霊子戦闘機と遜色ないほどの戦闘能力であり人命優先とばかりと言うのは厳しい状況になってきている…。

 

 

「神山くん、改めて問います。クラリスさんのこと…いくら1号ライダーが介入したとはいえ、このまま看過は出来ません。必要に迫られれば…わかっていますわね?」

 

「はい……覚悟は出来ています。」

 

 

隊長として為すべきことを為す…彼の決意に揺らぎは無い答。 すみれ支配人も表情からその固さを感じとり、敢えてこれ以上は言うつもりは無い。

 

 

「あたしの協力はいる?」

 

「いえ、これは帝国華撃団の問題…ロンドン華撃団の手を借りるつもりはありません。」

 

「私は同行させてもらうよ。私は厳密には華撃団の人間ではないし、アナザーライダーならこちらの専門だしね。それに、本郷タケシのいる場所なら検討はついている。」

 

 

ウォズのみが同行する形で、話は進む。予想されるアナザーダブルとの戦闘は彼の力が必要不可欠だろう…これのみは了承して神山はウォズと共に支配人室を後にする。

残されたランスロットは申し訳なさそうにすみれ支配人へとまた別の話を切り出す。

 

 

「すみれ支配人、こんな間が悪い時に申し訳ない。」

 

「いいえ。あなたがここに来なければならなくなったのはあたくしの馬鹿な倅のせいですから…」

 

「…こっちにも監督不届きの責任がある。母親であるあなたに星児を責めないでもらいたい。」

 

 

ランスロットは知っている…… 今の星児はああ見えて本当は精神がかなりボロボロなはずだ。『ロンドンで起きた事件』に帝国華撃団の隊長就任のゴタゴタに加えて母親にまで突き放されたらあまりにも惨め過ぎる。このままいけば、彼の居場所は何処にも無くなってしまうだろう。それだけは、どうしても避けたかった……居場所になれなかった身として。

 

 

「この一件が片付いたら、一旦はこちらで連れて帰ります。少なくとも、このことがガヴェイン卿にバレたら半殺しじゃ済みませんから……」

 

「…そうね。 わたくしからも星児を説得してみますわ。手遅れでなければいいのだけれど……」

 

 

 

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、あたたかいものをどうぞ。」

 

 

「…」

 

目覚めたクラリスの眼は虚ろだった…。タケシの差し出すココアにも反応せず、人形のようにソファーへ座ったままで特に万能もない。

参ったな、と頭をかくタケシ。恐らく、こちらが本来の人格なのは間違いないのだが…こんな調子ではドッペルの復活まで何も事態が進展しない。見かねた或人が口を開く。

 

 

「ねえ、クラリスちゃん…帝劇に帰らない?」

 

「…」

 

 

帝劇へ帰還を促すが、彼女は俯いたまま…。それでも、語りかけ続ける。

 

 

「皆、待ってるよ。クラリスちゃんに… クラリスちゃんの描き上げる脚本を… だから…!」

 

「………………放っておいてください。」

 

 

しかし、冷たく突き放す彼女。視線は或人に向けられていないが、瞳は諦めや虚無感といった光を灯さない絶望で満たされていた。

 

 

「貴方にわかるもんですか… 正義のヒーローである貴方に、本物の怪物になってしまった私の気持ちが…。」

 

 

最も忌むべきところまで堕ちた自分… それを侮蔑し卑下し、絶望していた。自分は物語のお姫様ではなく『怪物』、ヒーローに倒される側。正義の名の下で断罪され、切り刻まれ、大衆に蹴とばされ、後ろ指を刺されて終わるのだから。

しかし、或人は少しうーんと考えた後… ゼロワンドライバーを取り出す。

 

 

「俺はある戦った敵に言われた…『仮面ライダーは悪の力、歪んでいるのはお前たちのほうだ。』って。仮面ライダーの力は全てが悪とされる存在にルーツがある…それは消えない炎の十字架。これはゼロワンだって例外じゃない。」

 

 

正義の仮面が背負う悪の業…昭和、平成、令和、脈々と受け継がれてきたのは決して明るい英雄の側面だけではない。仮面ライダーの在り方は悪と血を通わせるコインの表と裏、互いに争いあうが決して鏡会わせの虚像ではないのだ。1号とショッカーの改造人間、クウガとグロンギ、そして…ゼロワンと滅亡迅雷、光の歴史は等しく闇の歴史でもある。

