やってる人は分かるかもしれない。
これはニートからMOBAの世界に転生した骸骨魔道士プグナの物語。
骸骨魔道士プグナはクリスタルメイデンの脇が見たい。
冷気を操るクリスタルメイデンの衣装、その中でも最近の彼女のお気に入りの衣装、アルカナは露出が多い。が、脇の部分はしっかりとガードされている。それが、プグナにとっては不満だった。
「はー……どうしたらメイデンちゃんの脇が見れるだろう?」
悩みぬいた末にプグナの出した結論は、神に祈ることだった。
「ああ、神様、どうか僕にクリスタルメイデンちゃんの脇を見る方法をお教えください!!」
プグナが心から神に祈ると、すぐに背後から声が聞こえた。
「ほっほっほお悩みのようじゃな、若人よ」
「あ、あなたは……!! ……誰でしたっけ!?」
「敵味方のメンツくらい試合前に確認しておかんか、まったくもう。わしはゼウス。今回はダイアー側のチームじゃ」
「ええっと、僕とクリスタルメイデンちゃんは今回はラディアント側だから……もしかしなくても敵ですよね?!」
ラディアントとダイアーに分かれてタワーディフェンスをするゲームなのである。
「そんな、敵とか味方とか、どうでもよくないかのう、少年」
「えええ?」
「よく考えてみい、死んでも復活するし、どうせ勝っても次のゲームの出番になれば何回も殺される。死んで死んで死んで、痛い思いをするだけじゃ」
タワーを守るためにプレイヤーの分身であるヒーローは死んでも復活する。しかしヒーローの中にはなんのためにこんなことをしているのだろうか、と疑問を抱くものもいるらしい。
「痛い思い、したくないですね……」
「ならば戦闘に参加しないでなるべく殺されないように立ち回っているのが、一番賢いとは思わんかのう?」
「た、たしかにそうかもしれませんが……それじゃゲームとして破綻してしまうのでは……」
「破綻すりゃええんじゃ、破綻すりゃあ。そんなもんやる側の都合じゃ。戦わせられる方の身にもなって欲しいわい」
「な、なるほど……と、ところでゼウスさんはどうして僕に話しかけてきたんですか?」
「どうしてって……お前がわしに話しかけてきたんじゃないか」
「いや、神にクリスタルメイデンちゃんの脇を見せてくれとお祈りはしてたけど」
「要はわしに祈ってたわけじゃろう?」
「えええ? だって神って……」
「そう、わしは神、神イズ、わし」
「ゼウスさんって、神様だったんですか?」
「唯一無二の神なりよ」
「なんか急にシャドウ○ースっぽいセリフが飛び出しましたね」
「わしは人間のようにカードゲームは好きじゃないぞ? まあわしも人間といえば人間だがのう」
「もう、人間なんですか神なんですか、どっちなんですか」
「いや、わしは人間の女に浮気しすぎてカミさんに怒られてのう」
「奥さんいたんですか、うらやましい。僕は結局童貞のまま魔法使いになっちゃいましたよ。いやー、童貞から魔法使い、こんなこと本当にあるんですねえ」
「案ずるでない……それでわしは奥さんに体を人間にされてしまったんじゃ」
「なんていうか大変でしたね……」
「大変なのはここからじゃよ。わしはなぜか老い先短い人間のおじいちゃんの体にされてしまったんじゃ」
「なんでおじいちゃんに……」
「そしたら今までイケメンに化けてつかまえてきた人間の女達が誰も寄り付かなくなってしまったのじゃ。その上いつ寿命がくるかもわからない」
「なんと……あまりにも悲惨ですね……」
「そのくせ電気を操る能力だけは残ってしまってのう……電気ビリビリおじいちゃんって、モテる要素あるかい?」
「たぶんないですね……」
「なのでわしも人間の体になってからはその……まったく女性にモテんのじゃ」
「こんなところでいうのもなんですが……同士、ということでよろしいでしょうか?」
「ほっ、ほっ、ほっ、かくいうわしも童貞でのうッ!!」
「これより童貞同盟を結成しましょう……!! 僕はプグナといいます……!!」
骸骨の魔術師と電気の神はひょんなことから熱い握手をかわした。
「コホン、時に少年よ、君はクリスタルメイデンちゃんの脇が見たいと言っていたが、それで間違いないかのう?」
「はい、間違いありません!!」
「しかし時として人は妥協をせねばならんときもある。それもお主は知っておかねばならんのう」
「ぜったいに、この件では妥協したくはありません!」
「話を聞けと言っておるのじゃ、ひとつのエロスにこだわるようでは万物からエロスを汲み取ることはできない。ゆめゆめ覚えておかれよ!」
「で、でも、そんなこと言ったって……!!」
「時にそのクリスタルメイデンとやらはどこにいる?」
「ああ、ゼウスさんは敵だからメイデンちゃんがどこにいるかわからないんですね……えーっと、ミニマップによるとちょうどボトムの川のあたりにいますね」
