リアルが忙しく現状ではこのくらいの更新速度になりそうですが、エターにはしませんのでご安心ください。
今回はゆっくりですが、次回から物語は一気に加速します。
それではごゆっくりどうぞ。
異世界旅行を終えて数日後――
その日、誠は午前中に冬至とともに食材などを買いにスーパーに来ていた。
何気ない話をしながら買い物を続けていると、誠はそういえば例の件はどうなったのだろうかと気になり冬至に尋ねた。
「そういえば高町さんともう話した?」
「…………一応な」
「……もしかして何かあった?」
「……実は話そうとしたんだが、学校でなのはが一人になることがなくてな。それになのはたちって学校ではちょっと有名だから呼び出すわけにもいかなくて……。それで仕方なく念話で伝えたら……滅茶苦茶驚かれて、質問されまくったんだよ……。昨日ようやく協力体制を整えられたんだが、まだ封印魔法も覚えていない」
「お疲れ様……」
なのはとフェレット――ユーノ・スクライアへの説明に本当に苦労した。そう言って疲れたようにため息を吐く冬至に、誠は苦笑すると労いの言葉をかけた。
「そういや兄貴が前に会った……テスタロッサだったか? そいつをなのはが探してたみたいだったぞ。兄貴の魔物たちのこともあったから念のために言わなかったけど」
「あ、そうなんだ。確かに勝手にフェイトのことを言うのは不味いしね。でも僕やモンスターたちのことは別に言っても構わな――ん? あれって――」
誠はふいに足を止めた。急に足を止めた誠の視線を追うと、その視線の先には黒い服を着たどこか硬い表情をしている少女と、それに付き従うように歩く見知らぬ女性がいた。
誠は少女の方に見覚えがあった。以前公園で色々あってジュエルシードの危険性を教えてくれた少女、フェイト・テスタロッサであった。フェイトも誠たちに気付いたようで、声を上げた。
「あっ、誠」
「ん? 確か前にフェイトの言ってたジュエルシードをくれた子かい?」
「うん、よかった。ようやく見つけられた」
そう会話しながら誠たちの下に歩いてくる来るフェイトと長いオレンジの髪色をした女性。
フェイトも買い物に来ていたのか、女性が持っているカゴの中には幾つかの冷凍食品が入っている。
「噂をすれば……だね。こんにちは、フェイト」
「こんにちは、誠。……あ、えっと……そっちの子は……?」
先ほどまでの硬い表情とは違い、フェイトはほんの少しだけ笑みを見せて挨拶をする。そして誠と共にいる冬至に気付くと、おずおずと誰なのか尋ねた。
「前に言ってた僕の家族だよ。ほら、冬至」
「弟の八神冬至だ。……よろしく」
「あぅ……よ、よろしく……」
なのはからの話も聞いていたためか、冬至は警戒するようにぶっきらぼうにそう挨拶する。その態度に嫌われてるのかなとおろおろするフェイトであったが、その前に誠がツッコミを入れた。
「……冬至? 何怖がらせてるの?」
「――痛っつうう!? わ、わかった。俺が悪かったよ。すまんテスタロッサ」
「……あ、うん。だ、大丈夫だよ(今鞄から取り出したよね? そういえば前もたい焼きの袋を鞄から取り出してたような……)」
突然の誠の行動に呆気に取られ、次に誠の鞄の異常性にようやく気付くフェイト。尋ねようかと思ったフェイトであったが、その前に誠がフェイトとともにいる女性が誰なのかを尋ねた。
「ところでそっちの人は? フェイトのお姉さん?」
「お姉さんじゃないけど、アルフは私の家族だよ」
「アルフだよ。ま、よろしく頼むよ」
「八神誠です。よろしく、アルフさん(あれ――? 何か違和感が……もしかしてこの人って使い魔?)」
にっこりと笑って軽く握手を交わす二人。
