リリカルクエスト   作:アバン流

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連続投稿です。この話の後簡単な設定集を乗せます。

今回の話も前回同様色々と捏造が混ざっております。
また配合結果をかなり弄くっていますので実際の結果とはまったく違います。ご注意ください。
それではごゆっくりどうぞ。



第9話 『たくさん悩んで考えて……それで進んでほしい』

 僕たちの闘いを見て、はやてがモンスターマスターになりたいと聞いて、嬉しさはあった。

 

 はやてにもモンスターマスターの才能がある。それを知ったのはカレキの国に招かれる可能性があったのは僕以外にもいたと聞いたとき。あの日かくれんぼうは僕の元にやってきたけど、本当ははやても健康だったら一緒にカレキの国に招くつもりだったらしい。

 

 当時ははやてがモンスターマスターになったらとても強くなるだろうと思い、足が治ったら誘ってみるのもいいかもしれないと考えていた。それと同時にモンスターマスターになっても長続きしないだろうという予感もあった。

 

 はやてはとても家族思いの優しい子だから。自分が仲間にした子は必ず大事にするだろう。だけど配合という“別れ”を何度も耐えきることができるのか?

 

 新たな“出逢い”があるとしても、その出逢いのかわりに今までいた子と離れ離れになる。それをはやては受け入れることが出来るだろうか?

 

 恐らく出来ないだろう。今、目の前で必死に配合をやめるように説得してくるはやての姿を見てそう確信した。あの時に配合について説明をしたけど、はやては完全に理解をしていなかった。

 これは僕の説明が悪かったのか、はやてが別れという言葉を自分の都合の言いように曲解していたのか分からない。でもその姿は昔の僕にそっくりだった。…………うん、そのことを考えるのは後でいい。

 僕が今やるべきことは、はやてを落ち着かせることだ。

 

「……シャディもサイモンもめっちゃ強いやん。配合する必要あらへん!!」

 

「うん、確かにサイモンたちは強い」

 

「せやったら……!」

 

「でも配合したいってサイモンたち自身が決めたんだ。それを僕が止める権利はないよ」

 

 モンスターが仲間になる理由の多くは強くなるためだ。だからより強くなるために配合を望む子たちが多い。中には配合を拒否する変わり者もいるけどね。そういうのは極一部で、自分が足手まといになると判断した子たちは次世代に想いを託してマスターの元を去っていく。

 それにシャディやサイモン自身が配合したいという意思を示しているし、この子たちは既に成長の限界だ。もう自分たちでは僕の力になれないから……。

 だから次の世代へと託すために配合する。それだけの決意を示してくれたからこそ、配合しないというのはこの子たちを侮辱することになる。

 

「それに何で今日まで隠しとったん!?」

 

「落ち着いてください、妹様。私がマスターに配合する直前まで秘密にしておくように頼んだのです」

 

「………何で? 何でシャディたちはそんな落ち着いてられるん!? 兄ちゃんや他のみんなともう会えへんようになるんやで!?」

 

 僕が配合を止めないと悟ったはやては、落ち着かせようとしたシャディたちに説得を始める。まあ確かにシャディたちが配合を撤回するなら僕も何も言わないけど、多分無駄だと思う。

 案の定シャディは興奮しているはやてを宥めるように言葉を紡いだ。

 

「確かに妹様の言うとおりもうマスターとともに戦えないことは悔しいです。ですが私たちではもうマスターのお役には立てません。だからこれは仕方がないことなのです。………ですが、本音を言うならば、私たちの手でマスターを究極のモンスターマスターへと導きたかった」

 

「……我らの力はスカルたちよりも劣っている。マスターがこの先に進むためにも我らはここを去らねばならん」

 

 それはシャディたちの本心なのだろう。僕たちと一緒に頂点を目指したいという思いと、自身が足手まといになるかもしれないという思い。それらを天秤にかけてシャディたちは配合という道を選んだ。

 

「わからへん……わからへんよ」

 

「はやて。それは――「もう嫌や!! 聞きとうない!! 兄ちゃんらのわからずや!!」――はやて!」

 