 

『でもね…』と或人は続ける。

 

 

「俺の先輩ライダーが言ったんだ…『それを決めるのは自分自身だ』。だからこそ、俺達は正義の味方(仮面ライダー)なんだって。力のルーツなんて関係ない、自分がどうありたいか…それが一番重要なんだと俺は思う。クラリスちゃんはどうしたい? 自分の持つ力を。」

 

「…」

 

 

或人なりの、仮面ライダーとしての精一杯の語りかけに彼女は顔を曇らせる…… それは、無視ではなく言葉を確かに聞いているということでもある。

重魔導の力…こんなものは消えてなくなれば良い、普通の女の子になりたいとしか思ってこなかった。誰も傷つけたくなかったし、この力こそが一族の忌まわしい所業の証明でもあるのだから。思わず、スカートを握る手に力が籠る…

 

 

「貴方は何もわかっていない! 私は仮面ライダーではなく、本物の怪物になってしまったんです! もう何もかもおしまいなんですよ…!」

 

「……クラリスちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、怪物じゃなきゃいいわけだね?」

 

 

 

 

「タケシさん…?」

 

 

 

すると、タケシが赤黒い炎を纏う手をクラリスに差し出す……ドロドロとして血生臭くて、熱くおぞましく滾り燃えるソレは『業』が形を獲て無作為に誰かを呪おうとしているように揺らめく。

クラリスはそれに目が奪われ、或人は全身にゾワッと鳥肌がたつのを感じる……恐らく、これはタケシ自身…否、仮面ライダーの歴史に由来するおぞましい形容しがたき『闇』だ。そう本能が教える。

 

 

「俺は君を『仮面ライダー』に出来る……だが、それを選べば君は帝国華撃団のクラリッサ・スノーフレイクには戻れない。さあ、選びなよ…堕ちて怪人として死ぬか、孤独な正義の味方の道を選ぶか?

 

 

 

…………それとも、彼の手をとるかい?」

 

 

 

「え…」

 

 

ちょうどその時、光写真館のドアが開いて来客ベルが鳴る………そして、中に入ってきた人物にクラリスは眼を見開いた。困ったようなちょっと抜けた笑顔、今は一番に会いたくなかった彼が自ら足を運んできたのだから。

 

 

「クラリス…」

 

「神山…隊長………」

 

 

安堵の声をあげる神山…しかし、クラリスは立ち上がって後ずさる。魔導書を突き出し、震える手で拒絶を示す。傍らにいた或人が思わず手を伸ばそうとしたが、タケシが制止…彼等に任せるようにと促すと半歩下がって向き合う者たちの空間から外れる。

残された花組の隊長と隊員… 向き合おうとする者と拒絶しようとする者。まず、切り出したのはクラリスからだった。

 

 

「何をしにきたんですか?どうして来たんですか? やっぱり、私を殺しにきたんですか…?」

 

「違う、君を迎えにきた。帰ろうクラリス…」

 

「私に帰る場所なんて無い! ルクセンブルクの実家も、帝国華撃団も私の居場所じゃなかった。『怪物』は惨めなエンディングしかないんです、いつだって!! だから、放って置いて… 来ないで…!」

 

 

最早、悲鳴に近い声だった。魔力も高ぶりはじめ、彼女にアナザーダブルの影が重なりはじめる…されど、神山は止まらない。その微笑みは崩れず、腕は拡げられる。

 

 

「それは出来ない相談だ。すみれさんだって言ってたろ? 華撃団は家族…だったら、隊長である俺が家族を見捨てるわけがないだろ?」

 

「……隊長」

 

 

 

 

 

 

【詭弁よ。】

 

 

 

 

「!?」

 

 

クラリスの頭のなかで声が響く…そして、彼と重なるように視界に映るもうひとりの自分。冷めきった何もかもを諦めた瞳にかつてのルクセンブルクの実家で閉じ込もっていた頃の過去を見る……何も期待しない、だから何も起こらなくて良いと願うばかりのあの日々。更に背後には自分に罵詈雑言をぶつけた父と母… 包帯だらけになって呻く兄… 自分に奇異の視線を向けた人々… それらが並んでこちらへ向かってくる。

 

 

