感想のみんなの想いでニュクスさんは巨大ロボ(or巨大戦艦)にしましたが、特に違和感がなかったので初投稿です。
「うーん……」
藤丸家に住んでいる冥界の女主人――エレシュキガルは古いものや、普段使わない衣類を洗濯しているとあることに気がつく。
(明らかに女性モノの衣類が多いのだわ……)
それは立香が高校生になったため、カーマと近所のニュクスもいるという事で、魔術の方に力を入れ、長期の出張が増えた立香の両親2人に、カーマとニュクスを足したとしても異様に余る女性用の衣類の数々であった。
しかも、カーマが着ていれば似合いそうな物はあるが、カーマが着ているところをエレシュキガルが見たことはなく、ニュクスの趣味や、立香の母親の趣味からは掛け離れている。
(自然に考えれば、この家にそこそこの頻度で出入りしている他の女性の服よね……)
そう考えると、一瞬立香が見知らぬ女性を家に連れ込む姿が思い浮かび、心の中に何か黒いモノが立ち込めたが、直ぐに立香はそんな人間ではないと否定して、その考えを振り払う。
ふと、衣類の中でカーマや、ニュクスや、立香がたまに着ているデザインに近いTシャツを見つけて広げてみる。どのデザインとも異なり、赤い生地に"Buster"という文字の入ったTシャツである。
(………………なんだか、着てみたいのだわ)
何故か直感的にそう感じたエレシュキガルは、おもむろにそのTシャツを袖を通してみる。
しかし、身長159cmのエレシュキガルをして、若干ぶかぶかな大きさであった。恐らくは170cmほどの身長をした者が着ていたのであろう。
その上、胸の辺りの生地が伸びているらしく、スペースが余っている。エレシュキガルは決して小さいサイズではない筈なのだが、なんとなく負けたような気分になる。
「大きいのだわ……」
「ああ、そのTシャツならもう少し小さいサイズがあるよ」
「ひゃいっ!?」
急に掛けられた声にエレシュキガルは小さな悲鳴に似たものを上げつつ、声の方向を振り向く。そこには家主で、彼女の契約者である藤丸立香の姿があった。
「ごっ、ごめんなさい! 勝手に着ようというつもりじゃなくてその……」
「? ああ、全然いいよ。着られる方が服も幸せだろうし、家に置いて行ってるってことは予備みたいなものだから好きに着て」
「本当!? あ、ありがとう……。それじゃあ、出来ればその……これとこれと……後、このTシャツの小さい物を頂けないかしら?」
「もちろん、いいよ。あっ、そうだ。ニュクス知らない? 夕飯から暫くは居間にいたんだけど」
立香は少しだけ困ったような表情を浮かべる。ニュクスは最近はいつでも立香の側におり、夜間には名前を呼ぶだけで直ぐに現れるのだが、神出鬼没でもあるため、探すと見つからなかったりするのである。
まあ、この前に立香から離れた理由が、童貞を殺す神衣を作るためなので、基本的に大した理由でもなく、暫くすれば自然に戻ってくるため、立香としてもあまり気には止めていない。
「何か火急の用なのかしら? それなら私が――」
「いやいや、大したことじゃないから。学校の勉強――数学のことだからさ。帰ってきたら聞くよ」
「数学?」
エレシュキガルが立香の手を見ると、駒王学園で使われている数学の教科書が握られている。
「うん、ニュクスって理数系が無茶苦茶得意みたいなんだよね。本人は"昔取った杵柄"って言ってるけど……」
「いや、そりゃそうでしょうよ……真体持ちのギリシャ神だもの……出来ない方が可笑しいわ」
「ははは、だよね」
そんな冗談混じりの会話をしつつ、立香は勉強に戻り、エレシュキガルは誰が出入りしていたのかということを聞くことはさっぱり忘れ、楽しげに衣服の整理を始めるのであった。
◇◆◇◆◇◆
「みんな! こんばんはー! 今日もいい夜ね!」
「はいはい、2日目も頑張れよー」
アルテミスとオリオンが先生として来てから2日目の夜。昨日よりはやや欠けた月をしてはいるが、相変わらずアルテミスに気を使ったかのように雲ひとつない快晴である。
「じゃあ、アーシア! 頑張ってね!」
「は、はいぃ……!!」
前日、グレモリー眷属は手も足も出ずに先生を務めている女神アルテミスに敗北し、その後、あのネアカな調子のまま何度も何度も転がされては、焦ったアーシア・アルジェントの回復型神器――"
そして、わざわざ声を掛けたということは今日も同じようなことをやる気らしい。実に効率的で人道という言葉をどこかに置き忘れてきた所業である。
