仮面ライダー01<ゼロワン> × 新サクラ大戦 ー新たなるはじまりー 作:ジュンチェ
…よくもまあ、やってくれたものだ。
アナスタシアの機嫌はいつ以来かぶりに最悪だった。結局、プレジデントGに所属期間と指導の話は強引に呑まされてしまった彼女は『元々の条件と違う!』拒否を示したものの認められずじまい。
取りあえず、自室に戻ってきたものの大きい溜息が洩れる。
(…嫌なら、とにかく仕事をするしかないか。)
駄々をこねても仕方ない。為すべきことをしなくては…花組の隊員としても、『もうひとつの役割』としても。
(取りあえず、持ち出してきた資料でも目を通してみましょうか…あまり、期待は出来ないけども。)
デスクにしまっていた文書を取り出す。昨日、こっそり拝借してきたものだ…『捜し物』の手掛かりになるかは望みが薄い人事関連の資料だが。全く、文書管理室の近くをヒューマギアが通らなければまだ他に選べたものを。
恩仇の上司の息子といい、異世界社長といい…!不満が募るを自覚しながらもパラパラと資料を捲る。すると、あることに気がついた。
(驚いた…これ、昔の花組の経歴じゃない。真空寺さくらにすみれ支配人…大神前・隊長までの経歴がこんなに。ちょっと興味が沸いてきたわ。)
意図しないで引いたが、まさか昔の花組の情報が載っている資料とは。
任務云々は別にして、個人的な興味がわいてきた。ゆっくり読んでいる暇はないが、目を通してみることに… そして、あるページが更に彼女の意識を留めた。
(『御子神カナタ』? …昔の花組にいたかしら、こんな人?)
1枚の隊員の資料…写真も傷んで輪郭が無いも同然の写真で顔はわからないが、女性の様子。ただ旧・花組のスタァにそんな名前は聞いたことがないし、資料にも舞台に立った記録すらない。というより、在籍していた期間がかなり短いようで見習い隊員だったらしい…。
文字を追っていくと、最後に残っていた記述は…
ーー太正■■年 自刃ニヨル自殺。コレヲモッテ、帝国華擊団ヲ除籍処分。
(…自殺?まさか。)
先の話での記憶。星児の母親が自殺したのをキッカケに、星児は花組に引き取られたのだというのなら…条件のひとつは当てはまる。もしかして、彼の実の母親という可能性が出てくる。ただ、気になるのは…
(でも、父親の記載もない… 出産の記録も無い? それ以前に色々な情報が意図的に抜かれている? どういうこと…)
前後の資料と照らしあわせても、まるで肝心なところを知られないように情報が欠けている。奇妙なことだ。
よくよく考えれば、何故にすみれやハヤトはあえて彼女の名前を出さずに『花組の関係者』と伏せたのか…何処となく歪な感覚がある。
(御子神、捜し物と関係あるかはわからないけど…覚えておこうかしら。)
トントン
「アナスタシア、いるか?神山だ。」
「私もいます!」
「!」
突然のノック、神山にさくらか…!
『少し待って頂戴。』と時間を稼ぎつつ書類を落ち着いて、机の引き出しに滑り込ませる。そして、平静を装ってふたりを招きいれた…
「何か用事かしら、キャプテン?」
「あのさ、さっきの花組の演技指導の話についてなんだが…」
…ま、やっぱりその話よね。
「悪いけど、演技指導に関して最初の最低限のラインを譲るつもりはないわ。確かに、星児の問題は私も思うところがあったから手を回したけど、それとこれは話が別。諦めて頂戴。」
「考える余地すらないのか…?」
「………ええ。私は自分の演技に集中したいの。そのための時間をこれ以上、削る気は無いわ。」
冷たい奴と思われただろう…別に慣れている。でも、自分のポリシーを曲げるつもりは無い。例え、スポットライトの外側で陰口を叩かれようが後ろ指さされようがどうだって良い…最高の演技が出来て観客が満足さえすれば
「…やっぱり、私たちじゃ不甲斐ないですか?」
でも、さくらは引き下がらない。引かれた冷たい一線を破らんと食い下がる。
「わかっています。演技も何もかもがアナスタシアさんには及びません。でも、だからこそ精一杯の努力をして、未来の自分や帝劇を支えてきてくれた人たちに胸を張れるようにしたいんです!