 はやては耳を塞ぎ拒絶するように頭を振りそう叫ぶと、泣きそうな顔をして脇目も振らず酒場を飛び出していった。不味いな……ああなってしまったはやてはとても頑固だ。以前に些細なことで口喧嘩した時も機嫌を直すのに苦労した。それに今回は僕が黙っていたのもあったし――

 

「兄貴、呆けてる場合かよ! 早く追いかけるぞ!」

 

「あっ……」

 

 冬至は僕の肩を揺さ振りながらそう言うと、正気に戻った僕を見て酒場を飛び出して行った。そうだ……今はこんなこと考えている場合じゃない。急いではやてを見つけないと。

 

「スカルたちはここにいて! 僕も探してくるから! あと迷惑料代わりも込みで酒場の人たちに払っておいて!」

 

 それなりの額が入っている小袋の一つをスカルに投げ渡すと僕は酒場を飛び出した。

 広場はもう遅い時間のためか疎らにしか人がいない。広場の隅々まで見渡すが、はやてはおろか冬至の姿もなかった。車椅子の速度じゃそこまで遠くに行っていないはずだけど……。もしかして下っていった? 大樹から落ちる危険性はないはずだから大丈夫だろうけど、冬至は何処にいるのだろうか。

 

【冬至、今何処にいる?】

 

【車椅子じゃ上には行けないだろうから、広場から下っているところだ。兄貴は?】

 

【まだ広場。隅々まで探したけど見つからなかったから今から追いかける】

 

【ああ、わかった。見つけたら連絡する】

 

 どうやら考えていることは同じらしい。冬至への念話を終え、後を追おうと走り出そうとしたとき足元から聞きなれた声が聞こえた。足元へと顔を向けると、そこにいたのはトリーズだった。

 

「トリーズ? ごめん今急いでるから――」

 

「はやてがー」「何処に行ったかー」「知ってるよー」

 

「え?」

 

 何でトリーズが知って……ああ、そうか。トリーズたち外にいたからはやてが何処に行ったか見てたのか。そう納得し、一体何処に行ったのか尋ねると、予想外の答えが返ってきた。

 

「「「シャインが連れてったー」」」

 

 はい!? 一体何考えてるのさ!? ……あー、シャインの性格を考えると放っとけないか。

 それにどうやって乗せた……あ、周りの子たちが乗せたの? 車椅子は……紐で固定した? ああ、そうなんだ納得した――って、違う!

 

「何処に連れてったの?」

 

「「「上ー」」」

 

 上!? ってことは牧場か……危ない、逆に行くところだった。

 トリーズに礼を言い、スカルたちと一緒にいるように言いつけて上へと駆け出す。

 

 待っててよ、はやて!

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 牧場に着いて直ぐにシャインを見つけた。シャインの元へと歩いていくと、シャインの上に乗っているはやてを見つけた。冬至に発見したと念話しておき、酒場に戻っておくように頼む。

 

【下に行ったのは無駄だったか。……まあはやてが見つかったから別にいいか。じゃあ俺は先に酒場で待ってるからな】

 

【ん、悪いね。……それとさ、冬至はサイモンたちの配合のことどう思った? やっぱり反対?】

 

 冬至がサイモンたちの配合をどう思っているのか尋ねる。

 さっき何も言わなかったけど、もしかしたら冬至もはやてと同じ思いなのではないかと思ったが、返ってきたのは深いため息だった。

 

【はぁ……。あのなサイモンたちとの付き合いが長いのは兄貴なんだろ? その兄貴たちが決めたことなら俺は余計な口出しをする必要はないだろ? まあ直前まで隠してたのは少し思うとこはあったけど、そんだけだ。そんじゃ、しっかりはやての機嫌直しとけ。…………それとはやてに同情して配合を今度にするなんて言うなよ】

 

 いつもと変わらない……いや、やや呆れたような口調でそう言い切ると僕の返事も聞かずに冬至は念話を切った。

 ……やっぱり僕らの中で一番強いのは冬至なんだろうなあ、本当羨ましいよ。それに僕が迷わないようにきっちり釘も刺してきた。冬至の言葉に幾分か落ち着いた僕は改めてシャインの方へと歩き出す。そしてシャインの上に飛び乗ると普段と変わらない調子ではやてに声をかけた。

 

「はやて」

 

「あ……」

 

