鋼鉄乙女フォビドゥンフルート   作:小金井はらから

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師匠と一緒!~トランペットヴァイン組+伊波ほたる編~

★鋼鉄乙女フォビドゥンフルート 第二話『恋敵・ビバーチェ』その8 師匠と一緒!~トランペットヴァイン組+伊波ほたる編~

 

 オペレーター室、格納庫、一通りの場所を八尋に案内して貰って、次に裕太が辿り着いたのが食堂。

八尋はさくさくと速いペースで案内していたが、やる気がないのかどこか施設の紹介は淡々としていた。

早く終わらせたいオーラが見え見えである。

裕太も裕太で、場所さえ覚えられれば何でもいいのだから特に気にしてはいないのだが。

 食堂では何人か基地のスタッフが席に着いていて、あちこちから良い匂いが漂っていた。

匂いに刺激され、くう、と裕太の腹まで僅かに鳴る。

 

「……あれ?」

 

 ふと、裕太は見知った人影を見つけた。

奥の方の席に、小さな小さな人影が二つ。

長い栗色の髪をポニーテールにしたおとなしそうな小柄な少女、その少女の肩に頭を預けてうとうとしているふわふわのツインテールが目立つ幼女。

桐の友人だと裕太が認識している衣笠奏美と、伊波翔真の愛娘の伊波ほたるだった。

 桐の友達。

となると、お近づきになって損は無いのではないだろうか。

裕太の心が、ぽーんと弾む。

 

「きーぬがーささんっ!」

 

「あ、やめとけバカっ!」

 

 軽いノリで裕太は奏美に声をかける。

後ろから八尋が何やら言っていたが、彼が何をそんなに焦っているのか裕太は理解できなかった。

まあいいか、と改めて奏美達に目を向けると、奏美はびくっと肩を震わせて、おどおどと身を縮こまらせた。

ほたるはぱっちりと目を開け、不思議そうに裕太の顔を穴が開くくらい真っ直ぐに見つめてくる。

 

「おまえ、だれだ?」

 

 ほたるが、不思議そうに小首を傾げる。

幼い無垢な子どもの可愛らしい仕草に、裕太は心のどこかが癒されるのを感じた。

 

「オレ、天内裕太。この部隊の新入り。翔真さんから聞いてない?」

 

「しんいり……ゆーた……あ、わかったぞ! パパがさいきん話してるからな!」

 

 ほたるがきらっと瞳を輝かせる。

そのまま興味津々といった様子で、ほたるは身を乗り出して裕太の顔を覗きこんでくる。

 

「わたしは伊波ほたるだ! スピランセスのイヴだぞっ! パパといっしょにせいぎとへいわのために戦うヒーローだ! よろしくな! ゆーた!」

 

「ん、よろしくー。はい、握手っ」

 

「うん、あくしゅっ!」

 

 裕太がほたるに手を差し出すと、ほたるは何の警戒心もなく小さな手で裕太の手を握って来た。

もしかして自分は案外子どもの扱いが得意なのだろうか、と裕太は一瞬奇妙な感覚に陥る。

それとも翔真が色々気を回してくれたからほたるもそんなに自分のことを警戒していないのだろうか。

 

「ほたるちゃん、今日翔真さんは?」

 

「パパならまだお仕事だぞっ! だから、かなみに遊んでもらってたんだ!」

 

 ほたるが奏美の細い腕にぎゅっと抱きつく。

奏美は、未だに戸惑ったように目を伏せていて。

その顔は、ひどく真っ赤で。

 

「あ……あの……あの……私……衣笠奏美……です……トランペットヴァインのイヴで……よ……よろしく……お願い……します……」

 

 ぺこり、と奏美が頭を深々と下げる。

途切れ途切れの台詞。

どもって、つっかえて。

見た目通り、随分と大人しい人だと裕太は反応に困る。

これは、彼女から桐の個人情報を引き出すのは苦労しそうだと裕太は予感を巡らせる。

そんな時、ぷう、とほたるが頬を膨らませて奏美の両肩に手を置き、弱い力で彼女を揺さぶった。

 