握手をした瞬間、誠は目の前のアルフが人ではないとわかったが、特に気にもせず活発そうな人だと、アルフは少々変わっているけど礼儀正しいやつだと互いに好印象を持つ結果となった。
「それで僕に何か用? さっき見つけられたとか言ってたけど」
「うん。前に誠が話してくれた話を母さんにしたら誠を連れて来てくれって。だから私たちと一緒に来てくれないかな……?」
その突然の頼みに首を傾げる誠。突然ついて来てほしいと言われても、理由が分からなければ頷くわけにはいかない。一体何故かと問うと、フェイトは一瞬だけ表情を変化させたが、すぐに元に戻るとすらすらと答えた。
「母さん研究者だから、詳しく聞きたいんだって」
「……なるほどね」
「だから私たちと一緒に来てくれないかな?」
改めてそう上目遣いでお願いするフェイト。その後ろでは、まさか断るわけじゃないよなと目線で訴えてくるアルフに困った表情をするも、わかったと誠は頷いた。
あまりに簡単に承諾した誠に、拒否すると思っていた冬至は思わず声を上げそうになった。一体どういうことかと誠の真意を知るべく、フェイトたちに気取られないように念話を行う。
【兄貴、どう考えても罠じゃないのか?】
【それも考えたんだけどね。フェイトがそんな風に騙すとは思えないよ。少し引っかかった言い方をしたけどね。それに母親は研究者らしいから、もしかしたら闇の書のことも知っているかもしれないって思ってさ】
【確かにそうかもしれないだろうが、そううまくいくのか? そこの二人は信じられても母親はどうか分からないんだぞ?】
【まあ駄目で元々だし、やばくなったら仲間を総動員させて逃げてくるよ】
魔物たちの理不尽さを知っている冬至としては、そう言うのであれば大丈夫かと納得した。寧ろ何の躊躇いもなくそう言ってのけた誠に冷や汗をかき、まだ見ぬフェイトの母親に少しばかりの同情と余計なことをしないように祈るほどであった。
(……冬至にはああ言ったけど、アルフさんのあの表情は一体何なんだろうね? まあ行けばわかるか。……念のために色々と準備もしておこう)
フェイトが母親と言った際に、アルフが一瞬ではあるが苦虫を噛み締めたような表情をしていたのに気付いていた誠であったが、冬至に余計な心配をさせないために黙っていた。
「あ、でも条件付きね」
「条件?」
「……無理難題を吹っかけるんじゃないだろうね?」
「いや、そんな難しいことじゃなくて簡単なことだよ?」
早とちりして噛み付こうとしてくるアルフをどうどうと宥める。そして誠は手にしていたチラシを見せながら満面の笑みでその条件を述べた。
「広告の品の限定品。お一人様一つまでだからフェイトたちにも協力してほしいんだ」
「「え……?」」
「……朝早くから遠くのスーパーに来たのはそれが目的か」
ニコニコと笑顔で述べたその条件に目を丸くする二人。その様子に警戒した俺が馬鹿だったのかなあと、内心そう思いながらまたため息を吐く冬至であった。
◆ ◆ ◆
「フェイトたちのおかげでたくさん買えたよ。ありがとね」
「……う、うん……」
「……つ、疲れた」
ぐったりしているフェイトたちとは対照的に誠は疲れた様子を一切見せずにホクホク顔で礼を言う。買い物くらい直ぐに済むだろうと思っていたフェイトたちであったが、誠はスーパーで買い物を終えた後もそのまま商店街で雑貨品を購入したりと歩き回った。
ようやく買い物を終えたときには既にお昼前であり、疲れたフェイトたちを休ませるべく公園で暫し休憩していた。
何でそんなに元気なのかと言いたいフェイトであったが、疲れを微塵と感じさせない涼しい顔をしている冬至を見て、自分たちが鍛えたりないのかなあと思う。と、そんな時不意にくう~、と誰かがお腹を鳴らした。一斉にお腹を鳴らした人物へと視線が集まる。
「あ、あの! これは違っ――」