「と、ところでなんだけれど……率直に言って私たちは実力的にどう思うかしら……?」
「えっ? もちろん、ものすっごく弱いわよ? やだー! リアスったら! そんなの当たり前じゃない!」
ちなみに異様なほどの気安さもアルテミスの気質である。到底、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームに勝てなければ、鹿に変えて殺すと宣言している相手への対応ではない。
「でも、このままだとフェニックスを倒すだなんて夢のまた夢よー?」
「そ……そう、理由を聞いてもいいかしら?」
「あー、その辺りは単純に実力差だな。昨日のアルテミスは力を抑えて、精々……"魔王クラス"ぐらいで戦ってたにも関わらず、せめて一撃も入れられてねぇじゃないか」
「あれで抑えてくれていたんですね……」
「そんなのあったり前よ。アルテミスが本気で殺しに来てたら、お前らは今頃、夜空のお星さまだぞ?」
グレモリー眷属の騎士で金髪の青年――木場祐斗が渇いた笑いを浮かべながらそう言う。
それはグレモリー眷属全体の総意にも近かったが、やや自虐混じりのオリオンの言葉に彼らは閉口する。
「そもそも、元々のリアス嬢ちゃんたちの作戦では、フェニックスの三男坊にイッセーの"
普段はアルテミスの付属品のようであり、お調子者でアルテミスに比べればずっと人間味があり、優しい人格者のオリオンからそのような叱る言葉が出たことに、少なからず、グレモリー眷属らは気を引き締めた。
「あのなぁ……街にいるような飛ぶ鳥だって好きに動くんだ。ちょっとでも狩猟の嗜みがあればわかると思うが、方法や技量もなしにそれを落とすのだって意外と難しいんだぜ? 一番肝心なそこを考えてなくてどうするよ?」
「それは……」
リアスは自身が立てていた作戦にあまりにも致命的な穴があったことに今更ながら気付かされた。"
「向こうさんは風と炎を操り、自由に空を飛び、危ないと感じれば当たらないように避けるだろうよ。それに対してこっちは魔王クラスに達するまで威力を高めるのにどんなに早くとも数分は掛かりやがる。ライザーって奴に確実に当てれる自信がある奴がいるなら今手を上げてみろ?」
それに対して、グレモリー眷属で手を上げられた者が居よう筈もなかった。
現に前日のアルテミスとの戦いで、グレモリー眷属は空を浮遊したまま、必中に限りなく近いほど追尾してくる矢を放つだけのアルテミスに一撃たりとも入れることが出来なかったのだ。故にオリオンの言わんとしていることが、身をもってわかったことであろう。
「しかも、ライザーは格上の上級悪魔で、その眷属の数はリアス嬢ちゃんたちの約倍と来てやがる。数で負けてる以上はあまり攻勢は望めねぇだろうし、1度でも守手に入られたらライザーに取り付くのすら難しくなるだろ? だったら魔王クラスとまでは言わねぇけど、最上級悪魔クラスの相手を1体ぐらいは相手取れるぐらいの実力がないと厳しいんじゃないか?」
「えっ! ダーリンそれってもっと弱くしてってこと?」
「そりゃそうだ。昨日のままじゃ相手にもなってないもの。半分……いや、3分の1ぐらいで相手してやってくれ」
「えー……まあ、ダーリンの頼みならそうするけどー……」
アルテミスは渋々といった様子で頬を膨らませつつそんな事を言う。終始この調子のアルテミスという女神の本来の実力が一体どれ程なのかグレモリー眷属には見当もつかなかった。
「しかし、立香の奴はその辺りを考えて俺らに頼んだんだのかもな。普通に技量を高める修行の適役なら他に幾らでもいただろうしよ。つーか、普通ならせめて、魔法使いと剣士と武術家を呼ぶだろ。アイツの交友なら余裕だ余裕」
「えっ!? でも立香は電話越に俺から簡単な話を1度聞いただけで……」
「それは――」
『彼はそういうタイプの才能を持ってるのよ。言葉に表すのは難しいけれど……強いて言えば、観察眼――"
驚いた様子のイッセーに返そうとしたオリオンの言葉を遮って、どこからともなく妖艶ながら幼げにも思える女性の声が響き渡る。その声は"後、勘もいいのよ彼"と楽しげな声色で続けて呟かれる。
「あはは……ニュクスさん。こんばんはー」
「ニュ、ニュクスさん……今日はどんな要件で?」
その声にグレモリー眷属が困惑していると、アルテミスとオリオンが虚空に対してそんな挨拶を行う。
