やっと活動報告にも書いた用事が終わって再開するので初投稿です。
「あら……?」
藤丸家のはす向かいにある自宅にて、ニュクスは新たな神衣として例のアレ――もとい胸開きタートルネックを作るためにやたら仰々しく、禍々しい形状のミシンに向き合っていると、ふとそんな言葉を溢す。
(やっと本格的に動いたのね)
ニュクスは少し前から、この駒王町に入っているそれなりに高位の堕天使――コカビエルが駒王町自体に仕掛けられていた時限爆弾型の術式を起動したことを感じ取ったのである。
(立香たちは……みんな人魚様にご執心)
藤丸家の方に意識を向ければ、立香を始めとした全員が眠りについており、起きる様子がないことは見て取れる。唯一、カーマは眠りながらも注意を払っているため、いざとなれば駒王町が丸ごと吹き飛ぼうとも、藤丸家の敷地だけは守護し、綺麗にそのまま残る筈だ。
要するに我関せずだ。駒王町が消し飛ぼうが、立香さえ生きていればどうでもいいという考えが、それだけで伝わってくるため、いっそのこと清々しい程であろう。
「ふふっ、可愛いげがあるんだか……ないんだか……。仕方ないから
そう呟くとニュクスは闇を纏い夜を利用して空間そのものを歪曲させ、コカビエルがいる場所――駒王学園の校庭を遠視してみる。結界が学園を覆うように張られていたが、彼女にとっては無いに等しい。
そこでは見覚えのない聖剣使いを含めたグレモリー眷属が、数本のエクスカリバーを束ねたものを持った神父服を着た白髪の青年と交戦していた。
「ふーん……」
ニュクスはそれを興味無さげに眺める。聖剣など彼女からすれば、料理をしない女にとっての包丁と大差無い。
関わるのも面倒だと考えていると、木場の神器がこれまでとは別の方向性の覚醒を果たし、エクスカリバーを打ち破った様子を目にしたことで、ニュクスも目を丸くした。
(へぇ……考えてなかったけれど、"聖書の神"が死去してから神器の性質も少し変わったのね)
神器の悪用の幅が広がったため、ニュクスが早速それに思考を割いていると、彼女の目にも映っていなかった人間をひとり殺したコカビエルが、グレモリー眷属に語り掛け始める。
「フフッ、お優しいこと」
本来ならば"聖書の神"の死など教えてやる必要もない。三勢力の戦争に関わった者ですら大多数の者は、それすら知らずに死んでいるのだから冥土の土産にしても高過ぎる情報と言える。
まあ、聖職者にその事実を突き付けた時の反応はニュクスも酒の肴ぐらいにはなると考えているため、決してわからないことでもなかった。
そして、会話を終えるとすぐにコカビエルとグレモリー眷属たちとの戦闘が始まり、まず赤龍帝の鎧を纏ったイッセーが突撃し、コカビエルの光の槍と彼の拳か交錯したことで、余波だけで校庭にヒビを入れる衝撃波を生む。
(あらあら、四半期と経たずに、あれだけ成長しているのは流石赤龍帝ねぇ。今代の白龍皇とは勝負にもならないかと思っていたけど……中々どうしてわからないじゃない――)
アルテミスとオリオンに鍛えられたとは言え、既に聖書の堕天使レベルの相手と互角に交戦出来ているだけでなく、若干コカビエルを押している様子のイッセーにニュクスは純粋に関心を覚える。ただの人間ではあったが、元々のポテンシャルもかなりのものなのだろう。
しかし、それと同時にニュクスは、とても惜しいものを見るように少しだけ悲しげにイッセーを眺める。
(けれど、残念。ボウヤには早過ぎる相手だわ)
実際にニュクスがそう思い始めてから徐々にイッセーがコカビエルに押され始めた。
確かにイッセーは女神アルテミスによる修行で強くはなった。今の純粋な魔力や力はコカビエルさえも一回り以上超えていると見える。
しかし、あまりにもイッセーとコカビエルとでは"経験の差"が違い過ぎたのだ。
あくまでもイッセーはつい最近、転生悪魔になったばかりであり、戦闘経験で言えば1週間の女神アルテミスと、1回のライザー・フェニックス程度のもの。加えて、その戦闘スタイルは喧嘩殺法もいいところと言える。
それに対してコカビエルは、常に最前線で天使と悪魔と戦ってきた堕天使。彼の実力よりも、その身に宿る戦術経験及び対悪魔技能は他の追随を許さない程に高い。伊達に戦争屋ではなく、防御とカウンターをしつつ、光の槍と剣を使い分けることでイッセーに己の武術を慣れさせないようにもしている。意外にも堅実な戦闘スタイルであり、それ故に今日まで生き残ってきたのであろう。