お腹から鳴らせた張本人であるフェイトは恥ずかしさで顔を真っ赤にする。あたふたと弁解しようとするフェイトに誠はくすりと一つ笑うと提案をした。
「よかったら家でご飯食べる? お礼もしたいし、別にご飯食べてからでも問題ないでしょ?」
「そ、それはそうだけど。でも――」
このままでは前と同じように押し切られてしまうと思ったフェイトは、縋るようにアルフに助けを求めた。
「あー、悪いね。そこまでしてくれる必要はないよ。アタシらは大丈夫だからさ」
アルフからしてみれば、主であるフェイトの普段の食生活にほとほと困っていた。だからこそ誠の申し出はアルフからしてみれば有難いものであった。それに僅かな時間であったが一緒に行動してみて信用はおけると判断し、獣としての勘からも大丈夫だろうと結論付けた。だが主であるフェイトからの視線に耐え切れず、助け舟を出してしまった。
アルフの表情から察した誠は、ふむと一つ頷くとぶら下げている鞄から大きな骨付き肉を取り出した。その肉は焼きたてなのか、香ばしい匂いが周囲に立ち込める。その匂いを嗅いだアルフはごくりと喉を鳴らす。
「そっか。じゃあアルフさんはこの骨付き肉もいらないんだね?」
「フェイト、せっかく用意してくれるって言ってんだしさ、行った方がいいよ!!」
「アルフ!?」
先ほどとは正反対の言葉に裏切られたとばかりの表情をするフェイト。
アルフはそんなフェイトに自分がいかに普段の食生活を心配しているか言うが、その眼は骨付き肉しか捕らえていない。ならばと冬至に助けを求めようとするが、諦めろと首を振る冬至にがっくりと項垂れるのであった。
「まあまあ、別にご飯食べてからでも問題ないでしょ。というわけで、2名様ご案内~」
「ううっ、お願いだから話を聞いて~」
誠たちは今だ渋るフェイトと食事を楽しみにしているアルフを引きつれ、自宅へと帰っていった。
◆ ◆ ◆
家に帰ってきた誠たちを出迎えたのは、冬至から連絡を受け、お客が来るのを分かっていたはずなのに驚愕するはやてであった。
「お客って兄ちゃんの学校の友達やなかったんや……。でも話に聞いとったけどえらい美少女さんやな。それにお姉さ――あ痛っ!?」
「挨拶もしないで勝手にお客さんを品定めしない! 失礼でしょ!」
「いきなり叩く兄貴もどうかと思うぞ……」
誠は質問攻めしようとしたはやてを鞄から取り出したはりせんでスパンっと叩く。冬至はその誠の行動もどうかとツッコみ、そのまま漫才のようなやり取りをし始めた。
その一連の行動にポカンとしているフェイトたちに誠はしまったと内心思いつつ、軽く謝るとはやてに自己紹介するように促した。誰が来るのか言わなかった冬至を軽く睨みつつも、わかったと頷くとはやてはフェイトたちに顔を向けた。
「いや~、いきなり変なとこ見せて堪忍な。私の名前は八神はやてや」
「……フェイト・テスタロッサ」
「……アルフだよ」
先ほどの流れを見ていたせいか、やや顔を引きつらせながら二人は挨拶をする。
「フェイトちゃんにアルフさんやな。よろしゅうな~。――せやけど、なんでご飯作ったることになったん?」
尤もな質問をするはやて。冬至から誠の知り合いに飯を食わせることになったとしか事情を聞いていないので、誠の学校の友達かなと思っていた。しかし来たのは予想とは違ってフェイトたちであり、以前誠が知り合った魔導師だとはわかったが、一体何故と疑問に思っていたのだ。
「フェイトたちの食生活が冷凍食品か栄養補助食品ばっかりで……」
「それはあかんなあ……」
フェイトたちの食生活を聞き、呆れた表情を浮かべるはやて。一家の調理当番としては見過ごせないようで、フェイトたちに呆れたような目を向ける。
事実だから何も言えないフェイトは気まずくなり、逃げるように視線を逸らした。