夜の女神ニュクス――ギリシャ神話の伝承において主神ゼウスにも畏れられている存在であり、現在は何故か駒王町に滞在している原初の女神の名だ。
『ええ、久し振りね。可愛い狩人のカップルさんたち』
すると月明かりに照らされ、僅かに見えるグレモリー眷属らの影が最も多く交わった部分が隆起し、まるで泥沼から生えるように人影が現れた。
体の表面を覆っていた影を霧散させ、全容を現したそれは、闇を束ねたような黒髪に、あどけなさを残す顔立ちをしながらも、それに不釣り合いなほどの妖艶な魅力と、明らかに人間のそれではない神性を纏った明らかな女神である。
「ふぅ……やっぱりちょっと透けるわねぇ」
「えっ? ニュクスって誰――」
出現してから体の状態を確認しているニュクスに対し、何も知らないイッセーがそう呟こうとした直後、アルテミスの頭に乗っていたオリオンが駆け込むようにイッセーの肩へと飛び乗り、耳打ちする。
(き、気をつけろイッセー!? 詳しくは語れんが、ニュクスさんはアルテミスと比べても文字通り"規格外"なんだ!? その気になれば一瞬で――)
「うふふ、お口にチャックよ」
「あんっ……!」
「きゃっ!? ちょっと! ダーリンに乱暴しないで!」
「おまいう……」
ニュクスがオリオンに指を向けて軽く振るうと、イッセーの肩からオリオンがボールが弾むように吹っ飛び、弧を描いてアルテミスの谷間に挟まった。
「夜の女神ニュクス……ここに一体何をしに来たの?」
「あらあらそんな固くならないの。大した理由じゃないわ。立香からリアスちゃん達が頑張っているってさっきのお夕飯のときに聞いたから応援しに来ただけよ? うふふ……本当にそれだけ」
ただ、そこにいるだけで神性による存在感と闇そのもの故の威圧感を放つニュクスに、面識があろうとも明らかにリアスはアルテミスを前にしたとき以上に緊張している。
無論、彼女の悪戯っぽくもある表情や仕草からそうは見えないとも受け取れた。そのため、夜の闇のように掴み所のない存在と言えよう。
「それに私は夜そのもの。夜の訪れは私の訪れ。誰も私からは逃れられず、どこにでも私はいる。闇夜に私の所在を訪ねるのは無駄よ?」
「そ、そう……。そう言えば立香との関係について……私、全く知らなかったのだけれど……?」
「そうだったかしら……ごめんなさいね? けれど他者の恋路に首を突っ込むのって野暮なんじゃないかしら?」
そう言うとニュクスは何かに気づいたように"あら?"と声を上げ、嬉しそうに笑みを浮かべると口を開いた。
「彼が呼んでいるわ。帰らなくちゃね」
すると今度は次第にニュクスの体が、徐々にほどけるように消えていく。それは余りに幻想的で現実味のない光景であり、神という存在がどれほど出鱈目な生物なのかということが一目でわかって尚、余りあるであろう。
「ああ、そうそう。リアスちゃん」
その途中で、ニュクスはリアスに視線を向け、届かないにも関わらず、ニュクスは指でリアスの首筋を空になぞる。すると、確かにリアスはぞわりと何かに背を撫でられたかのような感覚を受ける。
『私は義理堅いの。死の具現でもあるニュクスの名に誓うわ。滞在することを許されている
それだけ言い残すと、ニュクスは再び夜の闇に沈むように消え、最初からそこには何も居なかったかのように跡形もなく消滅した。
そして、誰も何も言えない無言の時間が続き、それを打ち破ったのは、頭を掻いて気を使った様子のオリオンである。
「あー……リアス嬢ちゃん……アルテミスをけしかけている身でこんなことを言うのもなんだが……悪いことは言わないから、神には関わらん方がいい――俺みたいになるぞ」
オリオンの現実味が籠り過ぎた自虐に等しい言葉にグレモリー眷属は、表情を強張らせるしかなく、昨日よりも一体感を得た面々は、幾らかシンパシーを共有しつつ今日の修行が始まるのであった。
義理堅くてやさしいニュクスさん(ギリシャ神話基準)
もうちょっとだけフェニックス編は続くんじゃ(現状、ハイスクールD×Dにあるまじき戦闘描写の少なさ)
~QAコーナー~
Q:女性モノの服があるってことは立香は他にも女を囲ってるの?
A:立香くんのオレンジ頭の父親が発生しうる人間関係について考えてみよう。
Q:ニュクスさんってどんな用途のロボor戦艦の予定?
A:考えるのも楽しみだと思うので、明言はしませんが、ハイスクールD×Dの世界で真体があるのならば、ニュクス(真体)が設計段階で何と戦わせる予定だったのかということを考えております。