【彼が欲しいのは私たちの『重魔導』! 個人なんてどうだっていいの。道具として利用したいだけ…、私たち自身に興味なんてないわ。 さあ、眼を閉じて…王子様なんて迎えにきやしない。なら、せめて楽しい夢の中に微睡んでいましょう… ずっと………ね?】

 

(…そうだ。どうせ、傷つけてしまうなら…いっそ、全てから眼を背けてしまえば…)

 

 

邪悪な甘言が意思を折ろうとする……… 折れれば最後、立ち上がれないと知りながら屈しはじめる心。同時に魔導書はいつの間にか魔力を溜めはじめた…迫り来る敵を祓うために。もう良い、もう散々だ。傷つけるのも傷つけられるのも…もう終わりにしよう。全部、投げ出してしまえば良い。

 

瞼を下げ、意識から手を離し………

 

 

「クラリス…!」

 

 

その直前、グイッと引き寄せられる。暖かい…この温もりは………そうか、彼が抱き締めたのか。

 

 

「は、離して………私は…」

 

「君は怪物なんかじゃない。本が大好きな女の子で、帝国華撃団のメンバーで、俺達の家族だ。だから、この手を離しはしない…君が本当にどうしたいかを聞くまでは…」

 

 

…どうしたい? そんなこと決められはしない…いつだって、自分のことは誰かが勝手に決めてきたんだ。何を今更………

 

 

「アナザーライダーがどうとか、関係ない。君の気持ちを聞かせてくれ…クラリス!」

 

「………隊長。」

 

 

なのに、どうして胸が痛くて熱いのか… どうして、彼や帝国華撃団の日々を思い出すのか…

 

 

ーー私もいつか、幸せな物語が書けたら良いな。

 

ーーそうか、クラリスくんは脚本家志望なんだね?

 

ーー!?

 

 

 

神山との初めて出会ったのは帝劇の書庫。ありえない男性の登場に狼狽して暫く、さくらから彼が新しい隊長だと紹介されたあの時…。正直、何と運が無い人間だと思った…わざわざ落ちこぼれの華撃団に海軍の元エリート道を行っていた人間が来るなど。左遷にせよ、何にせよ、吹き溜まりに来てしまった以上は自分たちと同じだと…

 

でも、違った。

 

 

彼はひたすら頑張り続けた。誰もこない演劇のモギリも、傷んだ舞台の修繕も、時には光武の整備まで手伝った…。全ては帝国華撃団の皆のためにとその手を働かせ続けながら笑う。

そんな合間に他愛ない会話をしたり、時には相談に乗ったり乗ってもらったり…… 気がつけば自分も笑っていた。

 

帝国華撃団に来てからもまだ一年も経たない……でも、当たり前の日々は今まで人生の中でキラキラしていて何よりも美しい。

 

 

 

ーークラリス、大丈夫だよ。俺もついてるから一緒に頑張ってみよう

 

 

そうだ、脚本を書くことへ背中を押してくれたのも彼… そして、いつも近くで見守ってくれていた仲間たち。こんな自分でも手を差し伸べてくれる人がいる…なら、その人たちが居る場所が……

 

 

「隊長……… 私は… 」

 

【駄目よ! 駄目! 信じたところで待つのは裏切りと痛みだけ!!】

 

 

必死に黒い影が叫ぶ。しかし、その輪郭はゆらゆらと輪郭を崩していき、断末魔のような金切り声で訴え続けるがもう負の感情は胸の隅へと圧しやられ、小さくなっていくのと呼応するように消えいく独りぼっちの象徴。幻はやがて霞になっていく……もうクラリッサ・スノーフレイクはもう鳥籠の姫でも、怪物でも、ましてや、独りで二人の仮面ライダーでもない。

 

 

「私は……帰りたいです。帝国華撃団に…」

 

 

帝国華撃団の一員、クラリス…それが自分の物語。その答が選ばれると黒い自分もうつむき涙を流しながら消えていった。同時にアナザーウォッチが彼女の掌から零れ落ち、床にカツンと当たると緑色のプログライズキーへと形を変える。どちらも歪んだ鏡像の役割は終わったのだろう…

 

 

「帰ろうクラリス…」

 

「ええ、神山隊長。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、我々の出番は無かったようだね。まさか、アナザーウォッチを彼女の心を救うことで繋がりを断ち切るとは…」