 声に気付いて顔を上げたはやては、泣き腫らしたのか目が少し充血していた。

 僕の姿を見て気まずそうに顔を逸らす。

 

「マスター……ハヤテハ――」

 

「大丈夫、分かってるから。後は僕に任せて」

 

 はやてを擁護しようとするシャインを制する。

 シャインの性格から泣いてるはやてを放っておけなかったのだろう。でも伝言位はトリーズに伝えておいてほしかった。

 

「……はやて、ちょっと歩こうか? …………それからシャイン。別に今回のことで怒っていないから酒場に戻っててね」

 

「……リョーカイ」

 

 はやてが頷いたのを確認して、シャインから降ろして牧場の先へと進んだ。

 既にほとんどのモンスターが寄宿舎に戻ったのか、夜の牧場には夜行性のモンスターが数体残っているだけであった。その子たちも歩いてくる僕たちの方に視線を向けるけど、察してくれたのか興味がなくなったのか、すぐにその視線もなくなった。

 そこから更に進んで、枝の先の方まで移動すると目的の場所に到着した。

 

「はい、到着。ここが一番空が良く見えるんだ」

 

 夜空に見える星々は明るく輝いている。そんな綺麗な星々を僕たちは暫く黙って眺めた。

 どれくらい経っただろうか。まあそこまで時間は経っていないだろうけど、ちらりとはやての方を見ると、先ほどよりかは気分が落ち着いたようでこちらの様子をちらちらと伺っていた。

 ……これなら落ち着いて話が出来るかな。そう思い、僕は口を開いた。

 

「あのね、はやて。僕もモンスターマスターになって配合を知ったときはね、絶対に配合なんかするかって思ってたんだ」

 

「え……?」

 

 突然の告白にはやては目を丸くして僕の方を見た。その困惑交じりの視線に苦笑交じりに頷くと、はやてに以前話さなかった過去を話す。

 

「あれはDクラスに上がって少し経ってからだったかな? Dクラスから開放される世界って配合を前提にした世界が多いんだよ。それで当時配合なんかしなかったせいで、とある世界で全滅したんだ……」

 

 全滅した場合について説明すると、普通仲間が全滅した場合精霊によって自らの所属する国へと強制送還される。

 この場合、国で仲間たちの回復がされる代わりに費用として所持金の半分を支払うことになる。だがもう一つ強制送還される場合がある。それはマスター自身が死亡した場合だ。なおこのマスターの死亡は本当の死というわけではないが、ややこしくなるので割愛する。

 

 とにかくマスターが死亡した場合、国へ戻され蘇生される。この場合所持金全部と幾つかの道具を払うことになる。これはマスターが無茶をすることが当たり前だとしないようにするためだ。

 

 この蘇生が可能なのは精霊の加護によるおかげだ。もし仮に精霊がいなくなって加護が無くなったとしても、一度加護を受けた者なら死体さえ残っていれば蘇生が可能となる。逆に言えば加護がないと生き返らないのだが、世界のどこかにはただ神に祈るだけで死者を蘇らせる人々がいるらしい。

 ……話が逸れたね。

 まあそんなわけで僕の仲間たちは無配合だったため、Dクラスの世界も最初の方は良かったけど、それも成長の限界に達してしまったことで先に進めなくなった。大会でも勝てなくなってたしね。

 

 あの時は、星降りの代表に選ばれるために配合をしなきゃいけないという焦りと、それでもこれまで一緒にいてくれた仲間たちと離れたくないという思いで板ばさみになっていた。

 それにモンスターが仲間になってくれる本当の意味も分かってなかった。そのせいで他国マスターに何回か仲間をスカウトされたし。今はもうその子たちが選んだ道だって、寂しいけど納得できているけど、あの時は暫く塞ぎこんだな……。

 

「当時の仲間たちに言われたよ。“大事にしてくれるのはありがたい。だけど自分たちがマスターについていくのは強くなりたいからだ。だから配合を行え”ってね。モンスターが仲間になる理由の大半はね、強くなる機会が得られるからなんだ。それが例え自分じゃなくてその子供でもいい。だから限界が来た子たちは次に託すために配合してマスターの元を去っていく。でもそれで終わりなんかじゃない」

 

「………」

 