「というわけで、フェイトたちのおかげで多めに手に入った品で料理作ってくるからはやてたちは遊んでて。あと冬至は手伝いに来るように!」
「あ、やっぱり手伝わなきゃ駄目か?」
「「普段何もしてないからダメだよ(やな)」」
「ひでぇ……」
二人の容赦のない言葉に撃沈した冬至はそのまま誠に引っ張られて台所に消えていった。
「とりあえず案内するからついて来てや~」
「……あ、うん」
八神家のやり取りについてこれずに、固まっていたフェイトたちを引き連れ、はやてはリビングに二人を案内する。はやてはフェイトたちをソファに座らせると、それとほぼ同時に冬至が台所に忍び込んでいたトーポを連れて三人分のお茶を持ってきた。
「おおきにな冬至、そこ置いといてや」
「……ありがとう」
「悪いね。ありがたく頂くよ」
三人から礼を受け取ると、冬至はトーポをはやてに手渡す。そしてアルフに誠からの伝言を伝えた。
「兄貴からの伝言。別に尻尾とか出しても問題ないってよ」
「なんだ、あいつ気付いてたのか。じゃあ別に隠しとく必要ないね」
アルフは苦笑とともに隠していた獣耳と尻尾を出すと清々した表情で軽く伸びをした。それを見たはやては目をキラキラさせると、アルフにお願いをした。
「……ふぅ、やっぱ出しといたほうが楽だねえ」
「おおっ! ケモ耳や! なあなあアルフさん。尻尾か耳触ってもええ?」
「いや勘弁しておくれ……ん? 大した反応もないところを見ると、もしやあんた魔導師かい?」
「ああ……。それとはやても一応魔導師だ。将来は知らんがな」
アルフの獣耳を見てもあまり反応を示さない冬至に、もしやと思いアルフは尋ねた。肯定した冬至にフェイトは反射的に身構える。それを見て冬至はめんどくさそうに肩を竦めると、淡々と言い放った。
「俺が魔導師でも問題ないだろ。別にテスタロッサたちの敵というわけじゃないんだからな」
「…………」
「それに騙すならこんなことは言わないし、態々家にまで招かない」
「……そうだね、ごめん」
冬至の言い分に完全に納得がいかなかったものの、戦う術を持たないはやてがいる家まで連れてきたことや、まったく警戒していないというよりも、どこか諦めた様子の冬至を見てフェイトは謝罪する。
「…………別にいい。それよりもはやての相手でもしてやってくれ」
フェイトの謝罪を一応受け取ると、スタスタと冬至はリビングを出て行った。
「……怒らせちゃったかな?」
「フェイトちゃんが気にする必要あらへんよ。別に冬至は怒っとるわけちゃうから」
「そうなのかい?」
「そや。どうせ考えすぎて、言う必要もないこと言うたからばつ悪なっただけや」
そうけらけら笑いながらも冬至をフォローすることを忘れない。怒らせてしまったと落ち込んでいたフェイトであったが、その言葉で少し持ち直す。それでも自分のせいでもあるので後でもう一度謝ろうと決めた。
それからお互いのことを知ろうと、はやては積極的に色々と話し始めた。
初めのうちはぎこちなく受け答えしていたフェイトたちであったが、はやての人柄の良さからか少しずつ打ち解け始めていた。そんな中、フェイトは何処からか自分を見つめてくる視線に気付いた。
最初は気のせいだろうと思っていたが、自分がはやてとの会話に戻るとまた視線を感じる。その視線からは敵意は感じられなかった。一体誰が何処から見ているのだろうと、一言はやてに断って注意深く見渡すと、部屋の隅の方から顔を覗かせている小さな魔物と眼が合った。
「あっ……」
思わず声が出てしまい、それを聞いた魔物はサッと物陰に隠れた。気になったフェイトは、ジーっと魔物が隠れた物陰を観察する。やがて恐る恐るといった感じで魔物は再び顔を出した。
「――っ!!」