結局のところ白龍皇と違い、赤龍帝の攻撃は当たらなければ何も怖くはないのである。また、完全な超高速での空中戦にコカビエルがシフトしているため、ほとんどグレモリー眷属の支援が望めないことも一因であろう。誰かひとりでも超高速で飛び回るコカビエルを空中で羽交い締めに出来るものでもいれば、勝負は一撃でついたかもしれないが、無い物ねだり以外の何物でもない。
更にやはりというべきか、堕天使の光は悪魔にとっても弱点のため、防御するだけでも見た目以上に尾を引くダメージになることも拍車を掛けており、拳とコカビエルの光とが衝突する度に、少しずつイッセーにダメージが蓄積するため、長期戦は不利以外の何物でもなかった。
ちなみに今のことは全て、コカビエルが戦闘の片手間にイッセーとグレモリー眷属に対して似たようなことを話していたりする。
「お人好しな堕天使ねぇ……」
"意外とあの堕天使、お喋りで優しいんじゃないかしら……?"等とニュクスは考えていた。本来なら教えてやる義理もないことである。
(いえ……単に死に場所が欲しいだけかも知れないわね)
コカビエルが生粋の戦争屋であることは、ニュクスからしても頷けることだった。しかし、三勢力のほとんどは既にこれ以上の戦争はしたくないと、和平という新たな道を歩もうとしているのはニュクスから見ても明らかである。
そのため、時代に取り残されることを感じたコカビエルはそんな時代が来る前に、最後に一花咲かせて退場しようとしているのかも知れない。そのついでに、名のある堕天使であるコカビエル自身が、悪魔及び天使陣営に対して問題を起こせば、堕天使陣営は和平の席に着かざるをえなくなる。仮にそこまで考えて腹を括っての行動ならば、大したものだとニュクスは考えていた。
ニュクスが思考していると、遂に戦局は決定する。
「残念。それまでね」
イッセーがコカビエルから光の剣による一閃を受け、校庭に墜落させられた光景を見たニュクスはそう呟く。しかし、言葉とは裏腹に全く面白い娯楽を見せてもらったとでも言いたげな様子だった。
そして、小さく溜め息を吐き、ふと天井を見つめながらニュクスは思い出したように笑みを浮かべる。
(私も……絆されたものね……)
仮に一昔前の自分ならば、街ひとつ消える程度では娯楽にさえならなかったであろう。しかし、こうして重い腰を上げてでも"善い"ことをするなど、他のギリシャ神話の神々が見れば、ニュクスがこれまでしてきた事や態度や性格から比べて絶句するような光景と言えよう。
ニュクスは指を鳴らすと服装をネグリジェから"童貞を殺す神衣"に着替え、駒王学園に繋げている闇と自身を繋げた。
(いえ……ようやく失いたくないものが見つかったと言うべきかしら?)
更に街よりもひとりの人間。そんなことのために自分が動くのが可笑しくて堪らない。
そして、とりとめのない、どうしようもないほど普通で矮小なただの男を守ることが、それと等しいほどニュクスは嬉しく、それ以上に愉しかった。
「私って案外……男の趣味が悪いのかしら?」
そんなことを最後に呟き、ニュクスは闇と共に跡形もなくこの場から消え去った。
◆◇◆◇◆◇
「敢闘賞といったところだな……」
コカビエルは十枚の翼を広げ、遥か上空から地に伏して赤龍帝の鎧が解除されたイッセーを眺め、感心した様子でそう呟いた。
「くっ……うっ……クソッ!?」
イッセーはなんとか体を起こして立ち上がり、再び戦おうとするが、そのままバランスを崩して倒れる。それを見たアーシア・アルジェントや、リアス・グレモリーが駆け寄り、"
コカビエルはその様子を見つつ、光の剣を消すと胸ポケットから煙草を取り出して火をつけ、大きく煙を吐き出した後、口を開いた。
「無駄だ。悪魔に対して光力は、肉体以上に精神を削る毒だ。その神器では心までは癒せん。転生悪魔にしてはよく喰らいついてきたものだよ」
そう言ってコカビエルは再び煙草を吹かす。そして、まだ火の付いた煙草を投げて捨てると、赤い瞳をつり上げ、満面の笑みを浮かべつつ虚空を眺める。
「ようやく本命のご登場か……」
『あらあら……最期の一服ぐらいもう少し楽しんでもよかったのよ?』
その言葉と共に、リアスの影が不自然かつ不気味に隆起し、闇そのもので出来た人型を象る。そして、直ぐに闇そのものは、女性的なフォルムを帯び、余りに完成した美少女の姿をしたニュクスとなった。