「むう、かなみ、声がちいさいぞ! そんなんじゃLOVEに勝てないぞっ!」

 

「あう……ご……ごめんね……ほたるちゃん……」

 

「もう、しょうがないな! でもわたし、かなみ大好きだぞ! やさしくて、あったかくて、ママみたいだ! なあ、ほんとにわたしのママにならないか?」

 

「そ……それはちょっと……」

 

「なんでだ? パパいけめんだぞ?」

 

「えと……そういう問題じゃなくて……人を好きになる気持ち、とか……よくわかんないし……私なんて……その……恋とか、できないと思うし……」

 

 おどおどびくびくと言葉を紡ぐ奏美を、ほたるはごくごく不思議そうに見つめていた。

その視線が眩しいかのように、奏美が俯く。

 人を好きになる気持ちがわからない、と彼女は言った。

だとすると。

裕太の疑問がそのまま言葉になる。

 

「衣笠さんは、パートナーとは恋人じゃないんすか?」

 

「え? えと……響希くんは……私の、初めての友達で……凄く大切……だけど……響希くんには……私なんか……合わないよ……」

 

「衣笠さんって自己評価低い系っすか? 結構可愛いと思うんすけどねー」

 

「……え……あ、あの……っ」

 

「ま、オレにとって一番可愛いのは桐さんっすけど! 衣笠さん、桐さんと友達っしょ? なんか桐さんの好みのタイプとか、好きなデートスポットとか、知ってることあります?」

 

 『友達』。

裕太がその言葉を口にした瞬間、奏美の大きな瞳が揺れた、気がした。

何をそんなに戸惑っているんだろうか。

あうあうと言葉に詰まる奏美。

その瞳には僅かに寂しさが宿っていて。

何かまずいことを言ってしまっただろうか、と裕太が自分の発言を復習しようとした時。

 

「かーなみっ!」

 

「ぎゃっ!?」

 

 どたどたと、背後から騒がしい足音が聞こえたかと思えば、突然何者かが思いっ切り裕太の横っ腹を強い力で殴った。

そのまま裕太は突き飛ばされ、ついでとばかりに片足をぎゅうっと踏みつけられる。

1HIT、2HIT、3HIT。

ダメージ炸裂。

 何だ、何が起こった。

裕太が横腹をさすっていると、真っ赤な髪の小柄な少年が奏美にぎゅうぎゅう抱きついてるのが視界に映った。

奏美は少しびっくりした顔をしながらも、彼の背中に手を回して抱擁をぎこちなく受け入れていた。

そんな中でも、赤髪の少年が裕太の足を踏む力は強まるばかり。

全体重をかけているんじゃないかと疑う程だ。

 

「すまんなー、奏美。ちょーっと担任の説教長引いてなー。寂しい思いさせたか?」

 

「だ……大丈夫だよ……あの……ほたるちゃんが一緒にいてくれたから……」

 

「おー、ほたるちゃんおおきに! せやけど、まーた奏美に『ママになってくれー』とか言うたんやないやろな?」

 

「ん、言ったぞ? でもだめだって! なんでだ?」

 

「なんでもやー。もうそんなこと奏美に言うたらあかんでー?」

 

「なんでひびきがだめだって言うんだ? かなみのことだぞ?」

 

「そりゃ、奏美はオレのもんやからなあ」

 

「そうなのか?」

 

「そうなんやでー。よーく覚えときー」

 

 ぐしゃぐしゃ、と赤い頭の少年――確か、『響希』がほたるの頭を撫で回す。

声色は優しかったけど、どこか言い知れぬ圧を感じた。

 その間も、響希の片腕はしっかりと奏美の腰に回っていた。

奏美は、緊張した様子でありながらも嫌がる素振りは見せない。

まるで、それが当たり前とでも言うかのように響希の腕の中に収まっている。

オレのもん。

やはりこの二人はそういう関係なのだろうか。

でも先程、奏美は響希をただの友達だと言っていた。

 ――それよりも、まず踏まれている足が痛い。

 