その動作にフェイトの中の何かに触れたようだが、声に出すと再び隠れるだろうと思い、必死に声を抑える。
フェイトが眼を奪われたのは黄色いハリネズミのような魔物――サンダーラットであった。その見た目の可愛さとは裏腹に、背中のトゲの部分からはバチバチと電気が発しており、下手に触れば感電してしまうことがわかる。
フェイトはトーポのとき同様撫でてみたいという衝動を我慢できず、手をわなわなと震わせながらゆっくりと近づくが、初めて見るフェイトの姿にサンダーラットは警戒するようにまた物陰に隠れてしまった。そんなサンダーラットの態度にフェイトは悲しそうな表情をする。
「フェイトちゃんはラットンが気にいったん?」
その様子をトーポを撫でながら見ていたはやては、助け舟を出そうとフェイトに声をかけた。声をかけられたフェイトは申し訳なさそうにはやてに謝る。
「あの……あの子怖がらせちゃってごめんね」
「ラットンは警戒心強い子やから別にええよ。それに私も最初会った時滅茶苦茶警戒されとったもん。ここははやてさんに任せなさい」
私に任しときと手で胸をトンッと叩くと、はやてはトーポを肩に登らせ、おいで~、と手を広げた。するとラットンは警戒を止めてトコトコとはやての元に駆け寄り、膝に座り込んだ。
はやてはラットンのトゲに注意しながらゆっくりと撫でると、ラットンは気持ちよさそうにはやてに身を任せる。その様子をフェイトは心底羨ましそうに眺めていた。
「うん。これくらい落ち着けば大丈夫やな。フェイトちゃん、もう抱っこできるよ」
「いいの……?」
「うん、ええよ。あ、背中のトゲに気いつけてな。たまにビリってくるで」
はい、とはやてはラットンを持ち上げるとフェイトに差し出した。おずおずとラットンを受け取ったフェイトはゆっくりと抱き上げると恐る恐る頭を撫でる。
「……柔らかい」
「せやろ」
ラットンを抱きしめられてご満悦の様子のフェイト。その姿にアルフとともに微笑む。それから三人は、料理が完成するまでの間、ラットンやトーポと遊びながら色々と他愛無い話をするのであった。
◆ ◆ ◆
『ご馳走様!』
「はい、お粗末さま~」
久しぶりの美味しい食事に満足したフェイトとアルフ。そのままのほほんとはやてたちと談笑していたのだが、暫くして自分が何のためにここに来たのかを思い出すと慌てて誠に詰め寄った。
「そうだね。そろそろ行こっか。はやて悪いんだけど――」
「わかっとる。洗いもんは私の方でやっとくから、兄ちゃんはフェイトちゃんとの約束守ったって」
誠はのんびりとした口調で返すと、後を頼もうとしたがそれよりも先にはやては頷いた。
「フェイトちゃんもアルフさんも、今日は楽しかったからまた来てや」
「……ありがとう、私も楽しかった。またね、はやて。それから冬至……さっきはごめん」
「いや、俺も言い過ぎた。悪かったなテスタロッサ」
「今日はありがとね。フェイトの食生活が荒れる前にまた来るよ」
「アルフ!」
そんな和やかな雰囲気の中で、はやてと冬至に見送られながら三人はフェイトの拠点としているマンションへ移動することになった。
◆ ◆ ◆
マンションに到着した誠たちは、時間が惜しいからとやや急かす勢いで屋上へと移動すると、フェイトの次元転移魔法で時の庭園へと移動した。
「ここが時の庭園ね……」
「うん。今は見る影もないけど前まではすごく綺麗だったんだよ」
「……そう」
フェイトの言うとおり、誰も手入れをしていないのか時の庭園は荒れ果てており、その光景は最初にカレキの国に来たときを思い起こさせた。ただそれ以上に誠を困惑させたのは、時の庭園全体に広がっている空気の澱みであった。
(何これ……。ゾンビ系が出現する環境みたいになってる。こんな所にフェイトのお母さんは本当に住んでいるの?)
