骸骨魔導士プグナは冷気を操るクリスタルメイデンが見守る中、ダイアーサイド最奥部≪ Fountain ≫の近くで、雷神ゼウスと対峙していた。
ダイアー側の他のヒーロー達は一人、また一人とレイディアント側のヒーロー達によって倒されている。
エンシェントが破壊されるのも時間の問題だろう。
≪ Defence Of The Ancient ≫の名を冠するこのゲーム世界で、守るべきエンシェントが破壊されることは世界の終焉を意味する。
だがそんな差し迫った自体をよそに、捨てゲー容認派のゼウスと、真剣にゲームに取り組むべき派のプグナちゃんは、お互いのプライドを賭けて最後の戦いに突入しようとしていた。
「ゼウス先生、あなたの考えを変えて見せます! 冥界よりの爆炎、≪ Nether Blast(ネザー・ブラスト) ≫!」
「プグナよ、お主のようなひよっこがこのゲームでわしに口出しするなど一万年早いわ!」
その言葉とともにゼウスは宙高くへと舞い上がり、くるくるとコミカルに回転し始めた!
「な、なんだ! この動きは…!」
プグナちゃんが動揺していると、ゼウスがゆったりと笑みを浮かべて宙より降り立った。
「≪ Eul's Scepter of Divinity(エウルズ・セプター オブ ディヴィニティー) ≫…」
プグナの主力スキル≪ Nether Blast ≫にはキャスト遅延がある。反応の良いものなら見てから対処可能で、ゼウス先生はそこを突いたのだった。
宙に浮き上がり2.5秒間無敵になれるint上昇の高い≪ Eul's Scepter of Divinity ≫。度重なるナーフを受けてもいまだ超便利アイテムだ。
これを使って、≪ Nether Blast ≫のキャストからの爆発遅延、その一瞬の隙にゼウスは華麗に宙に逃れたのだった。
「ゲ、ゲームに対する理解が違う…」
主力スキルをあまりにも簡単に回避され、プグナちゃんは力の差を感じていた。
「プ、プグナちゃん、やっぱり無理だよ雷神ゼウスに立ち向かうだなんて…。こんなドヤ顔で笑ってるキモいおじいちゃん放っておいて、キャリーの元に戻って勝利に酔いしれよう?」
メイデンちゃんのその言葉を聞いて地味にゼウスは傷ついた表情をした。
「黙ってて、メイデンちゃん! 男には、どうしても引けない時があるんだ!」
気持ちを鼓舞し、再びゼウス先生に対峙するプグナちゃん。
「ほっほっほ、ならばわしの番じゃぞい? 弧上の稲妻、≪ Arc Lightning(アーク・ライトニング) ≫!」
指先から放たれたその微弱な雷は、プグナちゃんの骸骨の体を強力にしびれさせた。
「ぐわーっ! エフェクトが地味なのにすごいダメージが出る!」
「おっとすまんのう、あらゆる定命の者を葬るわしの最強パッシブスキル≪ Static Field(スタティック・フィールド) ≫は、スキル使用ごとに、どんなにHPの多いものからでも割合HPを持っていくぞい?」
「そ、そんな…みんな魔法は固定ダメージっていう制限で戦っているのに、それじゃズルじゃない!」
メイデンちゃんの怒りをよそにゼウスは余裕の笑みを浮かべていた。
「そういう仕様なんじゃからしょうがなかろう。さらに見よ! そして体感せよ! この≪ Arc Lightning ≫のクールタイムの短さ! ほとんど撃ち放題じゃ!」
そう言ってゼウス先生は自身のファーストスキルを連打する。
「ぎゃーっ…ひでぶっ…!!」
「あ、あっという間にプグナちゃんのHPが減っていく…」
メイデンちゃんが心配そうな表情でみている中、プグナちゃんは諦めずに一番を撃っていく。
「ま、負けるもんか! ≪ Nether Blast ≫!」
「なんの、今度は誰でも押せる便利なビヨーンアイテム、≪ Force Staff(フォース・スタッフ) ≫じゃ!」
敵も味方も操ることが可能となるこの杖で、ゼウス先生は自らを押してプグナちゃんのファースト・スキルを回避する。
「おっと、思いもかけず小僧の近くに密着してしまったのう。ま、大分HPも削ったようだし、通常攻撃でもしていたぶらせてもらうかのう?」
その時、ゼウス先生は気づいた。自分の体が緑色に発光し、通常攻撃ができなくなっている事を。
「な、こ、これは…! 実体の欠損、≪ Decrepify(ディクリピファイ) ≫!」
「その通りですよ、ゼウス先生、さすがによくご存じですね。ゲームに対する“知識”が違う…。しかし僕の本命はそれではありません。あなたの通常攻撃を止めようなどという意図でそのスキルを撃ったわけではない…」
「な、なんだと?」
「受けてもらいますよ、僕の生命吸収の最終奥義! ≪ Life Drain(ライフ・ドレイン) ≫を!」
そういうとプグナちゃんの口から強力な虚の魔力が放たれ、ゼウス先生の生命力(HP)を吸い取り始めた。
「ぐぁぁぁっ! HPが吸い取られる!? これ以上老化したくないのにぃぃ!」
「≪ Decrepify ≫は魔法ダメージを50%増大させる。プグナちゃん、そこまで計算して…雷神ゼウスが≪ Force Staff ≫を使うように仕向けたっていうの!?」
成長したのね…。メイデンちゃんはプグナちゃんの戦いぶりに感心していた。
「これならもう私がいなくなっても…」
そこまで考えて、メイデンちゃんは首を横に振った。今は二人の戦いを、最後まで見届けるべきなのだ。
「こんなもので負けてたまるか! わしは雷神ゼウス! その力で道を開こう、純なる稲妻、≪ Lightning Bolt(ライトニング・ボルト) ≫!!」