そして、直ぐにニュクスはリアスの肩にもたれ掛かり、愉しそうでありつつもどこか冷えた視線をリアスに向ける。リアスは死神に見初められたような感覚を覚え、小さく身震いする。
「にゅ、ニュクスさん……」
「……リアスちゃん。あなたの悪い癖よ? どんなことでも自分で解決出来るだなんて、思い上がりも甚だしいわ。一言……彼や私に声を掛けるべきだったのではなくて?」
ニュクスはリアスを正面に向かせ、鼻が付きそうな程の距離まで近付く。同性すら容易に魅力するニュクスの美貌は、このときは恐怖をも含んでいた。
「そ、それは――」
「だーめ――」
「ひっ……」
一切、抑揚を変えず、いつも通りの笑みを浮かべながらニュクスはリアスの首筋に舌を這わせる。酷く性的な動作と、それと対局に位置する底知れぬ闇による恐怖によって、リアスは青い顔をして遂には震え出した。
「可愛い娘……でも次はないわ」
一瞬だけ、真顔になったニュクスは、そうリアスに釘を指してから彼女から離れ、コカビエルの元へと向かった。
ニュクスが出現してから、グレモリー眷属と教会の聖剣使いであるゼノヴィアは、その余りに神らしく堂々としつつ、ふてぶてしいまでに圧倒的な存在感を前に一切、口を開くどころか動くことも叶わない。これが原初の女神の神威というものなのであろう。
要するにそれほどまでに、藤丸立香が一方的に巻き込まれたことに対して、ニュクスは不機嫌だったのだ。
そして、ニュクスはコカビエルと同じ高さに浮かび、いつもよりも暗く不敵な笑みを浮かべ、闇色の瞳を妖しく輝かせた。
「ふふっ、でもあなたはリアスちゃんよりも、もっとずっと傲慢で不遜な堕天使ね。リアスちゃんたちだけを殺すなら、私もカーマも動かなかったけれど――彼が住まい、彼を含めたこの駒王町そのものを対象にすれば、愛の神か、夜の神か、冥府の神を相手取ることになるのよ? その覚悟は出来ていて?」
「知ったことか。堕天使が最強だという証明。そして、戦争が出来ればそれでいい!」
「……ふーん、まあいいわ。あなたが本当の馬鹿でも、自己犠牲的な馬鹿でも私には関係のないことよ」
そう言うとニュクスは、その艶かしい肢体に薄く闇を纏わせる。たったそれだけで、手足の周囲を空間が悲鳴を上げるように軋み、空が裂ける異音が響き、一目で並々ならぬモノだということが理解できた。
「なら"戦争ごっこ"をはじめましょう? 負けた方は勝った方の言うことを無条件で受け入れる。戦争らしいでしょう?」
「くだらん……殺すか、殺されるかだ!」
ニュクスに対するコカビエルは、空を埋め尽くすほどの光の槍を駒王学園の上空に出現させ、両手に光の剣を構えて対峙する。
コカビエルは高揚しつつも、その額には汗が浮かんでおり、震えながらも楽しむ様子から、彼が根っからの戦争屋だということが理解できよう。
「さぁ……
「――――抜かせッ!!」
先に動いたのはコカビエルであった。
コカビエルはニュクスだけに対し、上空の全ての光の槍を放つ。空を覆う針山を一点へと向けたようなその光景は、聖書の再現そのものであり、グレモリー眷属らも思わず、ニュクスを気遣う声を上げる程だ。
しかし、相手はギリシャ神話に名を轟かせる原初の女神である。そんな相手に、高々聖書の一節にある堕天使程度では、余りに不釣り合いと言えよう。
「私、天使も堕天使も好きよ? なんだかんだ明るいのは嫌いじゃないもの。ピカピカしてて素敵だわ」
ニュクスがそう呟き、戦闘の光の槍が肢体に届いた次の瞬間――パチンと指を鳴らす音と共に、上空にあった全ての光の槍が、最初から無かったかのように次々と消滅し、暗く静寂な夜空へと戻った。
「なに……?」
余りに異様な光景にコカビエルは、思わずそう呟くと共に放心する。ニュクスとの実力差はわかっていたが、ここまで彼の知る戦争から外れた自然現象のように異様な自体が起こるとは思っていなかったのであろう。
そんなコカビエルの様子を見たニュクスは、舌を出し、自身の下唇に這わせてから、両手の人差し指で小さくバッテンを作って見せる。
「残念……けれどマッチ程度の光では、深淵を照らせはしないのよ。たちどころに夜風で掻き消されてしまう」
そして、ニュクスは童話を読み上げるように言葉を吐きながら、コカビエルに片腕を向けた。
すると、煙が晴れるように最初からその場にいなかったのではないかと錯覚するほど自然にニュクスが消え、それとほぼ同時にコカビエルは後ろに振り返ると虚空に光の剣を震う。
