仮面ライダー01<ゼロワン> × 新サクラ大戦 ー新たなるはじまりー   作:ジュンチェ

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 2話投稿で、完結する星児・初穂編。


 これの完結を契機に華擊団大戦編へと移ります。


鬼の涙 Ⅵ/果たされた約束

 …惨劇の渦は尚も大きくなり、怒りや悲しみを巻き込み慟哭の唸りが帝都に響く。

 

 

 一部始終を物陰から窺っていたアナスタシアは無表情で見つめ続けながら弾を一発ずつ押し込めていき、静かに銃口を戦いに呆気をとられているランスロットに向ける。こちらは死角、精神が揺らぐ彼女ならいくらロンドンの騎士といえど、確実に撃ち抜くことが出来るだろう。狩人の引く弓矢のように狙い研ぎ澄し美しく構え……はしたが、トリガーのかける指に力が入らず銃口が項垂れてしまう。悪に加担にしている自覚はあるが、流石に直接の殺人は躊躇ってしまう。

 

 …それを快く思わない者もいるのだが

 

 

『アイスドール、何をしているの? はやく、騎士を撃ち抜きなさい。』

 

 

 暗闇からぬるりと現れるアナザーゼロワン。今回の1件を引っ掻きまわすよう裏でアナスタシアに指示していたのは奴だった。彼女としても、諸々の事情もありその行動のひとつひとつに何の意味があるかは知らなかったし、興味もなかった…だから、『わかった』と一言で引き受けたのである。しかし、これだけの事態…彼女とて疑問をぶつけ得ずにはいられない。

 

 

「何故、神崎星児をあのように追い詰めるの? 殺したければ、こんな回りくどいこと…」

 

『あの子には死んでもらっては困るの。あの子にはこの世界の歴史を背負う仮面ライダーになってもらわなくちゃいけないわ。慟哭と悪意の連鎖の果てに、あの子は負のシンギュラリティに到達し降魔へと覚醒する。最後の贄は…あの騎士娘。』

 

 

「…どういうことなの?太正の一号とやらに関係が…!」

 

 

 

 すると、アナザーゼロワンはソッと彼女の頬をに両手をあてた…。優しく加減された力加減だが、肌に触れただけて全身を蟲が蠢きまわる悪寒か走り表情も凍りつく。そして、異形の仮面で聖女の説法のように語りだす。

 

 

 

『…鏡が写すのは歪んだ虚像。しかし、写しあえば本物にだって近くなることもいつかは出来るでしょう。そして、実物と虚像がぶつかりあい、私の悲願は叶う…。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 暴走は止まらない。

 

 

 アタッシュカリバーまで複製した001の苦しみもがくような暴れ方は容易に近づくことすら難しく、スチームホッパーとゼロワンとパンチングコングへ変身したバルカンでさえ抑えられない。与えるダメージは蓄積しているのだろうが、勢いは衰えるどころかむしろ酷くなる一方。ついには、ゼロワンの首を掴みとるや締め上げにかかる。

 

 

「が…あああぁ…!?」

 

「…星児!!」

 

 

 ギチギチと締まっていく音が握力の強さを物語り、圧迫され酸欠に陥りはじめるゼロワンは仮面の下で白眼を剥く。この時、ついに我を取り戻したランスロットが剣を抜く。これ以上の凶行は止めさせなくてはならない…そんな思いで戦場を駆けるが、無造作に手にかけていた獲物を彼女に放りその下敷きに。いくらブリテンの騎士でも仮面ライダーが身体の上に乗ればどうすることも出来ず愛剣も取り落としてしまう。そんな彼女へ無慈悲な悪鬼の仮面が見下ろしながら刃を片手に歩み寄っていき、ゼロワンごと踏みつけることで動かないよう固定をする…

 

 

「星児! あたしがわからないの!?ねえ!!」

 

「…」

 

 

 声は返ってこない。ただ敵の首を狩るためにアタッシュカリバーを振り上げ…一気に振り下ろす。ゼロワンも動こうとするも身体がついていかない…! 