「――親から子へ、その想いは受け継がれる。そしてその子はまた親となり、次世代に想いを託していくんだ」

 

 大きく息を吐き出し、静かに目を瞑る。今まで仲間になってくれた子たちの姿が次々と脳裏に映っては消えていく。

 ……うん。彼らの想いはしっかりと受け継いでいる。途中躓いたりすることもあったけど、しっかりと前へと進んでいけている。

 

「だからモンスターたちとの別れは寂しいだけじゃない。僕たちマスターにとっても、生まれてくる子にとっても、その意思を受け継いで前へ進み続けるために必要なことなんだ。まあ寂しくなったら思い出せばいいんじゃないかな?」

 

「やけど……いつかはそんな思い出も忘れてまう……。それにやっぱり寂しいやん」

 

「そうだね。だけどそれを記録として残すことは不可能じゃない」

 

 鞄から取り出したのは、ボロボロの分厚い本。

 僕のこれまでの軌跡全てが書き込まれた本――冒険の書

 楽しかったことや辛かったことが全て書き込んである。他にもどの子が配合したとか、仲間にした子や道を違えた子のこととか、それら全てを記した大事な本。

 

「こんな風に記録として残すことも出来る。……それに確かに配合した子たちは何処か遠いところへ去ってしまうけど、死んでしまったわけじゃないんだ。だから……探しに行けばいいんだよ」

 

「…………えっ?」

 

 僕の言葉に、まるで虚を突かれたかのようにはやてはその目を大きく見開いた。

 はやてがそうなるのも無理はない。僕が言ったのは、ほぼ実現不可能なことだからだ。無数にある異世界の中から去ってしまった仲間を見つけ出すなんて、砂漠の中で針を探すようなもの。無謀としか言えない。でもその可能性は0じゃない。何よりかくれんぼうたち精霊が否定しなかった。だから配合は一時的な別れだと僕は考えている。

 

「それと、これは受け売りだけど――」

 

 配合を迷っていてどうしようか悩んでいたときにかくれんぼうに言われたことを思い出す。

 あの時は意味が分からなかった。だけど仲間たちを配合して、生まれてきた子たちと冒険したり大会に出たりしてたくさんの経験を得た。そんな今だからこそ、あの言葉の意味がようやく分かった。

 

「別れて、出逢って、別れて……また出逢う。そんな沢山の出逢いと別れが僕たちを成長させる。それが輝きを()すってことなんだって」

 

「輝きを()す……?」

 

 モンスターとの出逢いと別れだけじゃない。人の出会いも同じことなんだ。初めて出逢ったときからずっと塞ぎこんでいた冬至は家に来たことで立ち直った。逆に冬至のおかげで僕もはやても、母さんたちが亡くなった悲しみを乗り越えられた。この前はやてが月村さんたちと友達になったおかげで、僕たち以外の人と過ごす時間が増えた。

 沢山の人と触れ合うことは、自分には無いモノを見つけ、成長させる切欠になる。

 

 意味が分かっていないのかはやてはきょとんとしている。その姿は以前の自分を思い起こさせた。本当に僕ら兄妹は似てるなあ……

 

「分からないなら今はそれでいいよ。はやてがたくさん悩んで考えて……それで進んで行ってくれればね。でもまあ、僕としてはもう少し我が儘になってくれても良いんだけど」

 

「それやったら配合を止めてくれる……?」

 

「それは駄目」

 

 はやては僕が即答したことに吃驚したように一度目をぱちくりさせると、そっかと寂しげに笑った。そして唐突に一つの質問をしてきた。

 

「なあ、兄ちゃんの夢って何?」

 

「夢……? ……そうだね。はやてたちと楽しく過ごしたいっていうのもあるけど……。僕自身の夢は究極のモンスターマスターになること。そしてそれが叶ったらかつての仲間たちを探しに行きたいかな」

 

 一番手っ取り早いのは星降りの大会に優勝して願えばいい。でもそれは何か違うと思う。

 テリーやミレーユさん、まだ見ぬ強者全てに勝利して究極のモンスターマスターになりたい。そして究極へと至ったらそれまで配合した仲間たちを探してありがとうと伝えたい。それが僕をここまで導いてくれた仲間たちへの感謝の印だから。それも叶ったら……どうしようかな? まあその時になったら考えればいいか。今の僕じゃ究極のモンスターマスターなんて夢のまた夢だし。