その雰囲気はまさしく異世界のダンジョンのそれであった。更には枯れ果てた庭園の中央に聳える城のような建物のせいで、余計にこの地がダンジョンなのではないかと疑う。
周囲を観察していると、建物の方からドスンドスンと重い足音が響いてきた。何だと思い、誠はフェイトたちを見るが、フェイトたちも分からないようで黙って首を振った。一同が何事かと見守る中、重苦しい足音を立てて現れたのは大型の槍を持った巨大な機械の兵であった。
「傀儡兵……? 何で此処に……」
本来なら動力炉や重要箇所の警備に当たっていることを知っているフェイトは疑問の声を上げた。その一方で傀儡兵を見た誠は、おおっと声を漏らし、徐に魔法の筒を取り出すと傀儡兵へ向けて歩き出した。
「フェイト、ちょっと話しかけてくる。もし戦闘になったらごめんね」
「あ、うん。 ――えっ!? ま、待って誠!」
フェイトは何処かわくわくした様子の誠を慌てて引き止めると、傀儡兵がどういう物なのかを説明した。
傀儡兵とは、時の庭園を守護する鎧兵たちであり、様々な種類が存在している。また時の庭園の主であるプレシア・テスタロッサの命令にしか従わない。
「それに意思を持たない傀儡兵に話なんて無理だよ。……でもなんでここにいるんだろ? 普段は動力部の方にいるはずなのに。あれ? 姿が消えてる……」
何時の間にか姿を消していた傀儡兵に一体何しに来たのだろうかとフェイトは首を傾げる。
「大方プレシアが早く来いって催促してるだけじゃないかい?」
アルフの憶測にそうかもしれないねと納得しているフェイトの横で、本当にそうなのだろうかと誠は思案する。何故なら誠には、あの傀儡兵が自ら姿を現したように見えたから。だから誠も傀儡兵をキラーマシンのような魔物だと思って、ちょっと話してみようという気持ちで傀儡兵へと向かったのである。
「……それじゃあ仕方ないね」
いつから傀儡兵がいるのか知らないが、長い年月が経っているのだとしたら自我でも芽生えたのだろうと、キラーマシンなどを思い出し、一人納得する。
このことを言うべきかどうか迷った誠であったが、フェイトの言うとおり主に従っているのならば別に言う必要はないと判断すると、残念そうに魔法の筒を懐に戻した。ただ胸中では、プレシアにあったらスカウトできないか交渉しようと考えていたが。
「それで、フェイトのお母さんは何処にいるの?」
「あ、うん。こっちだから付いてきて」
先導するフェイトたちの後に続きながら、もう一度あの傀儡兵がいた場所へと視線を向けると、黙って後を追った。
◆ ◆ ◆
庭園に現れた誠たちの様子をそれはじっと観察していた。やがて誠たちが建物の中に入ると、ぼうっとどこからともなく赤い人魂のような何かが浮かび上がる。
人魂はすーっと壁をすり抜けて後を追う。誠たちが大広間へと入るまで人魂はじっと誠を見つめ続けていた。そして誠たちの姿が完全に見えなくなると、人魂は無言で建物の入り口まで戻った。
入り口に戻った人魂は、隠れていた傀儡兵の周りをぐるぐると飛び回り、傀儡兵の中へと入っていく。
『………………』
小さな起動音らしき音が鳴ると共にヘッドアイが赤い不気味な光を灯し、傀儡兵は人と殆ど変わらない動作で立ち上がる。そして持っていた槍を八つ当たり気味に地面へと振り下ろした。振り下ろされた槍は大きな衝撃音とともに地面を砕き、周囲に瓦礫が舞う。
傀儡兵はそれに関心すら見せず、振り下ろした槍を引き摺りながら、自らが守るべき地下へと去って行った。
いかがでしたでしょうか?
次回はプレシアとの交渉からスタートします。さて、まともな話し合いになるか……
また遅くなるでしょうが次回お会いしましょう