その言葉とともに、プグナちゃんの上に強烈な稲妻が降り落ち、一瞬フラリとさせた
「あうぅ~…」
「どうじゃ! わしの≪ Lightning Bolt ≫にはミニ・スタンがついておるのじゃ! ちょっとばかり体力は吸収されてしまったが、まだまだ五分。わしはまだ、戦えるぞい?」
「ゼウス先生…もう諦めて、誓ってくれませんか。これからは捨てゲーなんてせずに、ゲームを全力で楽しむって」
「そうはいかんのじゃ! それはわしの長い間のプレイスタイルを否定することになる。わしはあまりにもこのゲームに時間を注ぎ込みすぎた。いまさらそれが間違っていただなんて、できるはずがないのじゃ!」
「確かに…。このゲーム1試合平均1時間。SEAサーバー(東南アジアサーバー。ピノイの巣窟。日本だとここで試合させられることが多い)では捨てゲー、ディスコネクトのオンパレード。サポートでキャリーやったり30分森ファームしたり、自分の含めてとんでもない人ばかりが集まってやる不毛なゲームといえるのかもしれません。廃人製造機といえるのかもしれません。だけど! 1000時間かけて築いたプレイスタイルが間違っていたっていうのなら、2000時間かければいいだけじゃないですか!」
「認めん。わしはそんなことは認めんぞい! プレイスタイルを変えるのも、小僧に負けるのも、まっぴらごめんじゃ!」
「あなたの考えを変えるために、今ここであなたを倒します! 僕にはウルトのクールタイムを0秒にするアイテム≪ Aghanim's Scepter(アガニム・セプター) ≫がある! これでもう一度ウルトを使えば、あなたは終わりです!」
「くっ! ならばその前にわしが小僧を倒そう! わが究極奥義を受けるがいい、雷神の怒り、≪ Thundergod's Wrath ≫!!」
ゼウス先生が究極奥義を発動させようとしたその瞬間、ゼウス先生譲りの緑の雷光が、プグナちゃんの足元から走った。
「僕の狙いは…≪ Decrepify ≫でないとは言いましたが、≪ Life Drain ≫だと言ったつもりもありません。本当の狙いはこれです」
プグナちゃんの足元には、冥界からの刻み目、≪ Nether Ward(ネザー・ワード) ≫が置かれていた。
魔法を使うたびに使用者にダメージを与えるこの置物は、スキルファイターにとっての天敵だ。
「い、いつの間にッ…!!」
「ゼウス先生、もう終わりです。僕がこのワードを置いたのは、あなたが僕を通常攻撃でいたぶろうとしていた時。その油断に付けこませていただきましたよ」
「わ、わしが調子に乗って≪ Nether Ward ≫が発動しない通常攻撃をしてくるところまで、読んでおったというのかっ…!」
「ただ、正直賭けでした。あなたが≪ Lightning Bolt ≫を僕に撃った時、実際この置物は既に置かれていたんです。ただ、あなたは動揺のあまりにこの置物が発動していることに気づけなかった。それはあなたのミス。あなたはもう雷神じゃない。このゲーム内で最もかよわい、人間、電気ビリビリおじいちゃんです。だからこそ、人間らしくゲームを楽しむべきなんです!」
「そ、そんなバカなっ! このワシがこんな分かりやすいエフェクトに気づけなかっただと!? 認めん、認めんぞいぃぃっ!!」
ゼウス先生は果敢に通常攻撃でペチペチと≪ Nether Ward ≫を攻撃する。これが壊せれば、再びリスクなしでプグナちゃんを攻撃することができる!
「無駄ですよ、ゼウス先生」
≪ Decrepify ≫。クールタイム最短6秒の幽体化スキル。このスキルのクールタイムの短さは、ゼウス先生が4回通常攻撃をして≪ Nether Ward ≫を破壊するのを止めるために再度唱えるのに十分なものだった。
「あ…あ…あ…」
≪ Decrepify ≫には強力なスローもついている。それゆえ、逃げアイテムを全て使ったゼウス先生は分かっていてもそのスキルを避けることができなかった。
「≪ Nether Blast ≫!」
0.9秒後の遅延の後、“ゼウス先生”のいた地点は、爆散した。
「や、やった! プグナちゃんが勝った!」
メイデンちゃんは自分の事のように喜んでいる。
既に全てのタワーが破壊され、≪ Ancient ≫の耐久もほとんどなくなってしまっていた。
間もなくこの世界は、終わる。
戦う必要のないプグナちゃんとゼウス先生は、意地の張り合いの為だけに戦った。
そのことが今、プグナちゃんにはたまらなく悲しかった。
「次に会う時は味方同士で…」
いつの間にかプグナちゃんは泣いていた。
≪ Fountain ≫に向かってプグナちゃんは叫ぶ。
「ゼウスせんせぇ~!!」
すると、≪ Fountain ≫からぬっと、ゼウス先生の姿が見えた。
「ゼウス先生!? ど、どうして…。僕が倒したはずじゃ…」
「小僧、バイバックじゃよ」
そのままゼウス先生はプグナちゃんの言いたかったことを分かっているように、右手の親指を立てて見せた。
もし、次の試合があるのなら、また会おう。敵か味方か分からないけれど、できたら味方がいいのう?
そんな言葉がこめられているように、プグナちゃんには見えた。
まだまだ遊び足りなかったけれど、とうとう≪ Ancient ≫の耐久がゼロになる。
この世界の終わりを告げる音楽が鳴り、ゼウス先生の姿は再び静かに消えていった。
Radiant Victory
第一部 終
これで一区切り~♪
あとで改稿するかも?
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