 

「…」

 

 

その一部始終をこっそり、扉の影から伺っていたのはウォズと星児… 万一の事態に備えて待機していたがどうやら無駄で済んだと一安心。ウォズはやれやれと微笑んでいたが、星児は複雑な顔をしながら手にかけていた刀を離し去っていく。彼は彼なりに思うところがあるのだろうと、あえて追わない預言者だったが今回の話がまだエンドマークを打たれていないのは察しているからでもある。

 

 

「やれやれ、そう敵も易々と問屋が卸さないといったところか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★ ★★ ★★ ★★ ★★

 

 

 

 

 

 

 

 

「クぅぅぅぅラァリィスぅ、ちゃああああああああん!?!?」

 

 

 

「「!」」

 

 

 

突如、忌々しい絶叫と共に光写真館を魔幻空間が呑みこんでいく… 外は一気に黒く淀む邪気の空と紫色に泡立つ毒の沼へと変貌。神山とクラリスは身構える…ひしひしと伝わる邪悪で強大な妖力を持つのは今回の元凶である『奴』…

 

 

「楽しそうじゃないかァァ?? この朧様を差し置いてッ!」

 

 

上級降魔・朧、再び。ムシャクシャすると怒りを露にし、ギラつく歯が並ぶ口許を覗かせる……そんな様子を『もしかして、嫉妬?』とタケシが空気を読まないことを呟いたため或人が後ろで口を塞ぐ。

さて、やはりそのままハッピーエンドなんて許さないと立ち塞がる悪魔。だが、怒っているのは大事な仲間に手を出された神山も同じ…大事な仲間に手を出されたのだから。

 

 

「朧、貴様!」

 

「あーあ、隊長サン? お前に用はない。 俺はクラリスちゃんと話がしたいんだ。」

 

「私は話すことは何もありません!」

 

 

されど、神山に気を留めることない朧。『まあまあ、そう言うなって』とクラリスへ語りかける……

 

 

「俺はな幻影の他に『破壊魔術』を使う。根本的にはお前の重魔導と近しいものもある…そして、この力が人間に利用されるところを見てきた。醜くて、傲慢で、際限を知らず…愛想が尽きるような虫けらどもにずっと利用されてきた。本当に馬鹿らしくて馬鹿らしくてな…だから、俺は決めたんだ…この力を自分のために使うってな。」

 

 

笑っている……だが、口調が何処か諭すように聞こえるのは気のせいだろうか。彼の視線は口許とは対照的に真剣な光があるような…

 

 

「気持ちいいぞ、思うままに力を奮って何もかもをぶっ壊すのは。だから、来いよ… その下らない『一線』を超えてさ。俺とお前は、何も変わらない。」

 

 

 

恐らく、人を嘲笑うのが常ながらこれが奴なりの本心なのかもしれない……されど、

 

 

「ふざけんな! お前とクラリスが同じなわけがない!!」

 

「隊長…?」

 

 

否と。強く否定するのは神山。悪魔からの慈愛をはね除け、今一度と乙女の心を抱きよせる彼は身勝手な論に牙を剥く。

 

 

「お前の言うその下らない『一線』って奴はな、超えたか超えないかは雲泥の差なんだよ!! お前のようなクズとクラリスを一緒にするんじゃない。貴様ごときがクラリスを語るな!」

 

「隊長…」

 

 

「ッ! お前は引っ込んでろ!!」

 

 

神山は許容するはずもなかった…夢見る乙女が、悪夢を見せる悪魔と同質など。無論、これが朧を更に激昂させるのは当たり前で毒液をとばして神山を蒸発させんとするが、寸前でスチームホッパーへと変身したゼロワンが割って入るやオーソライズバスターで斬りはらう。これには朧も笑顔を消して激しくギリギリと歯軋りをする。

 

 

「ゼロワン…!」

 

「朧、俺は魔術のことはわからない。だがな、お前が下らないと踏み越えた『一線』の側にはな、大切な物があるんだ。クラリスちゃんはそれを見つけられたから踏み留まれたのさ。だから、彼女は『怪物』にはならなかった…お前にはわからないだろうけど。」

 

 