「こんな風に――」
「がぁぁぁ――!!!?」
振り返って斬りつけたコカビエルの目の前に全く予備動作なく現れたニュクスは片腕を振り抜き、彼が構えていた2本の光の剣ごとただ殴り付けた。
それだけで光の剣は意とも容易く霧散し、コカビエルの胴体に陶器のように白く柔らかそうな拳が突き刺さると共に、純粋な衝撃と破壊力のみでコカビエルを墜落させ、駒王学園の校庭を中心に巨大なクレーターを刻み、それだけにとどまらず新校舎の一部が倒壊する程の余波を生み出す。
「――ね?」
誰が見ても明白であろう。勝負とも戦争とも言えるわけもない、ただの弱い者虐めは、たったの一撃で決したのである。
コカビエルと比べれば遥かに体格が小さく、触れたら壊れてしまいそうな美しい人形のような体のニュクスが、ただの力業で捩じ伏せて見せたことにグレモリー眷属らは開いた口が塞がらない様子であった。
叩き落とされてクレーターを刻んだコカビエルはどうにか立ち上がる。しかし、既に限界以上に体にダメージを与えられ、満足に動くことさえままならず、半ば引き摺るように戦争への執念だけで立っていたため、最早彼に憐れみさえ覚えてしまうだろう。
原初の神とは、決して理解が及ばぬ畏怖と絶望の権現。ただ過ぎ去ることを待つだけの自然災害の具現。敬虔でたゆまぬ信仰の理想の果て。それらに名をつけただけに過ぎず、初めから相容れるモノでも、対峙できるモノでもないのだ。
そして、ニュクスは"夜"。夜そのものに勝てる生物などそう易々と存在するわけもない。神とは全くそれでよいのだ。
「ぜぇ……ぜぇ……! ククク……まさか、原初の神クラスがここまでとは……!」
「あら? 少しばかり手加減し過ぎたわね。意識を刈り取るつもりだったんだけど――」
次の瞬間、再び全く予備動作無しでニュクスは転移し、コカビエルの目の前に降り立つ。それに対してコカビエルは、絞り出した光力で光の槍を造り出し、辛うじてニュクスへと向ける。
その矛先にニュクスは立てた人差し指を付けると、コカビエルの体は、まるで石像にでもなったかのように動かせなくなった。
「なっ……」
「
「ふざけ――」
その直後、コカビエルは自分自身の影から伸びたニュクスの闇に全身を拘束され、更にそのまま沼に沈んで行くように闇へと徐々に堕ち始める。彼は抜け出そうともがこうとするが、それさえも紙に染み込むかの如く纏わりつく闇が許さない。
「くっ……こんなバカな……殺せぇぇ!!」
「やーだ。あなたは戦争ごっこに負けたの。うふふ……合法的に聖書の堕天使が手に入るだなんて、中々いい拾い物が出来たわ。ありがとう、リアスちゃん。これで今日の借しはなかった事にしてあげる」
「――えっ? あっ……そ、そそ、そう……ありがとうございます……?」
急に話を振られたリアスは、全く予想していなかったようで、普段の彼女らしからぬ妙な事を口走っているが、そのうちにニュクスはコカビエルの回収を終えた。
それからニュクスは服に少しだけ付いた砂埃を払う。そして、恭しく淑女らしいお辞儀をグレモリー眷属らに行いつつ背後に闇を浮かべ、そこに背をつけると徐々に沈み始める。
「では、皆々様。どうかいい夜をお過ごしください。さようなら」
そして、消える直前、ニュクスは思い出したように指を立てると、夜空のある場所に半分だけ顔を向けてポツリと呟く。
「ああ、そうそう。ずっと見ていた白龍皇のボウヤ。隠れてないでもう出て来てもいいわよ? 後はよろしくねリアスちゃんたち」
『……………………』
コカビエルを回収する予定で駒王学園に来ていたが、ニュクスの出現で全ての予定を狂わされた白龍皇――ヴァーリ・ルシファーから苦虫を噛み潰したような視線を受けつつ、ニュクスは楽しげに鼻唄を歌いながら消えて行った。
FGO名物負けたらギャグ要員。
『コカビエル』
・キャラクター詳細
旧約聖書のエノク書に登場し、グリゴリと呼ばれる一団に属する堕天使。シェムハザら200人の堕天使は人間の女性と交わる誓いを立て、コカビエルは人間に天体の
・パラメーター
筋力:A 耐久:A
敏捷:B 魔力:A
幸運:C 宝具:C
・プロフィール1
身長/体重:?/?
出典:旧約聖書
地域:欧州
属性:混沌・悪 性別:男
最も壮烈に他の陣営と戦い抜いたグレゴリ幹部のひとりであり、既に生粋の戦争屋であった堕天使は彼を除いて残っていない。