 

「だから今の夢……目標はとりあえず、仲間たちと強くなることかな」

 

「やっぱ私は中途半端なんやなぁ……」

 

 はやては僕の答えにそう呟くと、自身の思いを打ち明けた。

 

「私はまだマスターとしての心構えとかもわからん。自分がマスターでもないのに兄ちゃんの魔物がおらへんくなるだけで嫌やと思った。やけど兄ちゃんが戦っとるとこを見てあんな風になりたいとも思った……。せやから私は――」

 

 そこまで言ってはやてはそっと口を閉じた。まだそこから先は言うべきではないとばかりに。

 また僕たちの間に少しの沈黙が流れたが、それは悪いものではなかった。

 

「………そろそろ戻ろうか?」

 

「……うん。……兄ちゃん、さっきはあんなこと言ってごめんな」

 

「別にいいよ。はやての気持ちも分かるからね。でもみんなを心配させたんだから、みんなに謝ろうね」

 

「うん……!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 酒場でスカルたちを回収し、はやてがみんなに謝った。そしてその足で僕たちは配合婆さんの下へと向かった。もう時間も大分遅かったから、はやてたちには先に休んでいてもいいって言ったけど、二人はサイモンたちが旅立つまで見届けたいとついて来た。

 

 配合婆さんが準備している間にはやてはサイモンたちにお別れを言っていた。僕と冬至は少し離れた所で見守る。サイモンたちもはやてに色々と伝えて最後に一礼していた。それにはやてはまた泣き出しそうになっていたが、ぐっと堪えて笑顔で返した。

 

「もういいの?」

 

「うん。時間取ってくれてありがとうな兄ちゃん。ほら、冬至もなんか言わなあかんよ」

 

「俺もかよ。……あー、お前らの試合すげえ参考になった。その……元気でな」

 

 最後まで言い切って照れくさそうに頬をかきながら冬至はそっぽを向く。普段見れない珍しい姿に思わず笑みが出る。どうやら格闘場での戦いは冬至にも何らかのプラスになったらしい。

 さあ、最後は僕だ。この子たちとは長いこと過ごしてきたからこそ今更何を言えばいいのか、それはこの子たちもわかっているだろう。だからこそ多くは語らない。

 

「サイモンもシャディも元気で。絶対に究極のマスターになってみせるから」

 

「……後は頼む」

 

「今までマスターにお仕えできたこと身に余る光栄でした。妹様、冬至様、どうかマスターのことをよろしくお願いします」

 

 最後にそう言い残すと振り返ることもせず、配合婆さんが開けていた祠の奥へと進んでいった。

 扉が徐々に閉まっていくに連れて、二人の姿が見えなくなっていく。最後にバタンと扉が閉まる音がして、二人の姿は完全に視界からなくなった。……やっぱり、この別れは何度経験しても慣れるものじゃない。

 

 今までの思い出を振り返るように目を瞑り、時間にして数十秒ほど物思いに耽っていると、堪えきれなくなったはやてが嗚咽を漏らした。

 

「ああもう、泣くなはやて。俺らよりも兄貴のほうが悲しいんだ」

 

「ぐすっ……わかっとるよ……でもなぁ……悲しいもんは…ヒック…悲しいんやでぇ……」

 

 冬至はぐずっているはやてを慰めるようにやさしく背中を摩っている。

 はやてたちにとってはたった数日しか過ごせなかったけど、別れることを悲しんでくれることは正直嬉しいと思う。それだけサイモンとシャディのことが心に残ってくれたということだから。はやてたちの様子を見守っていると、配合婆さんが声をかけてきた。

 

「旅立つ夫婦に最後の贈り物を贈るか?」

 

「えっと……それじゃあこれをお願いします」

 

 贈り物は、配合婆さんに渡すことで祠内のモンスターたちにオクルーラで届けてくれる。

 この贈り物を渡すことによって生まれてくるモンスターに様々な影響を与える。今回僕が渡したのはこの前偶然手に入れた精霊の盾。

 盾系統のアイテムは生まれてくるモンスターの守備力を底上げしてくれるものだ。それにこの盾には呪文ダメージを軽減させる効果があるから、もしかしたら耐性にも影響を与えるのではないかと思う。