 

 

「駄目…!」

 

「よせ!!」

 

 

 

『させないわ。』

 

 

 さくらたちも止めようとすることすら叶わず離れた屋根から観客していたアナザーゼロワンに時を止められてしまう。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶たれる音がした。ランスロットは眼を見開き、ポタポタと垂れていく赤い雫と目の前にたち自分たちを庇う男の背中を見た……屈強なんかではないのに、細身な肉体で怨念の刃自らの生身の肉を持って受けとめていた。

 

 

「ぐ…ぉ…!」

 

「神山隊長…!」

 

「神山!?」

 

 

 刀傷…しかも、アタッシュカリバーから受けた傷は焼けるだけの熱を持ち尚も抉っている…だが、真っ直ぐ立つ彼…神山の脚は揺るがず、瞳は狂気を制御できない仮面を真っ直ぐに見据えている。

 

 

「駄目だ星児。その人はお前が絶対に傷つけちゃいけない人だろ。…お前の痛みはよくわかる。自分の中が空っぽになって、辛くて…俺も同じだったから! でも…だからって、大事に想ってくれる誰かを傷つけちゃいけないんだ!そんなことをしても誰も幸せにならないんだよ。ランスロットさんも、すみれさんも、…君自身も。」

 

 

「うるさい!俺ハ…何も、何一つかなわかった。願ったものは何一つ手に入らなかった…!」

 

「なら行こう、一緒に!! 君の夢は俺達と同じ帝国華擊団の再建だろう! だから、隊長を目指したんじゃないのか!」

 

 

「黙れェェ!!!」

 

 

 痛みを堪えながらの神山の説得虚しく、アタッシュカリバーは振りぬかれ一撃が肩を切り裂く。血飛沫と霊力が飛び散り、同時にさくらの時間停止が解除されて彼女の悲鳴が木霊し…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、これが物語を分ける大きなターニングポイントになった。

 

 

 

 

 

 

「誠兄さん!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ……誠…兄さん…?

 

 

 

 首を跳ねようとした剣先が寸前で止まる。

 

 不意に積み重なってきた悪意に埋もれた精神の底から、手を伸ばして引き留めてくる何かが思い出せと脳裏に囁く。その呼び方…何処かで聞いたことがあるような気がする……ずっと‥ずっと、ずっと昔。誰かをそう呼んだ…そう呼ばれた誰かが自分の名を呼んだ。

 

 

 

 ――サヨナラじゃないぞ星児、『またな』だ!

 

 

 ――私達はまた… 『帝国華擊団』で!

 

 

 

「あ…‥ぁ…」

 

 

 とっくに死んだと意にも留めなかった古い記憶が温もりを取り戻す…。朧げになりながらも、傷だらけの心を暖めてもう一度問いかける…お前の夢はなんだ?

 

 お前の夢はひとつだけだったのか? 

 

 

 ……思い出せ …思い出せ …思い出せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 10年前…丁度、降魔大戦が丁度終結を迎えた頃。

 

 

 

 当時の花組やパリやニューヨークの華擊団連合と昭和ライダーたちはその消息を絶ち、残されたのは戦力外だったすみれとまだ幼い星児だけだった。帝都は灰に、華擊団勢力は一気に弱体化し、僅かな残火を灯す者たちが人々を護ることと英雄たちの帰還を信じてもがいていたあの頃だ。

 

 まだ幼く、武器を握ることを許されなかった星児は帝都近郊の田舎町のある刀鍛冶の家を疎開先として預けられた。帝都・華擊団の惨状の対処に加え、子供の相手など到底、すみれの手が回らなかったからで星児自身もそれは薄々ながら察している。だから、基本的には刀鍛冶の家主やその妻の言う事は聞いてるし娘とも仲良くしている…ただ

 

 

「…っ」

 

 

 その日常は生傷は絶えなかった。家主の男は傷だらけの彼等に溜息をつく…星児ともう傍らにいる『少年』と『少女』に。 

 

 

「ホシボーにセイボン…また喧嘩したのか。今回はさくらまで…お前たちときたら。」

 

「…でも!」

 

「でもじゃないぞ、セイボン。人を殴っちゃ駄目だろ。」

 

 

 家主は腕をくみ金剛力士像のようなおっかない形相で叱りつけて暫く。やがて、子供たちは開放されて、庭の桜の木に囲うように背中をあずける…少女は父からの説教にグズり、少年は納得いかないと口をへの字に曲げていた。かなりこっ酷くやられたにも関わらず、腹の虫は居所におさまる気のない様子である…

 

 

「おい、星児。謝る必要も反省する必要もないからな。あんなこと言ったアイツらが悪いんだ。さくらも泣くな。」

 