仮面の下で或人は朧に対し、哀れみの眼を向けていた…よくはわからないが、彼も元々はクラリスと同じ境遇だったのかもしれない。そして、今回のような『一線』を超えるか超えないかの時に、踏み留まれるものも手を掴んでくれる者も何も無かったんだろう…だから、人を嘲笑う怪物に成り果ててしまったんだ。故に、同じ資質を持つ彼女へ手を伸ばしたのか…

 

全ては予想に過ぎない……されど、手を振り払われた挙げ句に吠えられた悪魔の沸点は限界を迎える。

 

 

「黙れよ、お前ら! もう良い、テメェら仲良く修理し終わった荒吐で塵にしてやるよォ!!」

 

 

【 バ ル カ ン 】

 

 

叫びに呼応するように飛来する荒吐に朧もアナザーバルカンへと変身して唸り声をあげた。

ゼロワンはともかく、神山とクラリスは生身…戦いどころか魔幻空間にいることすら危険である。

 

 

……しかし、運命はあまりに都合よく気紛れだった。

 

 

 

「隊長ォォ!!クラリスぅぅぅぅ!!!!」

 

「初穂!?」

 

「初穂さん!? 一体どこから?」

 

 

 

「『忘れ物』だぁ、受けとれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

何処からともなく初穂の声が聞こえたかと思うと、空から無限が降ってきた…しかも、神山の隊長機だけではない赤、青、黄色に………クラリスのパーソナルカラーである緑の機体も。

 

 

「無限! 皆の分も調整が終わったのか!」

 

「おうよ! これで、やっと華撃団らしくなってきたぜ!!」

 

 

そう、ついに帝国華撃団の霊子戦闘機・無限が正式に皆へ(さくらの分を除いて)配備されたのである……。ひとりだけ霊子甲冑のままだが、これが本当に華撃団のスタート地点と見て良いのかもしれない。初穂は赤、あざみは黄色、アナスタシアは青の機体に乗りそれぞれのチューニングがされた愛機で荒吐へ猛攻を仕掛け、その間に光武と神山機の無限が抱きあげる形で緑の機体を主たちへ届ける。

 

 

「クラリス、もう大丈夫なんだね?」

 

「はい、ご心配をおかけしました。」

 

 

クラリスの無事を確認すると安堵するさくら…一方、神山機のコックピットからは星児が降りてくる。

 

 

「星児…」

 

「早く乗れよ。」

 

 

特に何もなく、彼は本来の操縦者へと白銀の機体を託すと戦いに巻き込まれないように撤退。開け放たれる2つのコックピットに神山とクラリスは頷きあい、乗り込むと動力を起動する。その際、クラリスはアナザーウォッチが変化したプログライズキーを思いだし、ゼロワンへ投げ渡す。

 

 

「社長さん、これを!」

 

「お!? これ…」

 

 

原型になったアナザーウォッチと同様に、仮面ライダーダブルの力を宿した『クライムカウンティングダブル・キー』。どんな理屈で変質したかは不明だが、これでさくらの時と同様に合体技を使えるかもしれない。

 

 

「隊長、社長さん…もう私は自分から逃げません。例え痛みを伴っても、前を向いて生きていきます。だから、力を貸して下さい!」

 

「ああ、勿論だとも!」

 

「なら、いくよ…神山さん! クラリスちゃん!」

 

 

【 クライムカウンティング ダブル!! 】

 

 

彼女の決意を聞き届け、オーソライズバスターにダブル・キーを装填したゼロワン。すると、目映い緑色の霊力の光が一帯を包み込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

地球の本棚…… 地球の叡知と記憶を図書館のように具現化した仮想空間。神山はそこで、あるデータの検索をかけ探し求めていた。

 

 

「キーワード、『クラリッサ・スノーフレイク』『乙女の秘密』……」

 

 

彼の呟きに反応して、本棚は複雑に動いていき、ある一冊の本を彼の前に示す……

 

 

「見つけたぞ、これがクラリスの秘密……」

 

「何をしているんですか、隊長?」

 

「ひっ!?」

 

 

その本を取ろうとした瞬間、後ろから話しかけてきたクラリス… 笑っているが、こめかみをヒクヒクとさせる様子から間違いなく怒っている。必死に弁明をしようとした神山だが、乙女の秘密を探る愚かな輩にかけられる慈悲などないと彼女は魔導書を拡げ、更にはゼロワンまでオーソライズバスターの銃口を向ける!