「あのー……痛いんすけど……」

 

 弱々しくも、裕太が抗議の声を上げる。

ようやっと、響希が裕太を見やる。

きょとん、と。

人の足を踏んでおいて響希は平然としていた。

 

「あー、新入りやっけな、お前。天内裕太、やったか。白砂のこと好きなんやっけ?」

 

「へ? あ、はい……そうっす」

 

 あまりにもさらっと自分の恋心を指摘されて、流石に裕太も恥ずかしくなってしまう。

でも否定する理由もないから頷くと、響希は探るような視線を裕太に向けてきた。

 

「白砂のこと愛しとる? 白砂以外目に入らん、興味ないって言えるか?」

 

「……言えます、けど」

 

 何の躊躇もなく、裕太は返事をする。

彼の桐への愛情は、揺るがない事実なのだから。

そこで初めて、どこか張り詰めていたような異様な空気が、やっと和らいだ気がした。

何となく感じていた圧が、消える。

 裕太の足から響希の足が離れて、響希がにこっと人懐っこそうな笑顔を裕太に向ける。

 

「ならええわ! オレ、小坂響希! トランペットヴァインのアダムや! よろしゅうな、裕太! 仲良くしよ? あ、オレ雪高の2年生やねん。わかんないことあったらオレに聞いてやー!」

 

「……へ? あ、はい。よろしくっす!」

 

 無遠慮に片手を掴まれ、無理矢理握手させられ、ぶんぶんと上下に手を揺さぶられる。

明るくて気のいい先輩、という認識でいいのだろうか。

それにしては、先程まで肌で感じた不穏な空気は何だったんだろう。

小坂響希――不思議な人だ。

 

「八尋は裕太の案内かいな。八尋が他のパイロットの面倒見るなんてなー。人って成長するもんなんやな。兄ちゃん感動したでー?」

 

「な、なんスかその言い方! オレをガキ扱いしないでくださいよっ。響希さんだってちっこいくせに!」

 

「ちっこい言うなやアホ!」

 

「事実っしょ!」

 

 ぎゃあぎゃあと、八尋と響希が言い合いを始める。

その間に、ほたるはまた奏美に甘えていた。

奏美が愛おしそうにほたるの頭を撫でる。

相変わらず腰に回っている響希の手のことは、奏美は特に気にしていないようだった。

ただの友達にしては、この二人は距離が近すぎる。

 

「ああもう、響希さんのばーかっ! ほら、裕太。行こうぜっ。ここにいるとチビがうつる!」

 

「うつらへんわ!」

 

 響希に悪態をついて、八尋がずるずると裕太を引きずっていく。

何となく裕太がぱたぱたと手を振ってみると、ほたると響希が手を振り返してくれた。

奏美は、ずっと恥ずかしそうに俯いていたけど。

 

 

 

 

「だから、やめとけって言ったろ」

 

「へ?」

 

 食堂を後にした所で、八尋が苦々しく口を開いた。

何のことだろうか、と裕太は疑問符を頭の上に浮かべる。

 

「あんま、衣笠さんに必要以上に近付かねー方がいいぞ。響希さんにひどい目に遭わされっから」

 

「え、マジっすか?」

 

「マジ。さっきだってお前足思いっ切り踏まれてたろ。あの人、衣笠さんには何でかやたら過保護なんだよ。普段は明るいし、オレもうまくやれてっけど……オレ、時々あの人のこと良くわかんなくなる」

 

 過保護。

それにしては、何だかもっとどろついた、ぎらついた感情が見え隠れしたような気がした。

ふと、裕太の脳裏を神名清文の言葉がリフレインする。

もしかして。

 

「あ、そっか。あの人が『ヤンデレ』か!」

 

「は?」

 

 勝手に納得した裕太を見て、微妙に鈍いらしい八尋だけは怪訝そうに眉を顰めていた。


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