…「だから、お願いです! 私に演技をもっと教えてください!」」
「!」
その時、さくらに『誰か』の面影が重なったような気がした…。自分が遠くへ置いてきたはずの記憶の断片が不意に肉迫する。なんとか表情に出さないようこらえたが、胸の奥に漣がたつ…平静の表情の裏で不意に搔き乱されたを心を鎮める心掛けるもそう簡単にはいかない。
すると、神山とさくらが異変を察してこちらを覗きこむ。
「アナスタシア…どうした、顔色が悪いぞ?」
「あ、あの…」
「…いや、平気よ。ごめんなさい、少し考えさせて。私もなんでもうまくこなせる程、器用じゃないの。」
その後、神山とさくらは時間を改めようと部屋を出た。残ったアナスタシアはベッドに腰を下ろし頭を抱える……。
ああ、なんてこと…過去に置いてきたものは振り返らないと決めて生きてきたのにまさか『あの娘』の面影をさくらに重ねてしまうなんて…。あんなふうに自分に演技の教えを乞う娘が現れるなんて夢にも思わなかった。
(……怨んでいるかしら、見捨てた私を。)
虚空に吸われていく疲れたような溜息… でも、まだ止まれない。目の前に迫る仕事と為すべきことがある。過去を振り返らない…全てが終わる日まで立ち止まることは許されないのだから。
★ ★ ★ ★ ★
さて…そろそろ、笑いを堪えるのを辞めていいだろう。
帰りの大型リムジンに揺られているプレジデントGは円型に設置されたソファという金持ち特有の専用車にて揺られながら、ボトルを空けた。契機づけの酒だ…馬鹿者どもを処断し、帝国華擊団の実情も把握できた。
ひとりひとりはまさに『ダイヤの原石』と言っても他言ではない資質を秘めている上に、自分のアナスタシアのおかげでその才能が開花しかけている。W.L.O.F.や各華擊団も人材発掘はかなり力を入れて開墾の限りは尽くしたと思ったが、あれだけの人材を見つけてくるとは流石、元トップスタァであるすみれの手腕と言うべきか。
…加え、特記戦力〈仮面ライダー〉
既存の技術のどれにも当てはまらない技術・力を持つ異世界からの来訪者。
報告は受けている…帝国華擊団だけではなく、上海以外にも強豪華擊団たちも皆何かしらの形で囲っていることも。無論、『世界最強の華擊団』にもその系譜の者もいることは確認済み。そして、自分も個人的に囲っている。
総合的な情報を踏まえて、今の帝国華擊団は…
「取るに足らないゴミだな。やはり、かつての栄光は過去のものだ。」
不遜にそう判決を下す。大輪の花を咲かせられると勘違いしている道端の枯れかけの雑草…引っこ抜いてもしつこく生えてくるくらいが取り柄のアレ。
そんな侮辱な判断に、怪訝な顔で相対していた黒服の男。主を前にしながらも脚を組んでつまらなさそうにしていた。
「エージェントD… いや、『門矢 士』とこの場で呼んで良いか。君はどう思う?」
なんで俺に話振るんだよ? 苛立ちげにしながらエージェントD…門矢士は帽子をテーブルに起きカメラを弄くりまわしながら答える。
「さあな? 俺はアイツら次第だと思うぞ。むしろ、周りを過小評価しすぎなお前のほうが俺は心配なんだが…」
基本、この男は他人を褒めない。素直には滅多に褒めない。
あとお世辞とかは絶対に使わない。
予想外の答がとんできて、若干ながら口角が引きつったプレジデントGだったが、『君のことは正当評価しているつもりなんだがね。』と返した。
まあ、良い。一番重要なことは確認できたのだから。
「さて、吹けば消える塵の山…だが、その中に意外にもこんな砂金が混じっているとは思わなんだ。」
テーブルに並ぶ人事資料…プレジデントGが目をつけていたのは星児のもの。神崎すみれの息子、旧・帝国華擊団の忘れ形見…昔なら七光程度と気にも留なかったが今日改めて直接会い感じたロンドン華擊団からの信頼に彼自身の霊力。本来、男は低いはずのそれが触れただけで桁違いだと感じられた…
「惜しい… 実に惜しい… 埋もれさせてしまうには惜しい星の輝き…」
ねっとりした称賛に士はカメラを弄ぶ手を止める。この男は何かろくでもないことを考えていると…
「ククッ… やはり、星は輝くべき場所にあるべきだな。」
星は輝くべき場所へ。