 

 

「Go to hell!! 地獄に落ちてください!」

 

「う、うおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

 

次の瞬間、重魔導上乗せのゼロワン・ダストが炸裂。緑色の巨大な砲撃は神山を呑み込み、そのまま射線上にいたアナザーバルカンをも巻き込み塵へと変えてしまう。

 

 

『待て待て、なんだそりゃあああああああ!?!?』

 

 

朧の混乱が入り交じった悲鳴が響き渡り、魔幻空間は解除され…元の夜の帝都が戻ってくる。合体攻撃をした3人も無事帰還し、初穂たちと合流…これにて、アナザーライダー騒動は終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

★★ ★★ ★★ ★★ ★★

 

 

 

 

 

 

翌日、帝劇の舞台の上に立つ帝国華撃団のメンバーたちにカオルがついに刷り上がった台本を配っていた。心待ちにしていた到着に歓喜が沸き立つ…これでやっと本格的な練習が初められるのだから。特に主役を任されたアナスタシアとヒロインを務めることになったさくらはより強く気合いを入れている。

そんな様子を舞台裏から見ていた神山と或人は頷き、邪魔をしてはいけないとその場をそっと離れる。

 

 

「いやぁ、クラリスちゃんの作品『ダナンの愛』か…楽しみだなぁ。」

 

「ああ、きっと帝劇復活に相応しい演劇になると思うよ。そう言えば、当の本人を見てないな…舞台にもいなかったし。」

 

「…あー、脚本仕上げるために徹夜したらしいから、部屋で休んでるんじゃない?」

 

 

徹夜……まさか、あの戦いの後でか。吹っ切った彼女はこの思いを作品にぶつけたいとは言っていたがあの流れで徹夜は流石にタフ過ぎるというか、確実に身体に無理が来るだろう。脚本を一晩で完全に仕上げたことは褒めなくてはならないが、健康管理の疎かさは隊長として見過ごせない。『ちょっと様子を見てくる』と或人と別れた神山はその足で彼女の部屋の前へ…

 

 

「クラリス……ん? 開いてる?」

 

 

ドアに施錠はされておらず、少しズレている… 部屋の主には悪いが入らせてもらおう。すると、ベッドに少女が可愛らしい子猫のように丸まってすぅすぅと寝息をたてていた… まあ、仕方ないだろう。隊長権限で今日一日は休みにしてあげようなんて考えたり……いや、そもそも隊長にそこまで権限無いような気もするがそこは置いておいて。穏やかに眠る彼女をそっとしておくことにした…どうせ起きたあとは嫌でも忙しくなるのだから。

 

微笑みながら寝顔を眺めて暫く。ふと、神山…クラリスの机の上に書きかけの原稿を見つける。今回の舞台でたる『ダナンの愛』の没原稿か?ちょっと興味を惹かれた彼はこっそり覗いてみる…

 

 

「……さて、クラリス先生。ちょっと失礼しますよぉ…」

 

 

 

 

 

ーーあ~あ、人生が五回くらいあったら良いなぁ!

 

 

 

ーー五回とも別の国に産まれて

 

 

 

ーー五回とも別の本に出会って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五回とも、同じ人を好きになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、これは……」

 

 

なんて乙女な。

 

 

「……すぅすぅ… これからも見守ってて下さいね、Mäi Gott(私の神サマ)…。 ……すぅ…」

 

「…?」

 

 

なんだ、寝言? 一瞬、目を覚ましたかと思ったがまだ彼女は寝息をたてている…… 陰り無い月のような美しい横顔はまるで女神のよう。前へ進む第一歩を踏み出した彼女へ目を冷まさないように小さく耳許へ言葉を贈る。

 

 

「ああ、ずっと見守ってるよ。クラリス。」

 

 

 

 

 

 





★次回予告

ランスロット「さて、いよいよ舞台公演が間近だし、あたしも興味ありありなんだけど…ちょっと花組の雰囲気があんまり良くないね。星児のことでもめてるみたい… あれ? 初穂の様子が……。次回『鬼の涙』、太正浪漫を駆け抜けろ、令和の風ッ!!……そして、紅き鉄拳騎士見参。」



次回は初穂と星児メインの予定。星児はこれからボコりますよ…物理的に。


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