 

「ふむ、いつもの通り祠からタマゴは取り出さずにそのまま孵化させるが構わんな?」

 

「はい、それでお願いします」

 

 いつもの通りに孵化を祠内で行うように頼んでおく。

 祠を開けてタマゴを受け取ることも出来るけど、そのまま開けずに孵化させておくと去る前の両親と会話することが出来るらしい。

 これは祠から出てきた子たちから聞いているから、本当だろう。僕の指揮方法を覚えて出てきてるし。最初から両親の特技を幾つか覚えている。ただタマゴの状態でも、ある程度外の出来事は記憶しているらしいからそこまで深刻な問題じゃない。

 

 まあモンスターはそこらへん気にしないみたいだけど、二度と会えなくなるかもしれない両親なんだから話しておいた方がいい。だから僕はいつも配合するときはタマゴは受け取らずにそのまま孵化を頼む。まあお見合いとかの場合は仕方ないけどね。

 

「……ふぅ。もうお前さんたちがやることはただ待つだけじゃ。明日には祠から出てくるだろうから今日はもう休みなさい」

 

「わかりました。配合婆さん、後はよろしくお願いします」

 

「お婆様じゃ」

 

 配合婆さんの言葉に甘え、僕たちは配合の間を後にする。

 最終日ということで宿ではなく、カレキ王が用意してくれた客室でゆっくりと休んだ。そして夜が明けた―――

 

――翌日

 

 はやてが昨夜のことを引き摺っていないか心配だったけどそれは杞憂だった。

 話を聞くと一晩中自分なりに考えていたそうだ。眠そうなはやてであったが、その表情は昨夜より晴れやかであった。

 

 用意された朝食を食べ終え、一息ついているとサイモンたちの子供が祠から出てきたと聞き、僕は一目散に最下層にある配合の間へと向かった。急ぎすぎたあまりに二人を置いてきてしまったけど、ここまで来るのに一直線だから大丈夫だろう。

 

 どんな子が生まれたのか楽しみで配合の間へと駆け込むと、難しい顔をした配合婆さんがシャディたちの子であろうモンスターを見ていた。

 僕が入ってきたことに気付いた配合婆さんは視線をこちらに向ける。その視線の意味を理解した僕は、生まれてきた子の目の前まで歩いていき対峙した。

 

「……キミがサイモンとシャディの子?」

 

「はい。貴方が私のマスターですね。父上、母上からマスターの武勇伝は聞き及んでおります。私はマジックアーマー種と呼ばれております」

 

 その子は片膝をつき頭を垂れながらも堂々と告げた。

 ここはマスターとして僕も堂々と返すべきなのだろうけど、それよりも気になったことを口にした。

 

「マジック……アーマー?」

 

「はい。どうやらマスターは私の種のことをよく知られておいでにならないようなので説明します。私は父上のように守ることに特化しておりますが、この名のとおり呪文耐性も全般的に高いです。しかしデイン系統やルカニ、眠りは効いてしまいますのでご注意を」

 

 僕がマジックアーマーという主を知らないと判断したのか姿勢を崩さずに自身の特徴を丁寧に答えてくれた。その様子に親の二人のように騎士らしい忠誠心を持ち合わせた子だということがわかった。

 

 髑髏の描かれた盾を持っており、剣や斧ではなくハルバートのような武器へと変わっている。キラーアーマーよりも背が高く、鎧もややシャープである。また鎧の色が左右に金と銀に分かれている。色の違いを除けば、この子はデビルアーマーと呼ばれるモンスターに非常に似ていた。

 だけどこの子は自らをマジックアーマーと名乗った。僕が知る限りではマジックアーマーなんて種は聞いたことがない。

 

 専門家なら何か知っているんじゃないかと配合婆さんに顔を向ける。配合婆さんは顎に手をやっており、しげしげと生まれた子を眺めると驚きが混じった声で呟いた。

 

「知る限りではこの種は見たことがないのぅ……」

 

「……新種?」

 

「これまで四ヶ国で発見されなかったという意味ではそうじゃ。後で文献の方をあさらんとな。……まったく、お前には驚かされてばかりじゃな」

 