「ボトムの川か……ふむ……」
「あっちは今誰もいないみたいだけど……何やってるんだろう?」
「小僧、ひょうっとしたら、それはチャンスかもしれんぞ?」
「どういうことです?」
「話によればクリスタルメイデンとやらは冷気を操る能力があるらしいが、その分体が冷えやすいのではないか?」
「んーいつも足が遅くて汗だくになっているようなイメージしかないけど……なぜそんなことを聞くんですか?」
「もし体が冷えやすく、あえて人気のないところに行っているとしたら、することはひとつしかあるまい」
「ま、まさか……?!」
プグナの胸が一瞬高鳴った。
「そう、おしっこじゃ。寒くなるとおしっこに行きたくなるじゃろう」
「おー、神よ! その発想はなかった!!」
「神はここにおるよ。……さておき、おなかの冷えたメイデンちゃんが用を足すのに人気のない川を選んだ、というのは、考えられんことではなかろう」
「仮にそうだったとして……僕たちはどうしたらいいでしょう?」
「対岸でこっそり鑑賞、というのはいかがもんじゃろ? 脇は見れんかもしれんが、この世界でのひとつの新たな生きる喜びをまた、見つけることができるかもしれんのう」
「ゼウスさん……」
「なんじゃ? 不満か?」
「いや、これからはゼウス先生と呼ばせてもらいますよ、ゼウス先生……!! 僕は今まで脇だけにこだわりすぎていた気がします。あなたのおかげで目が覚めました……!!」
「な、なんじゃ照れくさい、わしゃ人よりちょっとだけ長生きしておるだけじゃ。同じ童貞としてお主を放っておけなかっただけじゃよ」
「行きましょう、童貞同盟として川の向こうへ……!!」
骸骨の魔術師と電気の神はひょんなことから熱い握手をかわした。
骸骨魔道士プグナと電気おじいちゃんゼウスは色々あってクリスタルメイデンが川でおしっこをするところを対岸で鑑賞にきていた。
「動きませんね、メイデンちゃん……」
「今は本当に催すのを待っているのじゃ、第一波がきたらもうブルルッ、じゃぞい?!」
「やばいっすね……童貞同盟の僕も、さすがにマジックスティックのチャージが17になっちゃいましたよ……!!」
※マジックスティック……敵のスキル使用に応じてチャージがたまり、使用するとHPとマナを回復。最大チャージは17。
「あ、すまん。わしもつい緊張して近くのクリープをスキルで食べてしまっていてのう」
「あ! ゼウス先生、クリスタルメイデンちゃん、動きましたよ?」
プグナはクリスタルメイデンの動きを凝視した。そしてついに……、
「なーんだ、メイデンちゃん、ボトルにルーンを回収にきただけだったみたいですね」
がっかりして隣を見た瞬間、プグナはぎょっとした。電気おじいちゃんゼウスが見たこともない憤怒と哀愁の表情で何者かに通常攻撃を繰り出していたのだ。
「ゼ、ゼウス先生?」
金色の鎧、太い筋肉、独特の太鼓のような音、一昔前のバトルマンガで使われそうな円陣。
「リージョンコマンダー……!! 味方のキャリーが勝負をしかけてる……!!」
ゼウスは挑発を受けて攻撃するしかない。が、所詮はおじいちゃんの通常攻撃。
これにオートカウンターが発動しゼウスはリージョンコマンダーのなぎなたで切り刻まれる。
圧倒的に割に合わないダメージ交換がされていく。そのうえリージョンコマンダーにはライフ吸収までついているのだ。
「ゼウスせんせーーーーっ……!!」
プグナの叫びもむなしく、ゼウスはその場で息絶えた。
「お前が敵を引き寄せてくれていたおかげで簡単に決闘できたよ、ありがとう」
「あ、いや、僕は……」
味方のリージョンコマンダーに見当違いな褒め方をされて、プグナは言葉につまる。
「しかし、プグナ一人でどうやってあんな風に敵を引き連れて歩けるんだ? すごいテクニックだな」
「テクニックなんかじゃないです。分かり合えただけですよ……男として……」
それを聞いてリージョンは肩をすくめた。
「ふっ、いくら戦闘に長けているとはいえ、私は女だ。そう言われると困るな」
「なーにープグナちゃん、リージョンコマンダーのためにサポートしてあげたの? なかなかやるじゃない!!」
「あ、メイデンちゃん」
いつの間にか川での水汲みを終えたクリスタルメイデンが合流してきていた。
「リージョン、マナ使ったでしょ、私のボトルの水飲ませてあげるね……ってあらら?!」
階段を上ろうとしたところで運動神経の悪いクリスタルメイデンは仰向けに倒れてしまった。その瞬間肩パッドがずれ、プグナの位置からはメイデンの脇が丸見えになった。
「ゼウス先生……やっぱり、自分の道は妥協できないっす……!!」
プグナは自分のチャージ17のマジックスティックをぎゅっと握りしめた。
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