 

 そもそも、喧嘩至った理由は近所の悪ガキが星児をからかったからである。帝国華擊団に育てられた申し子、忘れ形見…聞こえは良い。しかし、彼を見る目は花組が活躍した帝都とこの縁も無い田舎では違う。

 女世帯で育てられた、産みの親は誰かわからない男子ひとり。しかも、場所が場所、帝都を彩るトップスタァたちが普通なら里子なんてとるはずもない…… だから、いつからか陰口が囁かれていた。

 

 

 

 ――あの男子は、帝劇のトップスタァの誰かが孕んだ子。世間にバレたらマズイから里子と偽っているのだ…と。

 

 

 

 誰かいつそんなことを口にしたのだろう。無論、そんなことはない…はずなのだが。悪魔の証明、肯定も否定しようにも根拠が無い…そして、退屈な片田舎で噂ばかりが膨らみ熱くなる。例え流す誰かがまだ幼い少年に届かないよう線引きする大人でも、自ずと周りの子供の耳に入る…浅はかな子供など言葉の重さなんてものを理解するはずもない。ましてや、近所の悪ガキ共ともなれば知能もお山の猿涙…無邪気で残酷な言葉など平然に理解せず吐きつける。

 『親無し』『隠し子』と嘲る言葉は星児を怒らせるには充分だったが、複数人いた悪ガキどもに敵うわけなく返り討ちに。逆に調子こくんじゃねえぞ!となぶられる彼を少年と少女は救ったのだ。

 

 …でも

 

 

「もう良いよ。僕を庇っても兄さんたちが怒られるだけだし…」

 

 

 諦めの表情を浮かべる星児。自分を育ててくれた人達を亡くした悲しみと心無い悪意を受け止めるにはまだ彼は幼すぎた。確かに帝劇の隊員らは我が子のように育ててはくれたものの、血の繋がった肉親がいないコンプレックスは存在していた…こればかりはどうしようもなかった。仕方ない…どうしようも…

 

 

「仕方ないとか言うな!」

 

 

 

 否、少年はその諦めを否定する。

 

 

「俺は悔しいぞ。大事な弟分を馬鹿されたことが…!それに、花組ってのは帝都の危機を何度も救ってきた凄い人達でお前の『家族』なんだろ?家族のこと馬鹿にされて怒るのなんて当たり前だろ!」

 

 

 曲がったことが嫌いだったのは知っていた…ああ、でもなんでこの人はこんなに眩しいんだろう。何で自分じゃない誰かのためにこんなに怒れるのだろう…。そんな強い背中をただ見つめるしか出来ない自分に嫌気が刺す。

 

 

「優しいな…兄さんは。それに、強い。いっそのこと、兄さんが僕の代わりだったら…」

 

「お前の代わりはいない。お前はお前だ。…というより、女世帯とか俺無理。さくらでさえ手に余るのに……おわ!? さくら、こっちに木刀振り回すなよ!?」

 

 

 大切な人を失いながらも、自己嫌悪に至ることも多い日々…だけど、少しずつ新しい日常も悪くないかななんて思いだしていた…  

 

 そんな時だった。家の前に田舎に不釣り合いな高級車が停まり…そして、ドアからまだ少女の面影を残すすみれが降りてきたのは。

 

 

「すみれ姉さん…?」

 

「星児、元気そうね。少し待っていて…家の人と話をしてくるから。」 

 

 

 前に会ったのは数カ月は前だったっけ…少し、痩せたかもしれない。彼女は微笑むと邸へと上がり刀鍛冶の夫婦へ話があると中へ…。3人が聞き耳をたてると、小難しい話こそはわからないが、どうやら星児の関係のものらしい。家主は終始気難しい顔をしていたが、妻のほうが笑顔で圧しきり渋々と頭を縦に振る…恐らく、流れからして彼女は星児を連れ帰る気なのだろう。

 数時間後、予想通りに星児の帝都帰還は現実になった。別れは突然に訪れ、ろくに心の準備もすることも出来なく少年少女は運命の時を迎えいれることになる。荷物はテキパキと纏められ身支度は1時間もかからず、あとは車に乗るだけになった星児を見送る少年少女。少女はまたグズりだしていたが、少年は胸を張って笑顔をつくった。

 

 