 呆れたような物言いだが、配合婆さんはマジックアーマーを見てテンションが上がっている。やはり元マスターとしてはこういった珍しいモンスターとの出会いは嬉しいものなのだろう。

 僕としても初めて見るモンスターに自然と期待が湧く。でも何でこの子が生まれたのだろうか? 関係があるとするならサイモンの親がデビルアーマーのガルシアだったことと贈り物の効果。特殊配合でもしたかなと首を傾げる。……まあ別にいいか、問題あるわけじゃないし。それじゃあ早速この子の名前を決めるとしよう。

 

「それではマスター、私の名をお願いします」

 

「そうだね……マジックアーマー……ジック、ジッカ……ジッカー……うん、これがいい。キミの名前はジッカーだ。その力、頼りにしているよ」

 

「承知。父上たちより受け継ぎし私の力、存分にお見せしましょう」

 

 今回は名前が浮かんでこなかったので、種族名をもじった名前となった。

 それでもジッカーは満足してくれたみたいで、自信満々にそう答えると改めてジッカーは臣下の礼をとった。

 

 

 

マジックアーマー+76(♂)のジッカーが仲間になった▼

 

 

 

「それじゃあ、ステータス確認してもいいかな?」

 

「はい、わかりました」

 

 

 ジッカーから了承をとり、鞄からスライムが表紙のぶ厚い本を取り出す。

 これは僕がこれまで出逢い仲間にしてきたモンスターたちが記載されたモンスター図鑑。この本の優れているところは仲間にしているモンスターの前に掲げることで、そのモンスターの詳細が本に記載され確認することが出来ることだ。

 

 それに、モンスターのステータス、覚えている呪文や特技、系統や種族、二代前までの家計図を把握することが出来る。ちなみにこのステータスを知る魔法はダモーレ。以前やった物知りの杖みたいに紙媒体に記載させたり、直接脳内に情報を送ることが可能だ。

 さて、ジッカーのステータスを確認すると、HPにやや不安が残るものの、レベル1ながらかなり高い能力であることがわかった。

 

「へえ……。かなり強いね」

 

「恐縮です」

 

 次に特性の方に目を向ける。どうやらジッカーは配合値+50を超えているため、特性が追加されている。これで+50を超えたのは三体目か。まだまだ先は長いな……。

 それでえーと、追加されたのは庇うに……こ、これは……つねにマホカンタ!? ルカニやデインが効くといってもこの特性があれば問題はないかな。

 あ、だけどこの特性でHPが減少してる。HPが低かったのはこれのせいか。後は魔法や状態異常に対して無効とかはないけど広い耐性があるか。

 

 覚えている特技についてはそのまま孵化を頼んだおかげでヒャドと氷結斬り、みがわりにスカラを習得していた。後は順当に継承していればシャディの剣の舞や残りの剣技と補助。防御面は仁王立ちやマジックバリア、受け流しなどサイモン譲りとなるだろう。うん、かなり強い。

 まあ暫くは控えに入れて育成かな。能力の伸び率見ないといけないし、ジッカー自身の技や新たな技を覚える可能性もある。それによって組み合わせも考えないと。

 

 課題点は踊り系と封じ、息系の攻撃は通ること。後はかぶとわりやホーリーラッシュとかが怖いくらいか。体技はスカラとかで防御力をあげればそこまで気にすることはないかな?

 ……よし、分析終了。

 

 この後は仲間たちと顔合わせさせればいいかな。

 そんなことを考えていると、ばたばたと階段を駆け下りる音が聞こえてくる。多分はやてたちだね。大きな音を立ててドアが開かれ、飛び込んできたのは予想通りはやてをおんぶしてきた冬至であった。

 

「兄貴、先行くなって……うおっ!?」

 

「兄ちゃん生まれた子見せ……ええっ!?」

 

 二人はマジックアーマーの姿を見て、ぽかーんとした表情になる。大方タマゴから孵るのだから小さいと思っていたのだろう。二人を落ち着かせると、思い思いにジッカーを見た感想を述べる。

 

「生まれたばかりだってのに、かなり強そうなんだが……」

 

「あの二人の子供やからわかるけど、やっぱえらいごっついなあ……」

 