「行っちまうのか。来た時みたいに突然だなお前…。帝国華擊団、再建頑張れよ。さくらが来る前に潰れてちゃ目に手も当てられねぇしな!」

 

「う、うん…頑張る。」 

 

「きっと、追いつくから…ぐずっ… 真空寺さんに…よろしく……ぐずっ…言って、ください!ぐずっ…」

 

「会えたら、伝えるよ。」

 

 

 最後に『影ながら応援してるからな!』とニカッと笑顔を向けられる…すると、妙に寂しさと一緒に胸に熱い何かが込み上げてくる。気恥ずかしさが蓋をしようとするが、きっと言わなきゃ永遠に後悔するような感情が喉を突きあげ言ってしまえと叫ぶ。もう二度とこんなチャンスは無い自分に正直になれと…

 

 

「誠兄さん…!」

 

「お、おお? どうした?」

 

「そ、その…兄さんも姉さんと一緒に、花組に来てくれませんか?」

 

 

 …え? 目をまるくする少年。あまりにも予想だにしなかった質問に頭をポリポリとかいていた様子に一抹の不安を覚えること数秒…仕方ねえなと彼は笑う。

 

 

「わかったよ。だが、参ったな…俺は男だから舞台に立てないし。やるなら、やっぱ隊長しかないな。」

 

「な!? 隊長が僕がやります! 兄さんは…えっと、モギリとか……」

 

「お前、誘っておきながらしれっと酷いこと言うな?」

 

 

 あ、まずい。確かに誘ってモギリを頼むとか、喧嘩を売ってると思われかねない…だが、数秒後には少年の眉間から皺が消えて笑いに包まれる。

 

 そして、少年少女たちは桜舞う青空の下に誓い合う。

 

 

 

「いつかまた会おうぜ…だから、サヨナラじゃなくて『また』なだ!」

 

「…私たちは帝国華擊団で……」

 

 

 

 

「「「また会おう!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ずっと忘れていた。

 

 

 あの日から前だけ見て走り続けてきた‥後ろに取りこぼした大事な記憶すら気が付かずに。

 

 

「あ……ぁあ… 誠兄さん…?」

 

 

 001の変身が融けるように解除された。そして、星児は己の刀を手に取り刀身を神山に突きつける…『天宮』の銘が刻まれたその刃を。それが、何を意味するのかさくらはすぐに理解した。

 

 

「それは、お父さんが打った刀…! じゃあ、アナタは…」

 

「星児…まさか、君は…。ホシボーと呼ばれていた…あの!」

 

 

 神山も思い出す、十年前の記憶。降魔大戦の疎開に訪れたあの田舎には不釣り合いに身なりがよかったあの少年…別れたあの日から出会うこともなく、いつしか色褪せていたそれが鮮明に蘇る。そう、幼き日に誓いを共にした3人…やっと、自分たちは再会していたことに気がついたのだ。

 

 

(…なんだ、叶ってじゃねえか…俺の夢。)

 

 

 何がなにひとつかなわないだ。自分が忘れていただけじゃないか…。…気がつかなかっただけじゃないか。2人は約束を守って帝国華擊団にて約束を果たしたのに、自分ときたら。何も為せずにロンドンに逃げて、そこからも逃げ出して、大切な人達を傷つけてばかりで…

 胸にこみあげるグチャグチャの熱い感情に、あの日の孤独な少年は膝をつき涙を流す…同時に心の中にずっと居座っていたドス黒いものも引き潮のように消えていく。

 

 

「…兄さん、誠兄さん……。俺は…なんてことを…」

 

「! 正気に戻った…? 星児、俺がわかるのか?」

 

 

 悪意の迷宮の果てに、星は再び瞬く…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、それを望まない者だっている。

 

 

 

 

『グルァァァァァァァ!!!! 御神楽ハンマーァァ!!!』

 

「「!」」

 

 

 突如、ゴオォォ!!と押し寄せる炎の大波。乱入してきたアナザーヒビキによる神山に目掛けた攻撃で、地獄の業火さながらに襲いかかる灼熱の塊を避けるには反応が遅れて…

 

 

「うおおおおおォォォ!!!!」

 

「! 星児!!」

 

 

 その時、星児が庇おうとしたゼロワンや神山を追い越していった。そのまま、迫る目が眩むほどの光の中へと呑まれていき彼の姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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