「はは、お二人のことも聞き及んでいます。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 

 ぺこりと頭を下げるジッカーに、二人も釣られるように頭を下げる。それがおかしくてつい笑ってしまう。

 こうして僕たちの異世界旅行は色々あったけど、新たな仲間を加えて無事終わったのだった。

 

 

 

おまけ

 

 

 帰る前にお世話になった人たちに一通り挨拶を終えた誠たちは、そのまま移動してかくれんぼうが指定した場所で待っていた。しかし待ち合わせ時刻になってもかくれんぼうは現れなかった。

 

「おせえ……」

 

「何かあったんとちゃう?」

 

「多分大丈夫でしょ。まあ最悪僕がルーラ使えば帰れるから別に良いんだけど……って、来たみたい」

 

 そんなことを話していると、いつものようにふわふわと飛んできたかくれんぼうはマイペースに三人に挨拶する。

 

「おまたせ。みんな揃っているようだね」

 

「遅かったね」

 

「あはは、少し準備に手間取ってね……。あ、そうだ。昨日のイベントバトルの賞品渡し忘れてたから今渡すね」

 

「また唐突に……」

 

 はい、どうぞと何処からともなく取り出した宝箱を誠たちの目の前に置いた。それにいつもの事かと一言で軽く流すと、誠は宝箱をさっさと開けた。宝箱の中身が気になるはやてたちの視線を受けつつ、中に入っている物へと手を伸ばした。

 

「さて、中身は……っと」

 

「わあっ、綺麗な置物や!」

 

「何で出来てんだこれ? クリスタルか?」

 

 誠の両手で抱えられる大きさの透明の結晶で作られた置物であった。

 山を模した台座に精巧に作られた翼を広げた竜が佇んでおり、その背には大きな宝玉が乗っていた。宝玉は取り外しが可能となっており、よく見ると宝玉の中では星のような光が止め処なく降り注いでいる。誠はこの宝玉に見覚えがあった。

 

「これって……星降りのオーブ?」

 

「そうだよ」

 

 星降りのオーブとは使用すると星の光が降り注ぎ、一部の魔物を除いて必ず魔物をスカウトすることが出来るというアイテムである。これと似たアイテムに超しもふりにくという魔物に与えるエサが存在する。

 

「そっか、それだったら……」

 

 過去に一度手に入れたことがあった誠は躊躇なく宝玉――オーブを掴んだ。

 誠がオーブを持った瞬間、透明だったオーブは一瞬で黒に染まる。黒に染まったことで宝玉の中の光がより強調され、降り注ぐ光は夜空に流れる星のように思わせた。

 

「色が変わった!?」

 

「うん。星降りのオーブはそのマスターとの結びつきを濃くするために持つ者によってそのマスターに適した色へと変わるんだよ」

 

 驚く二人にかくれんぼうが星降りのオーブについて軽く説明する。

 それを余所に誠はじっとオーブを見つめていた。

 

 

誠は星降りのオーブを手に入れた▼

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
カレキの国の配合は少年ヤンガスの贈り物配合がベースとなっております。
なお孵化関係の話はDQM+で生まれたばかりのドラムがスラおに言ったことから考えてこうなりました。
そしてマジックアーマーの登場。マジックアーマーについては以下のとおり。
マジックアーマー Aランク
特性 ≪スタンダードボディ≫ 眠りブレイク 時々スカラ 庇う(+25で開放) 常にマホカンタ(+50で開放)
弱点 デイン、ルカニ、???

配合表 Bランク以上の物質系×Bランク以上のゾンビ又は悪魔系
どちらかの親にデビルアーマーがいる。呪文ダメージを軽減する防具又は盾を贈り物として使用する。 
なお、ネーミングについては基本的に歴代ドラクエのキャラ名又はデフォ名から適当にとってきております。今回のジッカーはDQ7のマジックアーマーを仲間にした際のデフォ名の一つ。
デビルアーマーのガルシアは分かる人は分かると思います

そして星降りのオーブを手に入れました。
星降りのオーブの台座はDQ3の各オーブの台座とほぼ同じ形と考えてくだされば大丈夫です。

次回はできる限り早くしたいと思いますが多忙なためわかりません。
それでは次回お会いしましょう。誤字脱字がありましたら報告をお願いします

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